その方針は今後も変わらないと思います。
ですので今後、オリ主が素晴らしい作戦を思いついたり、カッコイイ戦闘をしたりはしません。
あるのは会話だけです。
あと、七章はやりません。その前後は書くと思いますが。
狂った英雄、“青髭”ジル・ド・レェについて、語るとしよう。
彼はかつて、フランス救国の英雄だった。
彼には志を同じくする
だがある日、祖国の裏切りにより、彼女を失った。
故に彼は狂った。
狂い、冒涜に走り、そして当たり前のように罰せられて、死んだ。
かつて英雄に至りながら、彼はどうしようもなく反英雄であった。
そうした彼は死後、この特異点フランスの地にサーヴァントとして召喚され、聖杯を与えられた。
何でも叶う聖杯を与えられた彼は、真っ先にジャンヌ・ダルクの復活を願った。
しかし、何でも叶うはずの聖杯は、その願いを実現させなかった。
故に彼は再び、冒涜に走ることにした。
裏切り者のフランスと無常なるこの世と、そして己の信ずる神を貶めるために。
自分が愛する人はいないのに、世界は何でもないように存在している。そんなのはおかしいだろう。
この世界は、狂っている。
それを証明するため、彼以外の全てを、自らの絶望へと引きずり込もうとしたのだ。
聖杯を使って、自分に都合の良いジャンヌ・ダルクの贋作を作った。
竜を召喚し、大量の破壊をもたらした。
さらにサーヴァントを多数召喚し、さらなる冒涜をもたらした。
こうしてフランスの地は、戦争以上の戦火に飲まれ、滅亡の危機に瀕することになった。
だからこそ、なのだろうか。フランスの危機に、死して間もないはずの彼女が、再び立ち上がったのは。
『サーヴァント、ルーラー、ジャンヌ・ダルク。今一度、救国の、そして救世のために、こうして参上しました』
『それはわかるけど。えっと、どうしてこんなにみんな?』
『これも、主の御導きですよ』
『私が力になってあげるわ。ヴィヴ・ラ・フランス!』
『とはいえ、あまり期待しないでくれたまえ。はっはっは』
『あー。うん。ありがとう。みんな』
ジル・ド・レェは黒魔術を用いた水晶玉で、その光景を見つめていた。聖女を筆頭とするサーヴァントの一団が。聖杯とは別に召喚された者たちが、人理を救わんとする一団に合流していた。
「ジャンヌ。貴女は」
続く言葉を、寸での所で飲み込んだ。こちらの言葉は、ここからではどうやっても伝わらない。
彼女は再び神の声を聞いて立ち上がった。これから彼女は軍を率い、奇跡を起こすのだろう。
何と喜ばしいことか。このジル・ド・レェ、これ以上の喜びはない。
なるほど、聖杯は万能の願望器と聞いていたが、あながちそれも間違いではなかった、ということだろう。結果的にはこの手で、聖女を復活させたことになるのだから。これで、ジル・ド・レェの第一の願いは叶ったことになる。
今からでも、彼女に会って、あの中に加わりたいと思う。
会って喜びを分かち合い、抱きしめたいと思う。
貴女のジル・ド・レェはここにいますと、彼女にそう伝えたい。
だが、それは駄目なのだ。罪を犯した自分は、もう許されない存在なのだから。
彼女は自分を赦すだろうが、自分はもう許されない。彼女が赦そうとも、カルデアは自分という存在を許さない、許してはならないのだ。
何故なら、世界を滅ぼそうとしているのは、他ならぬ自分だから。ジル・ド・レェは次点の願い、世界の滅亡をも叶えようとするしか、もはやすることは残されていないのである。
「ねえ、ジル。あのマルタとか言う女が、私の言うことを聞かずに出て行ったのだけど」
ジル・ド・レェの元に、自作の黒い聖女、自分が聖杯を与えた聖女の贋作が訪れた。
「そうですか。では、契約はそのままで、魔力の供給だけを切ってしまいましょう」
「どうして?」
「どうやら我々が操るには、あのサーヴァントは強力すぎたようですね。下手に敵に回られても厄介です。ですが、そうしてしまえば何もできないでしょう」
聖杯でサーヴァントを召喚しても、狂った反英雄であるジル・ド・レェたちに、世界を滅ぼさんとする悪人に、従う者はいないだろう。それの程度の悪人であると、彼らはそう自らを自覚している。
だから。召喚するサーヴァントはバーサーカー。狂化の特性を付与して召喚し、従えているのであった。
とはいえ狂ってなお、正気を保っているサーヴァントも、中にはいるわけである。
竜を祈りで沈めた聖女、マルタ。キリスト教の聖人として語られる彼女は、狂ってなお確固たる信仰心を持って、ジル・ド・レェたちの命令に反していた。
とはいえ、召喚させたジル・ド・レェも、まさか狂化させたぐらいで彼女を従えることができるとは思っていなかった。
聖女マルタを召喚して狂わせたのは、完全に彼の趣味であり、“遊び”であったのだ。
意に反する可能性が分かっている以上、どう処理するかは決めているのだった。狂犬の処理は、飼い主の務めであるのから。
「へーえ、なるほど。やっぱり貴方は頼りになるわね」
「ははは。そうでしょう、そうでしょう」
ジャンヌ・ダルクに褒められることで、自らの中に喜びを感じる。かつてあった日々が、自分の中に蘇るのを感じる。
しかし、本物はここにはいない。本物は敵にまわってしまった。
そのことに、どうしようもない虚しさを感じてしまう。
「これが、ジルが言っていたカルデア? 見た感じだけど、結構強そうなのが揃っているようじゃない。大丈夫?」
と、黒い聖女は水晶の中身を見て、眉を潜めた。
そこには、分かりやすすぎるほどの黄金の輝きを持つ王者と、太陽の輝きを放つ聖者の姿があった。
それ以外にも、水晶越しにも伝わるほどの殺気を持つ暴君も見て取れる。
「ご安心下さい。このジル・ド・レェ、貴女のために、必勝の策を用意していますので」
「へぇ? そうこなくっちゃ」
嘘だ。自分たちはこの戦いにより負けるのだろう。
かつて神につかえ、そして芸術というものを理解する彼は、彼らの本質を見抜いていた。
あれは己の神に対する、邪神に連なる者たちである、と。あれこそが、神代に語られし本物の英雄なのだ。
英雄というものを再現したサーヴァントでしかない彼には、彼らのような真の英雄を打ち倒すことはできない。
この黒い聖女も、彼に都合の良いように作られた贋作だ。あとはサーヴァントがいるとはいえ、所詮は狂った英雄や、怪物たちでしかない。
こちらの望みは限りなく薄いのである。彼はそれらを理解した上で、彼女と自分を誤魔化していた。
本物のジャンヌであれば、そんな状況でも前を向いて戦い続けるのだろうが。
彼女なら、死にもの狂いで、こちらを勝利に導いてくれるのだろう。
だが、このジャンヌは、偽物だ。
彼女がフランスのために戦うつもりはないだろうが、自分のために最後まで戦ってくれるのだろうか?
いや、自分のためのジャンヌだが、しかし―
「で。この子がマスター? という訳ね」
「ええ。ジャンヌ、どう思いますかな?」
ジル・ド・レェが水晶を操作すると、白磁器のごとき美を持つ女を大きく映し出した。
しばらく、黒い聖女はそれを見つめていたが、言葉を吐き捨てた。
「とても綺麗ね。この手で、壊したいぐらいに」
その言葉に、彼は心からニッコリと笑った。
「それでこそ、私の
そうだ。あれこそが、我々の慰め者であり、偶像なのだ。
あれを滅茶苦茶にして征服することが、我々にとっての唯一の救いなのだ。
目の前の彼女は、それを理解してくれている。
それがなんとも、狂うしかない彼には嬉しかった。
「さぁ。準備をしましょう。あちらにも聖女がいる以上、まもなく彼らはやってきます。こうなったら大盤振舞です。彼らに、盛大な放蕩というものを見せつけてやりましょう」
彼らの行動は全て、上手くいくはずがなかった。どんなに財産をため込んでも、どんなに味方を増やしても。
彼らは狂った、哀れな人形にすぎないのだから。持った財をいたずらに浪費する選択しか、彼らには残されていないのだ。
そうして彼らは当たり前のように、生前の捌きを受けるがごとく。正当な英雄の集うカルデアに、倒されることとなるのだった。
時と場所は変わって、ローマの地。
第五代皇帝、“暴君“ネロ・グラディウスが治めるローマ帝国。
ここはその、ほんの一部であった場所だ。
”あった”、と言うのは、この地も特異点であり、歴史の歪みだからだ。
そこには帝国ローマの首都に劣らぬほどの、ローマの首都に見間違えるほどの国が建っていた。
此処こそが永遠たる狂気の帝国、セプテムである。
「よく来た。最後の舞台へ。我が愛しき子たちよ」
ロクサーヌと皇帝ネロが、アサシンのサーヴァント・荊軻に案内された場所、それは盛大なる王の間であった。
玉座の場所には、勇々たる偉丈夫が立っていた。
その肉体は、全てを包み込まんとするほどに広がっている。
人ならぬその眼は爛々と、しかし慈愛に満ちている。
彼こそはローマの祖にして、ローマの歴史そのもの、神祖ロムルスである。
「ここまでの道程は、実にローマ溢れる旅路であったであろう、と言いたいところだが」
ロムルスは、ロクサーヌを見つめる。
溢れんばかりの雄の気配に、その雌の身体は委縮している。
とはいえ、不思議と怖くは感じなかった。
見つめられるロクサーヌは、茫然と立って、その眼を見つめ返していた。その眼には自然と引き込まれるものがあるのだ。
この眼には見覚えがある。これは自分が見た、神の眼に似ている。
だが、なんだろうか。
ロクサーヌが思うに、その眼は、とても哀しい目をしていたのだ。
「この世において、もっとも愛深きことであろう戦士よ。お前が司どりしは、神に授けられしローマ、ローマなき合理性、ローマなきものの救済」
皇帝の職についたサーヴァントが所有するスキル、その名を皇帝特権。皇帝の万能さをもって主張することで、一時的に他のスキルを所有することができるのである。
ローマ建国を成したロムルスは当然のように、このスキルを持っている。何故なら
そうして得た千里眼のスキルを用いることで、ロムルスは彼女たちの旅路を見守っていた。
当然、ロクサーヌたちのカルデアが持つ性質もまた、彼は見切っていた。
「そのいずれも、ローマとは言い難い。お前の存在は、ローマとは言えぬのかもしれぬ」
だが、ロムルスが期待していた以上に、カルデアという組織は強すぎたのだ。
元々、ロムルスを筆頭にこの地に召喚されたサーヴァントは、人類を滅亡させようとする気がなかった。
例えば、カリギュラ、カエサル、アレキサンダーといったサーヴァント。いずれも強力で、善良とは言い難いが、人類滅亡など望まない者である彼ら。
彼らは、ロムルスたちへ従うままに兵を率いて、皇帝ネロの治めるローマと敵対していた。
その軍勢は、生きる英雄たる暴君ネロを、滅亡一歩手前に追い込む程度に強力ではあったのだ。
ただ、カルナ、クー・フーリン、ギルガメッシュといった、神代における一騎当千の英雄の中でもさらに強力な英雄の集まるカルデアの相手にはならなかった。ということを、ここに記しておこう。
少なくともその進撃は、ロムルスにとって、あまり愉快なものではなかったようだ。
「だが、ローマより生まれし、ローマの尖兵よ。お前の存在も、また、確かにローマなのだ」
それでも、ロムルスはカルデアの存在を認めていた。
まぎれもなく、お前たちは“ローマ”である、と。
そのローマの心をもって、カルデアの存在を受け入れていた。
「ごめん。ローマって何?」
「マスター。後で俺が翻訳したものを渡すから、今は黙って聞いておけ。英雄王ではないが、俺からしても聊か興ざめだ」
とはいえ、ロクサーヌにとって、ローマとは難しすぎた。
彼女は周りの人物を見渡す。
ローマの仔であるネロはもちろん、洞察力に優れたカルナとアンデルセンは理解していることだろう。
王の中の王たるギルガメッシュは腕を組み、面白くなさそうにロムルスを見つめている。
暴力の化身たるクー・フーリンは、そもそも相手を戦い以外で理解しようとしていない。
ロクサーヌの知るロムルスとは、その、まあ、ローマである。
彼女自身はロムルスが偉大だと知っていても、その本質を理解しているわけではなかった。
一体、ローマとは、何であろうな。
「そして、我が子よ」
ロムルスは、ネロへと向かう。
彼が深く見つめるだけで、彼女の身体もまた、委縮する。
「改めて問おう。お前の知る通り、ローマこそがローマの過去、現在、そして未来のローマを支えしもの。私を超えるローマが無いと知って、それでもお前はこの私に挑むのか?」
ローマ皇帝たる彼女もまたローマであり、ロムルスに敬意を払うものである。
彼の胸に抱かれたい、彼に全てを委ねたいという衝動に、今も駆られている。
魔術師の理論から言えば、神秘は古い程強くなるという。
つまり、この世では建国されたままのロムルスの神代ローマこそが、あらゆるローマの中で最高なのだ。
自らを絶対の存在と信じて疑わぬ彼女ではあるが、それだけは認めざるを得ない。
だが、それでは駄目なのだ。
この眼で、彼のローマを見た。
だからこそ、これだけは自信を持って断言できる。
「無論である! 貴方こそが至高のローマであるのなら。余こそが比類なきローマであるのだから!」
神祖ロムルスのローマは、ローマの理想であるのだろう。
だがそれでも、今、ここのローマには相応しくないのだ。
この時代におけるローマは、皇帝ネロのローマに他ならぬのだから。
「良い。それでこそローマの見込んだ情熱の子だ。お前の築き上げた国をもって、ローマのローマに打ち勝ってみせるが良い」
ロムルスは、その手に持った大樹の広がりのある槍を構えた。
その身を持って、私の身に打ち勝て。それでお前のローマを証明してみせろ。つまりはそういうことだろう。
「カルデアの尖兵よ。あれは余のローマが超えるべき壁であるのだ。これ以上の手出しは無用であるぞ」
余の獲物に手を出すな。そうネロはカルデアに釘を刺した。
「わかってる。だいじょうぶだよ」
ロクサーヌはそれでもいいと思っていた。
ロムルスが手を抜いている、というのもあるが、ネロは必ずやロムルスの試練を突破するだろうという確信があった。
何故なら、彼女は皇帝ネロであるのだから。
月の聖杯戦争におけるネロを知るロクサーヌは、彼女が負ける姿が思いつかなかった。
「安心しろ。元々こちらとしても、お前達のローマとまでを邪魔するつもりはなかったのでな。無粋な輩は、また別の無粋な輩と戦うとしよう。それ、出てくるがいい」
アンデルセンはそう言うと、部屋の中にある一つの柱を見た。
すると柱の影から、この時代には不釣り合いな、現代の服装をした男が出てきた。
「まったく。私がここに居ることも御見通しなのか。君たちは我が王のように、全てを見通す眼でも持っているというのかね?」
モスグリーンのタキシードを着込む男。
この時代では聖杯を所持し、セプテムの宮廷魔術師として暗躍していた、レフ・ライノールである。
彼は、呼ばれたから嫌々出てきたといった、そんな様子を隠そうともしていない。
「えーと。おれは、その、ローマをもっているんだよ。ローマを」
「答えたくないのなら答えなくていい。そのローマとやらもいい加減、聞き飽きた。私には、この国の何もかもが不愉快で溜まらないのでね」
レフにとっては、何もかもが思い通りにいかないことばかりだった。
オルガマリーを殺した後に城へ帰ろうとしたら、この地の聖杯を担当する羽目になった。
聖杯で召喚されたサーヴァント風情は、どいつもこいつも自らの指示に従わなかった。
おまけに、ボコボコにした相手が、再び自らの前に現れた。
これで不愉快にならないはずがない。
「ああ、不愉快といえば。君の存在そのものもだ、ロクサーヌ」
ギロリ、とレフは大きく目を見開き、ロクサーヌの方を睨みつける。
ロクサーヌは再び委縮し、一歩下がる。
「君はそこのサーヴァントの言う所によれば、どこぞの神の手で生まれ。そして、いささか我らの計画に詳しいらしいな」
ロクサーヌはカルナの影に隠れる。
それを見て、ギルガメッシュが不機嫌に鼻を鳴らした。
「どこぞの神の手により生まれたというのは、まあいい。所詮貴様の力も、我らにとっては有象無象の英霊程度の存在でしかないのでな」
サーヴァントではないが、サーヴァントほどの力を発揮する現代の人間というのは存在する。
戦闘機に例えられるサーヴァントに匹敵するような人間は、大変稀ではあるのだが。
少なくとも、ロクサーヌが魔力を供給する力は、キャスターのサーヴァントを遥かに超える力を持っているのだろう。
だが、その程度で何になる?七十二柱の魔神たちも、伊達にその名を名乗っている訳ではない。
力と知恵を持つからこそ、魔神である所以なのだ。
「だが、後者に関しては静観できないな。何故だ。我らの計画を知って、なぜ諦めずにいられる? 我らの力と完璧な計画を知って、なぜ抗おうと思ったのだ?」
世界の全てを観測し、そして人間というものを憐れむ彼らは、カルデアの行動は不思議でたまらなかった。
冬木の地で、こちらの力と計画による絶望というものを、見せつけたはずである。
それなのに何故、無駄な足掻きを続けようというのだ?
「それはさ。えーと、アンデルセンが言ってたな。かんうがりょふにまけるから、かんうにかてる。みたいなかんがえかもしれないけどさ」
ロクサーヌも、一回は考えた問題。
自分は、“藤丸立花”になれるのか、と言う問題。
世界を救う物語の主人公として、彼らの物語を自分で再現できるのか。
それは、難しいのだろう。彼らの物語は、本来、彼らだけのものなのだ。
常識的に考えて、何回でもやり直しの利くスマホのゲームの真似をしようだなんて、おかしな話だ。
トムとジェリーを見て、そのギャグを真似するぐらいには馬鹿馬鹿しい。
一回限りの人生において、自分がそれを真似したからって、できる保障はどこにもない。
しかし、それでも彼らの物語を自分で紡ごうと思った理由が、そこにはある。
「すくなくとも、まじんちゅうのそんざい、ゲーティアのそんざいが、かんぺきではなかったということを。おれはしっているから、かな」
その言葉に、レフはピクリと反応する。
「何だと? どういうことだ?」
「そこからは、俺が説明させてもらおう。そっちの方が、お前達には分かり易いだろうからな」
アンデルセンはカルナのさらに前に歩み出て、主人を代弁する。
「お前達、自分たちの計画が失敗しないと思っているだろう?」
レフはその言葉に対して、何を言っているかが分からなかった。
「当たり前だろう?」
「だが、何故、そう思っている? 確かにお前達は凄いのだろう。俺ごときでは、お前にはとても勝てそうにないな」
レフたち。いや、七十二柱の魔神達は悪魔である。当然、力も知能も知恵も、人間を卓越している。
そんなのが七十二柱もあり、それぞれが協力し合っているのだ。人理焼却はそうした存在が、3000年を費やした計画の一部なのだ。
それこそが、彼らの自信の根拠でもある。
「だが、その計画が失敗しない、と考えているのは致命的だな」
だからこそレフにとって、その言葉は聞き流すことができない。
「失敗する可能性のある計画が、完璧な計画だと?」
「いや? ただ、日本の作家の言を真似するならば。完璧な計画など存在しないのだ。完璧な作品が存在せんようにな」
アンデルセンはそう断言した。
これは完全に自分の言葉でないので歯がゆくはあるのだが、これは仕方ないと思うことにしよう。
不本意だが、亡霊でしかない自分が目の前のド阿呆に伝えるには、自分でない言葉の力がどうしても必要なのだった。
「成功する計画というものは、己の欠陥を認識しているものだ。だが、失敗する計画を立てるやつは、皆こう言うのだよ。“こんなはずではなかったのに”とな」
「それは人間の話だろう。我らには、そのような欠陥は存在しない」
賢い人間ほど、自分の欠陥を認識しているものだ。
自分は賢い人間ではないが、賢い人間というものは、自分が失敗することを計算して動くものだということを、アンデルセンは悪意を持って伝えようとしたのだ。
「俺からしたら、お前達も相当に人間臭いと思うのだが。自分の悪臭に気づいていないのか? まあ良い。そんなお前たちに、特大のヒントをくれてやるとしよう」
だが、それに対する答えは人間ではない、ときたか。
つくづく度し難い奴らだ。
そう思いながら、アンデルセンは淡々と話し続ける。
「お前達は、魔術王とやらの宝具を、一部知らないでいるのだろう? それでありながら、己の全てを知る訳でもないのに、何故お前たちは失敗しないと思っている? 完璧を名乗るのに、何故、己を知らないでいるのだ?」
「それは。いや、しかし、だが」
流石にレフも、その答えには詰まった。
何せ、それは事実であり、歯がゆく思っていることであったからだ。
自分たちは魔術王の第一宝具に関して、彼の逸話を探ることである程度予想をつけようとしているが、それでも特定はできていない状態であった。
「つまりは、お前達は。我々を倒す”何か“を知っているということか?」
なんと苦々しいことか。
つまりはこういうことなのだろう。
これは、俺たちはお前たちの欠点である“何か“を知っているぞ、という脅しであるのだ。
「なるほど。こちらも検討させてもらうとしよう。お前の言は、今後の参考にさせてもらう」
脅しは今一つ分からないが、ともかく何か、意味があるだろう。
だが、それも関係のない話だった。
レフが呪文を唱えると、光が辺りに立ち込める。
そうした彼の後には、化け物がそびえたっていた。
「お前たちを皆殺しにした後でな。褒美として死をくれてやろう」
例えるなら、それは石炭の色の肉でできた柱のようである。
数多の眼がそなえつけてあり、眼全体が赤く、妖しい。
その存在は見るに耐えない、陳腐ではあるが悪魔的な柱と言う他に、言葉が見つからない。
「我が名はフラウロス! ソロモン七十二柱が一柱、フラウロスなり!」
本体というべきか、いや、レフ・ライノール・フラウロスは、その本性を現した。
これこそが、彼の原点。
人理焼却を目指す、恐るべき魔神柱である。
「貴様の答えは在り来りで退屈だったが、仕事は果たしたな。下がると良い、詩人。褒美として、我の戦を綴る権利をくれてやろう」
ギルガメッシュは手で、アンデルセンを下がらせる。
すると、フラウロスはギョロリと、眼を一斉にギルガメッシュへ向ける。
その圧力だけで、ロクサーヌとアンデルセンは吹き飛びそうになるほどである。
「英雄王! 我が王と同等の眼を持っている貴様は何故、人間に耐えられる! 貴様もまた、人間を見て何も思わないのか! この星の行く末を案じるのであれば、我々の邪魔をするな!」
その圧の中でも、ギルガメッシュは涼しげだ。
人類悪を目の前にして、手慣れたように宝物庫の門を開き、戦いを始めようとする。
「何を勘違いしている。貴様の嫌う人間もまた、我の愛でる物。そして、この世の未来を決めるのは貴様等ではない。それが許されるのは、この我のみよ」