バカとテストとスポンサー~愉快な彼らのバカバカしくも素晴らしき日常~ 作:アスランLS
うん、振り返って見てもバカテス要素が欠片も無ぇ……。
【和真視点】
俺は生まれつき直感がずば抜けて鋭い。どういうわけか知らねぇが(というか断言できる理由などどれだけ探そうが、俺には多分見つけられないと思う)特に自分に降りかかる危険に対してはっきり察知できる。
だから、すぐにわかった。
この攻撃はどうあがいても避けられない、と。
先ほどまでとは比べ物にならないほどの剣速で繰り出される、上下左右からの無数の斬撃……それを察知した俺の判断は我ながら迅速だったと自画自賛したいくらいだ。避けることはこの際スッパリと諦め、この無数の斬撃から
ズガガガガガガガガガガガガガァァァアアアアアン!!!
「ぐ…おぉ……!!」
凄まじい衝撃に俺の肉体が悲鳴を上げ、全身の骨が軋むの感じた。ま、マズい……!こんなもん急所を避けたところで耐え切れるもんじゃねぇ…………ここまでか!?
流石の俺も敗北を覚悟したそのとき……
ブチブチブチブチブチィッッ!!!
何かが千切れるような嫌な音とともに、俺を襲っていた斬撃がピタリと止んだ。
い、いったいどうなってやがる……!?
慌てて周囲の状況を確認しようとしたが、耐え難い激痛のせいか瞼を開けることすらままならない……いや、それどころか意識が朦朧としてきやがった……。
ヤベェもう限か-
ビリィィィイイイイイッ!!!!!
「~~~~~ッッッ!!!」
気絶する寸前の寸前、俺は咄嗟に手の生爪を剥がして無理矢理にでも意識を覚醒させた。因果応報の激痛が俺に襲いかかるが関係無ぇっ!どうしてもぶっ倒れるわけにはいかなかったからな……!
意識を取り戻したことで周囲を確認すると、俺の目の前でオオトリが倒れ伏していた。……いや、どうしてそうなった?
「ぐぅっ…!……私の…敗け…か……!」
どうやら意識はあったのかそれとも俺の絶叫で覚醒したのか、突然オオトリが敗北を認めた。
いや、だから……どうしてそうなった!?
「なんでお前倒れてんだよ……?わけがわからな過ぎて勝ち誇れねぇよ……」
「なに、このザマは単なる自滅だ…。水嶺流玖の型“百川帰海”……この技は人が自衛のため……無意識にかけている筋肉のリミッターを外すことで……桁違いの速度の斬撃で敵を覆う必中の剣……だが、この技は今の未熟な私では……到底使いこなせる代物ではない……それでも使ってしまった結果は、これだ……この…無様な姿だ……………」
ねるほど、合点がいったぜ……さっきの何かが千切れるような音はつまり、こいつの全身の筋肉が断裂する音だったってことか。
……わからねぇ。何故こいつはここまでする?いったい何がこいつをここまで駆り立てたんだよ……?
そう問いかけようとして……オオトリが既に意識を失っていることに気付いた。流石に限界だったようだな…。何はともあれ終わったか……いろんな意味で。大団円とは口が裂けても言えねぇ、こんな怪我どう取り繕っても誤魔化せるわけねぇよ。はぁ、母さんショック受けるだろうな……。
「それもこれも全部こいつのせいだこの野郎!…腹いせにここに放置して帰ろうかなこいつ……」
………まぁでもこいつは親父の上司の息子で、ついでにクラスメイトだ。こんな治安の悪そうな路地裏に放置するのは流石に目覚めが悪いよな……と、仕方がないから連れて帰ろうとしたその瞬間、
ゾクゥッッ!!!
「っ…!?……こいつは……!」
俺の直感が身に降りかかる脅威を察知した。慌てて周囲を見回しても該当しそうなものは何もなかったが、耳をすましてみるとこちらに向かってくる足音が複数…。原因はこれか……だが誰だ!?確かにここはヤンキーが溜まり場にしそうなトコだか、いくら不良でも怪我したガキに襲いかかるなんてマネは……っ。
ああ、成る程な……
「さっき俺がブチのめした閏高とやらが、援軍を連れてお礼参りに来たってわけか。……なんつうか、清々しいほど器が小っちぇな」
いくらボコられたとは言え、小学生のガキ一人へのリベンジに複数でかかるかね?格好悪ぃ……。
まあそれはともかく、ここはさっさとズラかるか。尻尾巻いて逃げるみてぇで正直いい気はしねぇが、こんなボロボロな状態じゃあな……背に腹は帰られねぇ。
…………あ。
アイツらはこいつが俺のクラスメイトだと知らないだろうし、もしかしたらスルーしてくれる……わけねぇよな。俺のいた場所に同年代らしきガキが転がってたら、俺がどこ行ったか問いただすに決まってる。……そしてこいつは頑として口を割らねぇんだろうなぁ、何となくわかるぜ。そうなったらこいつはおそらくあのクズどもに……
…………………………………。
「……ってオイオイ!なに考えてんだ俺……可哀想だけど見捨てるしかねぇんだよ…」
人一人担いで逃げ切れるわけねぇし、だいたい俺が逃げなきゃならねぇのはコイツのせいなんだ。こいつがどこでどうなろうと自業自得で、俺には何の関係無いだろう?
そもそも俺は誰だ?
先ほどとは別の考えが頭をよぎったことで、俺の足はその場から一歩も動かなかった。その考えはさっきの偽善極まりないものとは違って………実に俺らしいものであった。
「…………あーあ、運が良いなオオトリ。
結果的に、俺はお前を守るために死線を潜ることになっちまったぜまったくよぉ……」
俺の愚痴が言い終わるや否や、閏高のチンピラ軍団が姿を現した。ひぃふぅみぃ……8人か……ほんとどうしようもねぇなコイツら。
「オウそこの“ガキ”……“テメー”がうちの“
リーダーらしき奴が俺に確信を持った目で訊ねてきた。わかってんならいちいち確認すんなよ面倒臭ぇ……。
「……だったらどうした?」
「俺達“
どこまでもテンプレだなこいつら……。
……仕方ねぇ、腹括くるか。
覚悟を決めた俺はオオトリを庇うように立ち塞がり、ふらふらの体に鞭打ち構えを作る。
「…………上等じゃねぇか、かかってこいよ三下共」
「そんな“ザマ”で“何”ができる!そうだな……“ツヨシ”!“殺っ”ちまえ!」!?
「オウ!」
ボス猿の言葉をきっかけに、ツヨシとやらが金属バットで殴りかかってきた。その様子を見て俺は確信する。
……こりゃダメだ。さっきブチのめした奴レベルならワンチャンあったが……このツヨシとやらはレベルが違う。万全時でも手こずりそうなほど強ぇ。ましてや今の満身創痍な状態じゃあどうしようもねぇな……。
俺が諦めたことがわかったのか、ツヨシとやらも奥にいる残りのチンピラ共も俺に嘲るような笑みを向けてきた。
……ムカつくなぁ。
年下のガキに大人数でリベンジしようとしてるってだけでも小物なのに、その上武器まで持ち出すような救いようの無いゲスヤロー共のくせに図に乗りやがって……!…………俺は、俺はこんなクズ共に蹂躙されて終わるのか?
やっぱ、それは嫌だなぁ……
ああ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ!!!!!
「負けてたまるかぁぁあああ!!!
テメェらの心臓を喰い破ってでも!俺は!勝ぁぁぁああああぁぁあつっっっ!!!!!」ゴォォォオオオオオッ!!!
「っ!?…な、何を“ほざいて”やがる…!“往生際”がワリーんだよこの“ガキ”!」!?
ツヨシは俺の突然の豹変に一瞬面食らったものの、すぐに持ち直して金属バットを俺に降り下ろした。
俺はそれを避けようともせず…
ガシィィッ!!
素手で掴んで受け止めた。
「なっ…!?」!?
再び面食らった隙に強引にバッドを奪い、そのままツヨシに殴りかかる。
「く、くそ……!」!?
所詮ガキの攻撃、ガードに専念すれば受け止められる。……そう判断したのか、ツヨシは両手を交差させて守りに入る。
普段なら直感で隙を見つけ出して叩き込んでいるところだが……あいにく、今の俺にそんなまどろっこしいもんは必要無ぇんだよ!!
ドガァァアアアン!!!
「ぐぼぁぁっ!?」!?
俺はその全身全霊のガードを容易く粉砕し、ツヨシは壁に叩きつけられて意識を失った。他のチンピラ共がまたテンプレ臭いことをほざいているがもう興味無ぇ。
それより……なんだこれは?体全体から力が溢れ出てきやがる。痛みも感じねぇが、それはアドレナリンの過剰分泌で説明がつく。だがこの沸き上がるエネルギーはなんだ。この理解不能の全能感はなんなんだ?……どうでもいいか。考えても答えは出ねぇし、そんな場合じゃなかったな。ただ一つはっきりしていることは…………今の俺に敗北は無ぇ!絶対にだ!
「ははは…フハ、ハハハハハ…!……アーッハッハッハッハッハ!!」ゴォォォオオオオオッ!!!
「何“笑っ”てやがる“テメー”!?あまり“いい気”になるなよ!」!?
「“ツヨシ”の“仇”……“討たせ”てもらうゼ!」!?
チンピラ共が臨戦体勢に入ったので、俺も金属バットを持って奴らに接近……すると見せかけて手に持ったバットをその辺に投げ捨てる。
「!?」
「!?」
「!?」
突然得物を捨てた俺にアイツらが何やら面食らってるみてぇだが、今の俺にこんなチンケな武器はふさわしくねぇ。そうだな……おっ♪あんな所に『車両禁止』の道路標識があるじゃねぇか!
あれにしよう。
呆然とするチンピラ達を捨て置いて俺はその標識の根本を掴み、
そのままアスファルトから強引に引っこ抜いた。
「はぁっ!?」!?
「う…“嘘”だろ……?」!?
「“ドコ”にあんなちかるぎゃぶっ!?」!?
「け…“ケンジ”ィィイイイ!?」!?
何やらボーっとしてたので、とりあえずケンジとやらが射程圏に入るまで接近し、手に入れた武器(道路標識)でぶん殴った。うん、使い心地もバッチリだ。
「な…っ!?こ、“こいつ”……!」!?
「は、“速すぎ”る……!」!?
「違う違う、違うんだよ……テメェらが遅すぎるんだよこのダボが!」ゴォォォオオオオオッ!!!
ドゴシャャァァアアア!!
「ぐげぇえええ!」!?
「がはぁぁぁ…っ!」!?
未だに動揺の抜けきっていねぇカス二人を容赦なく始末する。さて、そろそろこいつらも気を引き締め直したかな?
「び、“ビビって”んじゃねぇ!“囲ん”で“フクロ”にしちまうぞ!」
リーダーらしき男の掛け声で、残りのチンピラ達が俺を取り囲む。やれやれ、まだ格の違いがわかんねぇのかこの低能共は……。
「テメーら、生きて帰れると思うなよ?……まとめて血祭りに上げてやらぁぁあああ!!」ゴォォォオオオオオッ!!!
「…………なぜだ?」
「…あぁ?」
カス共を一人残らず始末し終え(別に殺したわけじゃねぇ。アイツらは生きてる……かろうじて)、オオトリを背負った状態で帰宅していると、突然オオトリが話しかけてきた。起きたんならさっさと降り…そういや全身肉離れだったなコイツ…仕方ねぇ、我慢して聞いてやるか……。
「なぜお前は最初、私を庇おうとしたのだ?初めから勝算があったわけじゃなかったのだろう?」
「……ハァッ!?てめ、意識あったったのかよ!?」
「半分ほどな。かろうじて意識はあったが、口が聞ける状態ではなかった」
マジかよ……!?ってことは何だ、さっきのハイな状態の言動も全部聴かれてたってことかよ……うわヤベ、思い出すだけで心にクる……。
「それで、どうなんだ?お前は『人助けなんて自分には似合わない。今までさんざんぶっ壊しておいて偽善にもほどがある』……などと思っているクチだろう?」
いちいち見透かしてくんじゃねぇよ。まあそれはともかく、こいつを助けた理由、ねぇ……
「もったいないから……だな」
「?…どういうことだ?」
「俺をここまで追い詰めたような奴が、あんな三下共に潰されて終わるなんざ……割に合わねぇだろ?」
オオトリは一瞬ポカンとしてから、どういうわけか面白そうにクスクスと笑いやがった。
「……オイ、何がおかしいんだコラ」
「それで自分が潰れては本末転倒だろう?」
ぐ……痛いとこついてきやがって……。
「まあ、面白いのはそれだけじゃないのだがな」
「……今度は何だよ?」
「ヒイラギ、何故私が分不相応な奥義まで持ち出してお前に勝とうとしたか疑問に思わなかったか?」
……そういやそうだったな、というかそれ以前になんで急に喧嘩売ってきたのかすらわからねぇんだけど……。
「それはな、単純に度しがたかったからだ。人には欲望を制するための理性がある。イライラするからぶっ壊したいなどと本能に身を任せて暴れまわるなど、私にとって到底見過ごすわけにはいかない」
「へーへー、なるほど。それはまた優等生様らしい言い分だな」
それで俺のこと獣だ何だと抜かしてたのかこいつ。
「……とまあ、ここまでが建前だ」
「あ?建前?」
「私もお前と同じでもったいないと思ったからさ。……お前は同年代では私に初めて土をつけた奴だ。そんな奴が弱い者苛めで満足しているなど……はっきりいって割に合わんだろう?」
……なんだよそりゃ。
「…………ふ、ふふ…」
「…………はっ、ははは…」
「「あははははは!あーっはっはっはっはっは!!!」」
その後、満身創痍で俺達はそれぞれ母親にこってり絞らながら入院生活に入った。親に頭が上がらないのはお互い様だな。結構ヤバい痕跡をそこら中にほったらかしにしたままだったが、“鳳”から圧力をかけて一切合切揉み消してくれたお陰で学校からの処分は無かった。権力万歳。
今回の件で俺達は“カズマ”、“ソウスケ”と呼び合うほど仲が良くなった。そのお陰か、徐々に他のクラスメイトとも打ち解けるようになった。
で、肝心の俺の破壊衝動はというと……ソウスケの提案でスポーツに打ち込むことで理性で抑えつけた分の鬱憤を晴らすことになった。以前までは俺についてこれる奴がいないせいでむしろ逆効果だったが、今は俺と互角に渡り合えるソウスケがいる。これでは退屈する暇も無さそうだぜ。
あと、不良どもをボコる際にその場の全てを破壊尽くしたせいなのか、ボコった奴らが相当名の知れた奴等だったからか……地域での俺の異名が“破壊神”になった。ヤンキー狩りはやめてしまったので、しばらくこの噂は一人歩きしてどんどん尾ひれがついていくことだろう。
……解せぬ。
以上で、和真君と蒼介君の過去話は終了です。
お互いもっともらしい理屈を無理矢理あてがっていますが、要はお互い「友達になりたい」だけです。微笑ましいですね。
あと、和真くんが本編でも名前だけでてきた“気炎万丈の境地”の片鱗を見せましたね。詳しい説明はいずれ本編でします。
【余談】
チーム“餓斗燐愚”主力メンバーの皆さん……一方的にボコられたため弱そうにしか見えないが、実のところただ相手が悪かっただけ。残虐性は勿論のこと一人一人の喧嘩の強さは『悪鬼羅刹』時代の雄二に匹敵し、それぞれの名前を聞くだけでヤンキーの大半は震え上がるほど。天下の不良高校『閏年高校』最強チームの名は伊達ではない。
しかしながら、多少狂暴な猫が八匹いたところで獰猛な虎には勝てないのである。