インフィニット・ストラトス~ドイツの黒き皇帝~(凍結)   作:鈴木颯手

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活動報告にアンケートをのせました。


第三十八話

「はぁ、はぁ、…いい加減落ちてくれねぇかな?」

 

「それは、はぁ、こっちの、はぁ、セリフよ…!」

 

タッグマッチトーナメント決勝戦。試合が始まってから既に三十分が経過していた。未だに一機も落ちていないが搭乗者たちは疲労困憊であった。実力の高い者たちであったため戦況は拮抗していた。

 

「鈴さん!大丈夫ですか!?」

 

そこへセシリア・オルコットが凰鈴音の近くにやってきた。前を見ればクラーラとコルネリアが合流していた。

 

「ええ、何とかね。セシリアはどう?」

 

「クラーラさんが強くてビットが三機やられましたわ。それ以外でやられたものはエネルギーくらいですわ」

 

一方、クラーラ達も戦況を確認していた。

 

「五本あったクロー型レーザーブレードが既に二本しかねぇ。これじゃあ、使い物にはならねぇな」

 

「左手の三門レーザー砲もエネルギーが残り少ないです。いっそのこと奥の手を…」

 

「却下。あれは今の俺たちじゃ扱いきれないからな」

 

「しかし、このままではじり貧ですよ?」

 

「分かってる。だからもう一つの武装で相手する」

 

「…了解」

 

コルネリアの言葉にクラーラは了承して戦闘態勢に入る。

 

「さて、本来は出す予定じゃなかったんだがこれじゃじり貧だからな。これで一気に決めてやるよ」

 

そう言うとコルネリアから冷気があふれてくる。

 

「モード・凍月軍狼」

 

瞬間ヴェアウォルフが光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何!?」

 

観客席から決勝戦を見ていた愛佳は光るアリーナに驚く。決勝戦を見ることが出来ないヴィルヘルム六世とラウラのために愛佳はビデオをとっていたのだ。

 

「…あ、収まってきた」

 

そして、そこにいたのは水色の狼であった。五本の白い爪を両腕に着けて狼の顔を模したヘルメットを着けている。更には腰から機械のしっぽが出ていた。

 

「…きれい」

 

愛佳は、いや、観客席で見ていたものはほとんどがその姿に魅了されていた。

 

その狼は少し体をかがめると一瞬でその場から消えた。何処に行ったのかと探そうとした瞬間正面にいた甲龍が吹き飛んだ。よく見れば甲龍がいた場所にコルネリアのヴェアウォルフがいた。恐らくヴェアウォルフが追いつけないスピードで甲龍を吹き飛ばしたのであろう。吹き飛ばされた甲龍は一撃でシールドエネルギーを空にされていた。

 

「嘘…早い…」

 

誰が呟いたか分からないがそれが今の状況を見ていたものが思ったことであった。現在世界最速の機体はイタリア王国の「テンペスタⅡ」であるが今のスピードはテンペスタですら遅く感じるものであった。

 

甲龍を一撃で倒したヴェアウォルフは次の標的をブルー・ティアーズに定めたようで勢いよく飛びあがった。セシリア・オルコットは残った一機のビットを出してさらにミサイルビットからミサイルを発射するも残ったビットを切り裂きミサイルも形成された氷の壁によって阻まれてしまう。

 

セシリア・オルコットはミサイルでの攻撃をあきらめてライフルを手に動き回って逃げようとする。

 

しかし、ブルー・ティアーズとヴェアウォルフのスピードの差は圧倒的で追いつかれるのも時間の問題であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、君がシャルロット・デュノアだね?」

 

決勝戦の決着が付きそうな頃ドイツ帝国皇帝がいる席に一人の生徒が連れてこられていた。

 

その生徒、シャルロット・デュノアは沈んだ表情で頷く。その態度に皇帝の護衛をしている武装親衛隊が手を出そうとしたが手で制して言葉をかける。

 

「ハインリヒから聞いていると思うが君はこの学年別タッグマッチトーナメントが終了次第ドイツ帝国に強制送還される。よってそれまでの間はここにいてもらう。いいな?」

 

「はい」

 

「…そんなに絶望しているのかな?だが、これは当然の結果でもある」

 

シャルロット・デュノアの姿が気に入らないのか皇帝はそう言う。

 

「君はハインリヒが武装親衛隊の者だと知っていたはずだ。ハインリヒが部屋に来るまでにスパイのことを伝えていればこんな事にはならなかっただろう。自業自得だ」

 

「そうですね」

 

皇帝の言葉にそれだけしか言わないシャルロット・デュノアに興味をなくしたのか試合へと視線を向ける。アリーナでは決着が付こうとしていた。

 

「…ああ、それと一つだけ」

 

皇帝はシャルロット・デュノアの方を向かずに言葉をかける。

 

「ハインリヒに聞いたが織斑一夏と賭けたそうだな。収容所送りを取り消すことを。だが、逆に言えば()()()()しか賭けに入っていなかったからな。強制送還されることは決まっていたんだよ」

 

瞬間後ろで何かが倒れる音がしたが皇帝は振り向かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っく!早いですわ!」

 

セシリア・オルコットは段々と近づいてくるヴェアウォルフにレーザーライフルを撃ちながら早い行動で取りにくい細かな動きで逃げていたが限界が近くなっていた。

 

「(っく!こうなったら一矢報いるしか)…あ」

 

そう考えて後ろを向けばヴェアウォルフがまさにクローを振り下ろそうとするところであった。

 

「…まだですわ!」

 

しかし、セシリア・オルコットも負けてはおらず体を反転させてレーザーライフルとミサイルビットを一斉に発射する。

 

「ぐぁ!」

 

これにはコルネリアも反応しきれずにシールドエネルギーを空にしてしまう。しかし、この時気づいていなかった。コルネリアが笑っていたことに。

 

「やりましたわ!」

 

Die gute(いいえ)、それはこちらのセリフです」

 

瞬間セシリア・オルコットを大きな衝撃を受ける。これによりセシリア・オルコットは気絶してしまうが彼女がその前に見た光景はこちらに砲門を向けるクラーラの姿であった。セシリア・オルコットはコルネリアに夢中になりすぎていたのだ。

 

【試合終了!一学年優勝者はクラーラ・アーベントロートとコルネリア・ヤルナッハ!】

 

このアナウンスが流れると同時に観客席から割れんばかりの拍手が響くのであった。

 


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