バカとテストとスポンサー~愉快な彼らのバカバカしくも素晴らしき日常~ 作:アスランLS
【和真視点】
転校後の俺の生活はそこそこ快適なものであったが、早急に何とかしてぇ問題が一つだけある。
「む…ヒイラギ、お前の家はあっちだろう?私の目と鼻の先で寄り道とは良い度胸だな」
それがこの常に鉄面皮のスカした奴…俺のクラスメイトで、クラス委員長兼生徒会長のオオトリ・ソウスケをどうにかして俺に関わらせないようにすることだ。せっかく今日の授業も終わって平日だけどヤンキー狩りに行こうと思ってたのによ……空気読めやコラ!
「うるせぇ、テメェにゃ関係無ぇだろ」
「ある。私は生徒会長として生徒を正しい方向に導かねばならん、そしてそれに例外は存在せん」
う…うぜぇ……。こいつ絶対俺とは未来永劫わかり合えない人種だ、間違いねぇ。
「そしてそれ以前に私はお前のクラスの委員長だ。クラスメイトの素行不良を矯正するのも私の役目だ。……と言っても、お前以外の生徒は皆多少羽目を外すことが稀にあるものの、基本的に真面目だがな」
「俺が群を抜いて問題児だとでも言いてぇのか?」
悔しいがそれを否定することはできねぇな。
このオオトリって野郎は何でも物凄くでかい企業の御曹司らしく、幼い頃から帝王学を学んでいるせいかガキのくせに責任感の塊のような奴だ。あと俺の親父をヘッドハンティングしたのもこいつの父親らしく、母さん→親父→こいつの父→こいつの経緯で「俺のことをよろしく頼む」的な内容をお願いされたらしく、こいつ以外の生徒が露骨に俺を避ける中鬱陶しくてしょうがないほどやたら俺に絡んでくる。なんとか排除したいところだがこいつに悪意というものがまるで無いので暴力的な手段はどうしても取れないでいる。自分がどうしようもないクズだという自覚はあるが、善意で行動している奴に暴力を振るうほど落ちぶれてはいねぇつもりだ。……とはいえ鬱陶しいことに変わりはなく、俺の苛々はそれに比例してどんどん膨れ上がっていくわけで…………えぇい、まどろっこしい!
「つき合ってらんねぇぜ!」
「む、待て!どこへ行く!?」
いちいち相手するのも面倒なのでここは戦略的撤退。オオトリは追いかけてくるようだが無駄だ、温室育ちのお坊ちゃんに俺が捕まるかよ!
「……ハァ…ハァ……ゲホッ!……もう逃げられない……ようだな……ヒイラギ……!」
「ゼェ……ゼェ……うるせぇこの野郎……!」
急遽始まった町全体を舞台にした時間無制限鬼ごっこは両者スタミナ切れで俺の判定負けに終わった。
……なんなんだよこいつ!?ボンボンのクセにやたら速ぇしスタミナも半端ねぇじゃねぇか!?
いや、問題はそこじゃねぇ。確かに運動能力はかなりのモンだったが流石に俺には及ばねぇ。……にもかかわらず俺が振り切れなかったのは、どういうわけか俺の逃走経路を読まれてことごとく先回りされたからだ。挙げ句の果てには信号が切り替わるタイミングや人混みが集まる時間帯や場所など様々な要素を利用して、俺の逃走経路をこいつの思い通りにコントロールされたみてぇだ。
そうされたという根拠は、今俺達が息を整えている場所が…………俺の自宅のすぐ近くだから。俺が判定負けだと判断したのもこのことが原因だ。流石にこのヘトヘトな状態じゃあヤンキー狩り以前に、適当にぶらつくことすらキツいからな。しばらくしてお互いの息が整う。
「では私はこれで失礼する。お前も今から寄り道しようとは思わないだろうからな」
「この野郎……!」
く、屈辱だ……!まさか同年代の奴に土を付けられるとは今まで思ってもみなかった……!
帰宅してからヤンキー狩りに行こうにも、この消耗しきった体じゃ流石の俺と危ねぇだろうし……仕方ねえ、今日は諦めるか……。
だが覚えてやがれオオトリ、俺はこう見えて結構執念深いんし根に持つ方なんだ……この借りは必ず返す!!!
その後、放課後の無制限鬼ごっこは毎日続いた。最初らへんは負けが続いていたものの、身体能力自体は俺が上なので慣れてくると俺の勝ち星が増えていき、一ヶ月経った現在では完全に五分五分となった。どれだけフェイクを混ぜても逃走経路を読まれるので俺もアイツのスタミナを削るよう誘導することで、この鬼ごっこは俺とオオトリのどちらの体力が先に尽きるかのデスマッチと化した。アイツの体力が尽きて俺を見失えば俺の勝ち、アイツが俺を捕まえるか自宅まで誘導できればアイツの勝ちだ。
まぁ俺が勝とうが負けようが、ヤンキー狩りに赴くほどの体力は残らねぇんだがな。……それ自体は別に良い。そもそもヤンキー狩りの頻度は週一程度だし、この前はたまたま放課後にやろうと思っただけで基本的には休日にしていたからな。
……だがそれじゃあ俺の気は晴れねぇ!アイツを撒いた後にヤンキー狩りを成功させてこそ完全勝利ってもんだぜ!
……とはいえ、流石にそろそろ苛々とストレスが溜まってきたな。ちょうど今日は休日だし、一呼吸もかねて繰り出すとするかね。
「ぐぅっ……ば、バカな……!」!?
「全国にその名を轟かせる“天下無敵”の“
「“こいつ”……“何モン”だ……!?」!?
俺がチンピラ5人ちょいをブチのめしたことが余程信じられなかったのか、こいつらの舎弟(それかパシリ)らしき奴らがその五人を担いで蜘蛛の子を散らすように逃げていった。……どうでもいいけど喋り方だけはいっちょまえだなオイ。そんな昔のヤンキー漫画みてぇに振る舞ってんなら「“ひき肉”にしてやんよォ!」とか言いながら殴りかかってこいってんだ、景気よく返り討ちにしてやるからよー……だいたい俺達が、ってお前らはただ端っこで見物してただけだろうが。
…………しかし、何故だ?
血がべっとり付着した鉄パイプをその辺に放りながら、ふと自問する。
あの雑魚共曰く、こいつらはチンピラの中でもかなりのやり手だったらしい。実際今までのチンピラとは明らかに動きが違ったし、一発も喰らわなかったとはいえ何度か結構ヤバかった場面もあった。そんな奴等をぶっ壊したからには今までで一番充実感を得られるはずだ。
なのに何故、こうもスッキリしねぇんだ……?
そんな風に柄にもなく物思いに耽っていると、こちらに近づいていく足音が。さっきのパシリ共が仲間でも呼んできたのか?それにしては足音は一人分だし……ってマジかよ!?
「またお前かよ……」
「……随分と物騒な趣味だな、ヒイラギ」
足音の招待は目の上の瘤ランキング堂々の第一位であるオオトリ。せっかくの休日だってのになんでこいつと顔会わせなきゃならねぇんだよ……つーかこれマズくね?学校にこのことチクられたら退学まった無しじゃね?
……無駄だと思うが一応言い訳しとくか。
「言っておくが、先に手を出してきたのはこいつらだからな。例え俺から挑発し始めたとはいえこいつは正当防衛だ」
……我ながらなんて苦しい言い分だ。こんな主張、いかにもこの綺麗事大好きそうな優等生であるこいつにしてもまかり通るわけねぇよな-
「なるほど、それなら私から言うことは特に無いな」
…………はぁ?
「いやいやいやオオトリ君……俺としてはありがたいけどよ、生徒会長なのにそんなあっさり見逃して良いのかよ?」
「ありがたいのなら気にする必要ないだろう」
「いや気になるに決まってんだろ。『暴力は絶対いけないことだ』……みたいな綺麗事を至極真面目に思ってそうなエリート様がそんなドライな対応すりゃ気になってしょうがねぇよ」
俺の言葉を聞いたオオトリは心外だとでも言わんばかりに眉を潜める。
「…………お前の中での私のイメージがどうなのかは知らんが、綺麗事だけで世の中が回ると思っているほど私は平和ボケしていない」
「へぇ、意外だな……」
「全ての人が平等に幸せになれる世界など未来永劫有り得ない。……私の父も財力に物を言わせて商売敵を倒産に追い込んだりしているしな」
「知りたくなかったなその情報……」
というかこいつテンプレみてぇな聖人君子かと思いきや、俺が思ってた以上にリアリストなんだな……。
「それに、私は弱者には寛容だが愚か者には容赦しない。いかなる理由があろうとも、よってたかって子どもに暴力を振るおうとしたクズ共にかけてやる情けなどありはしない。……これからも思う存分潰すと良い、私は止めん」
そして俺が思ってたより遥かに黒いな!?こいつもしかして、俺の好きにやらせた方がチンピラを駆除できて都合が良いとか思ってんの!?涼しい顔してえげつないなオイ!
「…………。しかしヒイラギ、これだけは聞いておきたい。……何故こんなことをしているんだ?」
相も変わらず鉄面皮だが心なしか値踏みするような表情で、オオトリはそう問いかけてきた。
何故…って言われてもなぁ……
「大した理由なんざ無ぇよ。ストレス解消みたいなもんだ」
「ストレス?……すまない、クラスで孤立しかけていることがそこまでお前の精神に負担をかけてるとは知らなかっ-」
「違ぇよ!?」
ぼっち拗らせてる寂しい奴と勝手に判断されるのも癪なので、しょうがないから一から十まで説明してやった。
「……なるほど。つまりお前は、人を見ると壊したくなる破壊衝動に従っているというわけだな?」
「まぁそういうことだな」
俺がそう肯定すると、オオトリは目を瞑り数度頷くと……
パァンッ!
いきなり俺の横っ面を張り飛ばした。
「……は?」
俺が事前に察知できない程度の軽いビンタだが、完全に不意を突かれた俺は怒る以前に困惑する。俺が呆けた表情をしていると、オオトリは俺を非難するかのように睨めつけてきた。
「愚か者が……!壊したいから壊している?ふざけてるのか?貴様はそれでも人間か?まるで畜生そのものだな、今の貴様は」
「…………あ゛ぁ゛!?」
こいつが何を言いたいのか知らねぇが、とりあえず喧嘩売ってることだけは理解できた。脳が沸騰するほど苛立ちが膨れ上がるのを感じる。
「……オオトリよぉ、テメェ何か勘違いしてねぇか?事後処理が面倒だからチンピラ以外には極力手ぇ出さねぇよう心がけてはいるがな……ここまで露骨に喧嘩売られて見逃すほど、俺は優しくねぇぞ?」
殺気を込めて睨み返すもオオトリは動じず、懐から折り畳み式の木刀を取り出し剣先を俺に向けてきた。
「ならばかかってくるがいい。……貴様の腐りきった性根、私がここで叩き直してやる」
「…………上等だ!ブチのめしてやるから今のうちに辞世の句でも考えとけやゴルァッ!」
丁度良い……ようやくこいつは俺の敵になった。これで排除する大義名分ができたぜ。
次回、本編に先駆けて和真VS蒼介です。
果たしてどちらが勝つのでしょうか?