翌日。一年一組の教室内にいる生徒たちはとある人物を見て唖然としていた。そしてそれは織斑も同様だろう。
「シャルロット・デュノアです。みなさん、改めてよろしくお願いします」
「えーと……デュノア君は、デュノアさんでした……ということです。家庭の事情で休学していましたが、今日から復学となりました。はぁああああ………」
たぶんあれは「仕事が増えるなー辛いなー」とでも考えている顔だろう。
「え? ちょっと待って? デュノア君って女の子だったの?」
「もしかして織斑君、同室だったから知らないってことはないよね……」
「でも前にデュノア君ってスパイとかなんとかって言ってなかった………?」
最後の言葉に過剰に反応した山田先生。俺は仕方なく助け船を出すことにした。
「あー、それに関して俺から説明がある」
というか山田先生じゃ無理だな。何せ俺考案だし。
まだ来ないサボり魔の担任の代わりに山田先生を退かせて話し始めた。
「まず最初に、デュノアは最初自己紹介で「男」と名乗ったが書類上では「女」として入学していた。実はこれには深いようでド浅い理由がある」
「な、何よ?」
「デュノアはつい最近まで極度の妄想癖を患っていた。その理由として今ではこんな立派なものが付いているが、つい半月ほどまでは付いてなかったらしい」
デュノアの胸を鷲掴みして女の象徴を主張する。
「ちょ、ちょっと!?」
「ただどういうことかISを乗り始めた頃から胸が急激に成長してきたせいで混乱してな。「せっかくイケメンみたいな男のように女を次々と落として来たのにこんなの恥ずかしい」と言う拒絶反応から「自分は男」だと認識するようになってな。学園長も「今一度自分の立場を自覚させるため」と考えて許可を出してデュノアを入学した。まぁ、それを聞いた時は流石に笑ったけどな。「確かにここの生徒って「女が強い」って言っておきながら男に腰振るビッチですよね」と返しておいたけど」
「ふざけてんじゃないわよ!!」
「アンタみたいに女の子の胸を揉むような変態が何言ってんの!?」
「それに私たちはビッチじゃないわ!!」
いやいや、お前ら………。
「今一度、自分ない胸に聞いてみろ。………ああ、すまない間違えた。正しくは「取るに足らない無価値でない胸」だわ」
なお簪は完全に美乳でした。
「え? でもシャぐあッ!?」
「話は逸れたが、今回のこいつの性別偽装は学園側の要請でもある。こいつはそれを知っていたからこそ、織斑に女の身体の状態であることをバレた時に自らスパイと言ったんだ。まぁ、学園長の考えは間違っていないわけだな。にしても織斑、完全にボコったつもりだったがよく生きてたな」
「…………それは……まぁ……」
「大体、何でこんなわかりやすい体形をしているのにお前ら生徒がすぐに教師に言わないんだよ。篠ノ之はわかっていたか?」
「………怪しいとは思っていたが、済まない。正直わからなかった」
「………まぁ、怪しく感じただけ良しとするか」
まぁ他の奴らは疑ってすらいなかったし。それよりかはるかにマシか。
「そうか。良かったなデュノア。今度から男として生活したらどうだ?」
「嫌だよ! もうあんな目に遭うのは!」
あんな目にって……そんな酷いことはしてないだろうに。
「まぁいい。ま、今回の顛末はつまりこういうことだ。最近織斑が入学したことでIS学園内部の空気が緩んだからそれを正すため、そしてこいつの妄想癖を直すためだ。文句があるならば学園長に直訴して来い」
ま、本当は学園の内部を正すのが目的だろうな。ISが怪しい兵器として扱われているのだからその心構えを変えるのが目的だろう。逆に考えて、IS学園の大将になろうものが俺を消さないのはそれが理由か。
「そ、それよりも、その―――」
「まぁそういうことだ。日頃から俺の事を馬鹿にしまくってたんだからそれくらいできるよな?」
誰もが俺から目を逸らす。オルコットとかは苦笑いをしているが内心複雑だろう。でもこっちは命かかってるし模倣は許せ。
話は少し遡る。
俺がデュノアを呼び出した後、生徒会室でデュノアは首を絞められていた。
「で、テメェの目的は何だ? 俺の殺害か? 俺の誘拐か? それとも遺伝子を持って帰れと?」
「待って夜塚君。流石に首を絞めるのは早いわ」
「いやいや、これは結構有効な方法だぞ。思い上がったメス豚を素直にさせるには力の差をわからせる必要がある」
既に拘束済みの状況に加え、首を絞めたからか楯無が止めに来たがどんな目的でここにいるのかが不明である以上は厳しい態度でいるべきだろう。
「もしかして簪ちゃんにもそれをしているわけじゃないでしょうね?」
「安心しろ。それはない。むしろ可愛すぎて丁重に扱っているさ」
まぁ、本音を言えば抱きしめたいし撫でたいしだけど。嘗め回したいというのもあるが。
「そう? でも覚悟しなさい。場合によっては潰すわよ?」
「肝に銘じておきます」
楯無もそれなりに性知識があるからな。下手すれば今のデュノアみたいに四肢を拘束して男の象徴を潰しに来る……わけがないとかありえないな。むしろやってきそうだ。
「さて、デュノアさん。手荒な扱いをしてごめんなさいね。彼、普段はわからないだろうけど一度敵と思った人にはとことん厳しいから」
「やっつー、この荷物で良かったのー?」
「ああ。悪いな布仏本音。重かっただろ?」
「うん。でもー、このうにゅうにゅしているのってなーにー?」
そう言って大人の玩具の1つを取り出した布仏本音。後ろから妹をこよなく愛する姉の殺気が恐ろしい。
「これはな、男性が女性を拷問するための道具だ。例えば性的にせめてその様子を撮影し、「所詮貴様は遊ばれることが得意な牝犬なんだよ!」と女性の性的興奮を誘発させて上下関係をわからせるんだ」
「すべて話します! すべて話しますから助けてください!!」
「な? 見せるだけでも効果あるだろ?」
「ほんとだ~」
「夜塚君、少しいいかしら?」
満面な笑みを浮かべる楯無だが、その笑顔はとても冷たい物だった。
―――しばらくお待ちください
何とか男の象徴を潰されることは回避した。あれって結構痛いって話らしい。
話をデュノアの事に戻そう。
「それで、デュノアは一体何の目的でここに来た?」
「えっとね。僕はその……君たち男性2人のデータを取りに来たんだ。社長に言われて………」
「何でまた。俺もラファール・リヴァイヴは使っているがそれなりに良い機体だろ。拡張領域も打鉄より大きいしカスタムしやすい設計になっている。販売順が違えばあんなクソ倉持なんざ余裕で超えれたと思うが?」
途中で仕事を放りだしたクソ会社より俺はデュノアの方が凄いと思うけどな。
「………でもね、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。今、EUは
「………なるほどね。データも時間も金も足りない、そして資本力で負けるフランスはどうしても第三世代型を持つ白式といずれ技術者として世界最高峰になる可能性が高い夜塚君の誘拐を目論んでいたってわけね。面倒な事をしてくれるわ」
「そうか。確かに面倒だな。………ところで社長の娘ってお前以外にいるのか? できれば18歳以下で」
「え?」
「………今年15歳なら」
「じゃあいいや」
妹と同い年はちょっとな。そうじゃなかったら少しは良かったんだが。
「何か考えているな~」
「いや、別に」
別にその女の子を調教しようとか考えてませんよ~。
「まぁ、彼の性欲が凄いのは今更だから流すわよ。それで、あなたはどうしたいの?」
「…………僕は……ここにいたいです。僕を助けてください」
「じゃあ何で最初からそれを言わねえんだ?」
俺が口を挟むと驚いた楯無とデュノアがこっちを見る。
「え……?」
「お前の機体には爆弾でも仕込まれているのか? 体内には体細胞を破壊するナノマシンでも注入されたか? されるわけねえよな? されているならとっくにテメェは俺らを巻き込んで自爆しているはずだし。助けを乞うなら最初からそうしろよ。織斑千冬でもなんとかできるだろ? 何故そう考えなかった?」
「……そ……それは…………」
答えを中々出さないデュノアの顔の横の壁を蹴った。
「覚えておけ。所詮、人を守れるものは最終的には暴力でしかない。今回だけは守ってやるが、それは今回は未遂だから助けてやるんだ。そのためのISだ。兵器だ。そして今後は、このようなことが起こっても俺はお前を見捨てる」
怖がるようにデュノアは俺を見る。
「所詮、人は暴力で支配でしか分かり合えない。そのことは胸の内に留めておけ」
これは俺がIS学園に来る前に思ったことだ。
記憶こそはほとんど吹き飛んでいたが、たった1つ、成った時の思いは完全に覚えている。
―――戦わなければ、生き残れない
圧倒的な数の差、無慈悲な暴力。それはつまり、弱者に己の無力さを痛感したからこそ俺はキレて暴れたのだろう。
「さて、本題なんだが……デュノアが極度の妄想癖持ちという事にしよう」
その時のデュノアの顔はまさしく青かった。
それが事の顛末であり、デュノアが再入学できた理由だ。あの後、学園長にすべてを話してそうするように取り計ってもらったし。………まぁ、まだ疑っているけどな。
それはそうと、俺は今ボーデヴィッヒの部屋の前に来ている。正直学園の寮なんて危機回避のために辺りを見回したら変態扱いされるだろうから避けていたが、今はそうも言ってられないのだ。
「ボーデヴィッヒ、いい加減にしろ」
部屋の前には既に織斑先生がいる。中々教室に来なかったのはボーデヴィッヒの様子を見に来ていたからのようだ。
「教室に行っても夜塚は襲わない。何かしたら私が守る」
『あなたに何がわかると言うのですか!? あの男とまともに戦ったことがないからそう言えるんです!! もう私の事は放っておいてください!!』
前までは「織斑先生LOVE」だったボーデヴィッヒが拒絶するという珍しい光景を見た瞬間である。
とはいえこのままだと埒が明かない。ならどうするかは―――強行突破一択だ。
「ボーデヴィッヒ」
「夜塚!? どうしてここに―――いや、今のお前は邪魔だ。下がってろ」
織斑先生はそう言って来たので、俺はため息を吐いて言った。
「交渉事に向いていない脳筋は下がってろ。ボーデヴィッヒ、今から言う選択肢の内、どちらか選べ」
『うるさい! 帰ってくれ!!』
「まず1つ。ドアを大人しく開けて俺に妊娠するまで膣内に出されるか。そしてもう1つはその様子を全国に生中継されて「ラウラ・ボーデヴィッヒは犯されるのが趣味の変態雌犬候補生」と世に知らされるかのどっちかだ」
「どうして貴様の選択肢はそう一般的でないんだ!?」
「冗談だ。入るぞ」
そう言って俺は一昔前の鍵に金属を挿して鍵を開け、中に入った。
「おいおいおい!!」
「うるさいぞ。今からテメェの弟子が丸裸で犯されるのがそんなに嫌なのか?」
「それは嫌だろう!? そうではない!! 今何をした?!」
「普通にドアを開けただけだ。なに、心配するな。俺だって何も無闇にブス共の部屋に入る気はない。アンタの部屋なんて放火や破壊の目的以外で入りたくもない」
そう言って俺は怯えるボーデヴィッヒを見つけたが、何故か裸だったので下着を着けて服を着させた。体勢は押し倒してその上から服を着せると言う珍光景だった。
「さて、できた。学校行くぞ」
「離せ!! 離さないと撃つぞ!! 本気だぞ!!」
「はいはい。じゃあお前が俺を撃ったら100%生き残るから本気で妊娠させられるであろう場所に縛って放置して帰るからな。それが嫌なら大人しくしていろ。テメェに対する鬱憤は織斑姉弟同様に大分溜まっているんだからな。忘れてないだろ? 俺にした数々の事を。俺に対して弱虫とか意気地なしとか雑魚とか言ったよな?」
耳元で叫ぶボーデヴィッヒ。だが俺は容赦なく俵を担ぐようにして教室に連れて行った。
そこであの傲慢なボーデヴィッヒが俺の存在を常に隣に感じるから雨に濡れて寒さに震えるチワワのように恐怖で震えていたのがちょっと可愛かったが―――
―――ナニアレ……ユルサナイ
変な寒気を感じた気がするが、気のせいだと思っておこう。まぁ、この時の熱は42度あったんだけどね。
■■■
彼女が自分の姉に電話を取ろうと思ったのは初めてだった。
ある意味気まぐれではある。だが、ずっと頭に過ぎっている言葉があった。
―――自分の意思を通すために、何だろうと力は必要だぜ?
それは姉と同じような存在でありながら、多少やり過ぎる面があれど面倒見の良い男が自分を倒した後に言った言葉だ。そしてそれは、ある意味では正解だった。
今の箒にはある力がない。もし自分の好きな人が暴走しても止める術がない。それは同時に、現段階で学園内にいるもっともキレさせてはいけない男から好きな人を守る方法もないという事も意味する。
―――箒にはそれが嫌だった
だから、かけたくもない相手に電話をかけることにした。
『やあややあ! 久しぶりだね! あの男にセクハラされてない? 大丈夫?』
唐突に透のことが話題に出たのは驚いたが、それでも箒は頼むように言った。
「………姉さん」
『うんうん。本当は用件はわかっているよ? 欲しいんだよね? 君だけの専用機が! ちゃんと、ちゃあんと、あの男に推理されているのがかなり不本意だけどちゃんと用意しているから!!』
また透の話題が出た瞬間、箒は慌てて電話を切った。それほど、それほど箒にとって珍しいことだったからだ。
「…………姉さん?」
箒は思わず切った電話をしばらく見つめていた。
これで第二章は終了です。
次は第三章です
ちなみに透君はラウラを出した後、熱と目眩と同居人の看病のために早退しました。というか元々そのつもりでした。