未来への進撃   作:pezo

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物語の進行上、ストヘス区でのアニとの戦いをばばーんとはぶき、アニが引きこもりになるところから書いております。

完成しすぎててイリヤの入る余地なかったです。イリヤはミカサの後ろをビョンビょん飛んで、ハンジを手伝って、ぴょんぴょんしてただけだとお思いください。

彼のおかげで誰か助かっていたらいいな。

ミカサの活躍を書きたい……。







端正な街並みが瓦礫に埋もれ、その隙間から、罪なき住民たちの赤い血がにじみ出ていた。まさに、ストヘス区は地獄絵図と化している。

 

怒号と悲鳴が街中に満ちる。それは、五年前のあの日のシガンシナ区の悲劇を想起させる。しかし、エルヴィン・スミスは手錠をはめられた両手を握りしめたまま、微塵もその視線を揺るがせなかった。

 

「終わった」

 

彼と、彼を拘束する憲兵団の面々が見守る先、ストヘス区の壁付近の広場に、ひらりと見事な立体起動で舞い降りた烏のような人物。人類最強と呼ばれる、エルヴィンの懐刀が街を破壊し尽くした巨人のうなじを削いだのが遠目からでも見えた。

 

「……エルヴィン。お前……!!」

 

呼ぶ声に振り向けば、憲兵団師団長であり、かつての友、ナイル・ドークが彼を怒りに満ちた目で睨みつけていた。街の安全を護る憲兵団の長だ。自分がしたことに全うたる正義感でもって憎んでいるのだろう、とエルヴィンはその友の正義感に少しだけ羨望を抱いた。

 

「目標の様子を確認したい」

 

エルヴィンは憲兵団の兵士たちに目配せして、両手に枷をはめたまま、さっさと足を広場へと向ける。勝手に歩き出す調査兵団団長たる罪人の行動に、兵士たちはうろたえながらそれを追うばかりであった。

 

 

イリヤを班長としたアルミンやエレンの班が、目標であるアニ・レオンハートを地下空間へとおびき出す作戦は、作戦の露呈によって目標が街中で巨人化したことで失敗に終わった。目標が巨人化したこと、そしてエレンの巨人化までに時間がかかったことにより、調査兵団は再び数班の人員を失ったが、イリヤ率いる班員たちは全員無事であった。

 

その後、女型の巨人はハンジ分隊長率いる第四分隊の罠をもかいくぐり、壁の向こうへと逃げようとしたが、巨人化したエレン、そしてミカサ・アッカーマンの機転によってそれは防ぐことができた。

 

だが、結果として、アニ・レオンハートの捕獲という作戦は失敗に終わったと言える。

 

「作戦成功、とは言えねえな」

 

憲兵団に拘束されているエルヴィンに、痛む足を引きながら近づき言ったのはリヴァイである。広間には、すっかり蒸発し、骨だけになったエレンと女型の巨人の残骸が大量の蒸気を放っている。

 

その足元で右往左往する調査兵の間に、アニ・レオンハートを包む結晶が見えた。彼女はエレンにうなじから出されそうになった時、そのまま透明の殻に閉じこもってしまったのだ。おそらく硬質化の能力であろうと考えられたが、結果として調査兵団は彼女を目の前に全てを失うこととなった。

 

透明の棺の中で、アニ・レオンハートは口を閉ざして眠りについて目を開けることはない。

 

調査兵団の一同が、ストヘス区の住民の命を奪ってまで得ようとしたものは、目の前ですり落ちていった。それに一同が焦る中、エルヴィンだけは希望を見出していた。

 

「いや。我々調査兵団の首は繋がった。おそらく、首の皮一枚で」

 

「……だといいがな」

 

リヴァイが目をそらして言った。

 

「エルヴィン。区長からだ。今から事情聴取をさせてもらう。リヴァイ、お前は待機だ。……いいな!?」

 

苛立った声で彼らに言ったのは、ナイル師団長である。その師団長の指示で、エルヴィンの枷が外される。忌々しそうな顔のナイルを見るに、エルヴィンの言う通り、彼は「罪人」ではなくなったようだ。ここから先は、エルヴィンの口八丁の出番だろう。「異論ない」と答えたエルヴィンに、憲兵団たちは戸惑いを隠しながらも彼を区長のいる本部へと引き立てようとした。

 

そのとき、焦った声がエルヴィンの背中を叩いた。

 

「エルヴィン団長!!壁の中に巨人が!!」

 

振り向けば、そこにいたのは、イリヤ・ツェラン調査兵だった。顔面蒼白の若い兵士に、リヴァイが「落ち着け」と諭すように言う。彼は息を切らせながら、「壁に」と繰り返す。

 

不思議に思ってみれば、広間でアニ・レオンハートの結晶を運んでいた調査兵たちがざわついている。その中心で、なにやらハンジが分隊長らしく厳しい顔で指示をとばしていた。その側には、見慣れぬ格好の男が立っている。

 

「……ウォール教の?」

 

遠目からでも、首元に掲げた高価そうな金色の首飾りがよく輝いて見えた。あれは、ウォール教独特の信仰の証たる首飾りだ。

 

「女型の巨人が傷つけた壁がはがれて、穴から巨人の顔が見えました。今、ウォール教の司祭の指示でハンジ分隊長たちが壁の穴を塞いでいます」

 

息を切らし、汗をにじませてイリヤが報告する。その報告に憲兵団たちは一様に戸惑ったようにざわめいた。黙したままなのは、リヴァイとエルヴィンだけである。ちら、とリヴァイから視線を投げられたのを察して、エルヴィンは頷いた。

 

状況は混乱を極めている。

 

「そちらはハンジに任せる。司祭から情報をしぼり出せ。どんな手を使ってでも吐かせるんだ。イリヤ、君はハンジのもとにつけ。私は区長との事情聴取に赴く。リヴァイ。お前はハンジの代わりに目標の結晶を地下へ運ぶ指示を」

 

「了解だ」

 

「承知いたしました!」

 

指示をもらってその場を離れようとする二人。その姿に、エルヴィンはイリヤの名を呼んで止めた。イリヤが不思議そうに振り返り、リヴァイはちらりと視線だけエルヴィンに寄越したが、すぐにそのまま広間の方へと足を向けて立ち去った。

 

「今回は怪我はなかったかい」

 

「え?あ、はい!今回はミカサの援護もあり、怪我は一切ありませんでした」

 

「女型と交戦して無傷とは大したものだ。良かった」

 

「え?」

 

「君に何かあれば、私はクシェルに合わせる顔がないからな。治るとはいえ、気をつけてくれたまえ」

 

ナイルがエルヴィンを催促する声がする。エルヴィンは、新兵とも言えるほど若いその兵士を労って、憲兵団のもとへと足を運んだ。言われた側のイリヤは首をかしげて意図を理解できていないような表情のまま、その場をあとにした。

 

高くそびえる壁の向こう。赤く滲んだ太陽が沈みかけている。その夕暮れの街の中は地獄に満ちている。しかし、エルヴィンだけは、その地獄の向こうの景色を見据えて、拳を今一度握りしめた。

 

 

**

 

 

「簡易的ですが、穴は防げました。今夜は凌げるかと思います」

 

壁の上。夜に沈みつつある街を見下ろしながら、イリヤは後ろに控えているハンジ分隊長へと告げた。彼の横では、身を乗り出してウォール教のニック司祭が穴が布で塞がれていることを確認している。

 

「さて……。そろそろ話してもらいましょうか」

 

妙に緊迫した沈黙が満ちていた壁の上で、口火を切ったのはハンジ分隊長であった。

 

「この巨人は何ですか?なぜ、壁の中に巨人がいるんですか?そしてなぜあなた方は、それを黙っていたんですか?」

 

身をかがめて壁の下を覗き込む司祭に、常とは違ってゆっくりと、抑揚少なく分隊長が問う。珍しく汗に滲んだその横顔は、静かな戸惑いに満ちていた。ゴーグルを外した彼女の緊迫した横顔に、平穏な静けさとは違う恐ろしさを、イリヤは感じつつ後ろに身を引いた。

 

「私は忙しい!教会も信者も、めちゃくちゃにされた。貴様らのせいだ!あとで被害額を請求する。さあ!私を下に降ろせ」

 

ニック司祭が体を起こして何食わぬ顔でそう言った。イリヤがその物言いに腹をたてる前に、明らかに空気を一変させたのはハンジ分隊長と、その隣で控えていたモブリット副官である。

 

「いいですよ」

 

が、先に動いたのはハンジ分隊長であった。

 

「ここからでいいですか?!」

 

彼女が、右手でニック司祭の胸ぐらを掴み上げ、そのまま壁の端へと引きずり込んだのだ。彼女が手を離せば、真っ逆さまに司祭は地面へと叩きつけられるだろう。女性とは言え、鍛え上げられた分隊長に、司祭はなすすべなく手をばたつかせるだけだった。

 

「分隊長!」

 

「寄るな」

 

突然の上官の行動に止めに入ろうとした副官たちを、彼女は一言で制する。

 

「ふざけるな!お前らは我々調査兵団が何のために血を流しているのか知ってたか!?巨人に奪われた自由を取り戻すためだ!そのためなら、命だって惜しくなかった……」

 

彼女の声が、イリヤが聞いたこともないくらい怒りに満ちている。その上官は、冷たく言い放った。

 

「いいか?お願いはしていない。命令した。話せと。そしてお前が駄目なら次だ。……何にせよ、お前一人の命じゃ足りないと思っている!」

 

仲間の死を背負った彼女が、その司祭の体をさらに壁の端へと追いやる。もう彼の上半身のほとんどは空中に放り投げられていた。

 

しかし、情けない声を発していた司祭は叫んだ。

 

「手を離せ!」

 

「今離していいか?」

 

「今だ!」

 

「だったら死んでもらおう!」

 

そのやりとりに、モブリット副官が「ハンジさん!」と顔を青くして彼女を諌めようとするも、彼女は聞く耳を持たない。マズイ、とイリヤが思った時。

 

「私を殺して学ぶがいい!我々は必ず使命を全うする。だから、今……」

 

司祭が声を震わせながら、それでも両手を広げて大きく叫んだ。

 

 

 

「この手を離せぇえええええ!!!!」

 

 

 

沈黙の中に、「かみさま」と願う男の声が小さく漏れる。それに、手を震わせた分隊長が、乱暴に彼の体を仲間の方へと投げた。ひっくり返って、命を救われた男はごろりと転げた。

 

 

 

「……ふっひひ。ウソウソ。冗談……」

 

分隊長が笑いながら壁に腰を下ろす。ニック司祭が嗚咽をもらして涙を流す姿に、イリヤは同情心をそそられて、彼の近くに膝をついた。

 

「ねえ、ニック司祭。壁って全部、巨人でできてるの……?」

 

わずかに震えた分隊長の問いかけは、泣く司祭には届かずに空中を舞ってそのまま霧散する。肩を震わせる信者の姿に、イリヤはハンカチを差し出した。

 

「顔をふいてください」

 

「……き、きみは」

 

「イリヤ・ツェラン調査兵です」

 

差し出したハンカチに顔を上げた司祭に名乗れば、彼の手がぴたりと止まった。みるみるうちにその表情が一変する様子に、イリヤはどきりと胸を強張らせた。

 

 

 

「ツェラン……。救世主の末裔が……死んだはずでは」

 

 

 

今度は「救世主」か。見知らぬ単語に、イリヤは動揺を隠しきれぬまま、息をつめた。ツェランの名前に反応した司祭に問おうと口を開きかけた時には、その男は「喋るまい」とでも言うように、イリヤから顔を逸らして口を真一文字に閉じてしまった。

 

自分のあずかり知らぬ肩書きに、イリヤは再び自身の由来の謎に身を焼かれる。

 

 

 

「詩人」、「裏切者」「出来損ない」。そして、「救世主」?

 

 

 

 

「分隊長?」

 

「あぁ。いつの間にか忘れてたよ……こんなの初めて壁に出た時以来の感覚だ……」

 

ハンジ分隊長のつぶやきが、静かな壁の上に響く。

 

 

 

「怖いなぁ……」

 

 

 

その声が、イリヤの心中にも滲んだ。

知らないという恐怖が、彼の中を蝕み始めていた。

 

 

 

 

**

 

 

 

「いつだってお前はそうだ。夢みたいな理想論で相手を丸め込んじまう。まさかこんな罪人が野放しにされるなんて……」

 

薄暗い会議室で、部下たちと部屋を出ようとしたエルヴィンに、痛烈な批判がとんできた。

 

 

区長たちによる聴取が終わり、部屋に残ったエルヴィンにそう悪口を叩いたのはナイルである。副官を二名連れたエルヴィンに対し、師団長であるナイルは共を連れていなかった。エルヴィンは、副官二名に部屋を退出するよう命じた後、薄暗い部屋の中を振り返った。

 

夕暮れの最後の橙色の陽光が、細く部屋に差し込んでいる。その陽光に、わずかに照らされたナイルが悪態をつく。対するエルヴィンは、暗い影になった扉の前で、眩しそうに彼を見つめた。部屋には他に誰もいない。

 

「ナイル。君の非難は正当だ。私はそれに報いるために人類のため、この身を捧げる覚悟だ」

 

「人類、か。……お前は変わらないな」

 

「君は内地の人間を守れ。私は私の仕事をする。それぞれの仕事をする。それだけだ」

 

そう言った時、壁の上にそなえられた鐘の音が鳴り響くのが部屋の中にも聞こえた。

 

それは、エルヴィンにとっては聞き慣れた、門扉解放の鐘の音だ。しかし、この内地のストヘス区には似つかわしくない音だ。壁が開くときだけ鳴らされるそれ。

 

つまりそれがシーナ内地のストヘス区に響くということは、異常事態の発生を告げる。

 

「ナイル」

 

鐘の音に緊張を走らせたエルヴィンが彼を振りむいた瞬間、強い力で右肩をわしづかまれた。

 

「エルヴィン!お前ら調査兵団が今、必要なことはわかってるがな!俺はお前がしたことを絶対忘れねえぞ。王政が許しても、俺は忘れねえ。今日のことは絶対にな……!!」

 

肩を掴んで、睨みあげてくるナイルにエルヴィンは息を呑む。

 

その鋭く小さな目が、薄暗い部屋の中で自分を憎むように見上げている。その友の鋭い視線に、エルヴィンは場違いにも、安堵したように笑みをこぼした。

 

 

 

「ナイル。お前が憲兵団にいてくれてよかった。忘れないでいてくれ。俺を、許してくれるな」

 

 

 

そう笑って、部屋の扉を開けた。

 

ナイルが何か言うより早く、扉を開いた瞬間に、血相を変えたエルヴィンの副官たちが振り返った。やはり、何かあったのか。

 

「どうした」

 

「団長!先ほどミケ分隊からの早馬が!……ウォール・ローゼが突破されました!巨人が侵入したそうです!」

 

その報告に、背後でナイルが言葉を詰めたのが気配でわかった。エルヴィンはすぐに部屋を出て、頭の中で算段をたて始める。

 

「早馬は……クシェルか?報告を聞きたい。連れてきてくれ」

 

「いえ!」

 

振り返った副官たちが、二人して言葉を少しだけ躊躇った。それに不思議に思い、どうした、とエルヴィンが再度問う。

 

「早馬はトーマです。クシェル副官は、ミケ分隊長たちと共にローゼに残っているようです。生死の如何はわかりません」

 

彼ら二人の副官の先輩格たるクシェルの不在に、彼らの声が震えた。エルヴィンの中で、少しだけ何かが音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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