そのつもりで書いたから。(棒)
新年度。春、四月。この三点から、みんなならどんなことを連想するだろうか。
俺なら新学期。新しい出会いの時期だ。
進級して学年が一つ上がる学生がいれば、中学から高校、そして高校から大学と進学する人もいるだろう。
俺は後者。有難いことに志望した大学に合格することができたのだ。これで来る日も来る日も勉強に明け暮れた日々も報われたというもの。万々歳だ。赤飯は美味しかった。
これが俺の大まかな背景事情。
……と言うのも、俺は今とある賃貸アパートの一室に来ている。理由は簡単、部屋を借りる為だ。
「最寄りの駅が徒歩八分くらいのお部屋ですか?」
「ええ、それくらいなら十分です」
俺の入学が決定した大学。――上諏訪大学と言うのだが、実家から電車で片道二時間ほど。往復でざっと四時間。
……いやぁ、長い。ちょっと、毎日通うのがしんどいくらいには遠い。やっぱり、駅に近いに越したことは無いのだ。と言った様なことを言うと、うーんと難しい顔をされた。せっかくだからと親の許可も得て、俺は不動産業者の人と一緒に、人生初めての賃貸選び。やっぱり簡単じゃない。
「でしたら今いるこの部屋も、
歯切れ悪そうに、担当の人が言う。
「いやね、お客様。事故物件って知ってます?」
「……? まあ、なんとなくですが」
事故物件。その言葉を知らないわけじゃないが、知ってるわけでもない。確か、なんらかの不都合やよろしくないことが起こった部屋の呼称……だったような。と言う具合には曖昧な知識である。
「ええ、概ねその通りなのですが……なんと言うか、やっぱり神社が近いからでしょうか?」
……言い忘れていたが、この物件に一番近い建物は、駅でも家でもコンビニでもない。
――神社だ。そう、ジャパニーズシュライン。そんな縁起も加護ももらえてそうな好物件そうなのに、事故物件。変な話だ。
「して……、ちなみにどんな理由ですか」
「……
うわぁ。
「いや、あの。神社の近くですよね、ここ」
「ええ、そうなんですがね……。当初は我々も単なる見間違いかと思っていましたが、この部屋への入居者が軒並み同じようなことを言うもんですから」
「……ちなみに、どんな?」
そう聞くと、彼は「はぁ」とため息を吐いて、そのまま流れるようにこう続ける。
「『変な帽子の幼女を見た!』だそうです」
◇◇
そんなこんなで、数時間。
あの事故物件から他の物件を転々としていくうち、空の上の太陽もいまや、地平と空の間へ収まっていた。
「すみません。中々決まらなくて」
そう言うと、彼は少しはにかんだように言った。
「いえ、一日で決められる方の方が少ないですから。心配しなくても大丈夫ですよ」
優しさと気遣いが骨身にしみる。いやぁ、しかし。でもしかし。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが」
「はい? なんでしょう」
「――なんで俺を事故物件に案内したんですかね」
なぜそんなことを聞いたのか。
……それは、理由がわからなかったから。事故物件とまで呼んでいるくらいなのだ。紹介するなら、最後の最後、もう紹介するような物件がなくなった後、選択肢の中で一番可能性の低い大穴。それが事故物件というものだろう。
なのに、それを一番最初、真っ先に紹介して来た。……どういう意図だったのか。
「……ああ、それですか」
担当の人は、なんてことはないと言った風に話し始める。
「実はあの部屋、私がこの仕事に就いてから、初めて紹介した部屋なんです」
へぇ、それはそれは、――奇妙なものですね。
……などとは言えず。
「だから、いくら事故物件とは言えども……紹介ぐらいはしてもいいじゃないか、と思いました」
気持ちはわかる。しかしなんと言うか、それははっきり言って身勝手だ。俺にとやかく言う権利は無いけれど、わざわざ曰く付き物件を紹介されるこちらの身にもなって欲しい……などと、いくら俺がどう思おうと、この人にとってこの部屋は想い出深い部屋で、事故物件などと呼ばれるような謂れは無いのだろう。
改めて、手渡された書類をめくる。
駅から徒歩八分、隣には神社、家賃三万円。交通の便利さはさておき家賃は安い。しかしこれは事故物件というレッテルのおかげ。実際は五万ほどはするだろうか。内装も綺麗だし、何より洒落ている感じがする。値段相応、もしくはそれ以上。
ペラッと少しめくってこれは四件目の物件。駅から徒歩三分。家賃四万キリ。そんな物件があった。圧倒的な交通の便に加え、学生でもアルバイトでまかなえそうなくらいには優しい家賃。内装も好きだし間取りも丁度いい感じ。正直、事故物件よりも魅力的だ。
でも、なんか。なんか、違うような。
正直なところ、最初の物件を見た時には『もうここでいいかも』と思えたのに、他の物件ではそんなこと思えなかったのだ。そして、つまり、それは。
「あの、林さん」
「はい?」
係の人――林さんが、書類をめくる手を止め、返事をする。
「一件目のあの部屋、もう一度見にいっていいですか?」
「――! え、えぇ、いいですよ」
驚いた顔をした後、慌てて取り繕ってそそくさと準備を始めるか林さん。喜ぶ気持ちが隠せてない。全くバレバレだ。
「なんて言うか、正直な人ですね」
――そんな失礼な言葉が、完全に無意識に、口から自然と溢れてた。
「ははっ……すみません」
林さんが謝る。いや、今のは自分に非があるのだが。そして、もう完全に日が暮れて月が灯りを灯す頃。俺たちは午前中同様にまた同じ部屋の中にいた。
「……キッチン、コンロはガス式……」
あーだこーだ言いながら、部屋を彷徨い歩く俺。――じっとしてるのも悪いかなと、とりあえず動いてみようとした結果だ。
何故なら、俺の中で答えなどとっくに決まっていたから。
「林さーん」
「はい、なんでしょう」
「やっぱりこの部屋にします。手続きってどうやればいいんです?」
「はぁ、やっぱり事故ぶっ……いや、いやいや。ちょっと待ってください……!? 気にいったって?」
「言葉の通りです。部屋選び、思ったより早く終わりました」
「――! ありがとう有難うございます!」
……それが、この部屋を選んだ経緯。
そもそも俺は大学に通うため、通学の便利さを得るための物件を探していたのだ。決して興味本位に首を突っ込んで、事故物件を引き当てたかったとか、そういう痛い意図はなかった、絶対に。
――だから。
「あの祐さん、ここの公式はどうやって……」
「おいゆーう! ごはんはまだー?」
「祐也、私は暇を持て余している。そんな二人の相手より、さっさとこの前の対局の続きをだな……!」
「――お前らちょっと待てやい!!」
だから、こんな非日常を求めた訳じゃないんだ!
ああ、どうやら、俺――成美 祐也の記念すべき大学生活の第一歩は、入学前から踏み外してしまったようだ。
そう。これは常識と非常識、非日常の中にてそれをかぎりなくまじめに真剣に語り合い考えあう全くもって意義を感じられない物語……。
あ、いや訂正。
そんな大層なモノでもなく、哀れな一般人が神様三人に囲まれて胃を痛めるお話だな。こりゃあ。
前々から守谷一家関連のssを書いてみたいとは思っていたものの、構図が決まらず……。
しかし諏訪大社四社巡りを経て、そんな疑問も何処へやら。結果守谷一家に振り回される物語ができました。
一応プロットもあるし、なにをやるかも決まっているので、完結はするでしょうけど……不定期です。
ご了承くださいね。