「あれ・・・・ルド?お前、ルドルフか?」
電車が動き出してすぐ。
男子高校生達の中でも少し背の高い
がっちりした肩幅の1人が
かがんでこちらを覗きこんできた。
なんでぼくの名前を・・・・?
「リョウジ?お前なんで知ってるん。
東京に居った時の飼い猫?」
他の男の子が問いかけると、
リョウジと呼ばれた男の子は、
ぼくの方へ伸ばしていた手を引っ込めて
立ち上がった。
「いや・・・・ソックリだったから。
でもそんな訳ないよな」
リョウジ君は標準語で言うと、
居心地悪そうに身じろぎして
モゴモゴと続けた。
「その・・・・彼女んちの猫にうぐっ」
即座に、下腹にきついお仕置きを
受けるリョウジ君。
男子校で彼女を作る奴は火炙りだ!
などと罵られながら、
またぼくの方へと手を伸ばしてきた。
「ルドルフ・・・・よりは
ほんのちょっとデカいかな?」
騒がしい男子高校生達と
距離を置こうとしていたぼくは
このリョウジという男の子の一言で
身体が痺れたように動けなくなっていた。
ルドルフが・・・・
このリョウジ君の彼女?の飼い猫?
もしかして・・・・
「おーい、もっとこっち来いよ。
お前、リエんとこのルドじゃないよな?」
リエちゃん!やっぱりリエちゃんか!
ぼくが岐阜に居た時の飼い主、リエちゃんを
このリョウジという男の子は知っているんだ!
騒がないように、と
逃げようとしていたことも忘れ
ぼくはリョウジ君に近寄っていった。
にゃあ・・・・
遠慮がちにぼくが小さく鳴くと、
リョウジ君は慣れた手つきで
ぼくを抱き上げた。
「似てるなー。
お前、ルドルフの兄貴なんじゃないか?」
計らずも図星なことを言うリョウジ君。
他の男の子達がぼくに触ろうとするのを
ハネのけていると
いつの間にか浅草駅が
目の前に近付いてきていた。
「おいリョウジ、連れてくんか?そいつ」
「やー、さすがにそれは・・・・」
リョウジ君が迷っているようだったので
浅草駅に着いた瞬間
ぼくは腕の中から飛び降り、
開きかけのドアをすり抜け
先にホームへと立った。
そこでチラッ、と男子学生達を振り返る。
リエちゃんの今が分かるチャンスかもしれない。
ここは1つ、この男子高校生達に
付いていくことにしよう。
「早く来いよ、て言ってるみたいだな?
付いていくなら大丈夫だよ、な。
一緒に行こうぜ、みんな」
もくろみ通り、リョウジ君が
好意的に受け止めてくれたおかげで、
ぼくも一行に加わることに成功した。
抱いているとさすがに
駅員さんに咎められるだろうから
ぼくはリョウジ君の足下に
まとわりつくようにして、
改札をこっそりくぐり抜けた。
リョウジ君、無賃乗車に協力感謝。
「しかし、見事にリョウジにだけ
なついてるなぁ、そいつ。
本当にその、ルドルフなんやない?」
駅を出たところで、
話を蒸し返した友達に反応して
リョウジ君はぼくの前にかがみこみ、
改めて観察しはじめた。
「うーん・・・・でもルドルフが
東京に居るわけないしなあ。
そもそもあのルドルフは俺には
なついてないし」
微妙に切ない事を言うリョウジ君。
でもすぐに考えを切り上げると
ぼくを抱え上げた。
「まあいいか!それより
そろそろ行かないと
自由時間足りなくなるぜ」
そしてぼくを抱いたまま
先頭に立って歩き始めた。
どうやら土地勘があるらしいリョウジ君が
先導し、4人とぼくは浅草駅のすぐそばの
商店街へ向かうと。
「こんにちは!君達人力車どうかな!?」
着くや否や、威勢の良い挨拶が飛んできた。
浅草観光の人力車、聞いたことはあるけれど
猫の身じゃあ論外だし、結構高いはずだし。
そもそも、人が引くわけだから
自分で歩く速度ともそう変わらない・・・・
等と否定するのは体験した後だ。
やったことのない体験を大切に。
実学を大切にしなきゃ。ね、リョウジ君?
「お。なんだかルドルフ(仮)が
眼輝かしてないか?
お兄さん、4人お願いします。
2人ずつ2台になるのかな?
猫も、しっかり抱いとけば良いですよね?」
リョウジ君は分かってくれたようだ。
リエちゃんはひとまず置いといて、
人力車がどんなものなのか体験することにしよう。
大切なことだよね。ね、イッパイアッテナ?
リョウジ君に抱かれて人力車に乗ると。
おぉ・・・・思いの外視点が高くなるなあ。
それにしても、この人力車での浅草観光って
そこそこお値段張るはずなんだけど・・・・
どうやら、金持ちのぼんぼんらしい
金離れの良い4人の高校生と一緒に
ぼくは浅草の街へ繰り出した。
「お兄さん達、修学旅行?」
人力車の引き手の人が、
朗らかに話しかけてきた。
男子高校生二人と猫を乗せているわけだから
結構な重さの車を引いているのだけれど
平気な顔をしている。凄い体力だなぁ
「そう、修学旅行なんですよ。
・・・・うわ!スカイツリー超目の前やんか」
正面には下町らしい商店街。
目線を上げればスカイツリー。
男子高校生3人は
田舎者らしくはしゃいでいる。
あと1人の高校生、リョウジ君は、というと。
「やっぱ猫可愛いわー。飼いたいわー。
せめてリエんとこのルドルフ
俺に懐いてくれんかなぁ」
先程の電車での会話からすると、
彼は東京育ちらしい。
東京の街並みより、
ぼくの毛並みのほうに興味津々だ。
人力車の観光案内など
全く耳に入っていないみたい。
「彼女もちは余裕やなあ」
友達のほうはしかし、リエ、という
キーワードのほうに反応したみたいだ。
「めっちゃ仲良いみたいやなあ。
普通彼女んちとはいえ人の飼い猫とか
そう見分けつかんぞ?」
「いやあ、リエはインドア派で。
とにかく猫好きだからデートとか
外に行くのも嫌がるんだ。
ゲームは少しやるんだけど、
モンハンも駄目でなー。
すぐDSから目を離しちまう。
ルドルフが、ルドルフが
どっか行っちゃったら、てな」
あう・・・・これは多分ぼくのせいだな。
ある日突然居なくなったんだもんなあ。
リョウジ君ともう1人が、
そんな話をしていると
人力車のお兄さんが急に振り向いた。
「ルドルフね。ルドルフってのは
このあたりじゃ有名な猫の名前でねえ」
なんだか芝居がかった口調で話しながら
振り向いたお兄さんの顔は・・・・
妙に瞳孔が細くなっていた。
まるで、猫のように。
まさか、朝出会った不思議な猫は・・・・!
思い出した!昨晩見た夢は・・・・!
「せっかくだから、ルドルフ。
面白いところへ案内するよ。
君の望みは・・・・実学だろう?
そして離れた大事なヒトの事・・・・。
ぴったりの場所があるんだよ、ふふふ・・・・」
ぞわわっ
ぼくの背中で、
毛が全部吹き飛ぶほどに逆立った。
駄目だ!こいつは危険だ!
リョウジ君の腕の中で
ぼくは暴れたが
リョウジ君はまっすぐ前を見て、
ぼーっとしている。
聞こえていないのか・・・・?
隣の友達もだ。
加えて、人力車の周りが急に
ぼんやりとした霧に包まれた。
いや、これは霧じゃない。雪・・・・?
「大丈夫だよ、ルドルフ。
君ならあっちの世界でもうまくやれる。
知りたい事も学びたい事も
ちゃんと分かるよ」
猫目のお兄さんも、多分言わされてるだけだ。
朝出会った不思議な猫の仕業なのだろう。
ぼくはヒゲを震わせて
あたりの気配を探るけれど、
霧・・・・じゃない、雪のせいで
何も分からない。
そうして、ぼく1人焦っているうちに
だんだん、視界全てが白くなりはじめた。
雪の眩しさにリョウジ君も、
猫目のお兄さんも見えなくなっていき・・・・
「君は、どんな風に狩りをするのかな?」
不思議な猫の言葉が聞こえたのを最後に
ぼくは気を失った。