昼休み、織斑の幼馴染の感覚について違和感を覚えたことや凰が織斑の事に惚れていることは察したこと以外は大したことはなく、俺はISを借りることができたということもありアリーナで練習していた。
「夜塚さんは銃の使用経験はありまして?」
「昔に少しな。と言っても6、7年前のことだからほとんど忘れているが………やっぱりISは銃の方が有利なのかね?」
「織斑先生という前例もありますし、必ずしもそうだと断言はできませんが………ところで夜塚さんのランクは本当にD⁻ですの? 再検査した方が良いと進言しますわ」
オルコット先生にわかりやすく教えてもらっているが、その理由はもう1人の方は別の奴が教えているのだ……いや、あれは教えているというより……戦ってる?
ちなみに、俺は今PICをマニュアルに設定してホバリングしている。本来なら設定を変えてもランクがD⁻ならばそう簡単には浮けないというのがオルコットの談だ。
「どうした一夏! その程度か!」
「まだだ! まだ終わらねえ!!」
「………名前も似てるし、装甲を金に染めてきていいか? あとサングラスをかけることを強いてくる」
「ダメですわ。……それもアニメのネタですの?」
「まぁな。でもま、話を戻すと俺は結構前から飛べていたから今更じゃないか?」
「その飛び方は何を参考にしていますか? ぜひ知りたいのですが」
「だったら後で俺の家に来いよ。ゲームなら揃ってるから」
何か落胆されているけど、まぁそれはいつものことだしな。
「あ、来るなら8時くらいにしてくれ。これ終ってから機体整備して、トレーニング……あれ? 時間が足らない」
「……起床時間はいつでしょうか?」
「5時前後。6時半まで走ったり柔軟したり、後は筋トレかな」
………オルコットの顔が尋常じゃないほど引き攣っているが、変か?
「…まぁ、心配だと言えば心配だけどな。卒業したらさらに太りそうで」
……ところで、そろそろ下の方を止めるべきだろ。さっきから織斑がバテてるし。
まずは降りて織斑の負けを宣言して止めてやる。……何故か篠ノ之が不服そうだけど、こいつに任せていたらやはり問題かもしれない。
「……にしても織斑、ISに乗り始めた篠ノ之に完敗って専用機持ちとしてどうなの?」
「……そう言うなよ。だって箒、強いし………」
「一応言っておくが、篠ノ之はランク的に言えば俺よりも下だからな?」
……まぁ、これは相性を含めるけどな。
実際、篠ノ之にはある意味致命的な弱点がある。そこを突けば俺でも篠ノ之には勝てる。
「ほう。ならば私と戦うか?」
…………それも、いいかもしれないな。
考えてみれば、俺が誰と戦えないのかは知っておいた方がいい。もしかしたら更識だけってことかもしれないし。
「OK。ただし、先に言っておくが俺はセクハラ上等だから遠慮なくさせてもらう」
「「何でだ(よ)!?」」
何でって言われても、それが俺の戦い方だしな。
「批判されるでしょうが、わたくしは夜塚さんの戦い方は間違っていないと思いますわ」
「「え?」」
こればかりは俺も驚いた。やられた本人がまさか肯定するとはな。てっきりオルコットは気に入らないと思っていたが。
「確かに酷い戦法だとは思いますが、それは自分の強さを把握しているからこそできること。むしろその精神は認めるべきかと。……大体、ISも兵器である以上は地雷などのトラップを仕掛けるのは当然でしてよ。まぁ、それを簡単にはできないので、わたくしのブルー・ティアーズのような第三世代兵器があるのですが」
「……………」
ふっ。流石は狙撃手と褒めておこう。俺の作戦を見事に見透かすその観察眼は恐れ入る。………結構地雷あったから入れていた俺の腹の内を見透かされるとは思わなかった。
「じゃあ、始めるか。お前ら2人は危ないから下がってろ」
オルコットと織斑は俺の指示を聞いて端の方に行く。
「では、始め!」
オルコットが号令を出して俺たちは同時に動いた。
「先手必勝!!」
そう叫びながら篠ノ之は俺の方に向かって来るので、大きく避けずに回避し、連続で行いながら思考する。
俺はこの戦いを始める前にある仮説を立てた。それは―――相手によって怖がるのではないかと言うことだ。
おそらく今の俺は織斑はボコれる。どうなろうと知ったことではないからな。当然、同じ理由で織斑先生も却下。そしてオルコットは難しい。攻撃できないことはないが、今オルコットをボコる理由がない。
―――となれば、篠ノ之はどうだろうか?
篠ノ之箒。名前の珍しさからして篠ノ之束の妹だと思うし、実際3年が「篠ノ之束の妹だからって調子乗ってんじゃないわよ」ってキレていたのを目撃したことがあるからビンゴ。それ以外は剣道が得意なようだが怒りやすいという欠点を持っていて、胸がデカい。外国の人がそう言うのならイメージがあるのは納得だけど、そのオルコット以上だというのは突然変異か、もしくは背筋が常時伸びていることが起因しているのか……。ともあれ、重なるが沸点が低いのは難点であり、今日の昼も凰との関係を迫っていた。本人は自覚はないだろうが、内心は女としての魅力に自信がないのかもしれない。―――よし、整理は終わった。攻めるか。
「篠ノ之、実はお前に言いたいことがあった」
「何だ!」
「実はお前が……お前のことが好きなんだ!!」
途端に篠ノ之の動きが鈍った……いや、止まった。
まさか自分に惚れる奴がいるとは思わなかったのだろうか。どんな人生を送って来たのかは知らないが、篠ノ之は容姿に限定すればモテる方だと思う。
「…………確かにお前の気持ちは……悪くない……だが私はその気持ちに応えることはできな―――」
「隙あり」
篠ノ之の足元にある地雷を撃ち抜いた。
実は篠ノ之が俺を追って迫ることは予想していた。だからこそ、回避する前に地雷を投げて設置したのだ。
「貴様!!」
「悪いな篠ノ之。確かにお前は魅力的だが、俺はお前以上に魅力的な女を知っている」
別に恋しているわけじゃないからな!!
「…………何で私が振られたみたいになっているんだ」
「良い形しているからお前の胸は魅力的だとは思うがな。………性格がなぁ……」
「性格に関してはお前にだけは言われたくないぞ!!」
俺が言うのもなんだが、どんぐりの背比べだろ。
「ところで篠ノ之」
「何だ?」
「その周辺、地雷原だから」
そう言って俺はフルオート銃で篠ノ之の周囲を撃ちまくり、爆発させた。
「良し」
「いや、良しじゃねえだろ!!」
いや、良しだ。何故なら俺が他人に攻撃出来たからな。……ま、実はこの戦法には大きな弱点があり、おそらく織斑と篠ノ之ぐらいにしか使えない。
「まだだ……まだ私は負けてない!!」
「ならば、敗北の味というものをその淫らな体に教え込んでやろう」
「淫ら言うな!!」
とか言って、結局遠距離からの攻撃で篠ノ之は何故か為す術なくやられた。………打鉄の中には《焔備》という遠距離武器があったんだが、何故か使わなかった。
そして時間になったので俺たちは撤収。持って来た作業着に着替えて先に送っておいたラファール・リヴァイヴの整備をするために整備室に移動した。ピットを出る時に凰が入れ違いで入って行ったが、声をかけずに内心エールを送ってやった。
整備室に移動すると先約がいたのだが、その先約はあまりにも似ていたので一瞬更識かと思った。いや、実際彼女も「更識」であることは間違いないのだが、彼女の名前は「簪」…つまり、妹である。
彼女も整備室で用があるのか、見たことがない機体の前で何かをしていたようだが……さっきから俺と目が合ってお互いが見合っている状態なので、そろそろ気まずくなってきたので自分の機体の整備を始める。
(………にしても、凄いな)
俺の記憶が正しければ、彼女はまだ15歳のはずだ。それが………どう見てもISを作っている風にしか見えないんだが……。
我慢できなくなった俺は声をかけることにした。
「更識簪、聞きたいことが――――あー、流石にそこまで逃げられると傷つくが………」
声をかけると、小動物みたいに飛び上がってISの後ろに隠れ、少し顔を覗かせてこっちを見ている。
「………な……何……?」
「もしかして、お前はこの機体を作ってるのか?」
「………うん」
冗談、だろ?
普通、ISだけでなくこういった機械類は車然りバイク然りちゃんとした場所で作成されるはずだ。だというのに何故女の子1人でこんなことを……? 確かにIS学園は設備は揃っているからできなくはない。だが、流石に無茶だ。彼女も日本の代表候補生であることから決して素人だとは言えないが、それでも彼女はあくまで操縦者。技術者としては未熟なのだろう。
「………もしかして1人か? 流石に危ないだろ。それに、普通なら専属のスタッフがいるはずだろ」
「………それは……その……」
話しにくそうにする更識妹。俺はため息を吐いて言葉を続ける。
「…………何か、事情があるのか? スタッフがいない理由が」
「……………」
ビンゴ、か。
にしても、今日の俺は一体どうしたんだろうな。いつもなら鼻で笑って馬鹿にして終わりなんだが………。
「………知識も大してないが、手伝おうか? 荷物運搬ぐらいなら手伝えるけど」
「………大丈夫。……それに、他人に手伝ってもらったら……それこそ……意味がない……」
………何か訳あり、か。少し気になるが、これ以上は流石に、な。
別に俺はこいつの身内でもないし、本来なら最初の質問で会話は終わるべきだった。無駄に踏み入れすぎたな。
「そうか。じゃあ……まぁこれしか言えないが……頑張れ…」
「……うん」
俺たちはそれぞれの作業に戻り、整備が終わったので機体を戻して整備室を後にした。………今度来るときはスポーツドリンクでも差し入れしてやろうと思いながら家に戻ると、
「………何やってんだ、凰」
何故か俺の家の前で凰が立っていた。
■■■
―――思ったより、普通
それが簪の透に対する印象だった。というのも、透に関しては色々と噂が立っていたのである。
曰く、女を見つければ自分の有利のルールに持ち込んでレイプする。
曰く、首輪とリードは常備していて、所かまわず襲う。
曰く、デブの癖に千冬様などに反抗し、立場をわきまえない。
身長が高く、木偶の坊やらなんやらと言われているが、織斑千冬に物怖じしないことやイギリスの代表候補生を相手に傍から見れば完全にズルをして勝ちに行くなんて普通ならできないことだ。最初は怖かったが、途中から自分の事を心配してくれていることに気付いた簪は「悪い人ではない」と判断を下した。
「………?」
考え事をしながらそろそろ時間なので変える準備をしていると、さっきまで透がいた場所で残っている紙を見つけた。簪はそれを拾うと、中にはこう書かれていた。
『楯無お姉さんのハードメニュー←俺の方が年上なんだが?
朝は腕立て伏せ、上体起こし、海老反り、スクワット、各50回3セット。
夜は各100回5セット。
それが終われば2㎞サイクリング(徐々に距離を伸ばすべし)
する前と終わった後はちゃんと柔軟するように。楯無お姉さんとの約束よ?←黙れ年下』
そんな内容に、簪は顔を青くした。
(………そう……言えば……)
最初の頃とかなり体型が違ったような……そう考える簪。
事実、本人はあまり気にしていないが体型はかなり変わっている。それでも脂肪が残っていることもあり透自身はまだまだだと思っているが、ダイエットの成果は出ていた。
もちろんこれは簪はもちろん楯無自身も知らないことだが、柔軟の前にサンドバッグを殴ったり木刀で素振りしたりと他にも色々している。
(………これを………毎日……)
正直、ゾッとしていた。こんなメニューを出す楯無もだが、それをこなそうとする透もだった。
姉と会っていることに驚いたが、あの態度からは姉に頼まれて来たわけではないということは理解している簪は、とりあえずこの紙を彼の部屋に持って行こうと心に決めた。
………問題は、どこに住んでいるかということだが。
たぶんこんなトレーニング、スポーツマンならできそうですよね。