バカとテストとスポンサー~愉快な彼らのバカバカしくも素晴らしき日常~   作:アスランLS

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【ミニコント】
テーマ:超能力

先生「吉井君、この数式を解いてみなさい」

明久「えーと、えーっと……」

秀吉(明久が困っておる……。うむむ、もしワシが今ここで超能力が使えたら答えはX=6aだと教えてやれるのにのう……)

先生「答えはX=8aだ。まったく……」

秀吉「……」




秀吉(よかったのじゃ……。超能力が使えなくて)


如月ハイランド~終劇~

【優子視点】

 

《それではいよいよ本日のメインイベント、ウエディング体験です!皆様、まずは新郎の入場を拍手でお迎えください!》

 

園内全てに行き届くのではないかと思えるほどの拍手が響き渡る。

「ホントに色々あったけど、なんとかウエディング体験までもっていけたわね」

「そうだな。それにしても、メインイベントだけあってやけに準備が長かったな」

翔子の晴れ舞台を見届けるため、アタシ達『翔子の恋路を手伝い隊』のメンバーは観客席に座っている。まとまった席が取れなかったのでいくつかに分かれているが、アタシの隣にはいつものように和真がいる。何故か秀吉がニヤニヤしていたが、イラッとしたのでいつものように処刑しておいた。

「お、雄二がステージに上がってきたぞ」

「へぇ……長身なだけあって、意外とタキシードが似合っているわね」

「翔子のために一枚撮っておくか」

そう言いながら和真は坂本君の姿をフィルムに収める。そういう気遣いができるなら、もう少しマシな作戦を立てられたんじゃ……?

《それでは、新郎である坂本雄二さんのプロフィールの紹介を…………省略します》

いくらなんでも手を抜き過ぎでしょ……。

 

『ま、紹介なんていらねぇよな』

『興味ナシ~』

『ここがオレたちの結婚式に使えるかどうかが問題だからな』

『だよね~』

 

最前列に座っている連中からそんな声が聞こえてきた。

声の主は……さっきのヨーロッパバカね……。

「あぁもう、マナー悪いわね…!」

「確かにそろそろ目に余るな……。まぁ、もう仕込みは終わっている。後は引き金を引くだけで大打撃を与えられる」

和真が携帯を弄りながらなにやらアタシの隣で恐いこと言ってるけど、危なっかしいこと企んでんじゃいないでしょうね……?

 

《……他のお客様のご迷惑になりますので、大声での私語はご遠慮頂けるようお願いします》

『これ、アタシらのこといってんの~?』

『違ぇだろ。俺らはなんたってオキャクサマだぜ?』

『だよね~っ』

『ま、俺達の事だとしても気にすんなよ。要は俺達の気分が良いか悪いかってのが問題だろ?な、コレ重要じゃない?』

『うんうん! リュータ、イイコト言うね!』

 

調子に乗って下卑た笑い声が一層大きく響き渡る。

宣伝目的でやっているイベントである以上、ここまで騒がれては迂闊に手を出せない。

「本当にムカつく……!」

「もう容赦はいらないな……。思いしれ(ピッ)」

和真は不吉な発言とともに何かをやったようだが、それが気にならないほどアタシはイライラしていた。

全身の骨という骨を折り畳んでやろうかしら……?

 

《……それでは、いよいよ新婦のご登場です》

 

心なしか音量の上がったBGMとアナウンスが流れ、同時に会場の電気が全て消えた。

スモークが足元から放出され、雰囲気が高まっていく。

 

《本イベントの主役、霧島翔子さんです!》

 

アナウンスと同時に幾筋ものスポットライトが壇上の一点

を照らし出す。暗闇から一転して輝き出す壇上で、純白のドレスに身を包んだ翔子がそこにいた。

 

「…………綺麗」

 

溜息と共に思わず漏れ出たアタシの台詞が、静かな会場に響き渡る。

「以前雄二が、自分では翔子には相応しくないとかほざいてたが……なるほど、あいつの言い分も一理あるかもな」

和真の台詞をアタシは否定しきれなかった。今の翔子は、同姓のアタシですら目を奪われるような幻想的な美しさだった。坂本君の見てくれが悪いわけではないが、あの二人が並ぶとどうしても坂本君が添え物のように移ってしまう。

ゆっくりと翔子が坂本君のもとに歩み寄るのを、会場中が静かに注目していら。

『……雄二』

『翔子、か?』

『……うん』

坂本君の口から、そんな質問が出て来た。その姿に見惚れ、動揺しているのが手に取るように分かる。

『……どう……?私、お嫁さんに、見えるかな……?』

『……ああ、大丈夫だ。少なくとも、婿には見えない』

 

「いや、言葉のチョイスもう少し他に無かったんか?相変わらずデリカシーのねぇヤツ」

「坂本君もアンタにだけは言われたくないでしょうね」

こいつがデリカシー云々で人にとやかく言うなど噴飯ものではあるが、言い分自体は否定できない。あんなに綺麗な翔子にかけた言葉が「少なくとも婿には見えない」って……。

確かにもっと他に言うべきことがあるでしょ。 

 

でも、 

 

「「テンパってる今の雄二(坂本君)からすれば精一杯の誉め言葉のつもりなのかもな(ね)」」

 

 

 

『……雄二』

『お、おい。翔子……?』

『……嬉しい……』

翔子はそれ以上言葉を発することなく、ブーケに顔を伏せたまま静かに震えだした。

 

《ど、どうしたのでしょうか?花嫁が泣いているように見えますが?》

 

事情を知っているアタシ達にはその涙の真意が読み取れた。けれど何も知らない観客の間には先程までの静寂の代わりに、ざわめきが生まれ始める。

そんな中、彼女は小さな、しかしはっきりと聞き取れる声で呟いた。

 

 

 

「……ずっと……夢だったから……」

《夢、ですか?》

「……小さな頃からずっと……夢だった……。私と雄二、二人で結婚式を挙げる事……。私が雄二のお嫁さんになること……。私1人だけじゃ、絶対叶わない、小さなころからの私の夢……」

 

普段口数の少ない翔子の、ぽつぽつと懸命に紡ぐ言葉。 

それを満足そうに聞きながら、和真は自身の見解を述べる。

「確かに外見のみで判断すると雄二と翔子は全く釣り合ってねぇかもしれねぇ。だが今の言葉で分かるだろ優子?自分には相応しくないだの自分では翔子を幸せにすることはできないだのでグチグチ悩んでいた頃の雄二が……」

「えぇ……独善的な勘違い野郎だったってことがね」

そりゃ私も翔子があんな問題児と添い遂げて良いのかと思ったことは一度や二度ではない。しかし今なら胸を張ってこう言える。

坂本君のその言い分は、見当違いも甚だしい、と。

 

「……だから……本当に嬉しい……他の誰でもなく、雄二と一緒にこうしていられることが……」

 

そこからは言葉にすることができずに、彼女はまた静かに泣き始め、会場からはもらい泣きをしたような音が聞こえ始める。

 

 

坂本君では翔子に相応しくない?

 

坂本君では翔子を幸せにはできない?

 

大間違いよ。

 

「坂本君“が”翔子に相応しいのよ。他の誰でもない、坂本君“だけ”が翔子を幸せにできるのよ」

「そうだ。それを再確認できただけでも、今回のことに意味はあった」

今の和真の表情は、普段浮かべている不敵な笑みでも、人をいたぶるときの無邪気な笑みでも、ましてや困難を前にしたときの狂喜の笑みでもなく、慈愛に満ちた笑顔を浮かべている。

 

《どうやら嬉し泣きのようですね。花嫁は本当に一途な方のようです。さて、花婿はこの告白にどう応えるのでしょうか》

 

「恋人にここまでされてなお舌先三寸で誤魔化すつもりなら、坂本君は男じゃないわ」

「安心しろ。雄二の素直じゃなさは筋金入りだが、アイツはそんなタマナシじゃねぇよ」

和真の言葉の通り、坂本君は今まで見せたことの無い、覚悟を決めたような真剣な表情で口を開いた。

「翔子、俺は……」

 

『あーあ、つまんなーい!マジつまんないこのイベントぉ~。人のノロケなんてどうでもいいからぁ、早く演出とか見せてくれな~い?』

『だよな~。お前らの事なんかどうでもいいっての!』

 

最前列から放たれた心無い罵倒によって、アタシの脳が一瞬で沸騰したように感じた。

 

『ってか、お嫁さんが夢ですっ、って。オマエいくつだよ?なに?キャラ作り?ここのスタッフの脚本?バカみてぇ。ぶっちゃけキモいんだよ!』

『純愛ごっこでもやってんの?そんなもん観るために貴重な時間割いてるんじゃないんだケドぉ~。あのオンナ、マジでアタマおかしいんじゃない?ギャグにしか思えないんだケドぉ~!』

『そっか!コレってコントじゃねぇ?あんなキモイ夢、ずっと持ってるヤツなんていねぇもんな!』

『え~っ!?コレってコントなのぉ?だとしたら、超ウケるんだケドぉ~!』

口々に文句を言い、翔子を指差して笑い始める二人組。

 

《んだとテメェらっ! もういっぺん言ってみやがれ!》

《あ、明久君!落ち着いてっ!ステージが台無しになっちゃいます!!》

<そうよアキ!気持ちは痛いほど分かる!けど、ここで暴れたらそれこそ大問題になっちゃうわ!>  

 

遠くの席で吉井君達が声を荒立てているが、今のアタシの耳には入ってこなかった。

許せない……!かけがえの無い親友の、大事な夢を土足で踏み荒らしたあいつらを……アタシは絶対に許さない!

そのまま怒りに任せて立ち上がろうとしたが、肩を和真に押さえつけられてできなかった。

「っ!?何で止めるのよ!?」

「言わなきゃ分からねぇか?」

八つ当たり気味に和真に食ってかかるが、やけに冷静な声で諭される。しかし満面の笑みを浮かべていたつい先程までとは打って変わって、非常に冷たい表情をしていた。

和真がなぜ止めたのかは言われなくてもわかる。

だが理解は出来ても感情がまるで納得してくれない。

 

《は、花嫁さん?花嫁さんはどちらへ行かれたのですかっ!?》

 

アナウンスを聞き舞台に目を移すと、いつの間にか翔子が姿を消していた。さっきまで立っていた場所にブーケとヴェールを残して。坂本君はヴェールを拾い上げると、何かを考えるように目を閉じる。

 

『霧島さん!?霧島翔子さーん!みなさん、花嫁を探してください!!』

 

スタッフがバタバタと駆け出す。

ここまで大々的に準備をしてきたのに失敗したとなれば、如月グループのお偉方は顔を青ざめるだろう。

でも今のアタシにとってはどうでもいい。イベントの失敗が確定してしまった以上、遠慮する必要などもう無いのだから。相手は恐らくどこかしらの会社の重役のせがれ、そんな相手と暴力沙汰を起こせばどうなるかだいたい想像がつく。それは今まで築いたものを全て投げ捨てる愚かな行為だということも重々理解している。

それでも、ここで拳を下ろす理由にはならない。

「放しなさい和真!アイツらはここでぶちのめす!」

「落ち着け。お前に教えたのはあくまで護身術、人を傷付けるには向かないし、何よりそんなことをさせるつもりでお前に身に付けさせたんじゃねぇ」

アタシは段々と和真にも腹が立ってきた。

なんでアンタはそんな冷静なのよ……!

「アンタは翔子の夢を穢されて悔しくないの!?見損なったわ!」

気がつけばそんな言葉が口から出ていた。

後から思い返せばそのときのアタシはどうかしていた。友達を傷付けられて怒っていないわけではない、それを頭でわかっていながらアタシはそんな最低な言葉をぶつけてしまった。このことがきっかけで絶縁になってしまってもおかしくないレベルの最低な行為だ。

「あのなぁ優子……

お前は今まで俺の何を見てきたんだ?」

「……え?」

まあ結果的にそうはならなかったけど。

怒っているわけでも悲しんでいるわけでもなく、「何言ってんだこいつ?」と言わんばかりの呆れるような口調に、アタシは思わず思考が吹き飛んだ。

 

「俺があんな迷惑な奴を見逃すような甘い奴に思うか?

虎の威を借りて甘い汁をすすってるだけの奴を許容するような、寛容な奴に見えるか?

この俺が、大切な友達の、大事な大事なものを土足で踏み荒らしたような奴を、ここから無事に帰すような、慈悲深い奴だという可能性が果たしてあるか?」

「……思わない、見えない、有り得ない」

そうだった。五体満足で帰すつもりなど端から存在していなかったのだ。

「あいつらは越えてはいけない一線を越えてしまった。対価はあいつらの今後の人生全てで払ってもらう。だが、今は俺達は動いてはいけねぇ」

「どういうことよそれは?」

「俺の言いてぇことはただ1つ、端役がでしゃばる場面じゃねぇってことだ」

そう言ってから和真がステージに目を移したのを見て、アタシはようやく和真の言いたいことを理解した。ステージには既に誰もいなくなっていた。

そうよ。今日の主役はアタシ達ではなく、翔子と、もう一人。

「もう一度言っておくぜ。雄二は……アイツはタマナシ野郎なんかじゃ断じてねぇ」

 

 

 

 

 

『いや、マジでさっきのウケたな!』

『うんうん!私……結婚が夢なんです……。どう?似てる? 可愛い?』

『ああ、似てる!けど……キモいに決まってんだろ!』

『だよね~!』

「なぁ、アンタら』

『ぁあ?ぁんだよ?』

『リュータ。コイツ、さっきのオトコじゃない?』

『みてぁだな。んで、その新郎様がオレたちになんか用か、あァ!?』

「いや、大した用じゃないんだが……

 

 

 

 

 

 

ちょっとそこまでツラぁ貸せ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【雄二視点】

 

「よっ。遅かったな翔子」

「……雄二」

如月ハイランド内のグランドホテル前で待つことしばし。

翔子がトボトボと俯きがちに歩いてきた。

「さて。それじゃ、帰るとすっか」

ぶちのめしたゴミ二体と引き換えに和真から受け取っていた翔子の鞄を担ぎ直す。

あいつらがその後どうなったのかは知らないが、和真の邪悪な笑顔からしてロクな目に合わないことは間違いない。詮索するのは正直怖すぎるのでアイツらのことは脳内から削除することにしよう。

「……雄二」

「なんだ?」

「……私の夢、変なの?」

あのバカどもに笑われたことをずっと気にしているのだろう。翔子の表情は俯いていて見えないが、長い付き合いだ、どんな顔をしているのか見なくてもわかる。

「翔子、俺から告白しておいてこんなこと言うのもなんだが一応ハッキリ言っておく。お前に男を見る目は無ぇ。こんなどうしようもない男に惚れちまったんだからな」

 

俺はやることなすこと全てが半端だ。

 

多少喧嘩は強いが、和真のような何者にも縛られない絶対的な強さの前では霞んでしまう。

 

かつては神童と言われていたが、神童のまま成長しても果たして鳳蒼介には勝てたかどうか。

 

立てた戦略は鳳に見抜かれたし、今日も和真の立てた策に良いように手玉に取られた。

 

いや、和真や鳳だけじゃねぇ。

姫路のような献身的な心を持っている訳でもなく、島田のように語学力があるわけでもなく、ムッツリーニのような技術も持ち合わせておらず、秀吉のような演技力も備えていない。

そして……明久は、普通の人間が持っていて当然のものを何一つ持ってねぇあのバカは、一つだけ持っている。神童と呼ばれ天狗になっていた俺が持っていなかったものを、俺が心の底から望んでやまなかった大切なものを。

翔子は俺の言葉に耳を傾けている。言いようもない不安を抱えながら。

 

「だけど……俺はお前の夢を笑わない。」

 

こいつの夢は、大きく胸を張れる、誰にも負けない立派なものだ

「思う相手こそ間違ったかもしれないが、一人の相手を思い続ける事は誇らしい事だと思う、だからお前の夢は他の誰にも負けない立派なものだ」

会場で拾っておいたヴェールを被せる。

花嫁衣装の1つである白い薄布を手で押さえ、翔子は驚いたように顔を上げた。

なんとなく気恥ずかしく思い顔を背けるが、そう言えばもう一つ言っておくことがあったっけ。

 

「……弁当、旨かった」

 

俺は軽くなった鞄を翔子に渡す。

「……あ……私のお弁当……。気づいて……くれたんだ……」

「さて、さっさと帰るぞ。遅くなると誤解されるからな」

「雄二っ!」

いつもとは違う、張り上げるような大声に、思わず立ち止まる。

「……なんだ?」

平静に、いつも通りの態度と声で言葉を返す。

そして少しだけ振り返ると、赤い光の中、自らの手でヴェールを持ち上げ、

 

「私、やっぱり何も間違ってなかった」

 

満面の笑みを浮かべる幼馴染が、そこにいた。

何もかも中途半端な俺が唯一誇れるもの、絶対に誰にも負けないと胸を張って言えるものがあるとするならば、

 

こいつを世界中の誰よりも幸せにして、こいつの選んだ道が失敗ではなかったと証明する覚悟だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【優子視点】

 

「一件落着ね」

「だな」

坂本君達からは死角になる場所で、アタシ達は彼等の帰宅を見届けた。

「それにしても坂本君大丈夫かしら。あのチンピラども、どこかの会社の跡取りでしょ?顔の面積が倍になるほど殴り倒して」

「どこかの会社じゃねぇ。“橘”の傘下の会社だ」

聞き慣れた会社名に思わず耳を疑う。“橘”といえば和真の幼馴染みの一人でアタシのクラスメイト、橘飛鳥の父をCEOを務める世界的大企業。

「雄二達がお化け屋敷に入っている間暇だから調べておいた。“桐谷”系列の如月グループに営業妨害をしていると飛鳥の父の大悟さんにリークして、会社の地位を落としてやるだけで済ますつもりだったが……あそこまでしたこいつらにかけてやる慈悲はない」

「アンタ……最終的にどうしたのよ?」

正直聞きたくなかったが、こいつと肩を並べていく以上聞いておかなければならない気がした。

「事情を包み隠さず話すと大悟さんがノリノリで行動してくれたよ。あのチンピラの親の会社に“橘”の力を背景に息子と絶縁するか倒産するか二択を突き付けたらしい」

やっぱり聞かなければよかったかな。

「ちなみにアイツの親は即決で息子を見捨てたんだと。あのチンピラの居場所はもうどこにも無い。自己保身のために捨てられるとは惨めだな、同情するぜ」

欠片も同情していないじゃないその顔……。

あいつらに同情する気はアタシも無いけれど、金持ちの怖さは正直知らないままでいたかったなぁ……。

「しっかし今日は色々あったなぁ。どうだ優子、たまにはこういうのも悪くねぇだろ?」

「よく言うわよ。アンタの悪ノリにやきもきしたり、変なアダ名つけられたり色々大変だったんだから」

だいたい何よインフェルノ=ドラゴンなんたらって。

 

 

「そう、か…。楽しくなかったか…?」

 

 

……………………。

 

 

「えいっ」 

「(ビスッ)いてっ」

 

アタシは和真の額にデコピンした。突然のデコピンに呆けた顔になる和真。うん、とても珍しい。

「もちろん楽しかったわよ。アンタにそんな顔は似合わないから、いつもみたいに笑ってなさい」

「……そんな顔ってどんな顔だよ?」

「教えてあーげない♪」

 

和真は滅多なことでは笑みを絶やさない。

普段は不敵な笑みを、サドモードに入っているときは無邪気な笑顔を、強敵と対峙したときは狂喜を、基本笑っていることが多い。

逆に怒りや悔しさや辛そうな表情は、和真と仲が良い人にしかみせない。なまじスマートに物事をこなせるため、親しい人でもあまり見かけないのだが。

 

そして……アタシにしか見せない表情がある。そのアタシも極々たまにしか見たことがない。さっきのを合わせて三回目かな。本人すらどんな表情をしているか自覚がないため、あの表情を知っているのはアタシだけになる。

 

 

あの……こちらの顔色を伺うような、どことなく寂しがっているような、それでいて、拒絶されることを恐れているような表情は。

 

 

アタシにだけ違った顔を見せてくれることがちょっぴり嬉しい反面、アタシは和真にあの顔をして欲しくない。

 

和真をよく知る人からすれば、これほどまでに能力のある和真を常々何かと心配しているアタシを不思議に思うだろうが、アタシにとってそんなことは関係ない。あんな表情をされると、心配の一つや二つして当たり前だ。

 

アタシは和真の側にいたい。

誰よりも強くて、だけど誰よりも不安定なこの子を守れるような人になりたい。

 

あの顔を見てから、アタシは強くそう思うようになった。

休日の予定を強引に決められたり、今日みたいに気まぐれで色々と振り回されたりしても、怒るに怒れないのはそういう理由だ。

 

「……まあいいか。さて、メンバー達誘って打ち上げにでも行くか!」

「そうね。また明日から学校だし、栄気を養うのも悪くないかな」

 

…………しかし、いつになったらこの子は思春期になるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週明けの学校、放課後……。

 

【雄二視点】

 

 

 

「おい、和真」

「ん?雄二、何かようか?今からラクロスの練習あるから手短にな」

「如月ハイランドでは随分と色々やってくれたな」

「だろ?時間と労力をかけた甲斐があったぜ」

「少しは悪びれろよ!?誤魔化すどころか堂々としやがって!……まあいい。ところで、さっき明久にもあげたんだが、お前にもプレゼントがある」

「5万でいいぞ」

「現金じゃねぇよ!?がめついな金持ちのくせに!」

「いや、お前の懐から搾取してぇだけだ」

「お前実は俺のこと嫌いだろ!?……今話題の恋愛映画のペアチケットだ。気になる相手がいれば一緒に行くといい」

「お前ほんと陰湿だな……。俺が人から貰ったもん無下にしたがらないの知ってて、俺の興味ないジャンルチョイスしやがって」

こいつにだけは陰湿云々言われたくない。

「木下姉でも誘って行ってやればどうだ?お前のフォロー凄く大変そうだったから労ってやれよ」

「それを言われると返す言葉もないな。練習の後にでも誘ってみるか……じゃあこれはありがたく貰っとくわ、じゃあな」

教室から出ていく和真を見届けながら、俺は内心ほくそ笑む。勿論俺は何の考えもなくこんなことをしたわけじゃない。全ては復讐のための布石。

 

「お前がそれに自覚したとき、俺の復讐の準備が整う。余計なことを企んだツケはそのとき返してもらうぜ……」

 

ガシャアアアアン

 

『か、和真!?盛大にこけたけど大丈夫か!?』

『ててて…あ?源二か?大したこたぁねぇよ』

『お前が転ぶなんて、体調でも悪いのか?』

『あー、ちょっと考えごとしててな…』

「……あの様子だと想定したより早そうだな」

 

……いくらなんでも動揺し過ぎだろ。

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、如月ハイランド編これにて完結。
途中まではコメディ一色だったのに今回だけやたらシリアス。本編より先に出た四大企業の闇(そしてその闇を容赦なく人に向ける主人公)、和真君の秘密の一片、優子さんとの恋愛フラグ。

少々詰め込み過ぎたかな……?



【ミニコント】

テーマ:ギャップ

和真「世の中の女子にはギャップ萌えってのがあるらしいから、西村センセとかその辺狙ったら滅茶苦茶モテんじゃね?」

鉄人「くだらん企画に俺を巻き込むな」

高橋「ほう、中々興味深い疑問ですね。西村先生、生徒の疑問を解決するのも教師の勤めですよ?」

鉄人「高橋先生、心なしか面白がっているように見えるのですが……」

和真「さて、権力者の後ろ盾を得られたところで、色々と試してみるか」

case1……こんな見た目なのに裁縫上手

鉄人「……」チクチクチク

和真「あー……そんな思ったほどギャップ無いな……」

高橋「西村先生なら普通に上手そうですから、あまり違和感がありませんね」

case2……こんな見た目なのに料理上手

鉄人「……」トントントン

和真「あー……これもそんなに……」

高橋「そうですね……西村先生なら意外でも……」

《結論》

和真「西村センセにギャップ萌えは無理」 

高橋「ですね」

鉄人「散々やらせておいて結局それか……」


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