バカとテストとスポンサー~愉快な彼らのバカバカしくも素晴らしき日常~ 作:アスランLS
徹「(フキフキ)……ふむ……評判通りなかなかの芸術性、そして味だったな」
パティシエ「馬鹿な……私の誇りとプライドが込められた無敵艦隊が……たった一人によって……全滅……」
従業員1「まさに略奪者(バイキング)……!」
従業員2「どういう圧縮率であの子の胃に収まったんだ……?」
※徹君はこう見えて『アクティブ』随一のフードファイターだったりします。
【和真視点】
「僕たち、よく生きてるね……」
「ああ……。よく覚えていないが、リアルに地獄を見てきたような気がするぞ……」
「お主ら二人のうわごとがつながったときは、正直もうダメだと思ったぞい……」
「毎度毎度お前らも大変だな」
「カズマ。お前のクラス、常識が通用しないにもほどがあるぞ……」
今俺達男子6人はペンションのリビングにいる。ちょうど雄二達が生の死の淵から舞い戻ってきた。流石のソウスケも馴れないFクラスの非常識ぶりが連続したせいで精神的疲労が半端じゃねぇな。
「けど、意外だよね」
「ん?何がだ?」
「いや、僕と雄二って相当マズいことやったじゃない?」
「ああ、まぁそうだな」
「…………異性と一緒に出掛けているのにナンパなんて、失礼極まりない」
「まあ確かに、軽率な行動だと言わざるを得ないな」
「あの連中がこうなることなんざ用意に想像できたろうに、チャレンジャー過ぎるぜお前ら」
こいつらホント刹那的に生きてるよな。
「その割には罰が軽いと思わない?」
「待て吉井。その言い分はどう考えてもおかしい」
「確かにそうだな。この程度で済ませるとは随分甘いな」
「坂本、私から言わせれば甘いどころか理不尽極まりないのだが」
「世間一般では臨死体験を軽い罰とは言わんじゃろうしのう……」
まあFクラスに一般常識なんざあるわけねぇんだけどな、そんなもんあったら異端審問会なんざ結成されてねぇよ。
「ということは、つまり」
「ああ。まだ何かあるだろうな」
「一応私の方から奴らの横暴な行いに対して少しばかり説教をしておいたので、向こうも多少懲りていると思うのだが……」
「アレのどこが少しなんだソウスケ?翔子と姫路あたりトラウマになってもおかしかねぇぞ」
「確かに、さっきまでの鳳は……鉄人より遥かに怖かったのう……」
「…………殺気だけで人を殺せそうだった」
秀吉の発言を聞いた雄二達は信じられないといった表情をする。まあ実際に見てねぇとピンと来ねぇよな。
しかし甘いなソウスケ、Fクラスの強みはしぶとさと粘り強さだぜ?そう簡単に懲りる連中じゃねぇよ。
「うーん……判断に困るね……」
「まあ、今から近くの町でやってる祭りに出かけるんだろ?何か酷い目にあるようなこともそうそう起こらない……と、信じたい……」
「まぁ、荷物持ちや何かを奢るくらいはあり得るだろうね……」
「…………それは、いつものこと」
こいつらにとってはな。
俺は例え優子が相手でもそんな使いっぱしりみてぇな扱いは虫酸が走るし、仲が良いからこそお金のやり取りはキッチリしとかねぇとな。
「まぁいっか。なるようになるよね」
「それもそうだな。……ところで和真に鳳、さっきから気になってたんだが……」
「あん?なんだよ?」
「……その格好はなんだ?」
明久達がラフな格好である一方、俺とソウスケは半纏姿である。やれやれ、これだから素人は……いちいち説明しなきゃなんねぇのか。
「お前ら、祭と言えばなんだ?」
「へ?急にどうしたの和真?」
「金魚すくい?かき氷?打ち上げ花火?……まあ確かに、どれも祭における重要なファクターだ。だが俺の求める祭は断じてそんな浮わついたモンじゃねぇ。祭において俺達アウトドア派が最も熱くなれる催し物と言ったら答えは一つ…………そう……神輿だぁぁぁあああああ!!!」
「「「今日一番のテンション!?」」」
今、俺の求めるものは……神輿、ただ神輿。
泥や汗にまみれながらも己の培ってきた力を存分に奮い、浮き世に己が魂の讃歌を謳い上げる至上至高のお祭り行事……参加しないわけにはいかねぇよなぁ!
「……まあそんなわけで、私達『アクティブ』のメンバー三人は神輿を担ぐことになるので、向こうに着いたらお前達とは別行動になるな」
「三人って……木下さんも参加するの?」
「そういえば荷造りの際、姉上も半纏を用意しておったのう」
去年の夏はまだ優子はアウトドアに染まりきってなかったから、今回が初参戦になるな。
「「「お待たせ!」」」
っと、ようやく女子共が来たか。
「皆、随分と時間がかかってたんだね……おおっ!」
「お、凄いな。そんなもんを用意していたのか」
「…………時間がかかるのも納得」
「なるほどな、浴衣じゃったか。全員よく似合っておるではないか」
浴衣ファッションショーみたいな光景の中、優子だけは俺達と同じ半纏姿である。ついでにゴムで髪の後ろの方をくくって髪型をポニーテールみたいにしている。優子は激しいスポーツをするときはいつもこの髪型だ。ぶっちゃけ俺はこの髪型の方が普段より好みなんだがずっとそうして欲しいとは思わねぇ、何事も新鮮さは重要だ。いくら肉が好きな奴でも朝昼晩三食焼き肉じゃあウンザリするだろうしな……そういや365日欠かさず甘味を摂取し続けてる甘党チビがいたな……まあ何事も例外はあるっつうことで、アレはノーカンな。
「へぇ~。綺麗だね~。髪型も変えてるから、グッと色っぽくなってるよ」
「そ、そうですか?」
明久に褒められた姫路が袖を広げて回って見せている。まあ微笑ましい光景だとは思うけどよ……明久、ついさっきそいつに殺されかけたんだぞ?
「まさか私も着ることになるとは思いませんでした」
その隣で玲さんが戸惑ったように自分の浴衣を見下ろしている。思わなかったって、それ自分で用意したんじゃねぇのかよ?
「皆で着ようって前からこっそりと相談してたんですよ。玲さんの分は翔子ちゃんが用意してくれたんです」
「……着ていないのがあったから」
なるほどねぇ、翔子と玲さんは身長も近いから丁度良かったんだろうな。
「ウチ、浴衣って初めて着るかも」
「あ、そっか。美波は海外育ちだもんね」
「ちょっと歩きにくくて変な感じね」
馴れたらむしろ動き易いんだけどな。ソウスケなんて浴衣の格好でゴロツキを数十人始末したことがあるくらいだし。
「…………ほぇ…………」
「?な、なによ、アキ」
「あ、ああ、いやっ!別になんでもないんだっ!」
おおかた島田の格好に見惚れてたってところか。重ね重ね思うけどよ、殺されかけたのついさっきなんだよな……。
『…………っ!?(ブシャャアアッ!)』
あっちの方でムッツリーニがまた死にかかってんな。十中八九愛子が犯人だろうが。
『またか土屋!?』
『む、ムッツリーニ!?何事じゃ!?』
『…………俺が一体何をしたと……?』
近くにいた秀吉とソウスケが慌てて駆け寄る中、ムッツリーニは浴衣をはだけさせた愛子を恨めしそうに見ながら床に沈んでいく。やっぱり元凶はお前か。
『生きておるかムッツリーニ!?一体誰がこんな酷い真似を!』
『…………もう、ダメかもしれない……』
『今輸血してやるからしっかりしろ土屋!』
『…………だが、これはこれで……満更でもない………』
『……お前という奴は…………』
『なんというか、心配しておるワシらが阿呆のように思えてくるぞい……』
もう本人が自己生産した血液は一滴も残ってないんじゃねぇかな……。俺がそんなことを考えていると、今度は近くで翔子が雄二に話しかけている。
「……雄二。私の浴衣、どう?」
「ん?ああ、そうだな~……。まぁ似合ってるんじゃないか?」
このキングオブツンデレには最初から期待してねぇけどよ、流石にそれはねぇだろ……。
「……じゃあ、今すぐ私と結婚したい?」
「全然、微塵も、まっぴらだ」
「……じゃあ雄二……生きて、いたい……?」
「おおっ!翔子は本当に可愛いな!見違えたぜっ!」
「……雄二は素直じゃない」
「お前な……。一応言っとくと、今のは脅迫って言うんだぞ……」
「……恋愛では手段を選んじゃいけないって、お義母さんが言ってた」
「おふくろの奴……」
「……あと、雄二には何をしても良いって和真から許しをもらっている」
「和真テメェ!なに俺の人権を勝手に売り渡してんだゴルァ!」
「胸ぐら掴むんじゃねぇよ、シワになるだろうが」
だいたいお前の人権なんざ既に有って無いようなものだったじゃねぇか。何も変わらねぇよ。
「さて、それじゃあお祭りに行きましょうか。こんなことをしていると間に合わなくなってしまうかもしれませんからね」
「……雄二もその辺で切り上げる」
「ぐっ……!……覚えとけよ、お前はいつか必ず地獄に叩き落としてやる」
「ハッ、やってみな」
むしろ俺がお前を墓場に落としてやらぁ……勿論人生のな!しかも学生の間中に!
「そうですね玲さん。間に合わなくなったら困りますもんね」
「急ぎましょ。ウチ、日本のお祭りってまだこれで二度目だから楽しみなのよね~」
「ボクもすっごく楽しみ。早く行こ」
にしてもコイツら、やけに急かすなオイ。まだ日が沈み始めたばっかだってのに……間違いなく何か企んでやがんな。
「なぁ優子、アイツら俺達に隠れて何しようとしてんだ?」
「ごめん、黙っていてって皆に懇願されたから今はまだ話せないの……。あっ、でも、代表とアンタは巻き込まないらしいだから安心して!」
「そうかい」
やっぱ何か企んでんのかアイツら。おおかた明久達が危惧した通りだろーな。まあ神輿の邪魔しねぇっつうならほっといても良いか。正直かったりぃし。
ブロロロロロロロ……キキィッ!
「よーテメーら、来てやったぞー(グデー)」
突然近くに俺達をのせてきたバスが急停車し、車内からおっちゃんのダラけきったような声が聴こえてきた。つか、運転荒っぽいなおっちゃん。
「あれ?バスで行くの姉さん?」
「はい。海よりは離れていますし、着替えも持って行きますのでバスの方がいいでしょう」
着替えだぁ?なんか引っ掛かるな……まあいいか、んなことより神輿だ神輿!
「優子!ソウスケ!準備はできてるよな!?」
「ええ!」
「無論だ!」
俺達三人は充分に闘志を滾らせつつ、意気揚々とバスに乗り込んだ。
「あ~!楽しかったな!」
「そうね、すっごく楽しかったわ。まさか飛び入り参加だとは思わなかったけど……」
「そこはまあ、俺の交渉力の見せ所よ」
「確かにお前の社交性は目を見張るものがあるな。……なあカズマ、将来“鳳”で働くつもりはないか?」
「んー……考えといてやる」
神輿を全力で担ぎ終えた後、屋台で買った焼きそばを食べつつ出店を回る。屋台での焼きそばは、なんかこう……普通の焼きそばと比べて格段に美味いよな。
「ところで優子、結局アイツら何企んでたんだ?そろそろ教えてくれねぇか?」
「薄々嫌な予感はしていたが、やはり懲りていなかったのか……」
「えっと……アレよ」
俺とソウスケは優子の指差した先に視線を向けると…………『納涼、ミス浴衣コンテスト!町一番の夏美人を見つけ出せ!』……という看板が。
「…………なあ優子、俺が考えうる限り最悪の仕打ちを明久達がされてると考えていいのか?」
「ええ……吉井君達を女装させて参加させようってのが翔子達の魂胆よ」
「一応町興しを兼ねた企画で、そんな企業スパイみたいなマネをさせているのか……?」
アイツら女子に弱いから上手いこと言いくるめられて参加させられてるだろうな。……やれやれ仕方ねぇな。
「優子、ソウスケ、男だってバレて騒ぎになったときのために様子を見に行こうぜ」
「秀吉がメイクをするらしいからバレないとはそうそう思うけど……確かにあの面子だと楽観視はできないね……」
「カズマ、地方新聞が余計なことを書かないよう情報操作の準備をしておこうか?」
「おー、頼むわ」
しっかしこいつ普段潔癖なくらい真面目なくせに、人のためなら平気で自分の手を汚すよな。
「うし、じゃあいくか」
「「了解」」
俺達三人は微妙に重い足取りでミスコン会場へと向かった。つーかよ、せっかく貴重な夏休みだってのに俺達何やってんだろうな……?
《それでは、いよいよ今年から始まりました新企画!“第一回・納涼ミスコンテスト”を開催致します!》
ノリノリのアナウンスが会場に響き渡る。俺達三人は観客席で明久達に訪れるであろう過酷な運命を見守っていた。しっかし随分大勢の観客が集まったなオイ。町興しを狙ってんだとしたら順調だな……今のところはだがな。それをぶち壊す危険性を秘めてんのが俺らのツレだっつうんだから笑えねぇな……。
《このコンテストは“浴衣の小畑”協賛による浴衣を題材としたミスコンテストでありまして、名前の通り浴衣の似合う美女を見つけようというものです!》
「む……“鳳”系列の会社がスポンサーなのか」
「そうなのか?」
「ああ。……ふむ、丁度良い。“鳳”の傘下に相応しい活動を行っているか視察しよう」
あーあ、スポンサーさんも運が無ぇな……。こいつは身内に半端なく厳しいから、目の前で粗雑な仕事しようもんなら良くて左遷、下手したら取り潰されるかもなぁ。
《審査方法は得点式で、予選は三名の審査員たちによる独断と偏見で、決勝は審査員プラス観客の皆様の投票によって行われます!》
今ごろアイツらは決勝に進んでしまったらどうしようか戦々恐々してるだろうな。地方新聞に乗ることはないって伝えてやりてぇが……。
《予選参加者はなんと五十九名、この中から決勝に進むことが出来るのはわずかに十名となります!》
「どこの馬の骨ともわからない連中の見せ物になる企画に59人も集まったのか……ハッ、ご苦労なこったな」
「そのうち4人は男だと考えるともう…な……」
「もはやミス(?)コンね……」
《では、最初の十名の方に入場していただきましょう!どうぞっ!》
出てきた三人の中には明久とムッツリーニと雄二が含まれていた。前者二人は無駄にクオリティーの高い女装であるが、雄二の女装は正直見るに耐えない。秀吉の技術を持ってしてもアイツのむさ苦しさには勝てなかったか……。
一番、二番の女性の自己アピールは適当に聞き流した。どこの誰かもわからない女子のアピールなんて聞いてもしょうがねぇしな。
《ありがとうございました。では、次は3番の方お願いします》
「お、明久の番だな」
「えっ……あれ吉井君なの!?」
「ふむ、言われてみれば面影はあるな」
秀吉の奴、予想通り全力を尽くしやがったな……可哀想に。まあアレならよっぽどしくじらない限りバレねぇと考えると明久にとっちゃありがてぇかもな。
『は、はいっ。吉井秋子です……(裏声)』
地声が出ないように極力声を抑える作戦か、明久にしちゃ悪くねぇ判断だな。
《特技なのはおありですか?》
『え、えっと、強いて挙げれば料理です……。パエリアとか、カルボナーラとか』
《お料理ですか。家庭的で素晴らしいですね~。では、ご家庭でも?》
『はい、一応毎日……』
少し前まで水と塩だけで生活していたような男が、随分家庭的になったもんだ。そういう意味では名前欄にアレクサンドロス大王と記入して良かったのかもしれねぇな。
《毎日ですか!今時の若いお嬢さんにしてはとても珍しいですね。これはポイントが高そうです!それでは更に突っ込んで……彼氏さんはいらっしゃいますか?》
いるわけねぇだろ。
『い、いませんっ!今まで一度も……』
「やれやれ、今の判断は悪手だな」
「吉井の奴、自分が今女装していることを完全に失念しているな」
「あれじゃ『私は今フリーです』って宣言してるようなものね……」
《おおーっ!これは男性陣にはとても嬉しいお話です!どうですか、協賛かつ審査員の小畑さん》
《携帯番号を教えてくれたらオジサンがあとでお小遣いをあげよう》
あ、ソウスケの額に青筋が。
《あなたがスポンサーでなければ殴り倒していたところですが、そうもいかないので質問を変えさせて頂きます。吉井秋子さん、今回はミス浴衣コンテストということですが、今日の浴衣を着る上で気をつけたポイントなどは?》
《その……あまり、か、身体の線が、出ないようにと……》
そりゃ気をつけねぇと骨格でバレちゃうからな。
《先ほどから真っ赤になって俯いていることからもわかるように、吉井秋子さんはかなりの恥ずかしがり屋のようですね。浴衣を提供された小畑さんは、吉井さんの着こなしについて何か質問はありますか?》
《下着をつけているかどうかをお聞かせしたい》
あーあ、ソウスケがあのオッサンを殺人光線でも出てきそうな目で睨めつけてら。
《一周回って心地よくなってしまいそうなほどゲスな質問をありがとうございます。気のせいかわたくし、先ほどから冷や汗が止まりません》
今のソウスケの様子を伝えたら、冷や汗が止まらなくなるのはあのオッサンだろうな。
『し、下着なんてつけてませんっ!』
「明久はもう駄目かもな」
「おそらくは女性物の下着など穿いていないと言いたかったのだろうが……」
「絶対に誤解されるわね……」
『『『うぉおおおーっ!!』』』
《よ、吉井さん!?こんなセクハラな質問に答えなくても大丈夫ですよ!?男性客の皆様、ウェーブはおやめ下さい!ここはそういう会場ではございません!》
《決めたよ。彼女は決勝に進ませない。衆愚に晒すにはあまりに惜しい人材だ》
《はい皆様空耳ですよー。スポンサーがお客様を衆愚などと呼ぼうはずがございませんからねー。とにかく、吉井秋子さん。色々ありがとうございました。そして、本当にすいませんでした……》
何とか決勝進出は免れたか……アイツ、本当に悪運が強ぇな。そしてあのオッサンはもう駄目だな、頭とか……将来とか。
明久の番が終わり次の女性に映る。スポンサーの傍若無人な振る舞いに司会の人もそろそろ限界だろうな、今にも手が出そうだ。
《井村さん、ありがとうございました。今度は5番の土屋さん、自己紹介をどうぞっ》
『…………土屋香美です』
こいつもこいつでやたら完成度高ぇなオイ。このことが美紀に知られたら完全に標的にされるな、間違い無い。
《ちょっとハスキーな感じの声がたまりませんね。今日はお友達と海水浴ですか?》
『…………はい』
《その浴衣の着付け、大変お上手ですけどよく着たりさせるのですか?》
『…………いいえ。友人にやってもらいました』
《そのご友人は会場に来ていらっしゃいますか?》
『…………はい』
塩対応に徹して審査員の興味を削ぎ落とそうって魂胆か、この調子でいけば無難に予選落ちするだろうな。
《ええっと……では、浴衣の他にはどのような服がお好きですか?》
『…………チャイナドレスや着物は言うに及ばずレースクイーンにチアガール看護婦にキャビンアテンダント更にはファミレス店員に女性警官制服やレオタードとOLスーツにセーラー服やブレザーや巫女服に加えてメイド服やテニスウェアなども素晴らしいと何でもありません』
「遅ぇよ!?」
「墓穴を掘るとはまさにこのことだな……」
「おそらく本人が着たいわけじゃないんでしょうけど、あの格であんなことを暴露すれば……」
《こ、これは驚きました……。土屋さんはこのクールな態度と可憐な外見に加えて、コスプレが趣味のご様子。一部の方にはたまらないでしょうね》
『…………忘れて下さい……っ!(ブンブンブン)』
ムッツリーニ、その小動物チックな振る舞いは完全に逆効果だぜ……。
『『『こ・う・み!こ・う・み!』』』
『…………こ、困る……っ!(わたわた)』
会場からの香美コールに焦るムッツリーニはあたふたと取り乱していた。
……可哀想だけどもう駄目だなアイツ。
《これは凄い手応え!土屋さんの決勝進出は決まったも同然でしょう!土屋さん、ありがとうございました!》
『…………あ、あの……本当に困る……っ!』
なんとか取り消そうとするも、マイクは次の人間に渡ってしまった。残念だがもうムッツリーニの決勝進出は確定だろうな。
「同情するぜムッツリーニ……」
「さてと、次は坂本だが……」
「まあ、あのガタイなら十中八九大丈夫よね」
確かにそうなんだが……経験上、何かしらのオチがあるような気がしてならねぇな。
《はい、ありがとうございました。それでは7番。今度は中国からのご参加です。洪さん。どうぞっ!》
『洪雄麗デス。ヨロシクオ願イシマス』
「もう設定からして不公平極まりないなオイ」
「リアクションが難しい質問されても、言葉がわからない振りすればおれでオーケーだもんね……」
「司会の人も微妙な表情になっているな」
《これはまた……背の高い方ですね。どうですか、小畑さん》
『素晴らしいですね。個人的に私、背の高い方が大好きなんですよ』
……なるほど、こんなオチか。おーおー、さっきまで自信満々だった雄二が目に見えて困ってら。
《おおーっ!審査員の高評価が得られました!では小畑さん。洪さんに何か質問をどうぞっ》
《ハネムーンはカンボジアなんてどうですか?》
《はいわたくしツッコミませんよ!色々と言いたいことがあっても相手次第で全て堪えて飲み込むのがプロフェッショナルですよー》
どんだけ食い付くんだよあのオッサン。多分舞台裏で翔子がキレてんだろーな……お、ようやく雄二が息を吹き替えしやがった。
『こ、国籍違ウノデ困リマース』
《愛があれば大丈夫です。マイハニー》
『愛ナンテアリマセン』
《私には愛が生まれる自信がある》
『ワタシハアナタノコト嫌イデース』
《友達からでも構わない。一生大切にする》
『いい加減にしろ殺すぞおっさん』
《君になら殺されても構わない》
もう完全に素が出てんじゃねぇかアイツ!あのオッサンも何でおかしいと思わねぇんだよ!?
《はい、小畑さんも大喜びの洪雄麗さんでした。ではお次……》
《待て。まだ私の質問は終わってない。雄麗、ご両親への挨拶はいつ行けばがふっ!?》
お、いいパンチ。よくやった司会者。
《殴ってませんよー。蚊が飛んでいただけですよー。それよりそろそろ次の方に行きましょうね小畑さん》
《……仕方ないな》
《それでは気を取り直して……エントリーナンバー8番。渡会さんです!》
《渡会美紀です。宜しくお願いします》
《渡会さんは地元からの参加のようです。小畑さん、同じ地元民としてなにかお聞きしたいことは?》
《興味ないね》
「ほう…………(ゴゴゴゴゴゴゴ…)」
とうとう仕事放棄しやがったよ……。ソウスケからどす黒いオーラが滲み出てるし、もう完全に詰んだなあのオッサン。
《そう言わずに何か質問を。洪さんの時のようにやる気をみせて》
《仕方がない……。そうですね。それでは8番さん。貴女の目から見た洪雄麗さんの印象を教えて下さい》
《お前もう裏行って洪さんを口説いて来いよ!そして二度と戻ってくるな!』》
《なんだ貴様スポンサーに向かってその口の利き方は!》
《今更常識人面かコルァ!上等だ!司会なんてこの場で辞めてやらぁ!》
《か、顔はよしたまえ!雄麗のご両親に会う前なのだから!》
《殴った方がちったぁそのブサイク面もマトモになるってもんだ!》
《……雄二は、渡さない……》
「あ、翔子まで乱闘に参加してきたわね……」
「このミスコンもうこのままお開きだな」
「(プルプルプル……ピッ)父様、私です。“浴衣の小畑”を“鳳”の系列から排除を要請致します……はい……はい……ええ、偶然件の会社がスポンサーを勤めている企画に立ち会いまして……」
隣ではソウスケがスポンサー会社に事実上の死刑宣告を下してるし、このミスコンもう開かれないだろうな。結局、審査員席で始まった暴動は関係者が全員病院か留置所に入るという結末を迎えるまで続いた。アイツらが関わると何一つ無事に終わらねぇな。
【蒼介君の屋台巡り】
《輪投げ》
蒼介「……(ヒュッヒュッヒュッ…スポスポスポ)」
店主A「……根こそぎいかれた……」
《金魚すくい》
蒼介「……(パシャパシャパシャパシャ)」
店主B「……乱獲された……」
《射的》
蒼介「……(パパパパパン…ストトトトトン)」
店主C「……狩り尽くされた……」
和真「お前は屋台荒らしか……」
優子「間違いなく今後出禁になるわね……」