みんな、艦これが悪いのよ。
前回、噂の“天の御使い”と遭遇した白蓮ちゃん。
その張本人は天の御使いとやらには心当たりが無いご様子でしたが、
とりあえず行く当てもないという御使い様を誘って領内へと連れて帰ることにしました。
がんばれ!白蓮ちゃん 『第三話 お城にご帰還だよ、白蓮ちゃん!?』
幽州―――。
白蓮ちゃんが治める遼東郡もあるこの地は、大陸の首都『洛陽』からもっとも北東にと離れた場所に位置する土地であります。北方に位置する為、他の州に比べて寒く作物などの収穫も多いとはいえず決して豊かとは言えない土地柄ですが、住んでる民は皆穏やかな人柄の持ち主ばかりであります。
「へえここが公孫賛さんが治めてる遼東の街か」
白蓮ちゃんの馬の後ろにと乗せられた御使い様は、街へと入るなり物珍しげにあたりをキョロキョロと眺めてます。まるっきりおのぼりさんですねえ。
「おいおいそんなに辺りを見回したりして、この程度の街など珍しくも無いだろうに」
落ち着き無く周囲を見渡す御使い様に呆れたように声をかける白蓮ちゃん。まあ天の街に比べたらどの街でも珍しいんでしょうけどね。
「そうですな、都会のような喧騒もなく素朴で味わいのある街といえば聞こえがいいものの、はっきり言えば何にもない“ど”田舎ですからな」
「星…お前なあ、いつも一言余計なんだよ…」
星さんの言葉に白蓮ちゃんががっくりと肩を落としてますね。星さんはそんな白蓮ちゃんを見て口元をにやにやと歪めてますが。まあいつもの光景ですね。御使い様はそんな二人をまあまあと諌めてます。
「お、太守様お帰りですか」
「お帰りなさい伯圭様!いつもお疲れ様です」
おや、そんなことをしてる間に白蓮ちゃんを見かけた民達が声をかけてきてますね。普段から民達の生活の為にと頑張っている白蓮ちゃん。さすがに人気がありますね。どこぞの名家を鼻にかけるだけの袁の人とは違います。
「おおすごいな公孫賛さん。大した人気だ」
「いやいやそんなことはないさ」
白蓮ちゃん照れてますね。
「ああ~たいしゅのおねいちゃん、おとこのひととお馬にのってる~。恋人かなあ?」
「な!」
あら、小さい子供が目ざとく御使い様と相乗り状態の白蓮ちゃんを指摘しましたね。さすが子供は目の付け所が違う。
「おお!ようやく太守様にも春が来たか!おめでとうございます」
「太守様が男の人を連れ帰ったって…あらけっこういい男じゃない」
「伯圭の嬢ちゃんもようやく身を固める気になったか…えがったえがった」
おやおや皆集まってきちゃって、すごい騒ぎですね。
「な、な、な…ちが違うぞ。私とこいつはそんな関係じゃ…」
(え、え~となんて説明すればいいんだ?まさか“天の御使い”です!なんて言えないし…こんな時どうすれば、そうだ!星、助けてくれ!)
チラッ
「って、いない!いつの間に消えやがった~~星!!!!」
星さんたら何時の間にかいなくなってますね。まあどうせ放置しといたほうが面白そうだからって理由でしょうけど。それにしても気配もなく消えてるとは…素早い行動力ですね、こういう時だけは特に。
「「「お幸せに~~太守様!!」」」
「だ・か・ら・違うって~~~!!!!!」だあああああーーーーっと。
白蓮ちゃんったら羞恥の余り、だっしゅで逃げましたね。天の御使い様が馬から落ちかけて引きずられて行きましたが、大丈夫ですかね?
◇◇◇◇◇◇◇◇
「お帰りなさい姉上…って何故そんなに息を切らせているのですか?」
「ぜえぜえぜえ…たっただいま睡蓮。なっなんでもないぞ気にするな」
「そうですか…まあ姉上が言うならそれでいいのですが…それはそうとその引きずってるボロキレはいったい?」
「ボロ?えっとなっなんじゃこりゃあ!!」
白蓮ちゃん今更気が付いたようですが、馬から下りたあとも御使い様をずっと引きずってきたようですね。哀れ御使い様ったら屍と化してますね、ボロボロだ…。
「…おい、北郷?大丈夫か?北郷…おい北郷しっかりしろったら!!」ユサユサ!!
「ちょっちょっとやめて!?死ぬ!それ以上揺さぶられたら本当に死んじゃうから」
「おやおや何やらちと目を放した隙に、大変なことになっておりますな」
おや星さん、いつの間にやらご帰還ですね。
「星!お前なあーー!!!」
「おっとっと、今は私などに構ってる場合ではないのでは?早く治療をしなければ御使い殿が本当にお亡くなりになってしまいますぞ」
「おっと、そうだった、睡蓮すまんが至急医者の手配を頼む。それと星、北郷を客間に寝かせるから運ぶのを手伝え」
そう言うと北郷君の肩を抱くようにして担ぎ上げます。星さんも苦笑しながら逆の肩を担ぎ上げました。
「やれやれ、城に連れてきただけでこの騒ぎとは…これから面白くなりそうですな」
星さんったら、薄っすら目を細めて御使い様を見ながら忍び笑いをするのはやめなさい…怖いから。
やれやれ、どうやら御使い様はとんでもない人に目を付けられてしまったみたいですね。ご愁傷様です。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで姉上、この御仁はどなたなのですか?結局昨日は聞けずじまいでしたが」
翌朝、改めて御使い様と睡蓮ちゃんの顔合わせとなったわけですが、昨日あんな醜態を見せられたせいか睡蓮ちゃんは御使い様を若干不審な目で見てますね。
まあ当然でしょうが…。
「ああ紹介しよう、こちらは北郷一刀。“せいふらんちぇすか”という天の国から使わされた“天の御使い”だ」
「…天の御使い?」
睡蓮ちゃんの御使い様を見る目が若干険しさを増しましたね。
「ああ、私が、い・ち・お・う・報告した庶民の間で流行っている、あの噂ですか」
睡蓮ちゃん、心底呆れたような声を出しましたね。
「しかしあれは元を正せば都のインチキ占い師によるものと報告したはず…まさか姉上、そのような与太話を本気で信じておいでなのですか?」
「だ、だって初めて北郷を見つけたとき、こいつの着てる服が陽の光を浴びて黄金色に輝いて見えたし、それ以外にもいろいろ不思議な物を持っていたんだ。それに麓の民達が流星に乗って落ちてくるのを見たって言うし…あの噂のこともある、本物に違いないさ。きっと…たぶん」
白蓮ちゃんそう言う時は自信なさげに言うものじゃないですよ。見なさい睡蓮ちゃんったら完全に疑ってますよ。
「…ふう、まあいいです。この男が本当に天の御使いであるかどうかはこの場では判断できませんし、とりあえず様子見と言うことにしましょう、それで姉上」
「うん、まだ何かあるのか?」
「何か?じゃありませんよ、この男の処遇です。連れ帰った以上保護するおつもりでしょうけど、皆にはなんと説明するおつもりです?まさか“天の御使い”を保護したと喧伝でもするおつもりですか!」
睡蓮ちゃんはそう言うと、白蓮ちゃんを細くした目で見つめます。
まあこんな田舎の一郡の太守にすぎない白蓮ちゃんが、『天の御使いを手に入れたぞ』なんて他国に知られれば、碌な事にならないでしょうからね。それが心配なんでしょう。
「いや元よりそんなことをするつもりはないが?」
白蓮ちゃんは『何を当たり前のことを』という顔をしてますね。
「…そうなのですか?」
「当たり前だろ?そんなことをすれば都にいる宦官達が難癖つけてくるに決まってるし、周りの諸侯達も黙ってないだろうし、それに第一天子様を差し置いて『天』を名乗るなど、不敬に当たるだろうが」
「「……」」
あら白蓮ちゃんの言葉を聞いた睡蓮ちゃんと星さんが、二人して信じられないものを見たかのようにポカーンとした顔で呆けてますね
「…なんだお前らその顔は…。私は何か可笑しなことでも言ったのか?」
「い、いえ姉上…姉上のご意見は至極真っ当です…真っ当なんですが」
「…いやはや、まさか伯圭殿がそこまでお考えになれるとは…正直見くびっておりましたぞ…」
おやまあ二人して酷い言い草ですね。白蓮ちゃんは決して無能なんかじゃありませんよ?
文官としても武官としても人並み以上にこなせるし、太守としてもそこらの名家であるだけが自慢のへっぽこ太守よりよほど頼りになるんですから。
だからこそあれほどまでに民たちに慕われてるのですからね。
…まあ何でも起用にこなせるけど、特出した才という物が無く所謂“器用貧乏”なため今一目立ちませんが。
それは兎も角、二人の言葉を聞いた白蓮ちゃんが、見る見る不機嫌になっていってますね。
当たり前ですが。
「お前らなあ、私の事を今までどういう目で見ていたんだ」
「まあまあ」
「申し訳ありません姉上」
憤慨やるせないといった感じの白蓮ちゃんを二人掛りで宥めていると、今まで黙っていた北郷君が口を開きました。
「…なあ公孫賛さん。天の御使いとして利用するつもりでないなら、なんで俺をここに連れてきたんだ?」
まあ北郷君からしたら、当然の疑問ですよね。
最初は『“天の御使い”の力を貸して』と言っていたのに、ここにきて『天の御使いとして扱うつもりはない』と言われてもね。
「いやなんでって言われてもな…。」
白蓮ちゃんは両腕を胸の前で組むと小首を傾けながら語りだします。
「いや最初は半信半疑だったんだ。天の御使いなんて所詮はいんちき占い師が己の喧伝のためでっち上げた眉唾物の噂にすぎないだろうと。だけど民達からの訴えがあった以上確認だけはするつもりであの場所にいったんだ。だけどもあの場所で北郷、お前を初めて見たとき本当に驚いたんだ。…だって陽の光を浴びて全身が淡く光って見えたんだぜ!」
興奮しているのか白蓮ちゃん、組んでいた両腕を広げながら顔を高揚で真っ赤にさせて高らかに叫んでいます。
聞いてる三人はちょっと引き気味ですねえ。
「あれを見たとき私は思っちまったんだ“きっと本物の天の御使いに違いない、噂の通りこの世を救うため現れたに違いない”と」
白蓮ちゃんはそう言うとそれまでの高揚した表情から一転、急に顔を曇らせるようにすると今度は俯き加減に話し始めました。
「…だからあの時思わず縋っちまった。天の御使いの力を借りれれば私の民たちをもっと幸せに出来る、そう思ったんだ」
「…」
「だけど話を聞く限りお前は望んでこの世界に来たわけではない、自らを御使いだなんて思ってもしない、それどころかいきなりこんな事態になって困惑していると」
白蓮ちゃんはそこで一度言葉を切ると、御使い様の顔を真っ直ぐ見つめました。
「そう聞いた時私は思ったんだ、お前が天の御使いかどうかは関係ない、ただ困っているなら助けたいと。…お前がこの世界に来た時最初に降り立ったのが私の治めるこの“遼東の地”だったんだ。そこに何らかの意図があるかどうかはわからない。ただの偶然かも知れない。でもこうしてこの地で出会った以上、お前も私の民も同然だ。だったら助けてあげたい…ただそう思っただけなんだよ」
そう言うと白蓮ちゃんは少し照れた風に、御使い様から視線を逸らして横を向いてしまいました。
その頬は少し赤くなってますね。
「…公孫賛さん」
「姉上」
御使い様は何やら感動したご様子ですね。睡蓮ちゃんは少し呆れ気味ながらも暖かな視線を白蓮ちゃんに送ってます。
で、星さんはというと…
(やれやれあいからわず甘いというか、お人よしにもほどがありますな…まあその甘さ嫌いじゃないですがね)
ほんの少し口元を緩めながら楽しげに、いつもの人をからかう様な笑みとは違う物を浮かべ三人の方を見つめているようでした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「…では北郷殿、貴方も子竜殿と同じく客人として向かい入れる事とします。」
その後の話し合いの結果、とりあえず御使い様、もとい北郷くんは元いた場所に帰れる算段が付くまで、この城に客人として招き入れることになったようですね。
「それとここにいる以上何らかの仕事をして頂きますよ。無駄飯を食べさせる余裕など我々にはないので」
睡蓮ちゃんは渋々と言った感じですが。
「…ははは…き、きついな、判っているよ、ただで居候させてもらおうなんて思ってないさ。出来ることがあったらなんでも言ってくれ」
「ええ、そうさせて貰いますよ。最も貴方に出来そうなことなど…ふっ」
あらあら睡蓮ちゃんったら、何か役に立てそうなことあるんですか?と続けながら、鼻で笑ってますね。
「おい睡蓮!そんな物言いは失礼だぞ。北郷は何と言っても“天”から使わされたんだぞ、なんかすっごいことが出来るに決まっている。なあ北郷!」
「え?いや、その、なんだ…」
白蓮ちゃんは北郷くんのことをすっごくキラキラした瞳で見ていますね。もの凄く期待に満ちた目です。
で、そんな期待をかけられた北郷くんは、もの凄い青ざめた顔で言葉を濁しております。
「…そうですね。仮にも天から使わされるほどの御仁ですし、きっと我々には想像もつかないようなお力をお持ちなのでしょう。しかし」
睡蓮ちゃんは北郷くんのお顔を覗き込むように顔を寄せます。北郷くんは少し照れる様に顔を赤らめましたね。そんな様子が白蓮ちゃんは面白く無さそうですが。
「ふむ、やはり知性というものを一切感じないですねえ。」
「…悪かったな」
「ならば武のほうはどうでしょう?貴方腕の方には覚えがありますか?」
「武?ああ武道とかね。一応じっちゃんに習ってた剣には多少の自信があるけど。」
北郷くんは剣を振る素振りを見せます。
白蓮ちゃんは「おお!」とか言いながらしきりに感心してますね。…まだその腕を披露してないのに。
一方、睡蓮ちゃんは一つ深く頷くと星さんの方を振り向きました。
「なるほど、ではその腕前をご披露していただきましょう。子竜殿、お手数ですが一つ北郷殿と手合わせを願いますか?…全力で。」
「…え?」
「ほほう、それは面白い」
それを聞いた途端、北郷くんは青褪めた、星さんは嬉々とした表情を浮かべましたね。
星さんは手に持った槍を軽く扱いた後、もの凄い速さで素振りを始めました。
「どれ北郷殿一つ手合わせと行きますか、いざ!」
「いや、いざじゃねーから、趙雲と手合わせなんて死んじゃうから!」
涙目で抗議の声を上げる北郷くんに、星さんは一点の曇りの無いほがらかな笑みを浮かべて
「ふむ、天から使わされた御仁がどういった戦い方をするのか、個人的にも興味ありますな。北郷殿ここは模範試合ということで一手お手合わせを。むろん勝ち負けは関係なく、遺恨は抱かないということで」
槍を正眼に構えた星さんが、犬歯を剥き出しにした笑顔を浮かべ北郷くんに近づいていく。
「あ、いや、ちょっと待って。チョットマッテクダサーイ、チョウウンサン!無理ですって、俺程度の腕で、貴方と戦えるはずないですってーーーーッ!?」
「ははは、ご冗談を」
半泣き状態で否定する北郷くんだが、星さんは気にも留めません。
彼女は言います。
「では参りますぞ」
そんなこんなで、北郷くんの絶叫がお城に木霊するのでした。