この作品にはカッコイイ蔵人は出てきません。蔵人らしからぬ蔵人が出てきます。若干のキャラ崩壊を含みます。
サラとの試合の後、蔵人が何を考えていたのか。それを妄想してガーッと書いてみました。
どうぞよろしくお願いします。
とある騎士の思惟
暗闇の中、《一刀修羅》の蒼光を体から発しながら《陰鉄》を携えて立つ男。彼はくるりと背中を向け、自分を置いて歩いていく。
待ってくれ、俺は、まだ────
────目を覚ますと、白い天井が見えた。何処か無機質なそこには、シミひとつ無い。ぼんやりと聞こえる声はテレビからで、《無冠の剣王》黒鉄一輝と《血塗れのダ・ヴィンチ》サラ・ブラッドリリーの試合が始まる事を大袈裟に騒ぎ立てている。
「…俺は、負けたのか」
ぽつり。テレビの声で自覚した現実を口に出す。それは思いの外、心に染みた。
「……クロガネじゃねぇヤツに」
一輝以外に負けるつもりは無かったのに。いや、それどころか一輝にすら負けるつもりなど無かったのだ。勝つ為だけに海斗に弟子入りして、霊装の形すら変えて、《天衣無縫》まで会得して。血を吐くような努力をしてきた。
──それなのに
「………“まがいもの”にすら及ばねぇ」
《血塗れのダ・ヴィンチ》の作り出した、一輝であり一輝でない“まがいもの”に惨敗した。“ほんもの”を目指して来たはずが、この有様。
…もう、自分は《落第騎士》黒鉄一輝に勝てないのだろうか。あんな中身の無い“まがいもの”にすら負けてしまうほど、自分と彼の間には差が開いてしまったのだろうか。
「………………………………………悔しい」
小さく吐き出した本心は、人気の無い医務室内で情けなく響き、すぐに消えた。一度口にしてしまえば、溢れてくる思いはとめどなく。
「…っ悔しい。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいッ!!!!」
悔しい。まがいものにすら勝てなかった事が。
悔しい。一輝と七星の舞台で戦えなかった事が。
悔しい。なにより、一輝に置いていかれた事が。
相手が待ってくれないことなど知っていた筈だった。ただただ、追い付くことの出来ない己の無力さが悔しかった。あの強さに手を届かせられない己の不甲斐なさが悔しかった。
一輝は、蔵人と《血塗れのダ・ヴィンチ》との試合の時、なんと言っただろう?
一輝は、蔵人の心の火が消えそうになった時、なんと言っただろう?
あの時、蔵人の心の火を燃やしたあの言葉が、声が、振動が、まだ体から離れない。
『諦めるなぁあああ!!蔵人ぉおぉぉおおお!!!!』
まがいものにすら引けを取る自分が、あんなに実直で、あんなに強い男に勝てるのか。剣を振り続けてできたタコだらけの右手で目を覆う。…無理、なんじゃないのか。
悔しさとやるせなさで弱った心が折れそうになった…その時。
[た、た、叩き斬ったぁぁああああ!!!!黒鉄選手!偽物とはいえ、あの《比翼》のエーデルワイスを一刀両断!絶望的かと思われていた戦力差を一撃でひっくり返したァァッ!!!!]
テレビの声が伝える。《無冠の剣王》が《血塗れのダ・ヴィンチ》の作り出した《比翼》を一刀両断した、と。
「…ッ!!!!!」
ありえない。最初に出てきたのはそれだった。あの《世界最強》を《落第騎士》が討ち取った?ありえない、ありえない。ありえないが……妙に納得してしまった。カチリ、と丁度心に嵌った。
──そうだ。アイツはそういう奴だ。どんなにランクの差があっても。どんなに越えられない壁だとしても。その場で必死に考えて最善を尽くし、結果勝利する。
『諦めるなぁあああ!!蔵人ぉおぉぉおおお!!!!』
あの時の言葉が、木霊する。
「ッハハハ!!!!!やりやがる、畜生…!」
己は何を腑抜けた事を言っていたのだろう。
『置いていかれた』?当たり前だ。前の一輝よりも強く、だなんて考えていたら遅れていく一方に決まってる。だって一輝は、常に前だけを見て歩いていってしまうから。常に堂々たるその背中を見せながら。──そして自分は、そんな背中に憧れた数多くの内の1人なのだ。
この中で、特別になる為には、ただ一つ。
諦めるな。
「イイぜクロガネェ…!!次会ったとき、俺はテメェを超えてやる…!!ぜってぇ逃がさねぇ…!!」
追うななどとは言われていない。ならば地獄の果てまででも追ってやる。いつか必ず超えてやる。だから──
「だからよぉ、待ってなくていい…首洗って先に行ってろ」
そんな宣戦布告を、テレビに向かってしてやった。
例え今届かなくても。
いつか必ず届いてやると。
その瞳に強い意志を灯して。
ここに、《剣士殺し》倉敷蔵人の七星剣舞祭が終了した。
如何でしたでしょうか。
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