「さて、全員集まったな」
簪を抱えて、俺は椅子に座る。5人は今か今かと俺の発言を待っているのではっきりと言った。
「まず、出撃はしない」
「な、何故ですの!?」
オルコットが即刻反応するが、俺が答える前にボーデヴィッヒが答えた。
「もしかして、命令違反を起こさないためか?」
「そうだ。今回の騒動は言い換えれば「アメリカとイスラエルの失態」だ。そもそも一生徒の立場でしかない俺たちがわざわざ出撃して罰則を食らうなんて馬鹿らしい。故に待つ」
「でも、もし福音が日本に言ったらどうするのよ? その後に中国にだって攻め入る可能性もあるのよ?」
「そうなれば襲われた国の治安が乱れるためだ。なに、俺の友人たちはそういう世界の方が性に合っているから問題ない」
「こっちはそうでもないんだけど!?」
悲壮感を漂わせる凰。これはあくまで例えなんだが、何を本気にしているんだか。
「とはいえ、俺の予想が正しいならそれはないだろう」
「……その根拠は何かな? 場合によっては最悪の場合を想定しないといけないよ?」
デュノアが真剣な目線を俺に向ける。まぁ、どう考えても突拍子がないところは否定しないが。
「根拠はこいつだ。正しくは紅椿だが」
「……もしや、マッチポンプか?」
「言うなればな。とはいえお前ら、篠ノ之を責めるのは筋違いだぞ。こいつは何も知らされていない」
「………だがな」
全く。ボーデヴィッヒの奴め……。
「あんまり駄々をこねるな。こねても良いが代わりに自分の身体をちゃんと観察しろよ」
「何故だ?」
「どう見ても幼い子供が好きなおもちゃを買ってくれなくて駄々をこねるパターンだろ?」
ボーデヴィッヒは怒りを露わにするが、すぐに俺の存在がどういった物かを思い出したのか沈黙した。
「で、さっきから黙っているがオルコットは何か案でもあるか?」
「いえ。ただ、本当に臆していないんですのね」
「俺がそんな玉に見えるのか? 悪いが俺は最初っから二戦目でケリを着けるつもりだったさ」
「………ほう」
おそらく篠ノ之の中の俺の株が大暴落しているだろう。
「勘違いするな。どっちかと織斑の方でそうなると思っていたんだ。篠ノ之がしくじる方があり得ないってな」
「……………何故、そう思った」
「大人の都合。特にアメリカなんか祖国の失態で日本が無駄に死ぬんだからたまったもんじゃない。するならば自ら尻拭いをしたいところだろうよ。だからそろそろ退場してもらおうか?」
すると篠ノ之以外の全員が頷く。流石は現役の代表候補生たち。話がわかる。
「良いかお前ら! 作戦通りに動けば福音の沈黙は容易い!! 弾幕を切らせるな!!」
そう言いながら俺もビットを飛ばして福音の行動範囲を徐々に狭めていく。
流石に俺とてすべてが良い方向に進んでいくと思うほど甘ったれていない。とはいえキツいのは確かか。
ちなみに今回のフォーメーションは篠ノ之の背中に凰を載せた形で先陣を切ってもらい、その反対側でステルス状態で移動した俺がタイミングを見て攻撃して注意を逸らす。俺の後ろでは簪が、篠ノ之と凰の後ろには防御のためにデュノア、さらに後ろにオルコットとボーデヴィッヒが距離を取って射撃をして攻撃のタイミングをさらにずらす。篠ノ之たちにとっては至難の業だろう。俺? 基本的に当たるわけがないだろ? 俺のスペック的にそうだが、簪がマルチロックオン・システムを使って数秒の時間差を操っているからだ。…………それがコンマの次元に入っているのは決して気のせいじゃないかもしれないが。
「エンチャント・アイス!」
ハルバートの刃を海につけると周囲が一瞬で凍り付く。次第に氷塊が形成されて一斉に福音の方に飛んで行った。
「なんて危ないことをしてんのよ!? 政治的にも危ないじゃない!!」
「安心しろ。文句を言った時点でそいつを嘲笑うだけだ!」
単一属性で勝てるわけがないだろう、たわけ! とな。
というかそもそも属性を自在に変えて戦うのは常識だとは思うんだけどな。と、凰に対する突っ込みはともかく俺たちはひたすら攻め続けた。
【こちらが不利と判断。離脱開始】
「そいつは無理な相談だな」
笑みを浮かべた俺は合図を送って突撃。メタルエンチャントにより硬度が増したハルバートを振り回して大きな攻撃を繰り出した。
おそらく相手がシステムによる暴走でなく意図してきた襲撃ならば、おそらく冷や汗を流して絶望を顔に浮かべていただろう。その顔を見れないのが大いに残念だが、今はそんなことをぼやいている暇はない。
「吹き飛べやッ!!!」
荒鋼にはいくつかの隠し武器が存在する。その1つである衝撃砲を掌にためて身体にぶつけた。
高威力の攻撃を防御もせずに受けたからか、装甲が飛び散って海へと落下する。その中には両方のウイングスラスターも含まれていた。
「………なんて武装をお持ちですの……?」
「アレから情報を取って来いってぶっちゃけ無理よ」
「……………現役時代の教官すら負けてしまっていたのではないか?」
「その上、弄るだけ弄って手を出すわけじゃないからね。戦うにしても欧州連合総出でもまず無理じゃないかな。僕ならすぐに降参するよ」
外野が何か言っているか知らないが、ともかく今は遺体……の回収はしなくても良さそうだ。まだ生命反応はある。―――っておい、
「全員、気を引き締め直せ! こいつ、動くぞ!」
誰もが驚いて落下した地点を見る。ボーデヴィッヒが叫ぶように言った。
「まずい!
すると海が弾ける様に飛び散り、回復している時にも展開していた膜の状態で現れたが、失ったはずの新たな力か非実体の翼を展開して膜を吹き飛ばす。
「………相手はさしずめ、天使か神か」
「そんなこと言っている場合か!!」
篠ノ之に突っ込まれたが、もちろん警戒をしていないわけではない。だが、その機体はこちらの予想を大きく上回る速さで移動した。あれ―――
「展開装甲。俺と篠ノ之ので学んだか」
「何ですって!?」
「そんな!? つまり相手は第四世代ということになりますの?!」
確かに予想外だが、だからと言ってやれないわけではない。………もっともそれは荒鋼の全スペックを開放できればの話だ。
そもそも今の荒鋼は完成形ではない。おそらく一次移行が完全に終われば使えるだろうが―――って、
「考える暇くらい寄こせ!」
狙撃担当のオルコットとボーデヴィッヒの方に一直線に飛ぶ福音を妨害する。スピードが予想以上に早く、追いつくのがやっとだ。しかも今のは瞬時加速を連続で行ったからできたこと。とても褒められたことではない。
「チッ。全員撤退だ! ただし篠ノ之はここに残れ!」
「…………わかった」
いざという時、最初からこいつには囮になってもらうことになっていた。覚悟を決めたのか篠ノ之は頷く。もっとも、篠ノ之を犠牲にするという考えはないのだが。
仕切り直し。そのつもりで周囲に福音を探す。捉えた瞬間に消え何かが俺を貫いた。
■■■
その頃、風花の間には異常が発生していた。モニターというモニターが動かなくなり、全員が今復旧作業に取り掛かっている。
「まだ復旧できないのか!?」
「はい。まるで何かが意図的に壊したみたいで。でも、配線には何の異常もなく………」
「……………」
千冬は舌打ちしそうになるのを周りに不安を与えないように堪える。脳裏に親友にして害悪の存在に思い浮かび、また舌打ちしそうになった。
だが、その予想は間違いだった。
何故なら束も同様の状況に陥っているのである。
「何で!? 何で何で?!」
まさか自分がこんな目に遭うと予想していなかった束は驚き、冷や汗を流す。すぐに復旧作業に取り掛かっているが、一向に直る気配がない。そうなると、心配は暴走した福音である。
強制的に二次移行させたのは束だ。ほとんど看破されているがこれは箒のために用意したことであり、倒すのは一夏と箒の2人で倒せた場合のみにしている。一応、暴走は自動化にしているが回復に関しては手動でしていた。
「こんなときに~」
だが束は内心状況を楽しんでいた。
しばらくすると束の方は回復したが、画面には束すら度肝を抜いた状況が起こっていた。
透の肉体が福音の槍で貫かれた。
学園最強と密かに言われていた透があっさりとやられたことで改めて専用機持ちたちは恐怖する。だがそれも一瞬のこと。すぐに切り替えて攻撃を始めようとしたが―――スペック差は大きかった。
まず、福音はすぐにセシリアとラウラを倒した。次に狙いを定めたのは鈴音だったが、シャルロットが咄嗟に庇って代わりに落とされる。
「シャルロット!!」
「鈴! 上だ!」
箒に言われて上から降り注ぐ光弾を回避する鈴音。彼女はすぐに墜とされた面々のバイタルをチェックすると、一応は生存を確認できている。
「このっ!!」
鈴音は衝撃砲で牽制。しかし福音のスピードの前では無意味であり、福音に接近を許した鈴音はあっさりと墜とされた。
「………更識、私が時間を稼ぐ。だからお前はみんなを連れてここから離脱しろ」
簪はすぐに頷き、全員を集めようとする。先に向かったのは透の場所だったが―――
「―――え」
箒が簪の前を横切るように吹き飛ばされる。見ると紅椿の装甲はすでにボロボロであり、まともに動かせそうにない。
「そん……な……」
簪も箒の実力は信じている。ある一点が影響で以前は恨んでいたが、お互いにその気持ちがないと知ってからはお互い姉で苦労している者同士だと思っていた。その箒があっさりとやられたのだ。そして、今度は凶刃が簪に向けられた。
(………やらなきゃ)
簪は震えていた。次々とやられていく専用機持ちたちをあっさりと倒した、自分よりも強い軍用IS。
(……やるんだ……!!)
すると簪に妙な感覚が走る。まるで無駄な思考が取り去られ、すっきりしたような何か。そして簪は打鉄弐式に備わっている投影型キーボードを展開させて操作した。
織斑一夏は目を覚まし、すぐに白式を展開して現場に向かう。
そこで最初に見つけたのは、意外なことに箒だった。すぐに声をかけ、無事を確認すると一夏が次に見つけたのは簪だった。打鉄弐式はすでに満身創痍であり、すぐに助けに入ろうとした。
箒は少し恐れていた。
過程はどうあれ、一夏を酷い目に合わせた自分が原因だ。だから責められるのではないか、と。それがなく、まだ怯えは多少は残っているが内心思った。
―――元の一夏で、良かった
箒の心が何かで満たされる。自然に彼女は右手に手を当て、安堵の息を吐いた。
「………やはり……私は……」
―――一夏が好きだ
確かに、一夏は自分はもちろん、好意を寄せている誰からのその感情があることに気づいていない。だが、箒は一夏のひたむきなところ、そして本当の自分を初めて見てくれた―――そんな人間だからこそ好きになったことが気付いた。
そのことに気づいたからか、もしくは何らかの要因が働いたのかわからないが紅椿の展開装甲を展開する部分から金色の光が漏れだす。
「……これは……」
ハイパーセンサーには【
―――その時、箒は悪寒を感じた
箒はその場で動きを止める。まるでその場から動いたらその瞬間に命という若葉を狩られるような、そんな感覚をそのまま味わっていた。
「何だ……何が起こっている……」
―――瞬間、福音は先ほど飛ばされた箒よりも早く飛ばされた
箒は改めて簪と一夏を見る。どちらも動く様子はなく、いつの間にかそこにいた青白い球体を見ていた。そして、一体どこから現れたのか何かがこっちに飛んできて―――球体に吸い込まれる。
「………一体何が―――」
そして球体が何かを飛ばし、誰もが見たことがないものをがそこに存在した。
10mくらいあるそれは異様な存在を放ち、まるでISが武装を展開するように薙刀のようなそれを展開する。
『ようやく、か。待ちくたびれた』
その声の主を聞いた誰もが理解した。その搭乗者の名前を。
「と、透か!? 一体どうしたんだ、それは!?」
ISの全高は、精々5mが最大だ。それ以上はISにはちょうどいい的にしかならない。
しかしそのロボットはまるで今の現状に反逆するように堂々と海上に立っていた。
【KISYAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!】
まるで拒絶するように叫ぶ福音。だがその謎の存在のパイロットは言った。
『白式の二次移行、紅椿の単一仕様能力の発現。こっちのするべきことはすべて済ました』
突如現れた謎の機体に対し、福音は―――
『ここから先は俺のロードだ。たかが俺程度にすら及ばない世界すべて風情が―――』
―――危険レベルを―――
『俺のすべてに逆らうな!!』
―――ランクSオーバー―――実質的の測定不能、超危険対象として認定した。
Lost/Load 第40話
「荒ぶる鋼-calamity-」
簪「そしてその鋼は存在している常識が覆す」