「採用試験と行こうか」
「…………は?」
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六条のおっさんが放ったその言葉は
ついさっきまでの希望と安心を
一瞬にして吹き飛ばした。
試験ということは、落ちれば特別待遇は無く、今までの安心は無意味になる。
「ちょっと!採用試験ってどういう事ですか!」
それがどういう事かはわかっている。
だが、信じられない。
認めたくない。
その一心で六条のおっさんに問いかけた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」
そう言いつつ、ソファーに腰掛け、タバコに火をつけながら
六条のおっさん
いや
六条は余裕の表情を浮かべていた。
その余裕の表情と、他人事のような軽い態度
こんなのは、こんなのはまるで詐欺じゃないか。
こいつは目の前で、安心と安全という甘い餌をチラつかせていただけだったのか。
そう思うと
その全てに怒りを覚える。
全身が熱くなるのを感じる。
「ふざけないで下さい!今さっきまでのもう大丈夫だって言葉は嘘だったんですか!!身の安全は保証しようという言葉は出任せだったんですか!!!」
その自分の必死の叫びに対し、六条がとった行動は
無言。
何も、答えようとしない。
そればかりか、呑気にタバコの煙を吐いた後、灰を灰皿へ落とし、またタバコを咥える始末だ。
まるで、こっちのことを気にしていないような。無いものにされているかのような。
そんな態度。
「………………っ!!!」
ガッ!
「人を馬鹿にするのもいい加減にして欲しい!騙したなら謝罪を!!!認識が間違っているなら弁解くらいしたらどうですか!!!」
そう叫びながら、気付ば六条の胸ぐらを掴み、睨みつけていた。
六条の目は、何も見ていないような。
自分を認識していないような。
くだらないものを見るような。
灰色の目をしていた。
ぽろっ…。と、タバコが六条の口から落ちる。
それが床につくと同時に、六条は、はぁ。と、一息つくと口を開いた。
「少し、落ち着かないか。」
そう言いながら、六条か微笑んだ。
瞬間、灰色だった六条の目に、一気に光が入る。
とても暖かい、見ていると寝てしまいそうになるほど穏やかな目に変わった。
そして、いつの間にか胸ぐらを掴む力が緩んだ自分の手をおろさせ、自分の肩を抱きしめ、耳元で優しくこう言った。
「不安になるような言い方をしてすまなかった。余裕を見せていたのは他人事だと思ったわけじゃないんだ。君が絶対に合格すると確信していたからなんだよ。不安にさせてしまって、本当に申し訳ない。」
そう言いながら頭を撫でられる。
「さっき、くだらないものを見るような灰色の目をしていると思ったかもしれないが、それは違う。君は君自身の力を、頭脳を、まだ全然わかってないようだった。その事実に少し、もったいないと言うか、がっくり来たんだ。君をバカにしていたわけじゃないんだよ。」
そう、とても申し訳なさそうに答える六条のおっさんの声を聞いていると
その状況が恥ずかしくて、酷くみっともなくて、でも、嬉しくて
とても、暖かいものだと感じさせられた。
自分をあれだけ乱心させて、恨みを買って、なのにこの一瞬で、自分の心をここまで静めたこの人の手腕を身をもって感じた。
この人なら信用できる。
付いて行ける。
安心して身を任せられる。
そう、確信した。
「すみません………自分のはやとちりで……勝手で……未熟な考えで失礼なことをしてしまいました……本当にすみません……」
いつの間にか
泣いて、謝っていた。
ただただ、溢れ出る涙で顔をぐちゃぐちゃにして。
六条のおっさんにしがみついていた。
すまなかった。
そう言いながら頭を撫でてくれているその感触が、言葉が
更に涙を溢れさせる。
「君は強い。そして頭が回る。まだ未熟な思考回路だと言わざるを得ないが、その頭を上手く使えたなら君は、とてもいい人間になれる。だから」
大丈夫だよ。
そう言いながら頭を撫でてくれているその感触が、言葉が
さらに涙を溢れさせた。
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とんとん。と、六条のおっさんが背中を軽く叩いてくれている。
「大分、落ち着いたようだね。」
そう言いながらこちらに微笑み、背中を叩くのをやめる。
「はい…ありがとうございます…」
「じゃぁ、採用試験と行こうか。」
そう言いつつ目の前のソファーに移動する。
「わかりました。でも、一体何をするんですか?」
ふふっ、それはね……?
六条のおっさんはそう、意地悪に言いながらウインクをし、左手を腰に、右手人差し指を鼻の前に持って行き、『ひ・み・つ♪』のようなポーズになった。
意外とおちゃめな人なのかもしれない。
「たった一つの質問に答えるだけでいい。」
「…………はい?」
一瞬、思考が停止した。
自分のそのさまを見ておっさんは、ふふふっと笑いながら。
「簡単だろう?」
と、得意げにいう。
「いやいやいや!どういう事ですか!それだけでいいんですか!?採用試験ってそんなに雑くていいんですか!?」
「雑いなんて言わないでおくれよ、これでも私がさらっと思いついた難問試験なんだから。」
「さらっとなのに難問なんですか!?矛盾してません!?やっぱり雑じゃないですか!!!」
「まぁまぁ落ち着きたまえ、とりあえず質問を聞いてからにしておくれよ。」
「……わかりました…」
「よし。今からいう質問の答えを、真実とは逆にして答えて欲しい。」
「はい。」
自分のその相槌を確認してから、おっさんは得意げな顔でこう言った。
「君の名前はなんだい?」
この質問をよければ考えてみてください。
さて、あなたは合格なのでしょうか……?