その1
眼が覚めると、
ぼくはとても柔らかいモノの上で丸くなっていた。
膝の上かな・・・・久しぶりだなあ、この感覚。でも、膝の上にいるにしては何故か寒い。
・・・・いや、寒いなんてもんじゃないぞ?今夏のはずなのに、まるで真冬、まふ・・・・ま、ま・・・・
「まぁーっひゅっしょい!!」
我ながら妙なクシャミをしてしまった。まるで人間みたいだな。ぼくが乗っている膝の主も驚いているだろうなあ。
「わお!起きたねールドルフ。おはよう!」
元気の良い女の子の声が、ぼくのすぐ上から降ってきた。と同時に、ガタンゴトンとあたりにやたらうるさい音が響いてることにも気が付いた。
そういえば、ぼくは人力車に乗って・・・・
「・・・・!?」
がばっ
これまでの事を思い出して、ぼくは焦って身を起こした。あの、妙な猫と、猫目の人力車の男!
でも、慌ててまわりを見渡しても、何故こうなったのかわからなくなるばかりだった。今さっきまでの東京のごちゃごちゃした街並みは無く、雪があちこちに積もった山の中だ。舗装された道路も信号もどこにもなく、左手には崖、右手には寒々とした小さな湖。ごつごつした、男子高校性の腕に抱かれていたのが、小さな女の子の膝の上にいる。つやつやの黒髪を後ろで束ねて、猫耳の・・・・カチューシャかな?をつけた可愛い子だ。ガタゴトいってるのは、どうやら人力車ではなく、馬車のようなものに乗せられているからのようだ。結構なスピードが出ていて、ぼくを膝に乗っけた女の子ごと上下左右に揺さぶられている。
こんな危険運転、やめさせないと。ぼくは寝起きのぼーっとする頭のまま、馬車(?)の御者台を覗こうと、ぼくと女の子を乗せた荷台の縁に前足をかけた。
「わお!身を乗り出すと危ないよルドルフ!」
女の子が制止してくる。そういえば、この子もぼくの事を知っているんだな。油断出来ないや。
それよりも、この不安定な足元をなんとかするためにもこの馬車を停めないと。最悪すぐに逃げ出さなきゃならないし。
もたもたと両手を広げ、ぼくを捕まえようとする女の子を避け、御者台を覗いたぼくは。
「・・・・だ、ダチョウ!?」
馬車(?)を引っ張っている動物があまりにも予想外で、驚きの声をあげ危うく荷台の縁から転がり落ちそうになった。
それはでっぷり太った胴体に、長い首と長い脚がくっついた奇妙な姿で、思わず叫んでしまったが、図鑑で見たダチョウともまた違う動物だった。それが車に繋げられ、かなりのスピードで走っている。
「おはよう、ルドルフ。驚くのは分かってたけれど、あぶニャいからもう少し後ろで嬢と一緒に大人しくしとくニャ。」
ダチョウ(?)に驚いて、呆けているぼくに、御者台からくるりと振り向いて声をかけてきたモノに、ぼくはその日一番の驚きの声を上げた。
「猫!?猫がしゃべったー!!!?」
これもまた、猫とは少し違う。丸々と太って、頭も異常に大きい。いや、頭だけじゃなく身体全体もだ。100センチ前後はあるかなり大型の、猫に近いが絶対に違うナニかだ。こんな化け猫(仮)が、しかも日本語でぼくに語りかけてきている。
驚きのあまり、ぼくは今度こそ荷台の縁から転げ落ちて、女の子に抱き留められた。
「わおわお!落ち着いてールドルフ。あんたも日本語しゃべってるよ!」
はっ!?
女の子の腕の中、告げられたさらなる衝撃。そういえば、さっきぼく意識せずにダチョウと猫、2つの種族名を日本語で叫んだ!
「大丈夫、大丈夫ルドルフ。混乱しちゃうだろうけれど、とりあえず今はあたし達が味方だから。落ち着いて、ここで大人しくしてればツミレ達が守ってくれるから」
ぼくを落ち着かせようと、黒髪の女の子が優しく撫でながら語りかけてきた。抱き留められたまま元の荷台に戻ると、馬車(?)は急に速度を落とし始めた。
「ツミレ・・・・?君は、ツミレって言うの?」
何故日本語がしゃべれているのか自分でも分からないまま、ぼくが女の子に問いかけると、女の子はゆっくり首を左右に振った。
「あたしはミルシィ。ツミレは、前に座ってる猫だよ。とっても強いから、モンスター達から守ってくれるよ!」
ニカッ、と元気な笑顔を見せる女の子、ミルシィ。なんとも魅力的な笑顔だけど、モンスター?不穏な単語も同時に聞こえてきていて、全く安心できない。
「ウチに着くまで寝ててくれたほうが良かったんだけれど、仕方ニャいニャ。一旦ここで安全確保するニャ」
今度は御者台のほうから、あの奇妙な生物(あまり猫と思いたくない)の声が聞こえてきた。あたりを見渡すとさっきまでより多少道幅が広くなり、雪も少し減って地面にはちらほらと花も咲いている。
安全確保?ってことは今安全じゃないの?何が危険?荒い運転じゃなくて?言葉の意味をつかみかねていると、馬車(?)は完全に停止した
「ドスファンゴが一頭追いかけてきてるだけニャ。肥やし玉で散らすまでもなく倒しとくニャ」
ツミレ、というらしい猫に似た生き物が、前の御者台から降りて荷台の後ろに回ってきた。はじめは驚きのあまり気付いていなかったが、ツミレは分厚い頑丈そうなコートを身に付け直立し、前足には鋭い刃の付いた巨大な手裏剣を持っていた。ますます猫とはかけ離れた姿だ。
日本語を話す猫?しかも服着て武器持ってる?モンスター?ドスなんちゃら?倒す?
何一つ理解出来ないまま、ぼくはミルシィの腕の中で呆けていた。