きゃすたー(7mg)の雑多なネタ倉庫   作:きゃすたー(7mg)

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ルビを複合させて使う練習
最近コレ独立させたらよくね? って思い始めてる。


オバロ試作品15

 今日も相変わらずな一日が始まった。冒険者組合を紹介してもらって仕事を始めて早半年となる、いつもの見慣れた組合の受付カウンターでの業務はいつも通りの平凡な時間が過ぎていった。

 報酬の割合で揉める冒険者。依頼(クエスト)の内容で揉める冒険者。どちらが受けるかで揉める冒険者。騒ぐようなら叩き出すぞと怒る組合長。いつも通りの変わらない、当たり前に過ぎていく日常。お昼を過ぎて昼食を終え、午前中の業務を先輩から引き継いで受付の一番目立つ場所──新規登録者受付の席に座った。

 

 今日も変わらず一日が過ぎていく。そう思っていた。……黄金の髪と赤い瞳の一人の旅の騎士と、このあたりでは珍しい黒髪の年若い──私と同じ年ごろのような──メイドが現れるまでは。

 

「以上が冒険者の規約に関するものです。ここまでで他に質問はございますか?」

「わかりやすいし、細かい複雑なところにも範例を用いて解説してくれて助かった。キミが組合長から期待されているだけのことはある」

「そ、そんな、買い被りすぎですよ。私なんてまだまだ新米ですから!」

 

 結論から言って、私のこれからの日常に新しい業務が増えた。組合長への手紙を持ってきたらしい彼は冒険者志望だったらしく、組合長の旧友の推薦を受けているらしい。しかもその旧友というのが数十年前にエ・ペスペルで活躍した白金(プラチナ)級の冒険者チーム“グリュプス”の元リーダーだと聞いたときには腰が抜けそうだった。

 グリュプス、と言えば有名なものだ。曰く“エ・ペスペルの西にある森で行われていた邪教の儀式をぶっ壊した”とか、曰く“アベリオン丘陵手前の湖で水棲モンスターを相手に互角に戦った”とか、曰く“20を超える人食い大鬼(オーガ)の集団をたった4人で殲滅した”など話題に事欠かない。

 ついでに“娼館で誰がどの女を抱くかで殴りあった”とか、“お手製の燻製肉を勝手に食われて殴り合いになった”とか、“カッツェ平野で奇声を上げて呪文を唱えながらアンデッド退治をしていた”とかそちらの意味でも話題が多い。

 

 そんなチームからの推薦と聞いて胃が少し痛んだけれどそれは杞憂で済み、それどころか彼は実に素晴らしい人柄だとわかった。登録に際しての規約の説明をしていて思ったことだが、話は真剣に聞いてくれるし、わからない部分は質問してくれたし、なんと紙──それも羊皮紙ではなく手漉き紙!──にメモをとってくれるほどの優等生だった。

 冒険者といっても元から戦う力がある人ばかりではなく、食い詰めて冒険者になったりする人が多いため“そんなこといいから依頼(クエスト)だ!”みたいな人も多い。

 そうでなくても字が書ける、読める人はそう多いわけではないので、ちゃんと理解させるまでにはそこそこの時間がかかるもの。だけどルイスさんとその従妹のヒビキちゃんはちゃんとした教育を受けたことのある人だったらしく、ものの2時間程度で事が済んだ。

 

 ただ意外だったのは二人して“字が書けない”という点だった。なんでも二人は故国を滅ぼされて流浪の身となったらしく、ヒビキちゃんは十分な教育を受けられなかったらしい。それでも冒険者の仕組みや規約などでわからない部分があっても、少しの助言で理解できたのだから十分な知性がある。

 ルイスさんは教育こそ受けていたものの、王国で使われる言語と形態が違うということで筆記ができないそうだ。母国語なら扱えるのに、と愚痴を零した様子はどこか郷愁を帯びたような表情で、窓の外へ視線を向けたその横顔に不覚にもドキッとした。

 

「やっと終わったー。あーあ、肩が凝っちゃうよ。ユウくん肩揉んで~」

「仕方ないな……ほらちゃんと座ってろ」

「はぁ~……そう、そこ……あっ! んぁっ! すっ、すごいっ……イ、クッ……!

「気色悪い声出すんじゃない」

「いいぃっっっ! ちょっ、まっ、痛いってば!」

「痛いのは効いてる証拠だ」

 

 まるで年の離れた兄妹のよう。距離感は近いけど別にやましいものがあるわけではなく、ただ純粋に家族としてのスキンシップらしい。

 そこに狙いすましたように割り込んでくる影。折れた直剣を打ち直した短剣を持った、革鎧を着こんだ男。短く刈り揃えた茶髪の図体のでかい大男がルイスさんの前に来て言う。

 

「よう、お二人さん……新人かい?」

 

 あのニヤニヤとした顔、それに私やヒビキちゃんを見るねっとりとした舐めまわすような視線、いつ見ても気に入らない。気に入らない新人をいびって辞めさせたり、美人と見るや自分のものにしようとするクソッタレめ。それに受付をしていた私の先輩をデートだとか言って無理矢理に連れ出して…………なんでこんなヤツが冒険者なんてやっているんだか! 

 

「俺ァ、ディックってんだ。ランクは(ゴールド)級だ、よろしく頼むぜぇ、同業者サン」

「自己紹介痛み入る。ルイス・ローデンバッハだ。よろしく頼む」

 

 ヒビキちゃんを庇うようにルイスさんが前に出る。図々しくディックが差し出した手にルイスさんも手を差し出して──

 

「ふんっ!」

「ルイスさん!?」

 

 ディックに軽く引っ張られるようにルイスさんの身体が宙を舞う。ローブが外れ、ルイスさんがギルドの壁に叩きつけられ──

 

「阿呆め」

 

 ぞわり、と私の耳に底冷えするような声が走った。激突する──その瞬間にルイスさんの身体がくるりと一回転、地面にしゃがみこむような姿勢で()()張り付いた。右手で石壁の隙間に指を差し込んで、たったそれだけで自身にかかる体重を支えているのだ。騎士なんてものじゃない、まるで軽業師やレンジャーのような身軽さだ。

 赤い瞳が妖しく光を映す。まさに今の彼は敵を認識して獣を仕留めんとする狩人だ。脳裏に浮かぶ最悪な光景……そのまま彼がディックを殺してしまうのではないかという懸念が私の中で警鐘を鳴らす。

 

「ユウくん! ストップ!」

「……ま、そうだな。初日から組合の床を汚すわけにもいかないしな」

「へっ、どうしたよぉ~怖気づい──」

「お前、ちょっと黙ってろ」

「──!? ふっ、んぐっ! ふんぐっぐっ!」

 

 ガチン、と音が聞こえたかと思えばディックの口が閉じられた。うめき声のように声が出るだけで、上あごと下あごが縫い付けられたように微動だにしていない。この人、一体何をやったの? 

 

「さて、冒険者プレートとやらはそろそろかな?」

「……あ、はい……多分そろそろ……」

 

 軽く壁から飛び降りたルイスさんが何事もなかったかのように私に喋りかけてくる。強い人だと思っていたけど、想像した以上の強さだ。おそらくあのクソッタレのディックなんかより、よっぽど上の実力がある。

 

「待たせたな。できたぞ」

「組合長、それが俺たちの?」

「そうだ。これを以って二人はエ・ペスペル冒険者組合所属の(カッパー)級冒険者となる。チーム名は決まっているか?」

「……名に恥じぬよう精進しよう。チーム名は……少々待ってくれ。戦事に縁起のいいものを考える」

「フ、軍人気質は抜けないようで」

「生憎と性分でな」

 

 銅級のプレートを受け取った二人は思い思いの場所にそのプレートを身につけた。ルイスさんは革鎧のベルトに、ヒビキちゃんはフリフリのメイド服の左胸につけようとしているがどうにも苦戦している。

 

「ほら、着けてやるから動くな」

「うん…………どう? 変じゃない?」

「大差ないから大丈夫だろ」

「……それってどーいう意味なのかなぁ?」

「さてな」

 

 ヒビキちゃんはやはり見栄えが第一らしく、しきりにプレートと自身の衣装の組み合わせに違和感が無いか確かめるように落ち着きが無い。

 

「さて、ディック」

「──!? ────!!!」

「また新人いびりをしようとしていたな? 次は放逐もありうると宣告したはずだ。にもかかわらずコレとは……どうやら再教育が必要なようだな? えぇ?

 

 組合長の怒気が膨れ上がる。既にパツパツだった上衣のシャツが筋肉の隆起で破れ、ガチガチの筋肉に浮かんだ血管の生々しさと相まって更に威圧感を増していく。元々ディックよりも大柄な組合長がさらに大きく見える、というより物理的に大きくなっているのだから気圧されるのは当然だ。

 

「ではルイス殿、私はこのバカを再教育してきます。依頼の受領はアリシアが行いますので、彼女に紹介してもらうとよいでしょう」

「懇切丁寧な対応に感謝する。ヒビキ、初クエストだぞ」

「オッケー! アリシア、実入りのいいやつ選んでよね」

「あ、はい。こっちにどうぞ」

 

 テーブルに座って現在張り出されている依頼の中で銅級のものをピックアップしていく。とはいえ銅級は一番簡単なものなので大したものはない。エ・ペスペル市街であれば城砦周辺のパトロールや街道の巡回など、遭遇する可能性のあるモンスターも低難度のはぐれのゴブリンやウルフ系の魔獣それと稀に現れるスケルトンやゾンビ、グール程度だ。

 

「むぅー……討伐系は無いの? ボクたちならちょっと強いくらいのモンスターは余裕だよ?」

「ランクがランクなので、受けられるのはこれくらいしかないんです。でも街道警備はエ・ペスペルの商人組合から定期的に依頼されるので、こう見えて銅級でも貢献度の高い重要な仕事なんですよ」

「ま、駆け出しならこんなもんだろうさ。俺たちはどうあがいても(カッパー)級でしかないんだ。例え元白金(プラチナ)級の推薦があろうと、初対面の人間であることには変わりない。

 俺の軍時代も最初は訓練と見回り、警備任務がほとんどだったさ。実績も信頼もないのにいきなり討伐系の依頼や要人や隊商の護衛なんてものは回されないもんだ。ま、依頼を完璧に、かつ回数をこなさなきゃ昇格なんぞあり得ん」

 

 やっぱりルイスさんはよくわかっている。推薦があろうが国王の紹介だろうが、その人の人柄を知りもせずに高ランクにいきなり据えたりしたら冒険者組合は非難囂囂(ひなんごうごう)だ。そりゃあ突然現れて自分たちが苦労して上り詰めた階級をサクッと飛ばして胡坐をかかれたのではたまったものではない。

 アダマンタイト級やオリハルコン級、ミスリル級には自分たちが高位の冒険者になったことを自身が偉くなったかのように勘違いして傲慢な態度を取り始める者も居たという。あのディックのようなヤツが最たる例だ。

 高位の冒険者は強力なモンスターにも立ち向かう勇気を持った勇敢な人たちだ。モンスターや敵対的な亜人種、異形種から人々を守ると同時に、彼らにとっての希望とも言えるものなのだ。そんな人たちが守るべき民草に対して横暴を振るうようなことは絶対にあってはいけない。

 

「ヒビキ、ひとまず俺たちはコツコツと積み上げていくことから始めよう」

「……初っ端から問題起こしかけたユウくんがそれを言うの?」

「可愛い妹分に手を出しそうなヤツに加減はいらん。で、その街道周辺のパトロールってのはどういう内容なんだ?」

「ええと、こちらはエ・ペスペルからエ・ランテルへの街道を往復して、隊商(キャラバン)や旅人を襲うモンスター、野生動物などが居ないかを調査する任務です。周辺の森林などは高位の冒険者さんたちが定期的に討伐を行っているので、群れからはぐれたモンスターや獣が街道へ出没することが稀にあります。

 そこでモンスターが街道沿いに現れた痕跡が無いかを我々が調査し、最終的にはエ・ペスペルの衛兵がその資料を基に街道を利用する人々へ注意を促すんです」

「そして隊商や旅人に注意喚起すると同時に冒険者組合で街道での護衛依頼をオススメして受け付ける。よくできてるじゃないか。商人組合も冒険者組合もエ・ペスペルの行政府も、いずれにも利点のあるいい協力関係だ。まあ、商人組合には裏などお見通しだろうが護衛が必要なのには変わりないしな。

 ともあれ商人からすれば、街道から脅威が消えるということは護衛をしばらく雇う手間賃が必要なくなるし、雇ったとしても少人数で解決する。比較的安全が確保された街道の定期的な調査依頼を出すだけなら、報酬が安くても仕事が欲しい(カッパー)級の駆け出し冒険者に勧めればいい。安上りで済むからその分のカネを商売に回せるようになる。

 そして安く上がった経費の余剰分を時折使って(アイアン)級や(シルバー)級の冒険者に街道に近い雑木林や森のモンスター討伐を依頼し間引きを行ってもらう。ああ、実にうまく手を組んでる」

「……このくらいはお見通しですか」

「ついでに言えば冒険者組合としても、近場の街道付近に高ランクの冒険者を頻繁に駆り出す必要がなくなるからエ・ペスペル領内の遠隔地にも高ランク冒険者を派遣しやすくなる。使える戦力が街道付近にずっと張り付く必要性がなくなる分、より広域に手を伸ばしやすくなるわけだ。そして領内の兵士たちは彼ら冒険者の調査資料などを基に野盗退治や巡回に出ることで無駄な支出を抑えることができる。

 そうして村とエ・ペスペルを繋ぐ街道の安全が確保できれば、商人が扱える品物も増えるし、村は商人が落としていくカネで潤う。結果的にエ・ペスペル領の多くの地域に経済効果が波及する仕組みなわけか。

 まず商人が潤う。次に冒険者組合は活動領域を広げることができるし、冒険者の育成が堅実に行えて、何より依頼達成の実績が出来上がる。その結果、エ・ペスペルの領民は安全に領内を行き来しやすくなる。商取引が増えることで村にある物資や商品がエ・ペスペルに集積されることになり、最終的に他の都市や諸外国との取引に結び付けばリ・エスティーゼ王都とエ・レエブル、リ・ロベル、エ・ランテルを結ぶ中間集積地としてエ・ペスペル全体が潤うことになると」

 

 ……すごい……たった一つの依頼表と依頼主だけでこうまで推測ができてしまうなんて。最後のほうなんてもう政治の話だ。領内の経済にまで考えが及ぶなんて……やっぱりこの人は只者じゃない。

 

「あー、うー」

 

 対してヒビキちゃんは頭から煙を吹きそうな感じで依頼表を前に目を回している。私と同じ年ごろだし、いろいろと勉強させてもらってきた私でも考えが追い付かないんだから無理もない話だ。

 

「要するに、安全が確保されれば領民全員オールハッピーってことだ。実際はまだまだ手が届いてないのが現状のようだがな。おそらく政策としてコレが打ち出されたのはそう古い時代の話ではないんだろうさ」

「あぅ、うん、細かいところはわかんないけど、そこはわかった!」

「交易が盛んなエ・ランテルに続く街道ですから巡回の兵士も居ますので、早々モンスターに出くわすこともないでしょうけど油断は禁物です」

「しかし調査ということだが、具体的にどういうものを調査するんだ? こう、痕跡とか?」

「概ねルイスさんの想像通りかと。調べるのは主にモンスターが街道に出没した痕跡ですので、足跡や体毛など、もしあれば糞便なども詳細を調べて報告してください。遺骸があれば詳細を調べておいてください。強力なモンスターが現れる可能性があるので、すぐに高ランクの冒険者を派遣して周辺を調査します」

「うぇぇ……モンスターのフンなんて調べるの……?」

「ガマンしろヒビキ。腐乱死体を扱うのに比べりゃまだマシだ」

 

 どういう仕事してたんだろうこの人。腐乱死体を扱うって……彼の居た場所ではゾンビ狩りも軍の仕事だったのだろうか。それとも戦死者の回収? これだけのことを読める人が最前線で戦う一介の軍人で終わるようには見えないんだけど。

 

「まずはこの依頼を受けよう。いつ出発する?」

「受領から二日以内にはお願いします。この依頼はエ・ランテルの冒険者組合にも話を通してありますので、往路を終えたらあちらの担当か受付で報告を行ってエ・ランテル冒険者組合の組合長からサインをもらってきてください。

 復路での調査を終えましたらこちらで報告し、私か他の担当がサインをしますので、それを以って任務は終了となります。

 歩きで往復して6日はかかる仕事ですので食料などは必要な分をこちらで用意します。これらはエ・ペスペルとエ・ランテル双方の冒険者組合で負担していますのでお代は必要ありません。必ず正門の兵士詰め所横の資材倉庫で受け取ってから出発してくださいね。

 でも、タダだからって飲み食いせずに計画的に使ってください。いいですね?

「食事付きとは豪勢だ。ヒビキが食べ過ぎないよう見張っておくよ」

「──あ、それともう一点重要なことが!」

「むぁー、まだあるのー?」

「もうちょっとだから辛抱しなさい」

 

 ぐでーっと机に突っ伏したヒビキちゃんがルイスさんに襟を掴まれて引き起こされる。こうして見ると保護者と子どものようでもあり、微笑ましい気分になる。

 

「今回、ルイスさんとヒビキちゃんは初の依頼ということですので、こちらから先任の冒険者をサポートにつけます。現場のことは現場の人に聞くのが一番です。ええと、今手が空いてる人だと……つい先日(アイアン)級に上がったばかりですけど、確かな実力と信用のある人をサポートにつけますね。わからないことがあれば聞いてみてください」

「了解した。後ほど準備を済ませ、明日の明け方に出る」

「わかりました。先方にはこちらから日の出ごろに正門前で合流するように伝えておきますので、正門前で到着をお待ちください」

 

 ルイスさんとヒビキちゃんが椅子から立ち上がって組合を後にするのを眺める。振り返ってこちらに笑顔で手を振ったヒビキちゃんに手を振り返すとヒビキちゃんは太陽のような笑顔を振りまいて、すぐにルイスさんと手を繋いで楽しそうにおしゃべりしながら去っていく。

 

「ふぅっ……」

 

 本当にすごい人たちだった。正直途中で伝え忘れたことや間違った説明をしていないか気が気でなかった。理性的でありながら自分の力を過信せず、きっちりと説明を受けている間は静かなものだったけど、ずっとこちらが観察されているような気分だった。

 

「へぇ、アリシアやるじゃん。あんなに賢い冒険者そうは居ないわよ。ああいう人に面と向かって堂々と説明できるなんてスゴイじゃない」

「せ、先輩」

「そうそう。話はしっかり聞いてくれて、頭も切れる。そして何よりカッコイイ! イケメン! 旅の剣士みたいな感じだけどぉ、孤高の剣士って感じの少しかけ離れた存在感があるところとか最高! それにあの妹さんみたいな子に態度を注意してたけど、“仕方ないなぁ”って少し笑った感じですっごいキュンッてしちゃうわよね! 

 アリシアもドキッとしたんでしょ? でしょでしょ~!? 説明してるときとかすっごい張り切っちゃって~!」

「ア、アンネまでっ! そっ、そんなこと、ないんだから……からかわないでよ!」

「正直羨ましいわ……私もあの人みたいな落ち着いた知性的な人を担当できたら……いつかは付き合ったり結婚とか考えたりもしたんだろうなぁ」

 

 結婚…………私とルイスさんが……えへへへ……! きっと朝になって目が覚めたら“おはよう”って言いながら温かい紅茶を淹れてくれたり、長期の仕事に出る前や夜眠る前なんかはほっぺにキスしてくれたりとか……! 

 

「ふへぇ……」

「いいわよねぇ……理想的な旦那さんよねぇ……」

「私にもそんな風に愛せる人ができればなぁ……」

 

 ────アリシア・フランソン、がんばります! 

 

 

 

 

 ふぅっ、と大きなため息をついてユウくんが城砦の石壁を背にしたベンチに腰を下ろす。二人してこうやって過ごすのも、リアルでユウくんの家に泊まった時以来だから、少し懐かしい感じがする。

 けど……なんだか変な感じがして仕方がない。あの時のアリシアから説明された依頼の内容を思い返すたびに違和感が増してきて、今にもボクの頭が焼ききれそうだ。

 

「……ねえ、あの調査任務って本当にエ・ペスペルの人たちのためのものなのかな?」

「おそらくは違うな。一見すると全員に利益が回って助かってる仕組みのように見えるが、見た目だけの話だ。

 傭兵だって自分の武力を“商品”としている点では商人と同じだ。詰まるところ商人組合で金を出し合って真っ当な傭兵団と専属で契約して護衛についてもらうほうが、もっと安く数多く長期的に安定した戦力を雇えるし、取引規模の小さく資本が少ない商人でも護衛を利用しやすくなる。いちいちその時々で担当する人間が変わり、実力がピンキリの冒険者に討伐依頼や調査依頼、護衛の依頼を出す必要性がまったくない」

 

 それもそうか。冒険者も傭兵も同じ“武力”を売りにしているんだから、集団での戦いに慣れてる傭兵のほうが確かに大きな隊商を護衛するには向いてる。同じ等級でも強さがまちまちな冒険者よりも、傭兵の一団のほうが強さが安定しているし大規模な戦闘でも連携して対応できる。

 

「じゃあ冒険者のほうは?」

「冒険者側としても近いものがある。こっちでは冒険者ってのは要するに“モンスター退治の専門家”って認識だ。なのに追剥ぎや野盗など、同じ人間勢力を相手取る可能性がある仕事をわざわざ勧めるというのはおかしい話だ。万一敵対的な人類とかち合ったとき、同じ人間相手に剣は振れませんなんて抜かすようなら死ぬだけだ。

 しかも一団を組んで動く以上は連携が不可欠だ。そんな仕事を数名のチーム単位で動く冒険者に、しかも隊商の規模によっては数チームが当たらなければならない可能性がある護衛任務を依頼するのは不自然だ。

 そんなことするくらいならしっかり鍛えられた10人から30人の傭兵集団が居れば徒党を組んでの戦いでも安心できる。まあ中には冒険者でしかできないような依頼もあるかもしれないな。貴重な素材を取ってくるとか、サバイバビリティが必要とされる場面では冒険者に依頼することもあり得るだろう」

 

 むむむ、聞いているとますますあんな調査依頼なんて要らないんじゃないかって思ってきた。

 

「じゃあこの商人組合と冒険者組合の協力関係って、本当ならそこまでする必要のない協力関係ってことなの?」

「そういうことだ。そもそも冒険者は商店や宿を利用することが多いだろうし、それだけで商人側は儲けが出る。モンスター退治に出れば出るほど、依頼が多ければ多いほど需要は増すし冒険者が訪れる頻度が増すから利益が出るだろう。冒険者はお得意様だから少々オマケしたって懐が痛むほどじゃない。

 むしろ貴重な素材やアイテムを冒険者が持ってくればそれを買い取り、自身の販路を使って他所に売りさばくだろう。常にガッチリとお互いの手を取り合う一蓮托生の関係よりも、ある程度のサッパリとした関係のほうが割り切った考えができる。

 冒険者組合としても商人が自分で自分の身を守ってくれるから他の依頼に力を入れることができるし、多くの冒険者に実戦の場を与えることができるため必然的に冒険者のスキルアップになる。冒険者が生きて帰ってくるように手を尽くし、適正な難度の依頼を見極める必要はあるけどな」

「うーん……つまり、商人は本来自分で自分の身を守る方法があるのに、わざわざ冒険者組合に頼んでるってこと? 冒険者も商人には自分で自分の身を守ってほしいけど、その依頼を敢えて受けてるっていうこと?」

「なんだかんだ言ってるけど、あくまで予想だし可能性としてあり得るってだけのことだ。もしかすると身元の知れない粗暴な傭兵集団なんかが問題になったことがあって、エ・ペスペル内部で商人組合、冒険者組合、行政府が結託して仕事を全て独占することで、傭兵集団がエ・ペスペルの経済活動に入り込む余地を無くしたのかもしれない。仕事が無いのなら傭兵なんて家業は廃業するか野盗に成り下がるしかない」

「……それって一歩間違えれば冒険者も野盗になりかねないってことなんじゃ……?」

「そうとも」

 

 うわーん! 聞かなきゃよかったぁ! ああ、せめてボクたちにはちゃんとしたお仕事がありますように……! 

 

「で、ここで先ほどの商人と冒険者の関係だと損をしてるのが行政であり頭目たる領主だ。兵士を定期的に村々へ巡回に出し、安全確認や補修作業などをすることになるとその分経費がかかる。しかも常に巡回部隊を出さなければいけないからエ・ペスペル防衛に当たる兵力そのものが減る。

 巡視先で戦闘でもすれば兵力は損耗し、武器なども失われるとなれば損失は大きくなるばかりだ。死んだ兵士の遺族には手当てを出すのが普通だから、更に金がかかる。聞けばバハルス帝国と何度も戦争戦争とやりあっているらしいから、軍費は頭痛の種のはずだ。

 そんなとき、金のある商人組合が、仕事を欲しがっている冒険者たちに、簡単だけど面倒な街道の巡回やモンスター出没頻度の調査や間引きなんかを定期的に出す────つまり兵士たちがやっている仕事をいくらか肩代わりしてくれるとなるとどうなる?」

「……そっか! 兵士が巡回に出る回数が減るし、戦死者も減らせるし、街の防衛に力を入れられる! たくさんの兵士の訓練ができるようになるから兵士を鍛えられる! 

 あれ、でも冒険者組合って“中立性の維持のため国家運営に関する活動に参加しない”ってアリシアが言ってなかったっけ?」

「そう、そこがミソなんだ。エ・ペスペルの行政が依頼したのではそれは“国家又はそれに準ずる組織”からの依頼になってしまう。だが商人組合からの“安全な商取引のための街道警備”という依頼になれば、それは民間組織からの依頼になるから抵触しないってことだ。

 だから今も街道に少数ながら巡回の兵士が居るわけだ。そうすることで兵士のほうが“公務”になり、冒険者の活動は“組合の活動”になるんだからな。

 この仕組みを考えたとなれば間違いなくエ・ペスペルを領有する人物か、領内の施策に口出しできる人物……そしてそれに繋がっているお抱えの商人が候補に挙がってくる。領主としては軍務にかかる予算を減らせて嬉しいし、何より兵をいつも大量に抱える必要が無い。この仕組みに口利きしただろうお抱え商人も何らかの形で利益を得ているはず。そしてエ・ペスペルの行政府を統括する人物……市長あたりも何かしらの恩恵を享受しているんだろうさ」

「……ボクたち、冒険者の依頼を受けたんだよね……? 本当に、これって冒険者の仕事なんだよね? それなのに、助けを必要としてるたくさんの人のためじゃなくて……一部の人が得するだけのことに手を貸すなんて──」

「ヒビキは本当に優しいなぁ」

 

 ユウくんの手のひらがボクの頭をくしゃりと撫でる。俯いたままのボクの頬にユウくんの手が触れ、指先が目じりに溜まった涙をぬぐい去っていく。

 顔を上げて見えたのは初めてボクがユウくんと会ったときに見た笑顔。髪の色も瞳の色も変わってしまっているけど、ユウくんがボクにとってのヒーローになったあの日に見た笑顔だ。

 

「確かに俺たちがこれからする依頼は誰かの思惑で仕向けられたものかもしれない。だけど街道には実際に人が行き交っていて、実際にその背中にまで危険が迫っているかもしれない。

 俺たちがやるのは、その人たちの背中に迫る不埒な輩の影を追いかける仕事だ。俺たちがそいつらを見つければ巡回兵に連絡して対処してもらえるし、俺たちで対処できる数ならその場で安全を確保することだってできるし、もしかしたら襲われてる場面に遭遇するかもしれない。

 そんなとき俺たちが居合わせていたらその人たちを救うことができるし、俺たちがそのモンスターを仕留めれば他の旅人が襲われずに済むんだ。俺たちがしっかりと巡回することで、誰かの明日を守ることができるんだ。それだけは天地がひっくり返っても確かなことだ。

 誰かのために何かをやりたいというその気持ちは大事なものだ。本当に……ヒビキは優しくていい子だ」

 

 ボクたちの仕事が誰かの明日を守れる。……きっと、これこそが……ユウくんがリアルでずっとPMCで戦ってきた理由なんだ。そして今もボクやレーナ、グリプスホルム村のみんなに向けられている気持ちなんだ。明日を守るために、ユウくんはずっと戦ってきたんだ。

 

「……ありがとう、ユウくん。もう、大丈夫だよ」

「ほんとか? 泣き虫ヒビキ?」

「そ、それはっ、昔の話だから!」

「へぇ~……泣きそうだぞ、お前?」

「──ッ! ユウくんがっ! ボクが泣きそうになること言うからだよ!」

「あぁっ、拗ねるなよ! ほら! 後で甘いものでも食べに連れてってやるから!」

 

 ほんと、ちょっとイジワルな……ボクのヒーローだ。

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