騎士達の日記   作:竹下しい

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絢瀬さんの名字、綾辻の「辻」が、原作のしんにょうの点が一つなものが変換で出てきませんでした。
という事でこれは誤字じゃないです。



アリガトウの意味

真夏の人混みの中、長い黒髪をなびかせた女性がふぅ、と溜息を吐く。

 

「うーん…すごい混んでる、失敗しちゃったなぁ。…ん?」

 

女性──綾辻絢瀬の目が、ある人物を捉える。

 

「あれは…もしかして!」

 

すみません、と言いながら人混みを掻き分け、その人物の元へ。

 

「久しぶりだね、──《剣士殺し》」

「あァ?……………………何でテメェがここにいる」

 

その人物とは、かつて絢瀬の父を半死状態にまでした男、倉敷蔵人だった。

 

「ちょっと、助けて欲しいんだけど」

「何で俺が」

「話くらい、聞いてくれるよね?」

「……チッ」

 

無言は肯定。そう取った絢瀬は、簡潔に要件を纏める。

 

「君の関係者枠で、入場したいんだけど」

 

┏┛┏┛┏┛

 

「いやー、助かったよ。アリガトウ」

「棒読みの礼なんざいらねぇ。…殆ど無理矢理ぶんどったんじゃねぇか」

 

七星剣舞祭の表彰式。入場すら危うかったそれを一番前で見るために、絢瀬は有無も言わさず蔵人の関係者枠を利用した。

 

『は?テメェは俺の関係者じゃねぇだろうが』

『何言ってるのさ。君は父さんの弟子なんだろ?こちとら君のせいで家に帰れなかったんだよ?』

『…いや、それは俺に関係ねぇ──』

『いやいや。夏休み中に君の仲間が汚した家を綺麗にしようと思ってたんだけどね。それが家に来るなときた。さらにその理由が君となれば、関係無いなんてことは無いよねぇ…?』

『……わかった。わかったからもう勝手にしろ』

『うん!分かってくれたなら嬉しいよ!じゃあヨロシク!』

 

………まあ多少の言い合い(脅し)はあれど。

 

蔵人としては、自分があの時“やりすぎた”などと思っていない。が、傍から見れば余り褒められた行為ではない事は分かっている。挙句に、海斗の娘である絢瀬に何も言わず、自分の修行の為に家から追い出した事は蔵人にとって耳の痛い話だった。

 

「棒読みだなんて酷いな。少しは感謝してるよ」

「ハッ、そーかよ」

 

表彰式が終わった後、会場から出て2人で歩く。暫く沈黙が続いたが、それを破ったのは絢瀬だった。

 

「あ、そうだ。君に一つ言いたい事があったんだ」

「…ンだよ」

 

蔵人は“まだ何かあるのか”と心底嫌そうな顔で絢瀬を伺う。

 

「ええと…まず、君のお陰で、父さんはきっと、前より楽しい日々を過ごせてると思うんだよね」

「…あ?どういう意味だ」

「そのままの意味さ。《天衣無縫》を《模倣剣技》無くして、見ないで使えるようになることは無い。なら、父さんは君に対して《天衣無縫》を使ったんだろ?手本として見せるために、ね」

「あァ。前に《落第騎士》がやったモンより遥かに上、ホンモノの《天衣無縫》をな。…それが何だ」

 

絢瀬は立ち止まり、俯く。蔵人も数歩進んだ先で立ち止まり、絢瀬を振り返る。絢瀬はぽつぽつと話し始めた。

 

「…父さんは、昔《最後の侍》と呼ばれるほど強かったって。でも、平和な世の中になって、戦う機会が無くなった。父さん自身も病気を患って、もう満足に剣を振るえない」

 

顔を上げ、晴れた空を見上げる。その顔には、少しの寂しさが見て取れた。

 

「…」

「でも、君が父さんに挑みに来てくれた。…あの時君が何を考えて挑みに来たかはわからないけど。それでもきっと、父さんは嬉しかったと思うんだ。」

 

上げた顔を、蔵人に向ける。その真っ直ぐな目には蔵人だけが映っていた。

 

「だから、ありがとうって、言おうと思って!」

 

「…!」

 

蔵人はサングラスの奥の目を見開く。そんな事を言われるとは思っていなかった。先程関係者枠を強奪した時同様、憎まれ口をたたかれると思っていた。

 

それが、そんな笑顔で、ありがとう、と言われるなど。

 

《最後の侍》の技を体験したかった。余命幾許もない《最後の侍》がどの程度のものかを。

その為になら何でもしようと思った。誰に何を言われようが、味わいたかった。

笑える程に熱い、死合いを。

 

「…別に礼を言われる為じゃねぇ。勿論《最後の侍》の為でもねぇ。俺自身の成長の為だ」

「わかってるよ、君が他人に気遣いできるような人間じゃない事は。だからこれは僕の自己満足。それくらいは付き合ってくれてもいいだろ。君のせいで迷惑被ってるんだから」

「…その話はもうヤメだ」

 

残りの夏は、コイツも一緒に修行すりゃいい。そうすりゃもう何も言わねぇだろう。

そんな風に考えた自分の中の少しの変化に気付きつつ、蔵人は大阪を後にした。

 




最後まで見ていただき、ありがとうございました。

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