6月の実質最終週。そこは学園外からの政府関係者やIS技術者たちが集まるが、全員が「学年別トーナメント」を目的としている。……大半が男だから、下手すればエロ目的かもしれないが気持ちはわからなくもない。
もっとも、そんな空気に浮かれる状態ではないが。
「………………」
話しかけるなこのクズが、と言うようなオーラを放って来賓の誘導というゴミ作業をサボって先に着替えている俺の後ろを通っていくのを感じる。それからしばらくしてトーナメント表が公開される。
「…………なぁ織斑」
「何だよ」
「お前、あれってどういうことだよ」
そう言って俺は画面に指を向けた。
何故ならディスプレイには「織斑一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒ」と表記されているからだ。
「…………え? どういうことだよ!?」
「まず、こうなった経緯が知りたいんだが………?」
「いや、その、男子って俺たちになったから何故か揉めて、収拾が着かないから「決まっていないペアは強制的にランダムで決める」って千冬姉が………」
………ああ、そういうことか。
確かに俺は早々に簪と組むことが決まっていたし、シャッフル対象にはならない、と。
「なんだ。てっきり俺がいない間に織斑がなんらかのトラブルで篠ノ之の胸に頭を突っ込んで野生に目覚め、まずは不憫に思った姉を襲っていると同じく襲いに来たボーデヴィッヒもまとめて襲って調教したのかと」
「何で俺がそんなことするんだよ! 後姉弟間じゃ犯罪だ!」
「………織斑が法律を知っている……だと!?」
「俺はお前が思っているほど馬鹿じゃねえよ!!」
「で、参考書はどこまで読んだ?」
「………半分」
「あれくらい、1か月で読み終えれるぞ?」
そう言うと織斑の顔は青くなった。
「さて、試合試合っと」
そう言って俺は更衣室を出る。
―――しっかし、今回ばかりはあの無能女を褒めてやるか
まさか俺と織斑を離して決勝で戦えるようにしてくれるとは。………もっとも、向こうは弟の晴れ舞台にしてやりたいだろうが、相手が悪すぎたな。……ま、俺と組ませたら速攻で織斑を落とすし、簪と当たれば速攻で棄権する自信があるんだけど。
(その簪と組むのだから、それはそれで問題ない)
と笑いながら移動していると、聞きたくもない声が聞こえた。
「―――随分と余裕じゃないか。素人の癖にもう優勝者気取りか?」
「………………………まぁ、考えてみたら道理か。政治家ってのも随分と暇なんだな。って言ってもどうせ女遊びしかやることないんだろうが」
そう言ってやると、もはやパターンかと言いたくなるくらいに怒りを見せている。
こいつの名前は朝間勝也。日本の現代表、朝間希美の兄である。
「相変わらず、その減らず口は直っていないようだな」
「直す必要があるとは驚きだな。お前らみたいな蛆虫には効くだろ?」
だってこいつら、俺に口や暴力で勝ったことなかったはずだし。
「今、お前の家族がどこにいるのか理解しているのか?」
「安心しろよ。いざとなればテメェらを殺してでも取り戻してやるよ」
それは前々から考えていたことだ。分家とはいえ血の繋がりがあるのだから。
「―――何をしている」
ま、来ているよな。てっきり最終日に来るのかと思ったがそうではないらしい。
「失礼しました。懐かしい顔を見かけていたので―――」
「まだ生きていたとはな。てっきり死んだと思ったぞ」
「勝手に殺すなよ」
まぁ、教師共が無能すぎて死にかけたけどな。それも2回ほど。
「話はそれだけか?」
「―――透さん」
唐突に呼ばれて俺は振り向く。簪だ。
「どうした? 試合の時間はまだだろ?」
「一応、偵察を…………」
朝間勝也とその祖父である朝間龍大を見て簪は固まった。
「これはこれは、君は日本の代表候補生の………」
「は、初めまして……私は―――」
「別に挨拶しなくていいぞ、こんな屑共」
簪の挨拶を遮って言うと驚かれた。
「………どうしたの?」
「気にするな。ただ、こいつらにあいさつはいい」
「いやいや、挨拶は必要でしょう。初めまして、私は―――」
「確か、織斑一夏を確保するために簪を切った屑、だっけ?」
その場の空気が固まった。
「お前―――」
「………それ……本当ですか………?」
「……すまない。だが理解してほしい。我々にとって彼のデータは貴重でね」
「………大丈夫……です……。それに……完成……しました……から……」
それを聞いた2人は信じられないと言わんばかりの目で簪を見た。
「おいロリコンども、そのムカつく顔を止めろ」
「……機体を組み上げただけ、という落ちではないだろうね?」
「………マルチロックオン・システムも………搭載して…います………」
かなり信じられないようだ。簪もそれを感じ取ったのか付け足す様に言った。
「彼のおかげで」
「……じょ、冗談はおよしよ。まさかこんなクズ野郎に―――」
「できて当然だろ。むしろ何でできてねえんだよ」
頭がおかしいとしか思えないな。あんな簡単なプログラムでてこずるということはこいつらの選び抜く能力は糞ということになる。
ちなみに「できて当然」というのは、こいつらはかつて俺の見ていたアニメを「下らない」と壊したことがある。
「簪、行こうぜ。こんな屑と話をするだけ時間の無駄だ」
「良いの?」
「構わねえよ。実際時間の無駄だしな」
それに偵察とはまさしく良い案だ。
今回、やはりオルコットと凰の機体の調整が間に合わなかったことが原因で出場を棄権することになった。どうやら散々小言を言われて参ったとか。機体をあれだけ無茶苦茶にしたのはまぁ仕方ないが、もう一つの理由はおそらく「試作機故の部品の未準備」だろう。
俺の機体はまだ一次移行すら終わってないからわからないが、専用機持ちが訓練機などを使用する場合はスペックや機体へのモーション伝達速度が極端に弱くなるんだとか。だからこその棄権だろう。……噂じゃ、トラウマになって戦えなくなった人もいるらしいし。
そして翌日、俺たちは第一アリーナのフィールド内に立っていた。
「覚悟しなさい、留年男! あなたに引導を渡してあげるわ!」
「じゃあ、もし俺が勝ったらあそこにいる観客の誰かと交尾した動画を自主的に無修正で上げろよ?」
「……………はぁ?」
「大丈夫。性格クソでも君は周りのゴミ屑からして綺麗に見えるらしいから」
まぁ、俺は基本的にそんな動画なんて見る気がな―――
「透さん?」
「へ、編集時に見ることはあるだろうけど自主的に見ないから! 見る気ないから!! むしろ拷問だ!!」
「ちょっと待ちなさいよ! 私の完璧なプロポーションにケチ着けるって言うの!?」
「いやー、可愛さで言えば簪に劣るし、そのプロポーションで完璧とか、ぶっちゃけ篠ノ之とか生徒会長の方が綺麗だ―――簪、ちょっと薙刀は止めてくれ!」
なんか妙に簪が暴走している気がしているというか、暴徒と化しているような気がするんだけど。誰の影響だ?
なんて思っているとカウントダウンが開始し、試合が始まった。
「イチャイチャしてんじゃないわよ!!」
対戦相手は打鉄とラファール・リヴァイヴのコンビ。どちらも俺を狙って来るが、素直に来るという事は自殺行為だという事を知った方がいい。
接近し、近接ブレードを上段から振り下ろすのを受け止めて背負い投げをし、相手の顔面に足を置いた。
「ちょっと! それが男のやる事な―――」
―――ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
『打鉄、シールドエネルギー0』
観客席からは俺に対するブーイングが最初から鳴っていたが、俺がしたことによって止まった。
「切り裂く……そして、撃ち砕く!!」
あまりのショックに止まっていたラファール・リヴァイヴの女に接近して思いっきり斬り、瞬時に散弾銃を展開して律儀に3回撃った。まぁ、異星人御用達の超エンジンを使った鎌じゃないから流石にすべてを消費させることはできないけど。
「くっ、この、卑怯じゃ―――」
「愚かな……っと」
思わずそろそろ19歳になるというのに14歳の病気がぶり返すところだった。大体、その口調のせいで「魔王」とか言われたのを忘れたのか、俺は。
「この程度で卑怯とか、本気を出したらこの程度じゃ済まねえよ」
「………は?」
「具体的には、最終的に妊娠している状態で無理矢理堕胎させられる」
「はぁ?!」
少なくともそれを平然とする奴らが通う学校が俺の母校だ。
「まぁ君は女の子だし、ある意味そういう道筋をたどってしまうのは仕方ないネ」
「何かその言い方ムカつく!!」
「ほらほら、そんな軽口叩いて良いのかい? もうすぐエネルギー切れるよー」
まぁ、割と真面目にチェックメイトなんだけどね。だって―――俺が発射した覚えがないミサイルが飛んできているから。
「え!? ちょ、ま―――」
24発のミサイル群を回避して俺たちは勝利を決めた。
「……ナイスアシスト、簪」
「別に。これくらい、できて当然」
クールにそう答えた簪は先に帰る。ちょっと可愛いので人気のないところで撫でまわしたいとか言ったら―――いや、そんなことをしていたら楯無に殺されるか。………割とシャレにならないからなぁ。
「…………いずれ大きくなるし」
「いや、大きくなられたら結構困るんだけど」
前にも言ったけど簪の存在はとても貴重だ。姉がデカいにもかかわらず彼女の乳はとても小さい。いや、バカにしているわけではない。むしろ感謝しているのだ。大きい姉と小さい妹、デカパイとチッパイの2つを味わえるという希望を持てるから。………あ、恋愛云々はともかくである。なんていうか憧れない? え? 俺だけ?
「1回戦突破おめでと、透!」
「凰……見ろよ簪。少なくとも凰は全くないから、ちゃんと小さいながらも形はできているんだからむしろそのままの路線で―――って痛い! 痛いぞ凰!」
「当たり前でしょうが! なに人の胸見て変なことを言ってるのよ!!」
「変な事? 事実だ。貴様に乳は全くな―――」
咄嗟に迫る拳をかわす。甘いな。舞崎君はもっと早い。
「よし、殺すわ。今すぐ、この場で!」
「落ち着いてください、鈴さん。この場で処刑は周囲に迷惑がかかりますわ」
「アンタはあるから落ち着けるんでしょうが!!」
叫ぶ鈴音を妹のように愛おしく思っていると、嫌な気配がして簪を移動させる。すると簪がいた場所に女性が現れた。
「行こうか。どうやら夏になると変質者が湧く様だ」
「さっきの人もアンタに言われたら世話ないわね」
「―――待ちなさい!!」
言われて簪と凰、オルコットが振り返ったが、
「行こう。全く、教師共も仕事をしろっての。何であの変質者を中に入れたんだか」
「………ですが、あの方は日本の―――」
「ただの変質者だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「待てって言ってるでしょうが!!」
叫ぶ変質者。俺はその叫びで振り返って変質者の顔を掴んで壁に叩きつけた。
「二度と現れるなって言ったよな? ブチ殺されたいのか?」
「相変わらず手が先に出るのね。無能おと―――」
腹パンからのそのまま変質者を窓から投げ捨てる。
「………あの、あの方って日本の国家代表なのでは?」
「あんなのが日本の代表だからなぁ。マジで日本てある意味おかしいわ」
「…………そう思っているからあの時わたくしに反論しなかったのですね。ところで、知り合いなんですの?」
「あの女限定で言えば2回入院させてる」
1回目は妹を虐めたから、虐めた奴全員を頭から床に叩きつけた。そして2回目は―――そのせいかどうか知らんがレズになったアレが妹を襲おうとしたところを目撃したんだが、嫌がっている妹から引き離したら喧嘩を売られて一方的にボコられて、その理不尽さに切れた俺にボコボコにして入院させた。………まぁ、その妹も結構不幸で、性的暴行の被害にすべて未遂だが3回も遭っている。その内の1回があの女だ。
「………ともかくアンタがその子をどれだけ大事にしているのかわかったわ」
たぶんそれは俺が簪に抱き着いているからだろう。
「別に凰がどんな目に遭っても早々キレやしない自信はあるがな」
「おい」
「ともかくあの女に関しては気を付けろ。全く。ホモやレズの一体どこが良いんだか」
他人の好き嫌いはその他人の勝手だが、俺は生産性がないから好きじゃない。それだけだ。………俺と織斑が題材にされている本を見かけたものはその場で紙くずにしたが。
「で、自信のほどは?」
「他の奴らもあの程度って言うならば余裕だろうな。だから簪、手筈通りに行くぞ」
「……わかった」
まぁ、あの程度の強さの奴らで本当にちゃんとしたデータが取れるかと聞かれれば俺は「無理だろうな」と答える。
(………問題があるとしたら、予想している奴らが途中で落ちないってことだな)
学年別トーナメントは1年のみ全員参加(ただしとある癒し系女子は除く)で戦闘可能アリーナが合計5つ。その内3つを1年生が使用している形になっている。これは2、3年から操縦科や整備科に分かれるため、人数は今の半分……下手すればそれ以下になるのだ。で、俺たちは3ブロックのうちCブロックに割り当てられている。トーナメント表によればあと6か7回勝てば優勝だ。
(………ま、とにかくやるか)
できれば俺の助けが必要な場面が来ないことを祈っておこう。いちいち馬鹿の相手をするのが面倒だから。