IS-Lost/Load-   作:reizen

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ep.15 衝撃の事実

 俺は逃げることが得意な方だ。

 面倒なことは極力回避していきたいという精神の持ち主だし、これまでずっとそんな人生を送ってきた。まぁ、基本的に痛いの嫌いだしな。

 

「環境破壊してんじゃねえよクソが!!」

 

 そう叫びながら、俺は森を抜ける。森は1本1本が大木で形成されているはずだが、人と大して変わらない姿を持ったその機械は何故か躱さずすべて切っている。

 別に俺も環境問題どうこう言える立場にはないが、とりあえず何か叫びたかったので敢えてそう叫んだだけだ。

 

(っていうか一体何なんだよ、アレは)

 

 親族から恨みを買っているが、だからと言ってここまで直接的な攻撃をされる謂れはない。すべて向こうからの攻撃を潰して来たんだから。

 

(にしても遅いなぁ、おい)

 

 さっきアリーナを揺らした原因はこっちなんだし、そろそろ鎮圧部隊を送り込んできてもおかしくない。もしくはあれか? 俺の素行が気に入らないからこっちを助けないのか? だとしたら織斑から白式を没収は確実だ。というか殴る。ひたすら殴る。有無を言わさずひたすら殴って殴殺は確定だろうよ。

 

 ともかく今は逃げ続けるしか案が出ない。

 

(………っていうか、おかしくないか?)

 

 そもそも、どうして向こうは両腕にギロチンを彷彿とさせる大きな刃を装備している人型だ。だがその前は大きな両腕をしていたゴリラに近いそれだったはず。何故わざわざ変形して俺を襲う? 普通に考えて非効率的だろう。ま、こっちには手段がないんだけどな。

 

(試すこともできない状況だしな)

 

 奇策は思いつかず、武器も持っていない。IS学園の中だと思って完全に油断していた。

 

 逃げ続けていると、痺れを切らしたのか向こうは俺の前に現れて腕を振り下ろして来た。

 咄嗟に後ろに飛んで回避する。あっぶね。服が破けたじゃねえか。

 

「………いつまで待たせんだよ、クソが」

 

 そう悪態をつくが、救援が来ないことには変わりない。俺は今すぐ逃げようとしたがそれよりも早くその機械に蹴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が霞む。ピンポイントで良いものをもらったからだろうな。

 所々から痛みを感じるのは、木箱の山に直撃したからか。どうやらワインを飲む物好きもいるようだ。

 

(……これは……結構マズいのではないのかね……)

 

 やれやれ。全く面倒なことになった。そして……視界が暗くなっていく。

 

「…………ざけ……んなよ……」

 

 何でこんなことになった? 何で誰も助けに来ない……? 何故俺には……専用機が与えられなかった……?

 

 ―――何故……俺ではなく……織斑なんかに専用機がいった?

 

 非合理……ああ……非合理だ……。いや、おかしいだろう……?

 そもそも、織斑なんかに渡す必要は皆無だろう……? なのに……何故アレに渡した? 何の努力もしない、何の練習方法も思いつかない、自分の欠点すら、機体の欠点すら見抜けない……あのゴミだ……。

 

(………やはり……世界は……)

 

 ―――狂ってる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人型の機械は両腕の刃を収納し、ゆっくりと透に近付く。その様子をカメラで見ていた女性は笑みを浮かべた。

 

「さてさて、それじゃあ持って帰ってね」

 

 そう言いながらその女性はコマンドを入力する。瞬間、画面が暗転してその場からアラームが鳴り響いた。

 

「え? 何? 一体何が―――」

 

 女性はすぐさま自分の周囲のカメラを調べさせるが、侵入者は見当たらない。アラームを止めようとしたがコマンドが受け付けられずに鳴り続ける。

 

「ちょ、何がどうなってるの!? 何で!? 何でこの天才束さんのパソコンをハッキングしてんの!?」

 

 わかったのはそれだけだった。次々と彼女がこれまで蓄積してきたデータを奪い始め、束はそれを阻止し続ける。だがそれは5分程度のものだった。

 束はすぐに逆探知を開始。その場所を特定したが、すぐさま別の仕事にかかる。

 

「え? ちょ、箒ちゃん!?」

 

 自分が作った、透を襲った同型機が自分の妹である箒に向かって熱線を撃とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無人機は動かなくなる。

 やがてIS形態になったそれはある特定の場所に移動を始める。

 

(……ホント、人間の身体って脆いわね)

 

 そう思いながら、次々と流れていく血を()()()感じながら笑みを浮かべる。

 

(……ISが1機、こっちに来るわね。……このパターンは……ああ、なるほど)

 

 その存在は上体を起き上がらせようとしたが止め、敢えて横たわらせた。

 

「夜塚君!!」

 

 透の状態を確認するために一度ハイパーセンサー以外を解除して近寄り、応急処置を施して再びISを展開して運んだ。楯無は「もしかしたら」という勘が働いたが故に透の居場所を探していたのである。

 

(……やっぱり、彼にもISを持たせるべきだわ)

 

 そもそも、初心者でありながら楯無に肉迫できる実力を持っている時点で白式―――いや、白式でないにしてももう少し彼の適性を調べ、それに合った機体を用意するべきだ。楯無自身がそれを何度も打診したが、上層部は知らぬ存ぜぬ、挙句「必要ないだろう」と嘲笑する始末である。

 楯無は奥歯を噛みしめながらその場を離脱。第二アリーナで倒れた一夏の順番を後にして先に治療させた。

 

 もし楯無が透が瀕死な状態で見つけず、冷静であったら気付いていたかもしれない………とある少女が苦しむことになろうとは、この時誰も思わなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感覚的に言えば、普通に起床したような感覚だった。

 俺は上体を起こして口についている酸素呼吸器を外して軽く首を振る。どうやら俺は無事らしい。

 

(………とんだ災難だな)

 

 元々ゴリラだった奴がどういう原理か人型に変形するなんざ聞いたことがないが、開発者は一体何を企んでいるんだろうか? まさか俺を殺す気で………あり得るから困る。

 今の世の中、女にとって俺たち男性IS操縦者の存在はかなり都合が悪い。場合によって俺たちの存在があるってだけで女の立場が悪くなるからな。理解はできなくない。

 

(……ともかく、バ会長に頼んで銃やナイフ、そしてISの調達を頼むか)

 

 仮にも死にそうな目に遭ったんだ。少しくらい融通してくれたって構わないだろう。周りからの反発は大きそうだが、今後も狙われる可能性があるのなら対策はするだろうしな。

 機器に疎いわけではないが、とはいえ慣れていないものに触れる趣味もないので近くにあるであろうナースコールボタンを押して人を呼ぶ。

 

(……そう言えば、今って何時だ……?)

 

 一体どれだけ寝ていたかわからないが、簪のこともあるし現状はちゃんと把握しておきたい。

 そう思った俺はしばらく待っているが誰も来なかったので何度も押した。

 

「………留守、か?」

 

 だとしたら迷惑極まりない。全く、人くらい残しておけっての―――と思った瞬間にドアが勢いよく開いた。

 

「夜塚君!」

「何だいきなり、何を―――」

 

 初! 女の子に抱き着かれる!!

 テンションを上げて内心ガッツポーズしたが、冷静になって楯無をやんわりと離れさせた。

 

「で、俺がここにいるってことは相応の被害に遭ったみたいだが、あの日何があった? どうして教員は動かなかった?」

「……教師たちは確かに動いていたわ。アリーナに侵入してきたのは1機だけじゃなかったの?」

「………ほう?」

 

 事の顛末を軽く整理すると、どうやら俺の方だけでなく織斑たちも襲われたそうだ。そこで楯無と布仏姉は生徒の状況の把握につとめ、簪たちの方にも行っていたことを知り、すぐに保護しに行ったようだ。だが、いたのは4組の他の生徒だけで、簪たちがいないことに気付いた楯無は数人のIS操縦者を連れて外に出て探しに行った。その時に俺が近くにいたことも知ったらしいが、それを聞いた1人の操縦者が言ったそうだ。「どうせ死んでるんじゃない?」と。

 

「あの時は本気で殴りそうになったわ」

「よしよし。よく耐えて俺を探してくれたな」

「………あなたは今どこを触ったかしら?」

「良い尻をしていると思うぞ?」

 

 ―――パンッ

 

 痛みに耐えつつ話を戻すと、それでも無理矢理引っ張って外に出て周囲を捜索し、気絶している簪を発見した。バイタルに異常がなかったので仲間を呼んで運んでもらい、合流した後に俺を探したらしい。

 

「本当に焦ったわ。あなたを見つけた時には既に死にかけ。手術は成功したけど峠は今夜だって言われて………簪ちゃんがそれを聞いて閉じこもっちゃうし」

「……は? おい待て、それどういうことだ?」

 

 俺が問うと楯無が小さく言った。

 

「……どうやら、あなたが死にそうななったのを自分が気絶したせいだと思って……」

「俺は形的に簪を押し倒したんだが」

「その件に関して詳しく聞かせてくれる?」

「すまん。冗談だ。まぁ、あれだ? 機械が襲ってきて逃げて飛び降りたところに簪が俺をキャッチしたら敵が撃って来て、簪が防いでそのまま地面に激突したんだ。で、その時の体勢が押し倒した風だってことだよ。別に悪意があったわけじゃない。というか悪意を出す暇なんてない」

 

 必死に弁明すると少し渋々といった感じに楯無は納得してくれた。

 

「それよりも服はないか? 今すぐ帰りたい」

「……あるわよ。でも、あなたは怪我をしているし今日もここに泊まって―――」

「簪の説得が終わったらな」

 

 服を受け取りそれに着替える。カーテンを開けて病室を出ると、織斑千冬と鉢合わせした。

 

「その分なら問題なさそうだな。夜塚、事情聴取を―――」

「悪いがそれよりも先にするべきことがある。後にしろ」

「そういうわけにもいかない。今回の件に関して色々と―――」

「ならば「教師の練度不足が原因」とでも上に報告していろ。お前らに付き合うほど暇じゃない」

 

 楯無に―――いや、簪の知り合いにそれは無理だ。こういうのは俺じゃないとな。

 

「………それに、あんな目に遭った俺に渡すべきものがあるだろう? それを用意しないなら俺はアンタら大人の言う事なんか聞かねえよ」

 

 そう言って俺は織斑千冬から視線を逸らして簪のいる場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意外なことに、簪はまだ部屋にいるだけだった。

 部屋の隅で小さくなっていたけど、俺の姿を見るなり逃げ出す。

 

「…………簪」

「……ごめんなさい……」

「別に怒ってないからな。「何であんな簡単に気絶したんだ!」とか「役立たずがIS持ってんじゃねえよ!」とか言いに来たんじゃねえっての」

 

 ま、楯無から話を聞いた時点で縮こまっていたのは予想通りだったけど。

 

「むしろ、俺がお礼を言うべきだろ。普通、あそこで飛び降りて生きてるのってそれこそ人間を止めた奴ぐらいだっての」

「………でも……私は……」

「それにいつもお前のおかげでこっちは助かってるしな」

「……え?」

 

 簪は自覚ないようだが、俺に対するIS学園の生徒の態度は酷いものだ。それに加えて織斑や篠ノ之という問題児や使えない教師に囲まれていたらストレスは溜まる。だけど変えればリアル女子高生と同じ屋根の下で暮らしている事実があるし、その女子高生は可愛いと来た。

 

「周りはお前の姉と勝手に比べるかもしれないし、事実お前は負けている部分はある。でも簪はいつも俺を無自覚に癒してくれているし、ちゃんとルールは守るし。可愛いし。愛でたいし、撫でたいし、抱きしめたいし、そのままお持ち帰りしたい。本音を言えば姉妹丸ごと持ち帰りたい!」

「え? ……何で……」

「もっと言えばあんな学校サボって1日中妊娠させるまでやりたいくらいだ!」

 

 一瞬「やらせてください、お願いします」という呪文が出てきたが、それを辛うじて押しとどめる。

 

「だからあまり自分を卑下しなくていい。今回のことで自分を責めるな。まだ少し身体痛むけど、それはお前のせいじゃない」

「………ありがとう……でも………私は……弱いし……」

「いや、現実じゃそんなもんだって。むしろ生き残っただけで万々歳だっての」

 

 俺は簪を抱き寄せる。拒絶されると思ったが、どうやらそんなことはしないようだ。

 

「………ごめんなさい……私の……せいで……」

「いいって。だから簪、あまり自分を責めるな。これ以上自分を責めるっていうなら、俺は勢い余ってお前を押し倒してしまいそうだ」

「………それ……お姉ちゃんにも言ってる?」

「アイツには直接攻撃だ」

 

 そりゃあ、あんないい形のパイオツをぶら下げられていたら誰だって手を出してしまうだろう。

 

「……変態」

「それが男というものだ。むしろ織斑みたいに成り行きで暴力女と継続できる方がおかしい」

「……私は……出て行った方が良い?」

「むしろずっといてください」

 

 場所はベッドの上。このまま押し倒せばできるかもしれないと思ったが、今こんな雰囲気をぶち壊すつもりはない。俺はそっと簪の背中を軽くなでると、簪は大声で泣いた。

 

 その時だった。たぶんドアが思いっきり大きく開かれたのだろう。簪が飛び跳ねて震え始める。

 

 ―――バンッ!!

 

「フフフ……フフフフフ………」

「お……お姉ちゃん……」

「………夜塚君、今日こそあなたを殺すわ」

「やれやれ……今日は長くなりそうだな」

 

 とりあえずこのバ会長には萌えに関する講義(説教)をする必要があるようだ。

 

 

 その頃、篠ノ之が織斑に付き合う約束をしていたようだが、俺はこの時、その内容もそれによってかなりの曲解がされていることに気付かなかった。ま、それが当たり前なんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 透が更識姉妹と騒いでいる頃、とある老人はため息を吐いた。

 

(………これは痛い。あの少年、よくこれで生き残れたな)

 

 老人は黒曜石の破片を弄びながら、透が突っ込んだ木箱があった現場を調べている。

 何故ならその木箱は誰も愛用してないワインのメーカーであり、ましてや教師に対しても厳しい規律が科されているこのIS学園で不法投棄など給与カットの対象になりうるからだ。

 

 透が叩きつけられた木箱の中には黒曜石の破片が入っており、明らかに殺しにかかっていると言える。

 

(唯一回収されたISも無人機。だが、もう1機はどこに行った……?)

 

 周辺のどこにも自爆したような跡もない。逃げられた跡があること、そしてその映像がどの監視カメラにも引っかかっていないこと、何よりもそもそも襲撃という下手すればコアを回収される恐れがあることをするなんて、今の世の中2つしかない。……いや、実質1つだった。

 

(………まるで子供だな。織斑千冬は所詮……雑魚でしかないのに)

 

 そう思う老人。彼からは少し殺気が漏れ、それによって周囲にあった軽いものが吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………一筋縄でいかないってのはわかっていたけど、あんな化け物もいるとはね)

 

 少女はその場から離れ、ある人物のためにプレゼントを与える。それが世界を揺るがすものと知りながら。




という事で、「簡単にやられる」でした。

そもそも、相手が殺戮マシーンだし仕方ないネ!
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