バカとテストとスポンサー~愉快な彼らのバカバカしくも素晴らしき日常~ 作:アスランLS
【明久視点】
「結局、恥をかいたのは僕らだけじゃないか……」
「…………心の傷を負った……」
「色々な意味で一生忘れられない夏になったな……」
祭の会場を後にしてペンションに戻った僕らは、その庭に設置されているコンロでバーベキューの準備をしながら黄昏ていた。
もう、お婿にいけない……。
「大変だったようだな、お前達……」
「あぁ、うん、同情するぜ……」
ミスコン参加を逃れた二人が憐れむような視線を向けてくる。こんなことなら僕達も彼ら神輿組について行けば…って、そんなんで逃げられる相手じゃなかったね……。
「でもミスコンの結果は少し気になるなぁ。あのまま続けてたら誰が優勝していたんだろうね?」
今はもう着替えちゃって普通の格好だけど、あの浴衣姿……かなりハイレベルだったと思う。あの中から優勝が出たとしても何の不思議もないくらいに。
「そうだな……。まぁ、妥当に秀吉じゃないのか?」
「雄二よ。男のワシが挙がる時点で妥当と言う言葉は縁遠いと思わんか?」
「…………全員甲乙つけがたい」
「だよねぇ。皆可愛かったし」
「……ノーコメントだ」
「ソウスケに同じく」
僕と雄二とムッツリーニの三人で女性陣の浴衣批評。本人達の傍でこういうのっていいのかな?
そう思って向こうのテーブルの方を窺うと、向こうは向こうで男性陣批評をしていた。なんだ、それならお互い様だよね。
『私はやっぱり明久君だと思います。可愛い姿とあの天然っぷりがたまりませんっ』
『土屋もかなり可愛かったけど、ウチもやっぱりアキかな~』
『……雄二はいまいちだった。……やっぱり男らしい方が似合ってる』
『ボクはムッツリーニ君の女装にキュンキュンきたけどね。あんなに似合うと思わなかったな~。優子は……和真君が出てないからノーコメントだよね?』
『勝手に決め付けないでよ……そうだけど』
『ボクの見立てでは和真君も女装したらかなりハイレベルになると思うんだけど、残念だな~』
『愛子、それ本人には言わない方が良いわよ。アタシ以前似たような話題を振ったら、無言で肘の押すとビリビリする所を思いっきりグーで殴られたから』
『うわ、想像しただけで痛そう……』
『ええ、死ぬほど痛かったわ……もう痛いの通り越して火傷するんじゃないかってぐらいに……』
『和真君のトラウマはかなり根深いようだねぇ……玲さんはどうでした?』
『私はアキくんの女装姿は見慣れていますから……。他のお二方が新鮮で良かったと思いますよ』
『え?明久君の女装を見慣れているって……』
『母がとにかく女の子が好きでしたからね。上が私と言うこともあって、小さな頃アキくんはよくお下がりのスカートなどを穿かされていましたよ。名前も最初は“明菜”の予定だったのですが、男でそれは何か違うだろうと祖父が言いまして、現在の……』
なんか僕の恥ずかしい過去が勝手に暴露されてるゥゥゥゥゥ!?
「ちょちょちょちょちょっとやめてよ姉さん!誤解だからね!?そういう格好させられてたって言っても、幼稚園に上がるより前の話で!」
テーブル傍に駆け寄り、姉さんの口を塞ごうと手を伸ばすも、姉さんはその手をひょいひょいと避けて会話を続けた。
「アキくん、嘘はいけませんよ。一昨日の晩にもスカートを穿かされていたじゃないですか、寝ている間に」
「それ初耳だよ!?アンタ僕が寝ている間になになってんの!?」
「ふふっ、慌てなくても大丈夫ですよアキくん。半分は嘘ですから」
「半分って何!?どこをどうしたら今の話の半分が嘘になるの!?」
「スカートは膝の上程度までしか穿かせてません」
「半分穿かせたってことじゃないかァァァ!?」
「業界用語では“半脱ぎ”というそうです」
さ、最悪だ……。そのうち自分の部屋に鍵をつけないと……!
「もう最悪だよ姉さん!今後は勝手に僕の部屋に入ったら怒るからね!」
「怒る、ですか。それは困りますね」
「困ってるのは僕の方だよ!」
「ほらほらアキくん。ギュッてしてあげるから落ち着いて下さい」
「ええい離せっ!そんなもんで落ち着くワケがはふぅ……」
「思いっきり落ち着いてるじゃない」
「はっ!?ち、違うんだ美波!これはその、小さな頃からこうやって姉さんに育てられたせいで、別に心から落ち着くってワケじゃはふぅ……」
「よしよし。良い子ですねアキくん」
ぐぅぅ……っ!つい条件反射で落ち着いてしまう……!
「別におかしなことでもないでしょ吉井君。和真だってギュッてしてあげたらおとなしくなるわよ?」
それはそれで意外な一面だけど違うんだよ木下さん!君達はカップル、僕達は姉弟、両者には天と地ほど違いがあるんだよ!
その後、僕達は皆でバーベキューを堪能した……と言いたいところなんだけど、鳳君がバーベキューのサイドメニューとして捌いた新鮮な魚介の生き造り(どうやら僕と雄二ががナンパをしているときに釣っていたらしい)があまりにも美味しくて、途中から全員バーベキューそっちのけになっていた。この人ホント何でもできるよね……。
「さてと……腹ごしらえも済んだことだし、締めのイベントと行きますかねぇ」
夕食後、和真がやけに大きなリュックを漁りながらそんなことを言い出した。
「和真、いきなりどうしたの?」
「オイオイ明久そりゃねぇぜ。せっかくの夏なんだからさ……花火しない手はねぇだろうがよ!」
と言いつつ和真はリュックから大量の花火を取り出した……って、多っ!?そのデカいリュックの中身、ほとんど花火だったの!?
「お前ら、ここにある花火は好きに使ってくれて良いぞ……(ピーン!)……せっかくだから派手な幕開けといこうじゃねぇか!」
いつもの不適な笑みを浮かべつつ、和真は大量のネズミ花火が入った箱を取り出しつつチャッカマンで全てに火を点ける……いやそれマズくない?
「ヒィイヤッッハァァァァァ!ネズミ花火フェスディバウゥゥゥ!」
そんな掛け声とともに皆の方にダッシュしつつ箱の中身を思いっきりぶちまけ……ってちょっとォォォ!?
シュルバババババババババババ…
『きゃああああああああ!?』
『ちょっと!?何すんのよ柊!?』
『うおぉ危ねぇっ!?何しやがんだテメェ!』
『…………こっちに投げつけてくるなっ……!』
『花火に!ネズミ花火に囲まれたのじゃあああ!?』
「くくっ……フフフフ……あーっはっはっはっはっは!ヒャーッハッハッハッハッハ!!!」
食後のゆったりした雰囲気は悪ノリした和真の暴走によって一気に紛争地域のように騒音の絶えない修羅場と化した。
「カズマ貴様ぁぁぁっ!(ビュン!!!)」
「うぉ、危なっ!?(ガシィッ!!!)」
鳳君がどこからか取り出した木刀で斬りかかるも和真は真剣白刃取りを成功させて膠着状態になる。うわっ、鳳君本気で怒ってる……。物凄い殺気……なるほど、確かに秀吉達の言う通り鉄人の数十倍怖いかも……。
「花火を人に投げつけるとは何事だ貴様!ええいそこに直れ、叩き斬ってやる!」
「叩き斬るとか平然と言うような奴にとやかく言われたかねぇよ!?」
「よし鳳、そのまま抑えてろ!その間に俺達が処刑してやる!」
「ワシらの怒り、思い知らせてやるのじゃ!」
「…………目には目を、花火には花火を……!」
二人が膠着状態に陥っている内に武器(調達)した雄二達が和真を取り囲む。この辺りの機転はFクラスでの日々の生活によって培われる
「ちょっと待てお前達!?この距離では私も巻き添えになるだろうが!?というか花火を人に向けるなと-」。
「「「くたばれぇぇぇえええええ!」」」
「お構いなしか貴様ら!?」
「うわぁあああ!やられるーっ!……なぁんてな!少し借りるぞソウスケェ!」
「むっ!?私の木刀を……!?」
「オラララララオラァ!(キキキキキン!!!)」
「「「なにィィィィィ!?」」」
和真は奪い取った木刀で自分に向かって放たれたネズミ花火を全て打ち落とした。技術の無駄遣い過ぎる!
「ほいっ、返すぜソウスケ。さてと、少し早いがメインディッシュの時間だコルァァァアアアアア!」
「おのれ!私の木刀を……って、なんだその馬鹿デカい花火は!?」
和真はどこからともなく樽状の見るからに危険そうな花火を取り出した。人の頭部くらいデカいけど、どこにしまっておいたのソレ!?
「“橘”印の特性花火だ!おっ、注意書が……なになに……『ほとばしるほど危険です。周囲1㎞何もない場所でのみご使用下さい』」
「ソレはもはや花火ではなく兵器ではないのか!?」
「ヒャーッハッハッハッハッハ関係無ぇ!あばよテメェらゴウトゥーヘル!(シュボッ!)」
「「「「「何してんだこのバカ!?」」」」」
僕、雄二、秀吉、ムッツリーニ、鳳君の五人は声を揃えて絶叫した。
「それ、退却!(シュタタタッ)」
「あ、和真テメェ!?元凶が率先して逃げるな!」
「言ってる場合じゃないよ雄二!僕達も早く逃げ-」
ドドドドドドドドドドン!!!!!
「「「「ギャァァァァァアアアアアアア!?!?!?」」」」
「水嶺流参の型…怒濤!!!」
キキキキキキキィン!!!
「くっ、仕留めきれなかったか……!」
四方八方にロケット花火が振り注いだ。鳳君が咄嗟に目にも止まらない剣撃でかなりの数を事前に打ち落としたものの、打ち漏らしたロケット花火によって阿鼻叫喚はさらに加速していった。
「まったくもう!アンタって子は!やっていいことと悪いことがあるでしょ!」
「……いや、ホントすんませんした……。これが締めだと思ってつい悪ノリし過ぎちゃいました……」←正座中
どうやら和真の用意した花火はバラエティーなどでよく使われる熱くない花火だったようで特に実害は無かった。その辺の配慮はいかにも和真らしいがいくらなんでも悪ノリし過ぎていたことに変わりはなく、現在僕達がそれぞれ残りの花火を満喫している中、和真はずっと木下さんにお説教されている。和真本人もやり過ぎた自覚があるのか、木下さんに怒られてシュンとしている。平常時の自信と闘志に満ち溢れた様子とはうって変わって小動物みたいなあの姿を見てると、木下さんが和真を可愛がっている理由がわかる気がする。
「ホントに反省してるんでしょうね!?(ギュゥウウ!)」
「痛たたたたたた!?してます!反省してますから!耳を引っ張らないで!」
「どうも反省の色が見えないわね(ギュゥウウウ!!)」
「痛い痛い痛い痛い痛い!もう許してぇぇぇぇぇ!」
「ダ・メ・で・す!しばらく我慢なさい!」
「うぅ……優子の意地悪……」
「アタシが何ですって?(ギュゥウウウウウ!!!)」
「痛ぁぁぁぁああああ!?
ご…ごめんなさぁぁあああい!」
うわ、涙目の和真なんて初めて見たかもしれない。
それにしても、あの傍若無人を地で行く和真がああも飼い慣らされるなんて、ほんの少し前までは想像すらしなかったよなぁ……。そう考えると木下さんって、もしかしたら物凄い人なのかも……。
そんなこんなで、僕達の笑いあり涙あり臨死体験ありの海水浴は幕を下ろした。
蒼介「…………まったく羽を伸ばせなかったな……」
蒼介君、ドンマイ……。
水嶺流……鳳家に代々伝わる門外不出の剣術流派。極限の集中状態・明鏡止水の境地を奥義とし、それに加えて水になぞらえた合計10の型が存在する。
参の型・怒濤……流れる水の如く流麗な動きから繰り出される荒れ狂う並のような高速剣技。初披露があんなギャグシーンになるとは実は作者すら想像していなかったりする。