更衣室で織斑がデュノアを襲っていたのをよそに着替えを終わらすと、デュノアが悲鳴を上げて帰って行った。織斑のホモ機能の犠牲になったのだろう。哀れデュノア。幸せになれよ。
たぶんこの後も部屋で襲われるのだろう。そして女と知られて口止め料として別の意味で襲われるのだろう。可哀想に。男でも女でも地獄とは。
「織斑……いや、ホモ斑なんかと同室になったばかりに掘られるなんてな……」
「ん? 何の話だ?」
「お前がデュノアのケツ穴を掘るんだろうなって話だよ」
「俺はそんなことしねえよ!!」
「……………………え?」
「何だその「なに言ってんだ、こいつ」みたいな顔は!!」
「なに言ってんだ、お前」
「口に出すな!!」
とりあえずホモを置いてアリーナを出る。俺も後方には気を付けておかないとな。もしかしたら織斑に掘られる可能性があるし。
「―――答えてください、教官! 何故こんなところで教師など!」
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」
そんな会話が聞こえてきたので、近くの木に移動して会話を聞きつつ出て行くタイミングを待つ。
「このような極東の地で一体何の役目があるというのですか!」
何でEU領域の連中って俺ら日本人の事を馬鹿にするのかね。確かにろくな人間がいないことは理解しているが、だからと言って否定され続けることに異議がないわけではないんだが。
「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」
「ほう」
そりゃあ、戦士として戦う機会なんて本人すら望んでないからな。本質はそうだと言うのに。
「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません。意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い者たちに教官が時間を割かれるなど―――」
「そこまでにしておけよ、小娘」
殺気が放出されているようだ。んん? 今のボーデヴィッヒの発言に何か問題でもあったか?
「少し見ない間に偉くなったな。15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「わ……私は……」
「寮に戻れ。私は忙しい」
………その忙しさは山田先生がたまに呆然としているのと関係あると思われる。
悔しそうに去って行くボーデヴィッヒ。出て行こうとすると、
「そこの男子共、盗み聞きか? 異常性癖は感心しないぞ」
「な、何でそうなるんだよ、千冬ね―――」
そう言ったら殴られるとわかって言うのに何故言うのかね?
「異常性癖も何も、道のど真ん中で割り込みにくい会話をされたら誰だって立ち止まるだろ。アンタと違って俺は空気を読めるんでね」
たまに引っ掻き回すけど。
「夜塚、さっきの会話は忘れろ」
「別にボーデヴィッヒの言っていることは間違っていないと思うけど? ただ間違っているところは、危機感に疎いのはアンタら教師も含めていないことだろ。アンタの立場を考えればIS学園以外じゃ「不公平だ」と声を上げられるから居場所はないだろうけど」
「………全く。お前は厄介な存在だな」
「初歩的なことだよ、間抜けさん」
そう言って俺は早々に立ち去るが、あるものを拾ったのでしばらくしてから行くことにした。………少ししたら飯の時間だしな。
と思ったら忘れたので日曜日に渡しに行ったが、それ以後シャルル・デュノアは姿を現すことはなかった。
「正直に答えてくれ、透」
「何だ?」
「お前、シャルルに何かしたか?」
どうやら織斑は恋愛事以外では頭は回るようだ。それでも一歩遅かったがな。
「何故そう思うんだ?」
「だって昨日、お前がシャルルに何か言ってから様子がおかしくて、朝になっても帰ってきていないんだ! だったら何かがあったと考えるべきだろ!」
「………さぁ、どうだかな。俺は伝言を伝えただけだから、大方バレたんじゃねえの?」
「!?」
情報通り、織斑はデュノアの本当の性別を知っていたらしい。ならば何故姉に頼らないのか疑問だがな。
「………まさか………お前……」
「気付かないと思ったのか? あの程度の事、普通に考えたらわかるだろ」
すると織斑は右手で握り拳を作って俺に向けた。
「この野郎!!」
織斑からのパンチを左頬で受けた俺はそのまま後ろの壁にぶつかる。
月曜日の朝、HRが始まる前に唐突に起こった出来事に1組の教室内は静まり返った。
「な、何をしているんだ!?」
「黙っていてくれ、箒。これは俺たちの問題なんだ」
教室で騒いでいる時点で「俺たちの問題」もクソもないだろうに。
「どうして……どうしてシャルルを見捨てたんだ!!」
「見捨てたもなにも、俺には関係ないことだからさ」
そう、俺には関係ない。たかが1人消えたくらいで騒ぎすぎだろう。
そもそも学園にとっても目の上のたん瘤なんだから処置をすればありがたいことだ。
「関係ないだと……」
「そうだ。まぁ、デュノアが減るのは今後を考えれば惜しいが不安要素を消すことで周りは安堵する」
「だからって、見捨てるなんて―――」
「仕方ないだろ。奴はそうなる存在だったんだ」
「アイツは望んでスパイなんてやっていたわけじゃねえ!!」
………何でこいつはこんなことを言うのかねぇ。
迂闊にもほどがあると内心ため息を吐く。
話は昨日に遡る。
俺はすべての用意が整ったのでデュノアを呼びに行った。織斑が一緒にいたが、それでも忘れ物を届けるついでに伝言を伝えただけで、後は勝手に向こうが行動しただけに過ぎない。……というか、この時の顔は青かったんだからその時に気付けよ。
今頃作戦通りに彼女らが動いているだろう。………そもそも時期を早めたのは2人の室内に仕込まれた盗聴器で織斑にバレたことが原因だが。
「望もうが望むまいが、奴がしていたのは犯罪行為だ。見逃せることではない」
「だからって見捨てるのかよ!」
「そうだが?」
またパンチが飛んできたのでそれも受けておく。
「やれやれ。織斑、お前はもう少し現実を見ろ。相手はどんなことを考えているかわからない奴なんだ。疑わしい奴は罰した方が良い」
……そういう意味じゃ、簪と一緒にいる俺はふとした時に楯無に消されている可能性はあるけど。
ほらぁ、俺って天才だが変態だし? あと簪にはSM的な意味でそそられるっていうか、そういうのがあるからな。仕方ないのだよ。
「守ろうとは思わなかったのか?」
「微塵にも思わなかったな」
生憎俺にはそんな力はないんでね。だから楯無に適切な処置を俺の台本を添えてやってもらったけど。しばらくしたらフランスに飛ぶらしいけど。
「気が済んだか? じゃあ話は終わりだ」
「………お前は人間の屑だ」
「何を今さら」
むしろ俺以上の魔性の屑はここにはいないだろう。
全然堪えたいない俺に対して無駄だと思ったのか、織斑は無言で席に戻った。
「―――無様だな」
俺もそろそろHRなので着席しようとしたら隣でそんな声がした。
「そんなにか?」
「そうだ。何故言い返さない? 貴様のしたことは間違いではないだろう? まさか気に病んでいるとは言うまいな」
「いやいや、それはない」
「じゃあ何故言い返さない」
「言い返すことでもないだろうよ。それに俺は今凄く楽しみなことがあるからな」
そう。実は放課後、データ取りのために簪と戦うことになっているのだ。それに比べたらこの程度のイベントなど些細でしかない。
―――だが、それは思わぬ形で潰されることになった
■■■
HRが終わってすぐのこと。2組のHRが一足先に終わり、鈴音は第三アリーナに来ていた。彼女の目的は次の学年別トーナメントで優勝するための特訓である。
「あら、凰さん。もうこちらに来ていましたのね」
「セシリア……アンタも同じ目的かしら?」
「ええ。もちろんですわ。ところで、あれは一体何でしょう?」
鈴音とセシリアは同時にISを展開して緊急回避。砲弾はそのまま壁に激突した。
「突然撃つとは、随分とマナーがなってませんわね」
「気配は消していたつもりだがな。よく私の存在に気付けたものだ」
「わたくしのコーチは「卑怯」が専売特許ですから。「常在戦場、ましてやアリーナ内に入ったらいつ何時撃たれてもおかしくないと思え」と言いながら平然とピット内から撃ちますわよ」
それを聞いた鈴音は「あいつ、そんなことしてるんだ」と内心思った。……そうなったのは、
『狙撃手なら「私は一発の銃弾」とか「俺の後ろに立つな」ぐらいはできるくらい強くなろうぜ!』
という悪乗りであり、ISを展開しているとなれば遠慮なしに撃ち始めたのである。最初は抗議したセシリアだが、
『これが後々役立つからさ!!』
実際、この状況に役立っていた。………もっとも本音は「まずありえないけど惚れられたら困る」なのだが。
「古いだけが取り柄の国と数くらいしか能がない国の人間にしては中々やるな。もっとも、貴様らがその機体を纏えばただの玩具にしかならんが」
「言ってくれるじゃないの。あんたの国じゃボコられて精神的に鍛えるのが趣味ってわけ?」
怒る鈴音とは対照的にセシリアは冷静であり、逆に―――
「40点ですわね」
「………何?」
「その程度の挑発では鍛え上げられたわたくしを怒らせるには足りませんわよ。あなたは織斑先生にはご執心のようですが、もっと周りに目を向けた方が良いですわよ」
まったくもって偶然だが、こういった訓練もかなり取り入れられている。というのも、
『お前ら3人は煽り耐性が無さすぎると思う』
そんな突拍子な発言によって罵倒・挑発に耐えるための訓練を行われたことがあるからだ。
「あ、あれか…………」
「貴様ら、本当に訓練しているのか?」
ラウラから可哀想な目で見られ、それがどれだけ滑稽だったかを知るセシリアだった。
「ご心配なく。あなたと違って綿密な訓練をしていますわ」
「とはいえ所詮は素人の提案でしかない」
「………女の臀部しか追わない方は哀れですわね。確かに織斑先生は操縦者としては優秀ですが、教育者とはどうかと思いますわ」
「……ほう?」
ラウラは右肩に装備されている大型レールカノンの砲口をセシリアに向けた。
「黙れよゴミが。教官のすばらしさを理解できない愚か者め」
「もう一度祖国に帰って日本語を勉強しなおしてきてはどうでしょう。わたくしはちゃんと言いましたよ? 「操縦者としては優秀」と」
「ならばその減らず口を閉ざしてやろう」
そう言ってラウラは鈴音に向けて砲弾を発射した。鈴音は反応は遅れたが素早く《双天牙月》を展開してギリギリ防ぐ。
「どういうつもりよ?」
「ちょうどいいと思ってな。所詮貴様らは高が訓練機如きに後れを取るような雑魚だ。まぁ弱いのは下らん種馬に構っているメスだからか」
鈴音は静かにもう1本の《双天牙月》を展開して連結する。
「上等よ。アンタをこの場で叩き潰してあげるわ」
そう言って鈴音はブースターでラウラに接近した。
■■■
実は凰とオルコットが特殊なバリアを展開して練習することはわかっていた。というのも俺は元々2つの枠を借りていたのだが、どちらも俺に頼んで来たのである。本来なら貸すことはしない主義なんだが、オルコットはもちろん凰も知った仲だし頼み事とは珍しいので試合日直前に同伴させてもらうことを条件に承諾した。…………どちらも専用機持ちだが一部で「専用機持ちは練習しやすい環境にあるのだからアリーナの貸し出しに調整を入れるべき」という声が上がったらしいのだ。ちなみに俺は最初から範囲を絞って6月の前半に身体を慣らすために前々から考えていた特別練習を実践しようとしていた。まぁ、色々あって俺は専用機持ちの仲間入りを果たしたが、たぶん訓練機程度のスペックしかないのと2人……いや、3人しかいない希少な男性操縦者だから比較的優遇されているのだろう。それはともかく、ともかくだ。
(………一体、これはどういうことだ)
準備があるので先に行ってほしいと言われたので先に来てピットで体操しようと思ったら凰とオルコットがタッグでボーデヴィッヒと模擬戦をしている。っていうか、
(あいつ等押されすぎだろ)
凰とオルコットは苦戦を強いられていた。元々ボーデヴィッヒの身体能力が高いこともあるのだろうが、何よりも凰の機体の第三世代兵器である「衝撃砲」が完全に封じられている。おそらく風の噂で聞いたAICだろう。PICを応用して作られたという、物理物体の慣性を無効化する防御壁みたいなもので消されていると思った方が良い。
「……どういう……こと……」
「………さぁな。だが、少々過激になって来たな」
おそらく後数回で決着はつく。どう考えてもオルコット・凰コンビの負けだ。そもそも2人は学年別トーナメントで戦うと思ったからまともに連携訓練しかさせていないからだ。
と言い訳じみたことを考えているとオルコットが至近距離でミサイルを放った。
『無茶をするわね、アンタ』
『苦情は後で。ですが、これならば確実にダメージを―――』
そこで言葉を切ったオルコット。そりゃそうだ。煙を張れて落ちてくるはずのボーデヴィッヒが全くダメージがない状態で佇んでいるのだから。
『終わりか? ならば―――私の番だ』
この先の展開を読めた俺は簪に言った。
「………悪い。ちょっと―――」
「……わかった。……2人を……回収する」
「………頼んだ」
そっちの方が安全だと安堵すると、ほとんど着いたような惨状を見て俺はピットからボーデヴィッヒの武装の1つを破壊した。