いざ描いて見ると、なんだかなあ。
とにかく、これで蛇足編は終了です。
自分はこれで満足したので、これで満足できないなら、まあ。
君もFGOの小説を書こう、としか言えません。
自分は、もうしばらく小説は書きたくない。
西歴二〇一六年,冠位時間神殿ソロモン。
この場所が時間旅行の終焉にして、最終目標。
ソロモン王を騙る者の玉座であり、ゲーティアたちの本拠地である。
そんな地に人類最後のマスターであるロクサーヌは、サーヴァントも連れず一人でこの地に赴いていた。
当然、考えなしに単身で突っ込んだ訳ではない。
カルデアの職員たち、そしてサーヴァントたちと良く話し合ったうえで、ロクサーヌはこの選択を選んでいた。
とはいえ、そこは敵の本拠地である。その光景は、ロクサーヌの想像を超えていた。
イメージとして見知ってはいたけど、実際にここへ訪れたわけではなかった故に。
時間神殿を目の前をして、ロクサーヌは何をするでもなく、ただただ突っ立っているのであった。
この空間こそが魔神王の第二宝具である
ソロモン王の魔術回路を基盤とする小宇宙。
空は獣の霊基に満ちており、地は魔神柱で出来ている。そこはまさしく悪魔の巣窟であった。
「どういうつもりだ? サーヴァントも連れずに我らの神殿に来ようとは? とうとう自害を選んだ、という訳でもあるまいな? そうであるのならば、どんなにありがたいことなのだが」
そんな中で、魔神柱が一柱、魔神フラウロスがロクサーヌへと近づく。
その姿は人間で、いつぞやのタキシード姿である。
「ロクサーヌ。君は、私と出会った時から、何も変わっていないのだな。幾多の試練を乗り越えて、施しの聖者から鎧を施されてなお、我々を。そして人間というものを恐れている」
フラウロスが近づくたびに、ロクサーヌの身は震える。
しかし、逃げようにもここが敵地であり、旅の終着点。身を隠すものは何もない。
どこにも逃げられず、彼女はただ身を震わせるのみ。
「君が人類最後のマスターだと知って、正直私は笑いが止まらなかった。最早、我々の邪魔をするものは何もいないのだと。そう確信した。だが、君は我々の予想を悉く裏切った」
ロクサーヌは弱い。
精神薄弱で、魔力供給しか能が無いマスター。
一見、そのように見える。
しかし彼女はそう見えるだけで、確かな強さがある。そう魔神柱たちは認めているのであった。
でなければ、彼女はここまで到達しえなかっただろう。
偶然と片付けるに、彼女の進撃はあまりにも都合がよすぎる。
「認めよう、私の眼は節穴だった。何故、あの忌々しい存在はこのような者を送り出したのだ? 全く、理不尽で腹が煮えくり返りそうだよ」
ロクサーヌが深呼吸をし、口を開く。
「おれのかみの正体がわかっているんだね」
「知識さえあれば子供にだって分かることだろう? 暴君ネロが嫌い、帝国神祖ロムルスがローマの一面と認めざるを得なかった。そのような神など、一つしかない」
ロクサーヌに味方する神は、間違いなく聖書の神。
それも新約聖書に書かれた唯一神。
その教えはかつてローマで栄え、ローマの権威を食いつぶした宗教でもある。
その名をキリスト教という。
「私としては、君に問い詰めたいことが山ほどあるのだが。それは我々の総意でもあるのでね」
そう言うとフラウロスは彼女に背を向け、どこかへと向けて歩き出した。
「来るがいい、我が王の下へ。このフラウロスが、君を玉座に案内してあげようではないか」
一時的に魔神柱たちはその活動を休止することで空間が歪み、玉座の道が開かれる。
フラウロスがその先へと歩み出したことで、ロクサーヌはそれについていく。
『ロクサーヌ、ちゃん』
「来たか」
そこは王の玉座。
本来なら道中を破壊しつくさねば立ち入れぬ、神殿の心臓部。
そこには膨大というにもおこがましいほどの魔力が渦巻いている。
そこに立つのは、魔神王ゲーティア。
ソロモン王に巣食う七十二の魔神柱、ソロモン王の負の遺産。
ソロモン王の遺体を用いているが故に、その姿はソロモン王のそれである。
「何故このようなものが、我々の敵なのか。理解に苦しい。今にも助けを乞わんとするほどに、怯え声を上げんとするほどに、苦悶の海に溺れているではないか」
彼は理知的ではあるが、威圧的。
人の姿であれど、その本質は不老不死の全能者のそれ。
完全故に人間には理解できず、また彼も人間を理解できていない。
震えながらそこに立つ、ロクサーヌの存在を未だに認められないでいる。
「だが、認めよう。その本質は我々と同じ志を持てるものであると。そして、その力は私の足元にも及ばないにしろ、私の前に立つ程度には相応しい力であると―」
だが、完全故に理解できることはある。
彼女は神の名の下に、来るべきして来たのだ。
それはかつて戯言だと切り捨てられていたが、今は七十二柱の総意となった。
そんな中、ロクサーヌのとった行動に目が向いた。
「何だ、その薬は」
ロクサーヌは懐から液状の薬を取りだし、零れ落とそうになりながらも飲もうとしている。
「思考を向上させる薬か? しかも劇薬のそれではないか。直にでも死ぬ気か?」
ゲーティアはその力故に、薬の性質を見抜いた。
その薬は、思考能力を短時間だけ活性化させる力がある。
ただし使用者の寿命をすり減らし、脳機能に後遺症が残るような劇薬でもある。
「あー、あー。
ロクサーヌは良く通る、呂律の良く回る、透き通った声を出した。
その眼に、普段よりは光が見えるような気がする。
「俺の寿命に関してはもう、いい。この戦いで、この身体も不要になる。それより、しっかり思考ができるってことが俺には必要だ」
彼女は明確な意思を持って、目の前の魔神王と向き合う。
「俺と話がしたいのだっけ? でも、あー。俺と話すことなんて、今更ないと思うのだけど」
「いや、そうでもない。我々にとって、君の行いは見過ごせない」
彼女は首を傾る。魔神王の意図がわからない。
お互いに、相容れない存在だと思っているはずだ。
以前の夢でもそうだったが、なぜ話そうとするのだろう。
「見過ごせない? なのに、何を話す?」
「我々としては、君の行いを認めたくないのだ。だから、君を止めようとしているのだ、ロクサーヌ」
止める、という言葉にロクサーヌは疑問を思った。排除する、ではなく、止める?
「私からの唯一の忠告だ。全てを放棄し、カルデアに引き籠っているが良い。それが最善の選択だ」
「何故戦う。いずれ終わる命、もうすぐ終わる命と知って」
「死を恐ろしいと、無残なものだと認識するのなら、知性を捨てたままでいるべきだったのに」
「人間たちはこの二千年の先を生きて、何になる? ひたすらに死に続け、ひたすらに無為であろう」
「貴様らには死が前提にある。その生き方に価値はない」
「だから、今すぐその生き方を止めて、知性なき生命として生きるが良い、人類最後のマスター。これは、私からの同類へ憐れみであり、優しさなのだ」
魔神王の“説得”が終わると、ロクサーヌは俯いていた。
「そうか。お前達は、俺を止めようとするのか」
ロクサーヌの中で、ロマニの姿が思い浮かぶ。
「確かに、魅力的だな」
「そうだろう」
彼も自分が、そして彼自身が苦しむのを止めようとしていた。
故にあの行動だったのだろう、故にこの行動なのだろう。
「俺も、この苦しみから解放されたいと何度思ったか。もう数えきれないほどだった」
誰も彼もが、これ以上辛い思いをしたくないのだ。
魔神王は、生ある苦しみを感じたくないないのだと。
ロマニは、辛い光景を見たくないのだと。
ロクサーヌも、苦しい精神状態から逃げ出したいのだと思っている。
「この世にあの主人公がいればと何度思ったか。だがこの世に、あの主人公はいない。何故だろうな」
藤丸立花がいれば、全て解決だったのだろう。
ロマニは満足して天に帰り、魔神王は人の王となる。
そして主人公には新しい冒険が。
だが、そんなものはいないのだ。その光景は永久に訪れない。
「足りない頭で考えていたけど。そもそも、この世には主人公など、居てはいけないのかもしれない。ナイチンゲールも言ってただろう、俺は
主人公の代わりに用意されたのが、自分という
合理的で、最低限の力を持たされた、都合の良い
こんなの、誰も望んでいないであろう。
「俺には、お前達の言う世界も、そう悪くないのかもしれない」
「ならば」
逃げ出してしまえば、自分は主人公という呪縛から解放されるのかもしれない。
「だけど、だけど。駄目だな。悪いが、お前の言いなりにはならない」
「それは何故だ?」
ロクサーヌは唾を飲み、その言葉を絞り出した。
「下らない理由だけど、やっぱり勝ちたいからだよ」
ゲーティアはしばらくの間、沈黙する。
「私に、勝ちたい、か」
「結局のところ、お前に勝つことだけが、俺が今、ここにいる理由で、主の望んだ宿命だからだろう。だから、お前に勝って、俺の存在を証明したい」
ロクサーヌはホムンクルス。
目的のために作られ、消費される存在である。
主より彼女に与えられた命は、ゲーティアを殺すこと。
その目的はあまりにも明確で、一人の道具。
道具にすぎないが、確かに価値はあるのだろう。
「そうか。何とも分かりやすい理由だ」
なるほど、大いなるにより作られ、崇高なる目的を果たす。
古今東西によくある英雄碑だろう。
面白いのだろう、素晴らしいのだろう。
「何とも英雄的で、嫌悪しかない。何とも無意味で、無価値でしかない」
しかし、ゲーティアには悪酒のようにしか思えない。
その過程で、一体幾つもの生が踏みにじられると思っているのだ。
それを思うと嫌悪しか湧き出なかった。
「うん。理解されるとは思わんさ。俺の思いが理解できれば、人類悪などに成りはしないのだろう。そういった所が、俺とお前との違いなのだろう」
ロクサーヌは沈んだ顔で、ゲーティアに顔を向ける。
「残念だ。非常に残念だ。では、今ここで私の手によって死ぬがよい。それがお前の唯一の救いになる」
「死ぬのはお前だ。憐憫の獣」
言葉と共にゲーティアの圧が膨れ上がるが、それでもロクサーヌは強がってみせる。
「何故、貴様は私に勝てると思っている。私はそれが不思議でたまらない」
「それはこっちの台詞だよ。何でお前は俺に負けないと思っている? 何故、お前は負けないと思っている? アンデルセンが説いていたけど、あれから答えは見つかった?」
互いの力の差は明確だ。
ゲーティアは強く、ロクサーヌは弱い。
普通なら、ゲーティアが勝つはずだ。
しかし、ロクサーヌはここに来て勝利を確信している。
「我々はあれからあらゆる可能性を検討したが、終ぞ見つかることはなかった。その可能性が実在するというのなら、是非とも聞かせてもらいたいところだ」
「ビーストⅠ、魔神王ゲーティア。その攻略法は二つあると俺は知っている。一つはグランドクラス。例えばグランドキャスター、ソロモン王が持っている、第一宝具」
その言葉に、ゲーティアはピクリと反応する。
「その名を
神の恩恵を天に返還すること。
それはソロモン王という存在の消滅を意味する。
発動後、彼のあらゆる全ての偉業はこの世から、そしてその存在が座から消滅することになる。
勿論、その場に全ての指輪が揃っていて、自爆宝具と知って持ち主が発動すれば、であるが。
「まさか。だが、あの男が。ありえん」
「全てが見れるのなら、その可能性があると分かるのじゃないかな。もし、ソロモン王が聖杯戦争に呼ばれたら? その聖杯戦争で己の願いをかなえ、現代に“ただの人間”としての生を望んだならば? それが、今もこの状況を見守っているとするならば?」
そして、その男は、今もこの場を見守っている。
彼女を信じて送り出している。
「貴様は。その男を」
「いや。ロマニは来ない。そもそもこのような物語に、彼は来るべきではないだろう。この場では、“主人公”が全てを解決する、それでいいだろう」
ゲーティアの反応を余所に、彼女は続ける。
「もう一つは、ビーストと同等の存在をもって、ビーストを倒すことだ」
それは毒をもって、毒を制する方法。
岡っ引きのように犯罪者を利用して、犯罪者を捕まえる方法。
まさに劇薬のそれだ。
「人類悪と同等である存在。キャスパリーグとか、ティアマトとかは分からんが。人類の欲望を詰め込んだマスターであるリヨぐだ子とか、殺生院キアラにアンデルセンと聖杯があれば、かなあ」
古来より毒は薬であり、薬は毒である。
毒である故に、毒を制することができる。
そうした神秘を用いることで、人間は毒を破ることができるのであった。
「なるほど。だが、我々と互角である、と? それはあり得ない。貴様は我らと同じ可能性はあれど、格は我らに遠く及ばない」
「そうだな。それだけの力は、あまり現実的ではないし。そんな力を持っている次点で、本来なら駆逐の対象だろうしな」
かつて、彼女がリヨぐだ子の存在を思い浮かべた時のように。
その存在は、存在するだけで劇物である。
存在は出来る限り、望ましくない。
「そして俺にはそれだけの力は持たされていない。いや、それだけの力は必要ない。神の力を得たビーストといえど、対抗策は存在している。お前は倒せる。それでいいだろう」
とはいえ彼女には幸いなことに、この世界はメタを張っての勝利ならそう珍しいことではない。
エミヤがギルガメッシュに勝てる可能性があるように。
一点特化が最強に打ち勝つ可能性は、十分に残されている。
少量の毒でも、猛毒に打ち勝てる可能性は十分だった。
「やろうよ、戦闘。そっちも準備はできているのだろう。お互いのことは、己の力をもって証明して見せよう」
ゲーティアの姿がソロモン王の姿から変わる。
人の姿から、金と白金に彩られた筋骨隆々の姿に。
頭に角を生やし、腕や胸は裂け、そこから口や目玉が覗いている。
その姿はおどろしき悪魔や怪物の姿。
「では、貴様の望み通り、お見せしよう。貴様の旅の終わり。この星をやり直す。人類史の終焉。我が大業成就の瞬間を! 第三宝具、展開」
ゲーティアが展開するは、原罪のⅠ。
各特異点の上に輝いていた光帯。
その本質は、人類の歴史全てを熱量に変換したもの。
「
ロクサーヌが展開するは、彼女の精神。
ロクサーヌという存在の象徴。
その本質は、心の病が作り出す心理の膜にして壁。
「
「
光が、束となってロクサーヌを飲み込む。
いかなる防御でも、この熱量には耐えられぬ。
人類の歴史全ての重みが、この攻撃に集約されているが故に。
この熱量に敵うものなし。そのはずである、が。
「熱つつ。なんとか、致命傷で助かった、か」
しかし攻撃の後には、それまで着ていた病人服を捨て去り、光輝く簡素な服を残したロクサーヌの姿があった。
「なるほど。その宝具か」
「そう。身体は失えど、この宝具が俺の血肉となる。そして、これを発動している限り、俺は生き続けることができる」
彼女のホムンクルスとしての身体は焼き尽くされた。
しかし現在、精神エネルギーのみで彼女は生き続けている。
つまりは、かつてのオルガマリーと同じ状態だ。
そしてその状態を支えるのが、彼女の宝具。
カルナの血肉、太陽の鎧を主材料とするこの宝具はその性質を受け継いでおり、神でも壊せぬ代物。
本人が捨てなければ、決して破られることはない。
ただし、生の苦痛に耐えられるのであれば、であるが。
この宝具は精神的な痛みを所有者にそのまま伝える。
「だが、どうするのだ。守ってばかりでは私には勝てない。そして、私は守るだけで、目標が達成できる」
「そうだな」
ただ、人類を滅ぼすことが、彼らの目的ではない。
人類の歴史の熱を集めた理由は、過去へと至るため。
天体が生まれる瞬間に立ち会い、そこでエネルギーを集め、死のない惑星を作り上げる。
これこそが彼らの目的であり、その時が来るときに彼の目的は達成される。
「ここまでして折れぬか。何故だ。何故折れぬ」
ロクサーヌの存在は気にかかるぐらいに邪魔なのだ。
だからこそゲーティアは、この場の全力をもって排除しようとした。
だが、苦しみながらも最後のマスターは未だ、立っている。
「何故、分からぬ。人間には絶望しかない。人類に未来などない。それなのに、何故そこまでして人に味方する」
不可思議だ。
何故、この苦しみを我慢できる。
何故、我々の敵である。
完璧であるゲーティアは、人間がどうしても分からない。
「何故、か。勝ちたいから、だけでは納得しないのかな」
ロクサーヌは、自分に語るように答えた。
「まあ、これは失う物の方が多い戦いなのは認めるよ。オルガマリー所長は死に。ロマニたちは仕事に追われ。俺のサーヴァントたちは俺の指示を待っている。俺の心は確かに限界だった」
確かに、自分は限界だったのだろう。
誰にも縋れず、孤独だった。
いつ壊れるか、そんな日々がここまで続いていた。
「だが。この旅においては、ここまでは来れるとは分かっていた。そして、お前達には勝てると知っていた。それだけが俺の、心の支えだった」
ただ、それでも勝機は既に手中に収まっていた。
そして、それをサーヴァントたちは理解しており、支え続けてくれた。
それを自覚していたからこそ、彼女はここまで正気を保っていられた。
「俺も、最初は自分の力を認識していなかった。自分がここまで力を持っているなんて、思いもしなかった」
ロクサーヌは己の胸に手を当てる。
そこには、彼女ではない“何か”の力が脈動している。
それこそは、彼女の中の“男性“である。
「だが、最初から俺は、この力を持っていたのだと知ったよ。最初から神なるものは、己の中にあったということだ。あの男に抱かれることによって、屈辱と恍惚の中で、俺はこの力に目覚めた。あの時確かに、俺は神を見た」
「また、随分と古いものを持ってきたものだ」
彼女の力は、例えるならインドの密教のようなものである。
もっと古いのであれば、エルキドゥもシャムハトとの交わりによって知恵を得たことが、例に挙げられる。
それは男性と女性の交わりにより、心身の完成を目指す儀式。
彼女の力は、これに類しているものなのだ。
「だが。同時に、こんなものかとも知ってしまった。勝利なんて、こんなものなんだって。それでも俺は、戦わずにはいられないのだけど」
彼女は天を仰ぎ、目を瞑った。
「しかし、これ、手放さなきゃならないのか。分かっていたけど辛いなあ」
すると彼女の服は破け、黄金の鎧が露出する。
そして黄金の鎧もバラバラとなり、崩れ堕ちる。
「宝具を捨てた、だと」
「ああ、俺の真の力を発揮するには、邪魔なんだ。俺が私であるためには、俺はロクサーヌであることから解放されなければならない」
肉体を失ったロクサーヌの身体が、光となって消え去っていく。
光の粒子は霧となった後に、再び一か所に収束していく。
すると光は、ある形をとった。
「来たれ。私はこの時を恋い焦がれてありし者なり」
何かの祈りが、その場に木霊する。
祈りは仰々しくもあり、同時に慎ましくもある。
その正体を、ゲーティアはすぐさま看破する。
「黙示禄の四騎士、だと」
白磁器の肌を持つ、男とも女とも区別のつかない者が白い馬に乗っていた。
手には弓が握られ、頭には王冠が載せられている。
その白い眼は無機質で、何も映し出していない。
「やはりフラウロスめ、その目は節穴か」
「私の名はホワイトライダー。勝利の上に勝利を得るために出かけるもの」
ある日、主が男の夢枕に現れた。
“汝に資格あり。望みを口にせよ。願うものを与えよう”
それに彼はこう答えた。
“ならば、俺に勝利を”
「括目して待て。私こそは、主に勝利を求めたものの末路でもある」
小羊が開いた七つの封印が一。
新約聖書、ヨハネ黙示禄に語られし存在。
「だが。その鎧を失った以上、私の攻撃は防げない」
脅威的な存在であれ、力を発揮する前に屠ってしまえば関係ない。
格は明らかにこちらが上、どのような力だろうと圧倒できる。
ゲーティアは
しかし、
「我が権能を持って命ずる。“動くな”」
そう宣言すると、ゲーティアの体は瞬時のうちに石像と化した。
「体が、動かん」
『観測所、ガープより警告。全魔神柱がコントロール不能。支配権を握られている―』
黙示禄の騎士は、神によりそれぞれ権能が与えられている。
それぞれの騎士たちは、地上の四分の一を支配する権能と剣、飢饉と死と地上の獣により人を殺す権能を与えられている。
「私の権能は、我が領域に対して絶対。ソロモンの犬よ、憐憫の獣よ。その心は私のものだ」
白の騎士は勝利の上に勝利を重ねる者。
そして、地の四分の一の支配と地上の獣により人を殺す権能である。
「貴様は。その力が何を意味するのか、分かっているのか。お前たちは再び、あの蛮行を繰り返そうというのか」
「然り。私もまた、人類に害を成すもの」
毒を持って毒を制すとはよくぞ言った所であろうか。
ゲーティアの存在は人類にとって猛毒であるが、
「私は四騎士の中でも尖兵に過ぎぬ。私がこうして生まれた以上、いずれ第二、第三の騎士が現れるであろう」
黙示禄が訪れる時、人類は未曽有の災害に巻き込まれることになる。
勿論、彼女も分かっていたことだった。
彼女がこの世に生まれた時から決定づけられ、既に何もかもが手遅れである。
「終焉だ。此の命令をもって、この場を締めるとしよう」
「我が権能をもって命ずる。“自害せよ、ゲーティア”」
石化していたゲーティアは解放され、体が勝手に動き始めた。
光が彼の体から迸る。
蓄積された異常な魔力の流れが、ゲーティアの体を壊し始めた。
「このままでは終われぬ。我らの計画が、こんな結末など、断じて認めない」
各々の魔神柱も同様の状態である。
必死に魔力の流れを操作しようとするが最早止まらぬ。
だが、ゲーティアとてこのままで終わらない、終わる訳がないのだ。
「いずれ貴様も、知るだろう。貴様らに、今の人類の生に幸福などないというこ、こと、を」
「
ゲーティアは必死に言葉を振り絞り、
光はいよいよ臨界を迎え、まさに爆発せんとす―
**
神殿が崩壊する中、
そんな中で、
「気は済んだか。狂人」
「英雄王」
「全く、今の現世に興醒めな者も居たものよな」
最前に、英雄王の姿がある。
「何の機会もなく滅ぼされることが、人の命ではなかろう」
「は。滅ぶならそれまでの人間ということよ」
「ゲーティアはこの手で仕留めた。しかし、手ごたえはなかった。あれが全てであるとは思えん」
だからこそ、こちらを何とか諦めさせようとしたのだろう。
「いずれ、その獣性を受け継ぎし者が現れるのかもしれぬ」
「何。それもまた一興であろう。そのぐらいが腑抜け切った人間共には丁度良い」
そして、こちらの力に対して何か対策をしていてもおかしくはない。
もし、負ける可能性をゲーティアが認識していれば、これだけでは確実に終わらない。
これで全て解決だとは、どうしても思えなかった。
「我は寛容よ。貴様もその見世物も模造品であるが。此の都度の旅に免じて、貴様の行いを許容しようではないか」
ギルガメッシュは、何かを
彼女が捨てた、宝具の一部だ。
「だが、その姿は不愉快だ。これは貴様の物であろう? 其れをもって我の眼を欺く事を特別に赦そう」
「良いのか?」
これの元はカルナの宝具だ。
カルナは彼も認める超級の存在で、その宝は彼の眼にも適うほどのものであるのだが。
どうしてだろうか。
「不敬。我に二度を言わせるなよ」
「例え一流であっても、手垢のついた真作など英雄王の蔵には不要だということだろうな」
「施しの英雄よ。いくら貴様とはいえ、お喋りが過ぎるぞ」
「すまない。貴様のことを必要以上に語ることは、余計だったな」
納得して、
光輝いている、宝具頼りでかろうじてこの世に現存している姿だ。
「やけに、しっくりするな。一回捨てたのに」
「アホか。こうなることは分かり切っていたのだぞ。一回読んだぐらいで飽きる作品なんぞ、俺が提供するとでも?」
「ああ。そういうことか」
カルナの鎧は、一度手放した後は、二度と戻ってこなかったはずだが。
どうやら、宝具は一回手放しても再利用できるように、書き換えられているらしい。
おかげで、ロクサーヌは自分という存在を保っていられるようだ。
「そっか。これから、俺も。もうちょっとだけ生きなければいけないのか」
ロクサーヌは崩壊しかかっている辺りを大きく見渡した。
「というか。なんだかなあ。帰りたくないなあ」
「帰る約束をしたのだろう」
カルナの指摘により、彼女の表情は沈む。
「これから、ろくでもないことがいっぱい起こるんだ。俺が楽した分、世界はさぞ素敵な光景になるに違いない。これが、主の望んだこと。黙示禄の時。俺が選んだ選択の、末路」
こうなることはわかっていた。
しかし、いつだってそれを許容できるとは限らないのだ。
「俺は強く、あれたのかな」
所長は救えなかった。
旅は満足できるものではなかった。
そして、結局世界に問題は残されている。
「神に縋る時点で、我からしては軟弱よ」
「お前はお前らしくあればいい。それ以外に何が必要だ?」
「そう。だな」
「とんだ人に騙されましたー。こんなのあんまりですよー」
「まあ、希望を持つことだ。これからは乱世になるだろう。その中で、お前の仕えるに相応しい人間も出てくるだろうさ」
ロクサーヌは顔をこすり、顔を上げる。
そしてようやく、旅への終わりの方向へと向き合った。
「急ぐがいい。マスター。禄でもない未来がお前を待っているぞ」
「うん」
こうして彼女の戦いは終わった。
獣は倒され、人類は救われた。
そうして彼女たちは明日へと向けて歩き出す。
「帰ろう。皆が待っている」
彼女の眼が少しだけ、輝きを取り戻した。
ご愛読ありがとうございました。
やる気が向いたら、設定や雑感を公開したり、補足的な話を書くかもしれません。