バカとテストとスポンサー~愉快な彼らのバカバカしくも素晴らしき日常~   作:アスランLS

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お知らせ:本編の大まかな流れが決定しました。もうしばらくこっちで話を投稿する傍ら、矛盾点などがないか添削作業に入ります。



violet memory④

【紫苑視点】

 

「ハァ……まさかアタシがもう死んでるとはね」

「おや、随分と達観しているんだねぇ。普通自分がもう死んでいると突きつけられたら、もう少し狼狽ないし混乱すると思ったんだけど?」

不思議そうに首を傾げる(と言ってもそれが本心とは思えない。何故なのかはわからないが、こいつはアタシがさほど狼狽えないという確信があったのではないか……?)薬江先生に手を振って否定する。

「あれほど病に侵された状態から急に五体満足な状態に変わりゃ、そりゃ不自然に思うに決まってるじゃないか」

「フフ、まあそれもそうだね♪……どうだい?苦痛から解放され五体満足で甦った気分は」

「最悪に決まっている」

薬江先生を睨めつけながらそう吐き捨てる。

「蒼介に伝えるべきことは伝えられたけど……そりゃあ、この世に未練が無いと言えば嘘になる。どうして私がこんなに早く死ななきゃならないっていう、この世の理不尽に対しての恨み言もあると言えばある」 

「……ふむ、だったら何の不都合が-」

けどね、と私は先生の言葉を遮る。

「それら全部引っくるめて人生なんだよ。理不尽だろうが納得いかなかろうが、自分にしろ大切な誰かにしろ終わってしまったたからには、そのことを逃げずに受け止めなきゃならないのが人間なんだ。それを受け入れず、こんな怪しげな呪い(まじな)でこの世に甦った奴はもはや人間ですらない。どうしてくれるのさ薬江先生、私は人として死ぬことすらできなかったんだよ」 

そんな私の糾弾にも薬江先生は眉ひとつ動かさず、()()()()()()()()()()微笑んでいた。その表情が少し引っ掛かったが、構わず私はさらに畳み掛ける。

「…………それにだ、薬江先生。アンタは外見も性格も名前も肩書きも全て偽物なんだろ?こんなオカルトに首突っ込んでいる時点で、真っ当な医者では無いことは既に確定しているが……

 

 

 

 

だったらアンタは私の担当医として何をしていた?」

「ふむ?」

「とぼけても無駄だよ。アンタが偽物なら、私に処方されていた、病の侵食を遅らせる薬とやらも偽物だってことだろう?そもそも降霊術で私を喚ぶことが目的ならわざわざ死期を延ばす理由なんて無い」

「……何が言いたいんだい?」

「…………オブラートに包めば煙に巻かれそうだから単刀直入に問うが、薬江先生……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンタがしていたのは延命行為じゃなくて、私にトドメを刺すことじゃないのか?いやそもそも……ここに来る直前に私を襲った黒外套の男……奴もアンタ、もしくはアンタの息がかかった奴じゃないのか?」

「え?うん、そうだよ」

笑っちまうくらい気軽に肯定した薬江先生に、私はほんの一瞬呆気にとられてから-

 

「ざっけんじゃないよ!」

 

激情を爆発させた。

この男は私に毒か何かを打ち込み触覚を奪い、そして私に薬と称した劇薬を投与し続け症状を悪化させ続け、しまいには私の命を奪ったことを認めたのだ。これが逆上せずにいられるだろうか。

「てことは何から何までアンタの自作自演ってことじゃないか!アンタ、自分がどれだけ人として終わっている行為をしたかわかっているのかい!?まさかとは思うが、こんな下法で生き返らせれば全てチャラになるとでも!?」

「聞き捨てならないねぇ……あまり僕を見くびらないでくれ、そんな理由で降霊術なんか持ち出すはずが無いだろう。そもそもだね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまで僕が奪った命は百や千じゃ聞かないんだよ?今さら君一人殺したぐらいで、僕が罪悪感なんて抱くと思うかい?」

「……ッッッ!!!」

得体の知れない悪寒が全身を駆け巡り、あまりにも強烈な忌避感が吐き気と眩暈を引き起こし意識が朦朧とするが、どうにか寸での所で踏み留まった。

 

………私は間抜けか?こんなドス黒い悪意をどうして今の今で察知できなかったんだ?……いや、ドス黒いなんて表現は生易し過ぎる。かといって私のボキャブラリーではこれを表す言葉が存在しない。ただ一つ言えることは……こいつは危険過ぎる。こんなものを腹に抱えながら平然と笑っている……と言うより人の形を保っていること自体、不可解極まりないほどの狂人だ。どれだけの人間を殺したかとかそういう次元の話ではない、こいつはたとえ人類を滅ぼしたとしてもひと欠片の罪悪感すら抱かないだろう。

……こいつは今ここで始末しておかなければならないと私の本能がそう告げている。どうせ私はもうゾンビ同然の存在だ、手を汚すことに躊躇する必要は無い!そう決意して薬江に飛びかかろうとするが…

 

「っ……っ……!?」

 

動かない。

こいつに殴りかかろうとした途端、全身を接着剤でコーティングされたかのように身動きが取れなくなった。どんなに力を入れても指先一つ動かせない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「人の話は最後まで聞くものだよ?でなければそういう羽目になる」

この異変の原因を知っているのか薬江は微笑んでいる。表面上はにこやかにしているが、今この瞬間も肌を突き刺すような悪意が滲み出ている。

「しかし化け物……か。当たらずも遠からずだね」

「な……に……!?」

「えーと、そうだな……これでいいか。これを強く握ってごらん」

そう言って薬江がおもむろに私の方へ投げ渡してきた物は、どういう訳か握力グリップ。訝しみながらも握らなければ話を進めるつもりがないようだったので、仕方なく強く握ってみる。その瞬間どういうわけかさっきまでの硬直が綺麗に無くなって-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!

 

「…………は?」

 

気がつけば私の手の中の握力グリップは粉々になっていた。………いやいやいや、おかしいだろう。鳳家の厳しい教育を受けてきたとは言え私はまだ小学生、こんなゴリラみたいな握力では無かった筈だ。自分を化け物だと自虐したが、こういう方向性の化け物だと思っていたわけではない。

 

「種明かしをするとだね、君に打ち込んでいたものは『アドラメレクの欠片』と言うものでね」

そう言いながら薬江は白く発光する物質を密閉した試験管を取りだした。

「アドラメレクの……欠片?」

「そ。詳しい説明はまた今度するとして、こいつには実に様々な使い道があるんだけど……今回用いた使い方は召喚獣ダゴンと君の同調率を揃えるためだね。その副作用で君は一回死んじゃったわけだけど……」

「召喚、獣……?わかるように説明しな」

「まぁ実際見た方が早いよね……ביטול דחיסה」

聞いたことの無い言葉と共に、薬江を中心に謎の力場が展開される。

 

「サモン」

 

そしてその言葉と共に幾何学模様が出現し、その中心から三頭身にデフォルメされた薬江が這い出てきた。

「……とまあ、これが召喚獣だ。科学とオカルトが混ざり合い、人間を遥かに越える力を持った存在……と言ってもこれはまだプロトタイプで、()()()()及びその他諸々を付け加えるつもりなんだけど、まあそれはともかくとして……」

薬江はそこで一度言葉を切り、展開されていたフィールドを消失させる。するとそれと連動するように召喚獣も姿を消した。

 

「結論を言うと君の体は召喚獣ダゴンと完全に一体化している。アドラメレクの欠片で君の体とダゴン君の適合率を強引に揃え、ダゴン君が君の遺体と融合する。そして降霊術で喚び寄せた君の魂を憑依すれば……」

「……私とダゴンの結びつきは二重の強固なものになっているというわけか」

「うん正解♪ものわかりが良くて助かるよ」

そのダゴンとやらが私の体と結びつき、さらに私の魂も結びつかせる。これではもうこの体が私のものなのかダゴンのものなのか区別がつかない……否、私とダゴンの区別すら消失しているのだろう。私はダゴンであると同時に、ダゴンは私なのだ。そして私が目の前の男に攻撃できないのも、私がダゴンであるが故だろう。

「ダゴン君は僕によって生み出された召喚獣だ。外部からハックをかけてプログラムを書き換えでもしない限り僕への攻撃、及び僕が不利益を被る行動をとることができない。そしてこの制約は、ダゴン君と体を共有している君にも適応されるのさ」

「チッ……身勝手な理由で殺されたり化け物にされたりした挙げ句、首輪まで付けられるとは胸糞悪い話だね……それでアンタは私に何を望むんだい?こんな回りくどいことをしたんだ、降霊術の実験なんかじゃないんだろう?」

「君に求めること、ねぇ……困ったことに連帯責任は片道切符じゃない。ダゴン君にかかっている縛りが君に適応されたということは、その逆もまた然り。君が本気で拒絶すれば君には何一つ強要できない。となればこちらもそれ相応の見返りを用意しなければ、協力関係を気づけないよね」

「あぁん?何を言い出すかと思えば……協力?この期に及んで世迷い言を。どんな報酬を用意しようが、私がアンタなんぞに手を貸すとでも-」

「それが鳳秀介の命、だとしてもかい?」

「…………は?」

あまりに荒唐無稽すぎる報酬を提示され、私はこの男のことが本気でわからなくなった。父様の命……それが何故私の報酬になり得るというのだ。

「狂人だとは思っていたけどここまで破綻しているとはね……どうして私が父様を手にかけなければならない?私がそれを望む理由など何一つ無いだろうが」

「………本当にそう思うかい?」

 

 

私の心拍数がはね上がる。

 

 

「何が……言いたい……?」

「聡明な君のことだ、もう薄々気づいているんじゃない?彼の罪にさ」

 

 

さらに心拍数が上がる。

 

 

「常に護衛をつけていた筈の君に、どうして劇物を所持した僕があっさり近づけたと思う?薬江彰なんて名前の医師など“鳳”の系列の病院に所属していないことに、あの鳳秀介ともあろう者が気づかなかったとでも?」

 

 

とうとう体全体が硬直し、その一方で全身が彼の話を聞くことに忌避感を抱く。だって…

 

 

 

 

 

 

 

 

「実に不可解な点が多いものの……もし秀介君が君を見殺しにしたとすれば、それら全ての疑問は解消しちゃうねぇ♪」

 

それは直面するにはあまりに残酷過ぎたから。

 

「……何を馬鹿なことを。あの人は確かに所々腹黒い部分もあるが、理由もなく娘を見殺しにするような人間では-」

「もう一度言うけど、聡明な君ならもう気づいているんじゃないの?……君を見殺しにする理由が彼にはある。

 

 

それは-」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後私は多少の葛藤の末、業腹ながらその男……薬江彰改めラプラス(おそらくこの名も偽名だろう)と手を組むことになった。戸籍上では私は既に死んでいるため、来るべきときが来るまではこの空間(ラプラスが言うにはここはパソコンの中らしい。今さら奴が何をしようと驚かないが、まさかそんな科学技術の結晶の内部で降霊術なんてオカルトテイストの強い儀式をしていたとは…)で生活し、そして主に父様を討つべく牙を磨くことになった。

 

 

既に私はもう身も心も醜い化け物になり果てたのだと思う。かつての自分が今の私を見たら、きっとひどく失望することだろう。

 

しかしそれでも私は……

 

 

 

 

 

 

 

 




これにてviolet memoryは終幕です。

アドラメレクの欠片……常識外れの権化たるアドラメレクのほんの一部分。ラプラス曰く多種多様の使い道がある便利アイテムらしいが、人体に投与すれば副作用で遅かれ早かれその人は間違いなく死ぬ。


ラプラスのとんでもなくゲスな本性が明るみに出ましたね。小学生の幼女(口調がアレなのでこの呼び名に違和感があるが)に劇薬を投与して殺害し、怪しげな術を用いて魂を化け物に改造した肉体に閉じ込め、犯罪の片棒を担がせつつ最終的に父親を殺すよう誘導する……と。
ちなみに紫苑とダゴンの適合率を無理矢理揃えたりしていることからわかるように、ラプラスはどうしても紫苑を手駒に加えたかったとかではありません。
理由はまだ明かしませんが、どういうわけか彼は蒼介の英雄としての資質を目覚めさせたかったので、最も慕っている姉との死別させることで、蒼介の覚醒を促そうとしたわけです。つまりついでに殺されたわけですね。
で、せっかくだから将来的に邪魔になりそうな秀介を片付けるために、紫苑のこともリサイクルしようという思い付きで今回の事件を引き起こしました。

改めて見返してみると、外道にも程がある……。

しかしこれらの悪行はまだ氷山の一角に過ぎないんですよねぇ……。



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