バカとテストとスポンサー~愉快な彼らのバカバカしくも素晴らしき日常~ 作:アスランLS
飛鳥「……どうしたの和真は?両手で顔を覆い隠したまま動かないんだけど」
蒼介「それは、だな……軽いネタバレになるが今回の話、木下がやたらと格好良くてな」
飛鳥「惚れ直した…というよりも、より好きになってしまって赤面していると」
蒼介「まあそういうことだ」
飛鳥「反応が完全にヒロインポジションね……」
蒼介「こと恋愛に関しては箱入り娘だからな」
飛鳥(和真も貴方だけには言われたくないでしょうけどね……)
【優子視点】
以前までは柊君とは口喧嘩が絶えなかったが、
それにアイツが清廉潔白な人物というわけでは断じてない。この2ヶ月でアタシは、というか少なくともクラスの皆は確信したことは、柊和真は真性のサディストだ。
例えば今も……
「さて、1-A昼休み裁判の開廷だ。検察官・大門徹、被告人・玉野美紀の罪状を延べろ」
「きそじょー。被告人・玉野美紀は2時限目の体育の時間、僕及び和真の制服をゴスロリにすり替えようとした容疑がかかっている。……被告人、何か弁明は?」
「わ、私は悪くないよ!可愛い男の子には可愛い服装をする義務が-」
「判決、有罪」
「そんなぁっ!?」
教室で中世の魔女裁判みたいなことをしている最中だ。……まあこれは美紀が悪いわね。柊君も大門君も可愛らしい顔立ちがコンプレックスらしいのに、美紀はこれまでもあの手この手で女装させようとしているのだ。それも一度や二度じゃなく、今月に入ってもう10回を越えている。そろそろ本格的に痛い目見る頃だろうとは薄々思っていた。
「被告人を『恐怖!ゴムパッチンの刑』に処す。
徹、準備開始」
「オーケー」
「え、何を-むぐっ…」
柊君が合図をするや否や、大門君が美紀を後ろから羽交い締めして、何故そんな物を所持しているのか聞きたくなる、やたらとデカいゴムパッチンを噛ませてから上顎と下顎を押さえ込んだ。
「~~~ッ!!!(ジタバタジタバタ)」
「ククク、もう遅ぇよ。自分の犯した罪の愚かさを悔やみながら、心の中で死のカウントダウンでも刻むんだな」
悪役みたいな台詞とともに柊君がゴムパッチンを持ちながら美紀と距離をとっていき、ゴムがギチギチに伸びきった所で歩みを止めた。
「さてと……すぐ離すのも味気無ぇし、もう少し勿体ぶるか」
「~~~ッ!!!(ジタバタジタバタ)」
「3……2……1……」
「!!!」←目を瞑る
「0バチィーーン!」
「!?!?!?」
「なぁあんちゃって♪」
「~~~ッ!!!」
天使のようなあどけない笑みを浮かべながら考えうる限り最も残酷な所業を実行する柊君。う、うわぁえげつな……美紀もう恐怖で涙目になってるし。
「お、おい和真…いくらなんでもやりすぎだぞ……」
血の通った人間とは思えない悪魔の所業を見かねたのか、平賀君が柊君を諌めようと…
「じゃあよ源二、お前が今日1日アレ(ゴスロリ)着て過ごせよ?もしそうだとしたらこいつは見逃して-」
「すまない玉野さん、僕はここまでのようだ……」
「っ!?(ガーン!!)」
…したがアッサリ引き下がってしまう。ここまでって平賀君……もう少し粘ってから言いなさいよそのセリフは。
流石に見てられないので助け船を出してあげよう。……といってもあの柊君が人の指図を素直に聞くわけないので、ここは…
「柊君、あんまり遊んでると昼休み終わっちゃうよ?購買に行かなくて良いの?」
デメリットを提示して自主的に止めさせるのが正解ね。
「あ、そういやまだ昼飯買ってなかったな。…仕方ねぇ、この辺で勘弁してやるか」
そう言って柊君はおもむろに手を離した。
バチィィィィィイイイイイイインッ!!!
「痛ぁぁぁああああぁぁあいっ!?」
ゴムは凄い勢いで縮んでいき、そのまま美紀の顔面に盛大にぶち当たる。大門君から解放された美紀はよほど痛かったのか床をのたうち回って悶絶する。ごめん美紀…そっちを止めさせるのはアタシじゃ力不足だったみたい……。
……とまあこんな感じで、何らかのきっかけでSスイッチが入った柊君は本当に情け容赦が無く、その悪意を向けられた人は今の美紀みたいにロクな目に遭わない。
なんというか、良くも悪くも感性がお子さまなのだ。無邪気で、天真爛漫で、だからこそあれほど残酷な所業でも平然と実行できる。しかし、だからと言って良し悪しの区別や程度のさじ加減がつかないわけではないようだ。わざわざゴムパッチンのような気の抜けるアイテムを使うのも、周囲には笑いを提供しつつ標的にダメージを与えるためだろう。女子生徒を張り倒すのとゴムパッチン、被害は同じでも周囲が感じるイメージには大分差があるだろうから。そういう意味では、柊君もアタシほどじゃないにしろ世間体は多少気にしているのだろう。……だったら授業中躊躇いもなく爆睡するのはやめなさいと小一時間説教してやりたいわね。
「なあ木下、今日暇か?」
「え?いきなりどうしたのよ?」
HRも滞りなく終了し帰り支度をするアタシに柊君が邱にそんなことを訪ねてきた。
「いや、今日は放課後野球でもしようと思ってたんだが思ってたより集まりが悪くてな……そこで年がら年中暇そうなお前に声をかけたわけだ」
「なるほど、つまり喧嘩売ってるわけね」
利き腕をへし折ってやろうと手を伸ばすもアッサリ避けられる。相変わらずムカつくくらい速いわね……
「ガッカリさせるようで悪いけど無理よ。今日はちょっと読みたい本があってね」
「あー、通販で買ってるって言う、お前の好きな男同士が-あ、やべ…」
…………ちょっと待て、イマコイツナンテイッタ?
「柊」
「(ビクッ…)な、なんだ木下?」
思わず呼び捨てで問いかけるアタシにやや気圧されたように柊君は少々後ずさる。アタシは逃がすまいと距離を詰めつつ、柊を笑顔で問い詰めにかかる。
「なんでアンタがアタシの趣味知ってるのよ?」
その後しばらく渋っていたが逃げ切れないと観念したのか、柊君はおそるおそる口を開く。
「や、あのな木下……先日色々あってお前の弟の秀吉と意気投合して仲良くなったんだがよ。軽いジャブとしてお前をからかうためのネタでも仕入れとこうかと軽い気持ちで聞いたらさ……そりゃもう、これからカブトムシを取りに行く子供のような輝く目でベラベラと話して-」
「な る ほ ど」
柊君がいつの間にか愚弟と仲良くなってることに関しては、こいつの社交性を考えると別に不思議じゃない。……しかしまさか、あいつアタシに隠れてそんなことをしていたとは……。常日頃のアタシのアイツへの扱いを鑑みると不満の一つや二つは仕方ないとは思っているが……アタシの、トップシークレットを、よりにもよってこいつにバラすなんてねぇ……さぁて、どうしてくれようかしら……?
殺意のオーラを辺りに撒き散らすアタシに、若干躊躇しつつも何故か覚悟を決めたような表情で柊君が諌めてきた。
「まぁアレだ木下、家限定とはいえ年頃の女子が下着姿でだらけるのは正直はしたないと俺は思-」
言葉を言い切る前に私は柊君の頬をひっぱたいていた。今までさんざん避けられたのに何故今回当てられたのかはわからないけど、多少すっきりしたから気にしないことにしよう。
「……いい加減機嫌直せよ木下」
「フンッ!」
頬に紅葉をつけた柊君が話しかけてくるが、アタシはそっぽを向いてそれを拒絶した。
今日は両親が仕事で不在のため料理は自分達でなんとかする必要がある。あの愚弟は料理ができないので必然的にアタシが作ることになるが、食材の買い置きなどはなかったからスーパーに寄って、ついでに切らしている日常品なども買い揃えておく。最終的にアタシ一人で家まで持ち帰るには億劫になるほどの量になったが、この頬に紅葉をつけた男に乙女の秘密を暴いた罰として持たせるので全く問題なし。時折通行人にクスクスと笑われているがフォローなんかしてあげない。むしろ良い気味である。
「いや、我ながらデリカシーに欠ける物言いだったとは思うけどよ、いくらなんでも引っ張り過ぎだろ。問答無用でシバき回した上にこんな雑用させて、まだ不満でもあるのかよ?」
「不満?あるわよあるに決まってるでしょ!誰にも知られたくなかった秘密が洗いざらい流出したのよ!?本当ならアンタの脳髄を引きずりだして無かったことにしてやりたいわよこの野郎!」
「お前ってホント優等生なのは外面だけで、一皮剥ければヤクザみてぇな奴だな」
柊君はやれやれと肩を竦めながら、バカを見るような目を剥けてくる。あぁムカつく!!こいつなんで的確に人を苛立たせるのがそんなに上手いのよ!?
「どうせアタシの下着姿を想像したりしてたんでしょこの変態!」
「ぶっ飛ばすぞクソアマ!」
柊君は顔を真っ赤にして目に見えて動揺する。そう言えばこの二ヶ月でわかったことがもう一つあった。こいつ……こう見えてすっっっごくウブだ。そういう方面への耐性がからっきしと言うか、箱入り娘かってくらい免疫がまるで無いのだ。クラスのバカ男子達が成人指定の本…要するにエロ本の鑑賞に柊君を誘ったところ、柊君が今と同じように顔を真っ赤にしてそそくさと立ち去ったときのクラス中の衝撃といったらもう……そういう反応は正直抱き締めたいほど可愛らしいと普段は思っているが、口喧嘩中の今はガッツリ利用させてもらおう。
「図星?ねぇ図星?やーいエロ和真~」
「よしわかった腕を差し出せ木下。肘のあの、押すとビリビリする部分を思い切りぶん殴ってやる」
「嫌に決まってるでしょバーカ!
ここまでおいで~♪(ダッ)」
「ハッ、笑わせてくれるぜ……俺から逃げられるとでも思ってんのかこのバカ女が!(ズダダダダダッ!!)」
「速っ!?」
どうやら挑発しながら逃走したのは悪手だったらしい。大荷物を抱えながらにもかかわらず陸上部顔負けの超スピードで追いかけてくる。逃げ切れないとわかってはいるものの立ち止まる勇気はなく、破れかぶれで路地裏に逃げ込み-
ドンッ
「痛っ!?」
「あぁ!?なんだぁ!?」
誰かにぶつかって転んでしまった。強く打ったお尻をさすりながら立ち上がって前を見ると、リーゼントに改造制服といかにも不良ですと言わんばかりの格好の男が、もの凄い形相でアタシを睨んでいた。
「おう姉ちゃんよぉ!どこに目をつけて歩いてんだコラァッ!」
「ご、ごめんなさい……」
相手は不良とはいえ100%アタシにある。だから素直に謝ったのだが、男は眉を吊り上げて余計苛ついた表情になる。
「ごめんで済むわけねぇだろ!?迷惑料として30万円払いな!」
「さ、30万!?ぶつかっただけでなんでそんな額…」
「あぁ!?文句でもあんのかテメェ!だったらこの場で痛い目にあわせてわからせる必要があるよなぁ……!」
ボキボキと腕を鳴らせながらにじり寄ってくる。ま、マズい……!
「ひっ…こ、来ないで……!」
「もう遅えよ。口答えなんかしたテメェのバカさ加減を恨むん-」
ズガァァァァァァアアァァァン!!!
「「っ!?」」
突然の轟音にアタシも男も思わず凍りつく。おそるおそる音のした方角に目をやると、何が起きたのか全てわかった。柊君が野球をするために持っていたであろう金属バットで近くの電柱を思い切り殴りつけたのだ。
そして柊君はアタシ達に近づき、不自然なほど満面の笑みを男に向けながら口を開いた。
「おいそこのテンプレヤンキー野郎。俺の親愛なるクラスメイトに乱暴しようとしてたように見えるが、見間違いか?」
「…………ハッ!な、なんだテメ-」
ズガァァァァァァアアァァァン!!!
「ひっ!?」
男の声は再び柊君のバットの轟音にかき消された。
「あ?何だって?声が小さ過ぎて聞こえんなぁ」
その後も男の声を金属バットをズガンズガン鳴らしてかき消しつつも催促を続ける。次第に男の声はバットで邪魔されなかったとしても聞き取れないのではないかというほど幽かになっていった。
「んだよ会話もできねぇのかよ、無能だなテメェは。無能なら…………ぶっ壊しても問題ねぇってことだよな?」
「え-」
次の瞬間、柊君は男の頬を掠めるようにしてバットを降り下ろした。男の頬はばっくり裂かれ、さっきまで以上の轟音が周囲に響き渡り、衝撃をまともに受けたアスファルトには小さくない皹が入り、そして金属製であるはずのバットは…………無惨にもへし折れてしまった。
「ちっ、外れちまったせいでお釈迦になっちまったか。バットもただじゃねぇってのに……仕方ねぇ、代償はこのバカの肉体で払わせるとするか」
そう言って柊君は壊れたような笑みとともに、折れたバットを男に向けた。
「ひ…ひぃぃ……うわぁぁぁあああああぁああぁぁああああああ!!!」
男は恥も外聞もかなぐり捨てて逃げ出した。みっともないと言えばみっともないが、この光景の一部始終を目撃した者で彼を笑える人はほとんどいないだろう。先ほど柊君は外れたと言っていたが……厳密には“外した”が正解だろう。でなければ、あんな薄皮一枚だけ剥がれるようなことにはなっていない。もし彼があの男に直撃させるつもりだったら………その考えに至ったからこそ、あの男は一目散に逃亡したのだ。
「やれやれ、やっぱり外見と態度だけ取り繕った半端モンだったか……さてと、」
「っ!…………え?」
ガラクタと化した野球道具を懐にしまいつつ柊君はこちらに振り向いた。さっきまでの言動がアレなので思わず強ばってしまうが、柊君はさきほどのような壊れた笑みを浮かべてはいなかった。笑みは笑みでもあれは……必死に隠していたものが露見してしまったがために何かを諦めたような、それでいて寂しげなものだ。
「まぁ見ての通り、俺は色んな意味でマトモじゃねぇ。正直お前がこれからも周りに優等生として見られてぇなら関わらない方が良い……というか、関わっちゃダメなタイプの人間だ。ここらでバッサリ縁を切っておくべきだと思うぜ?お前が望むんなら俺も関わらねぇようにするから安心しな」
「………………」
柊君の言い分に色々と思うことはあるが、今アタシの胸の内にある率直な感想はというと……
なんかイラっとした。
イラっとしたので即行動。アタシは柊君に近づいて両の頬を思いっきり引っ張ってやった。アタシの行動が予想外過ぎたのか柊君はしばらくされるがままの状態で硬直した後、おそるおそる口を開く。
「や、あのさ木下さんよ……何やってんのお前?」
「くだらないこと言い出した罰よ。まったく……アンタの中のアタシはどれだけ救いがたい女なのよ?」
何なのよあのこちらの顔色を伺うような、どことなく寂しがっているような、心の底では拒絶されることを恐れているのが見え見えの表情は?さっきアンタが言ったように優等生としてのアタシはあくまで外面だけの仮面でしかない。でもね……あんな顔をするような子を見捨てられるほど、アタシは血も涙もない人間じゃないのよ!
「……逃げないからね」
「……は?」
「アタシは絶対、アンタから逃げたりしない!アンタが腹の中で何を抱えていようが知ったことじゃ無いわよ!……決めた!アタシはアンタの隣に立って、そのねじ曲がった性根を叩き直してあげる!」
「………拒否権は?」
「無いわ。これは決定事項よ」
「……く、ふふふふ、あーはっはっはっは!」
柊君は突然狂ったように笑いだす。しかし表情は今まで見たことが無いほど穏やかであったため、気が触れたわけではないらしい。
「何を言い出すかと思えば、堂々と粘着宣言、しかも勝手に人をひねくれ者扱いした挙げ句に矯正宣言かよ、俺もとんでもねぇ奴に目をつけられちまったもんだ。……やれやれ、お前も大概マトモじゃねぇな」
「な、なんですってぇっ!?」
「…………だが、気に入った」
そう言って柊君はアタシに不敵な笑みを向けてくる。
「だが良いのかよ木下?俺の隣に立つってことは、俺に好き放題振り回されるとイコールだぜ?俺自重とか遠慮とかとは無縁の人間だぜ?お前のこと好き放題引きずり回すぜ?休日もお構い無しだし、よほどのことが無い限りお前の都合も一切考慮しないぜ?それに俺、両手両足の指じゃ数えきれないくらい女子と付き合ったけど俺の無茶苦茶さに耐えきれず皆すぐリタイアしていったぐらいだぜ?」
「上等じゃない!どこからでもかかって来なさい!こう見えてアタシ、重度の負けず嫌いなんだから!………だからアタシのことは名前で呼びなさい」
「あん?なんでだよ?」
「負けず嫌いって言ったでしょ?秀吉が名前呼びなのにアタシか苗字呼びなのは納得いかないわ」
「理由それかよ!?……まぁ確かに、俺の隣に入ると宣言した奴を苗字呼びは違和感あるな。だったら俺も和真で良いぜ?」
「それじゃこれからよろしくね、和真!」
「こちらこそよろしくな、優子!」
蒼介「補足になるが、優子がビンタを当てられたのはカズマに避けるつもりがなかったからだ」
飛鳥「秀吉君に色々聞いたことがバレたのは完全に和真の過失。そのことで秀吉君が折檻されることに罪悪感があったのでしょうね」
蒼介「あのデリカシーに欠ける台詞もわざとだ。カズマは木下の怒りを自分に集中させて弟への怒りをうやむやにすることが狙いだったようだ」
飛鳥「……蒼介、和真は復帰できそうにないから締めに入りましょう」
蒼介「そうだな……こちらの投稿は次の『僕と土屋家と揺れない心』で一旦打ち止めだ。まだ書きたい話はあるが、次の話が終われば本編の更新になる。差し支えなければ、これからも読んでくれるとうれしい」
飛鳥「それではまた」