バカとテストとスポンサー~愉快な彼らのバカバカしくも素晴らしき日常~   作:アスランLS

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今回は未だかつてないほどのシリアス&ホラーです……特に後半は精神病を疑われかねないサイコっぷりなので、ホラー系が苦手な方は飛ばすことをお勧めします。


violet memory②

【紫苑視点】

 

 

 

ガチャッ!

 

「姉様!」

鳳系列の病院のベッドで暇を持て余していると突然ドアが勢いよく開かれ、酷く狼狽した顔の蒼介が病室に入ってきた。いやまあ実の姉が前ぶれなく入院したんだから、冷静でいられないのは無理はないけどね…

「病院では静かにしな蒼介。ましてや走るなんて言語道断だよ」

「う……ごめんなさい……」

至極真っ当な注意をされてシュンとしつつも、私の安否を確認できたからか落ち着きを取り戻す蒼介。

「やれやれ、なんだいそのお粥みたいな顔色は。これじゃどっちが病人かわかりゃしないよ」

「だって……だってぇ……

うわぁぁああぁあああん…!」

そして塞き止められていたものが決壊したかのように、蒼介は声をしゃくりあげて泣き出した。

「ちょっと倒れただけでオーバーだねアンタは……。しっかりしなよ男の子だろ?」

「エグッ…グスン……だって……もし姉様がいなくなったらと思うと-」

「勝手に私を殺すんじゃないよ!」

私はおもむろに蒼介の胸ぐらを掴んだ。そして蒼介の驚いた様子を確認しつつ、蒼介を己の元に引き寄せ抱え込む。

「余計な心配しなさんな。こんな泣き虫な弟を放ってあの世にいっちまうほど、私は薄情者なんかじゃないさ」

「姉様…………う…うう……」

「へ?……ちょ待っ-」

「うわぁぁああぁあああん!」

「だぁぁあああやっぱりかぁぁぁっ!?こんの泣き虫蒼介が、静かにしろって言ったでしょうが!だいたいこの至近距離で泣かれたら入院着がアンタの涙と鼻水でベトベトに……離れろォォォ!」

 

この病室が“鳳”関係者の中でも最上位専用の個室でなければ確実に厳重注意を喰らったであろうレベルの大騒ぎの末、どうにか宥め賺せて帰宅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく……あれじゃあお見舞いにきたのか嫌がらせにきたのかわかんないよ」

結局ベトベトになったので新しい入院着に着替えつつ、私は蒼介の軟弱っぷりを一人愚痴る。

 

コンコンッ

 

そんな中、突如病室のドアが控えめにノックされた。着替え中だったので少し待ってもらい、着替え終わってから入ってもいいと返事をする。病室のドアが開かれ、角縁眼鏡をかけた初老手前の医師が悲痛そうな顔で入ってきた。ここの最高責任者かつ私の担当医である薬江 彰(ヤクエ アキラ)先生だ。

「いったいどうしたのさ先生、そんな表情を患者に向けてちゃ病状を悪化させかねないよ」

「それはすまないね、次からは気を付けよう。……そんなことより、良かったのかい?」

「は?何がさ?」

「ついさっき弟さんとすれ違ったんだが、足取りがさほど重く無かったところを見るに、どうやらあの子にはまだ伝えてないんだろう?

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()を」

「…………まあね」

 

そう……謎の人物の襲撃で意識を失った私は、この病室のベッドの上で目を覚ました。父曰く、鳳本家の私と蒼介には私達がストレスを感じない距離で常に護衛がついており、普通なら不審な人物は私達に近づくことすらできないらしい。それを踏まえるとそのプロの護衛達や水嶺流剣術を修めている私が、あの至近距離まで誰にも感知すらできなかったあの男がいかに恐ろしいかわかる。まあそれはともかく私をこの病院に輸送する手続きをしたのはその護衛達だろう。みすみす私が襲われたことで決して軽くないペナルティを受ける、もしくは最悪暇を出されるであろう護衛達は哀れだが、私も人を哀れんでいる余裕などありはしない。先程胸ぐらを掴んだときに蒼介の表情を伺っていたのも、ちゃんとしっかり握れているか確かめるため。

蒼介を抱き締めたときも、まさに雲を掴むような虚無感を味わった。

 

「…………それで薬江先生、私の異常の原因はわかったのかい?」

「精密検査をした結果…………触覚の喪失に直接関係あるのかほまだわからないが、君の全身の至るところから悪性腫瘍のようなものが見つかった」

「っ………」

流石の私も言葉を失ってしまった。

悪性腫瘍……つまり癌。それも至るところから見つかったとなればどう甘く見積もってもステージⅣ、末期癌だ。

それが意味することは、私はもう……

己の死期を感じ取った私は、ふと薬江先生の言葉に引っ掛かりを覚える。

「悪性腫瘍……()()()()()()?なんだいそれ、断定はできないのかい?」

「ああ……他の細胞に比べてとてつもなく異常で有害なのは間違いないのだが、あの物質は明らかに人体から発生したものではない。……情けない話、何もかもが未知過ぎて私の医学ではどう対応していいのかわからないんだ」

 

さらに悪い知らせが続く。

鳳本家、及び次期“鳳財閥”トップ候補である私の担当医に抜擢されたほどの医者が、どう対処していいかわからないと匙を投げた。それはつまり私の体を蝕んでいる何かを取り除くには現代医学では、ほぼ手の打ちようが無いということを意味する。

「当然私達も手は尽くすつもりだが、気休めを言って下手に希望を持たせたくはないのではっきり言おう。

………君の余命は幾許も無い。幸か不幸か痛覚が無くなっているため感じとれないだろうが、今この瞬間も全身に散らばった異物は君の命をゆっくり……ゆっくりお蝕み続けていて、そう遠くない内に峠を迎えるだろう」

「………」

「そして異物は心臓にまで散布しており、手術で摘出することもできない。………よしんば奇跡が起きて治療することができたとしても、蝕まれた体はいくつもの障害を背負うことになるだろう。どちらにせよ君はもう……二度と剣を握れないことを受け入れる必要がある」

 

 

流石の私も目の前の厳しい現実を飲み込むことは容易ではなかった。外は私の心象に呼応するかのように、ポツポツと雨が降りだし始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

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XXXX年

6月3日 雨

 

二週間ほどかかってようやく己の運命を受け入れた私は、最後のときまでの出来事全てをこの日記に記していこうと思う。私の体を蝕む謎の異物の正体は未だ掴めておらず、今この瞬間も私は死に向かっている……のだろう。触覚・痛覚が無くなったことで苦しまずに済んだと喜ぶべきなのか、それとも謎の異物が原因で私の痛覚が無くなったと見るべきなのかはわからない。それにしても触覚が無ければ日記を書くのも一苦労で、さらに書いた満足感が著しく減少してしまうようだ。

 

 

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XXXX年

6月12日 雨

 

健気なことに蒼介は忙しいだろうに、暇を見つけては私のもとへ見舞いにきてくれる。弟の偽りのない愛情には内心感涙ものだが、それと同時に騙し続けることに小さくない罪悪感を感じる。毎度毎度涙目になりながら心配そうにしている蒼介にはすぐ治して戻ると元気付けながらも、私はもう自分の生を諦めているのだから。

蒼介の前でのみ元気な様子を演じる様のなんと愚かなことか、これでは私は道化そのものではないか。鏡に写った今の私の姿は、さぞや滑稽なものなのだろう。

蒼介を心配させまいとしているようで、その実私のやっていることは問題の先送りでしかない。どうやら心が弱いのは蒼介などではなく私だったようだ。

 

そんな風に悩んでいるからか、食した料理がまるで美味しく感じられない。このことを母様に知られたら、食材と料理に対する敬意が足りないと叱られるだろうな。

 

 

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XXXX年

6月15日 雨

 

美味しい美味しくない以前に、食べたものの味がまったくしなくなった。どうやら私は触覚に続き味覚も失ってしまったらしい。このザマでは料亭赤羽の料理長を継ぐという進路も閉ざされたであろう。もしこの世に本当に神がいるのなら、どれだけ私は嫌われているのだろうか。

 

 

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XXXX年

6月18日 雨

 

父様と母様はとんでもなく多忙の中、どうにか暇を作って私のもとへ見舞いに来てくれる。親である以上当然のことだが、二人は蒼介と違って私が死に向かっていることを薬江先生から知らされているようだ。だからだろうか……母様の目は深い悲しみで、父様の目が何かを悔いるような感情で生め尽くされているのは。

つくづく私は親不孝者だな……。

 

それはそうと、最近病院特有の薬臭さを感じにくくなった。あの臭い事態は苦手だが手放しで喜べるほど私の頭はお鼻畑ではない。このままだと私はいずれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやだ。

 

 

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XXXX年

6月24日 雨

 

今度は嗅覚が消失した。

自身の五感が徐々に失われていく恐怖は凄まじく、ここ数日の私はほぼ錯乱状態であった。かろうじて蒼介の前では平静を保てたものの、愚かにも私はお見舞いに来てくれた両親に「哀れみのつもりなら、二度とその面見せるな」と八つ当たりをしてしまった。こうしてなんとか正気を取り戻して改めて自分の醜さに反吐が出る。結局私はいよいよともなれば自分のことしか考えていない矮小な人間だと思い知らされた。皮肉にも二人の顔を見たくないという思いは真実になった。だから私は一切の見舞いを遮断し蒼介とすらも会おうとしなくなった。これでいい……今の私にはもう鳳家の娘である資格も、蒼介の姉である資格も無い。

だから。

 

 

 

そうした自暴自棄な感情に引きずられるように、今度は聴覚に異常を来し始めた。もうすぐ私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやだ こわい たすけて

 

 

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XXXX年

6月29日 雨

 

もう何も聞こえない。そして視界も霞んできた。

私を支えてくれる者も、自ら切り捨ててしまった。

このまま私は……わたしは………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいや■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死 に た く な い

 

 




書いていて自分でもゾクッとしました。私なんでこんな内容考えたんだろう……。


鳳紫苑編は次回で終了で、もう一つ番外編を挟んで本編に戻ります。あ、黒魔術はちょっとした事情で『ラプラスの悪魔編』の次になりました。
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