インフィニット・ストラトス~ドイツの黒き皇帝~(凍結) 作:鈴木颯手
『我々もその話は知りませんな』
「そうか…。何か分かったら報告してくれ。恐らく高官の誰かがつながっている可能性がある」
『了解しました』
シャルル・デュノアが入学してきた日の放課後、ヴィルヘルム六世はアリーナの端でアルベルトに事の顛末を報告していた。どうやらアルベルトも知らないらしくヴィルヘルム六世の入学の準備で忙しい時に誰かが勝手に入学できるようにしてしまったらしい。
「大佐殿、どうでしたか?」
「アルベルトは知らないそうだ。一体誰がこんなことをしたのやら」
ヴィルヘルム六世が見つめる先では専用機「白式」を纏った織斑一夏と「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」を纏ったシャルル・デュノアが模擬戦をしていた。
シャルル・デュノアが銃を使って遠距離から攻めているが織斑一夏は無策でまっすぐ突っ込んでいた。
「…まだ動かせるようになってから二月ほどとは言えやはり素人だな」
「戦術も策もない、ただ突っ込んで行っているようにしか見えません。日本ではああ言うのが一般なのでしょうか?」
女尊男卑の日本はともかく男女平等のドイツ帝国ではISにかかわる仕事は大変人気でIS操縦者の女性とISを開発する男性が結婚するのは珍しくなかった。また、軍隊つながりで結婚することや武装親衛隊同士で結婚することもあった。
「少し前まで一般市民だったんだ。多少は大目に見てやろうじゃないか」
「おーい、ハインリヒもそこにいないで一緒に訓練しようぜ!」
そう話していると模擬戦を終えた織斑一夏が大声で話しかけてくる。ヴィルヘルム六世とラウラは織斑一夏の近くに寄った。
「何してたんだ?」
「ちょっといろいろと、な」
織斑一夏の質問に答えを濁すとシャルル・デュノアが近づいてきた。
「ハインリヒ君だっけ?僕と模擬戦しない?」
「ん?別に構わないよ」
「ありがとう。それじゃ早速」
シャルルの提案を快く承諾して戦闘態勢に入るヴィルヘルム六世。自身の専用機は「シュヴァルツェア・アーデル」を纏う。
「それじゃあ、試合開始!」
織斑一夏がそう言うと同時に二人は飛び上がる。そのスペック上ヴィルヘルム六世の方が早く上がり肩にある中距離連射型レールカノンをシャルル・デュノアに向けて放つ。シャルル・デュノアはそれを巧みに避けていき手に持ったマシンガンで反撃してくる。
「(ふむ、なかなかの腕だな。本当に最近ISに触れたのか?)」
ヴィルヘルム六世はそう考えつつ弾をよけていきワイヤーブレードを二本出す。それらは簡単に避けられるも避ける先を予測してそこに荷電粒子砲「アハトアハト」を放つ。
「!?くっ!」
それはギリギリシャルル・デュノアが展開したシールドに防がれるが完全に相殺はし切れていないようだ。ヴィルヘルム六世はレーザーブレードを両手に装備して一気に近づいた。
「すげぇ」
「あいつこんなに強かったの!?」
「…」
地上では二人の模擬戦を見る織斑一夏、凰鈴音、セシリア・オルコット、篠ノ之箒、ラウラ・フォン・ボーデヴィッヒの姿があった。二人の模擬戦は凄まじくレーザーブレードでヴィルヘルム六世が攻めるもシャルル・デュノアがそれをいなして隙を見つけては攻撃に転じようとして防がれるを繰り返していた。
「ラウラさん、でしたわよね?」
そこへセシリア・オルコットがラウラに話しかけてきた。
「なんだ?」
「ハインリヒさんも武装親衛隊の一人なんですよね?」
「そうだ。武装親衛隊第一部隊の隊員だ」
それが現在ドイツ帝国で皇帝として政務に励むハインリヒ・フォン・ヴァレンシュタインの所属先である。それを聞いてセシリア・オルコットは感心したようにうなずいた。
「それであの強さなのですね」
「どういうことだセシリア?」
セシリア・オルコットの言葉に織斑一夏が疑問を持った。
「私も又聞きなのですが武装親衛隊にも序列があり第一部隊から第六部隊にまで分かれています。IS部隊である第五とその支援部隊の第六を除けば一から武装親衛隊の中でも優秀な人が所属しています」
「その通りだ」
セシリア・オルコットの説明に間違いはなかったためラウラが肯定して話を受け取る。
「第一部隊は現在二十人が所属している。彼らは一人一人が精鋭で彼らを倒すには一個師団でもつれてくる必要がある」
「師団?」
「簡単に言えば一万人以上の兵士が必要ということだ」
「へぇ、すごいんだなあいつ」
「そうだな…む、試合が動くぞ」
ラウラの言う通りワイヤーブレードを使いシャルル・デュノアを手数で圧倒していた。やがて捌ききれなくなりレーザーブレードが見事に直撃した。その一撃でシールドが尽きてヴィルヘルム六世の勝利となった。
「いやぁ、ハインリヒって強いね。手も足も出なかったよ」
降りてきたシャルル・デュノアは笑いながらそういう風に言ってくる。
「いや、シャルル・デュノア。あんたも強かったぞ。まるで熟練の操縦者のようであった」
「え!?そ、そんなことないよ!?」
ヴィルヘルム六世の言葉にシャルル・デュノアは慌て始める。そんなシャルル・デュノアを見てヴィルヘルム六世はますます疑惑の目を強めるのであった。