インフィニット・ストラトス~ドイツの黒き皇帝~(凍結)   作:鈴木颯手

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第二十八話

愛佳に励まされたヴィルヘルム六世は第四アリーナの更衣室へと向かった。しかし、ここで重大なことに気が付く。

 

「…ここって女子更衣室、だよな?」

 

さすがのヴィルヘルム六世もこの中を入る事は出来ない。もし入ろうものなら「ハインリヒ・フォン・ヴァレンシュタインは覗き魔」というレッテルを張られてしまう。それは名を借りている身として出来るはずがなかった。しかし、天はヴィルヘルム六世を見放してはいなかった。

 

どうしようかと唸っていると中から制服を着たラウラが出てきたのだ。そして二人の目が合う。

 

「「あ」」

 

二人して固まる。先に拘束から解けたのは…ラウラだ。

 

「っ!」

 

ラウラは廊下を全力疾走で駆け抜ける。直ぐにヴィルヘルム六世も慌てて追いかけ始める。

 

いくらラウラが軍人とは言え身体能力が規格外なヴィルヘルム六世に適うはずもなく段々と距離が縮まっていくがラウラは曲がったり人の間をするりと抜けたり階段を上り下りして逃げ切ろうとする。

 

「っく!これじゃらちが明かない!」

 

ヴィルヘルム六世は悪態を付きつつも逃がすまいと階段を下りるラウラを追跡する。階段を下り正面玄関からラウラが出ようとして盛大に転んでしまう。よく見れば物陰から足が出ていた。

 

ヴィルヘルム六世はこの機を逃すまいとスピードを緩めずに走ろうとするラウラを抱きかかえた。

 

「っ!?~!」

 

ラウラは途端に暴れ始めるがヴィルヘルム六世は決して離すまいとして腕の方に意識を向けてしまう。結果足元がおろそかになり石に躓いて隣にあった池へと落ちてしまう。ラウラはヴィルヘルム六世が落ちる前に突き飛ばして地面に落下させたために無事であった。

 

「っ!?陛下!」

 

ラウラは思わず陛下と呼んで近づく。

 

「…はは、だから学園では陛下と呼ぶなって」

 

幸い池は浅く直ぐに上がって来るがヴィルヘルム六世は全身がずぶぬれになってしまっていた。

 

「あー、ラウラ。一緒に寮まで戻ってくれるか?」

 

「…はい」

 

ラウラは素直に頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、さっぱりした」

 

部屋に戻ったヴィルヘルム六世は直ぐにシャワーを浴びた。道中生徒に不審な目で見られていたが無視した。

 

部屋を見ると自分のベッドに座るラウラがいてヴィルヘルム六世はまた探し回らないで済むと思いつつラウラの横に座った。

 

「…」

 

「…」

 

どちらとも喋る事は無くヴィルヘルム六世は「(デジャブ…)」と思ったがすぐに頭から追い出した。

 

「…逃げたりして申し訳ありませんでした」

 

最初に切り出してきたのはラウラであった。なお、余談だがこの部屋にあった盗聴器や隠しカメラはドイツ帝国の諜報員によってデータの送信先にウイルスを送り付けてから破壊している。それによって女性利権団体から悲鳴があったそうだが完全な余談である。

 

「…別に構わないがなんで逃げたりしたんだ」

 

ラウラに突き放されてひどい状況になっていたがそんなことは口にも顔にも出さないで聞く。

 

「…自分が怖くなったんです」

 

ラウラは喋り始める。

 

「陛下が異性と喋っていると自分の中にモヤモヤとしたものが積もって来るんです。最初は気にしないようにしていたのですが今日の一限目で我慢できなくなって…」

 

ラウラは目に涙を貯めて話す。

 

「陛下と話す女子を恨んだり近づくなと心の中で思って遂には殺したいと思うようになって…、そんな、自分が、怖くて」

 

遂にラウラは泣き出してしまいたどたどしく言う。

 

「…辛かったなラウラ」

 

「あ」

 

そんなラウラをヴィルヘルム六世は抱きしめた。

 

「別に悪いことではないよ。確かに殺したりするのは不味いがそれだけ俺を思っていてくれると思うと俺はうれしいよ」

 

「へ、陛下ぁ」

 

ラウラはついに声を出して泣きヴィルヘルム六世は抱きしめたまま頭を撫でてるのであった。

 

十分ほどたつとラウラは泣きつかれたのかそのまま寝てしまった。

 

「はは、まるで子供だな」

 

ヴィルヘルム六世はラウラにそんなことを思うがそんなところはクロエにはなく愛おしいと思えてくる。

 

ヴィルヘルム六世はラウラをベッドに寝かせて頭を撫でる。

 

「…ほんと、婚約してよかったと思えるよ」

 

ヴィルヘルム六世はそういって微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の某所、町のカフェで二人の男女がいた。女尊男卑の激しい日本で二人は恋人のようにも見えるが二人はそんな関係ではない。

 

「…それで?何の用かなスコール」

 

コーヒーの入ったコップをさらに置いた男は目の前の女性、スコールに聞く。

 

「前にも伝えたがVTシステムは欠陥品だ。とてもまともに使える保証はないぞ」

 

「分かっているわ。クラッカー」

 

スコールは目の前の男性、クラッカーに肯定する。

 

「それで、代わりにこんなものを用意してみたの」

 

そう言ってスコールは封筒をクラッカーに渡す。クラッカーはそれを受け取り中を確認すると数枚の紙が入っていた。それを見たクラッカーの表情が驚愕に代わる。

 

「…これは本当なのか?」

 

「ええ、本当よ。…で、これは役に立つかしら?」

 

スコールの問いにクラッカーは狂気の笑みを浮かべる。

 

「ああ、これなら作れるぞ。最高の対IS兵器」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七つの大罪が」

 


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