装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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劔冑の本分
黒瀬童子


 岡部弾正尹頼綱、六波羅幕府において四公方に次ぐ実力者であり、鎮守府という東北、引いては露帝への備えの一軍を任された人物である。そして、一般大衆からは六衛大将領足利護氏の専横に表立って対抗できる、または対抗している人物であると専ら噂されている。また、朝廷から見ても護氏を掣肘できるライバルと見なされており、それがために弾正尹という本来皇族を充てる位を与えられている。

 

 幕府成立から今日に至るまで暴虐の限りを尽くしてきた六波羅だが、岡部という重しがあったからこそ国として成り立っていたのだとまことしやかに囁かれている程だ。

 

 そんな民を思っているという噂が人望を集め、六波羅に不平不満を持つ者が次々と岡部の旗のもとに集まっていた。そしてそうした部下達に後押しされる形で岡部弾正尹は足利護氏に様々な諫言をしていた。

 

 当然、足利護氏にとってはおもしろくない人物であり、排除の機会を伺っていたのだが、遂にその機会が訪れる。前堀越公方足利守政が岡部と手を組んで反乱を企図したのだ。

 

 だが、その反乱の芽はあっさりと消え去る。現堀越公方である茶々丸が当主守政を含めた派閥のトップを鏖殺し、権力を握ったからだ。これにより岡部は追い詰められる事になる。辛うじて反乱の疑惑は逸らす事ができたもののそこからの関係は悪化の一途を辿った。そして追い詰められた岡部が反乱を起こすのはもう時間の問題と言える状況となった。

 

 そんな時の事だった。つくしに一通の手紙が届いたのは。

 

「茶々丸様、お世話に、なりました」

「どうしても行くのかい?」

「はい」

 

 手紙の送り主はつくしの祖父不知火国包、内容は岡部の状況を知らせるもの。そしてこのまま岡部弾正尹の共をするから決して来るな、という物。だが、その手紙は逆効果だった。

 

「はぁ、止めても聞かないって顔だね」

「はい」

「分かった。行くと良い。……だけど戻ってくることは許さない。どこへなりとも逃げ延びな」

「茶々丸!」

「お兄さん、あてには立場って面倒なもんがあるんだ。まだ起こってないとは言え岡部の反乱に加わりに行くってのを見逃すのはともかく参加した者を匿うことはできないんだよ」

 

 茶々丸が何時になく冷たい声で俺に告げる。

 

「岡部の旦那には個人的に世話になったから不義理はしたくない。捕らえることはしない。反乱に加わらないのなら保護もしてやる。だけど反乱に加わるつもりならそこから先は知ったこっちゃないね。好きに生きなとしか言えない」

「クッ」

 

 正論だった。温情であるとすら言えるだろう。だが、死にに行くつくしを救うことはできない。既につくしを説得する言葉は尽くした。それでも行くというのなら俺にはどうしようもない。それに俺だって思うのだ。岡部の方が正しいのではないかと。六波羅にはついていけないと。

 

「ユウヤ、ありがとう、でも、大丈夫。茶々丸様、お世話に、なりました」

 

 そして、つくしは旅立っていった。

 それから数日、不知火の整備ぐらいしかやることのない日々、その整備も集中できてないと整備班長に追い出されてしまった俺は、茶々丸に与えられた部屋で立ったり座ったり、もう読み終わった新聞を開いてみたりどうにも身の置き場がない気分を味わっていた。

 

 やるべきことは、ある。劔冑の研究もしなくてはいけないし、体力作りもやるべきだ。そのための資料も茶々丸に集めて貰った。だが、どうにも集中できず、内容が頭に入ってこない。

 

「あーもう、鬱陶しい!」

 

 同じ部屋で執務をとっていた茶々丸がキレる。

 

「……すまない、だが、どうにも落ち着かなくてな」

「もう、お兄さん、鬱陶しすぎ!そんなに気になるなら篠川まで行ってきたら!」

 

 篠川というと四公方の一人篠川公方大鳥獅子吼の本拠地だ。そして岡部弾正尹の本拠地会津若松の直ぐ側でもある。要するに岡部が蜂起した際に対応する最前線だ。

 

「それは……良いのか?」

「どうせ、篠川に補給を送らないといけないからね。その護衛してきてよ。篠川まで行ったついでにちょっと足を伸ばすと良い。でも気づかれないようにね」

 

 つくしと会ってきて心に区切りを付けてこいって事だろう。

 

「ありがとう、茶々丸」

 

 翌日、用意されたトラックに便乗して篠川に移動する。当初予定していた列車は上野での鉄道爆破事件があった影響で使用できなくなった。そして折り悪く接近する台風、暴風雨の中、トラックに揺られる。轟々と響く暴風が心を暗くする。結局、雨でぬかるんだ道で一度スタックした程度で、篠川まで無事に辿り着く。

 

 逸る気持ちを抑えて篠川公方軍への補給物資の受け渡しを見届ける。そして、補給物資の受け渡しが終わったのを確認し、当初の予定通りに篠川での待機に入る。復路で運ぶ物資の用意ができていないからだ。待機と言っても準戦時体制にある篠川でできることなどほとんどない。必然割り当てられた宿舎に籠もることになる。

 

 俺はそっと宿舎を抜け出す。そして堂々とモノバイクに乗って移動する。茶々丸の近習という身分を持っている俺の行動を阻む者はそうはいない。下手に隠れて抜け出すような慣れてもいない事をやって目立つぐらいなら堂々と正面から抜け出した方がまだマシだ。要は岡部の軍と接触したという事さえ知られなければ良いのだ。

 

 茶々丸に教えてもらった通り、会津若松への道は封鎖されていない。これは反乱分子をできるだけ一塊にまとめたいという六波羅の意志が現れた結果だ。そして現在の天候は暴風が吹き荒れている。絶好の潜入日和だった。

 

 そして、俺は無事岡部の土地に辿り着く事に成功するのだった。それからはそう悩む必要はない。つくしに会いに来たことを正直に話せばよい。現在も拡大を続けている岡部軍は多少怪しかろうが人手を欲しており、受け入れざる負えない状況にあるからだ。弾正尹に会いたいと願うならともかく一介の蝦夷に過ぎないつくしに会いたいと願う程度なら認められる可能性が高い。

 

 俺は何故か岡部弾正尹と対面していた。弾正尹の横には老年に入っているであろう民族衣装を身にまとった蝦夷が座っている。もしかしたらつくしの祖父かも知れない。他には誰もいない。

 

(これが岡部弾正尹頼綱)

 

 そこには居るだけで目を引くような覇気を纏った壮年の男だった。鍛え抜かれた身体に威風堂々とした立ち居振る舞い。これこそがトップに立つべき人間だと一目で思わせるだけの雰囲気を持っている。

 

「そちが不知火翁の孫娘を訪ねて参ったという男か?」

「はい、その通りです」

「ふむ、何故訪ねて参ったか、聞いても良いかの?」

「それは……会いたかったからです」

「ほう、会いたいから会いに来たと?」

「はい」

 

 自分でもまだはっきりしない。だが、このまま放っておけばつくしは死ぬだろう。それは受け入れられなかった。その前に何かしたかった。だから迷惑を掛けてでも会いに来たのだ。

 

「クックックッ、そうか、そうか、ただ会いたいからか。よろしい!」

 

 岡部弾正尹は如何にもおもしろい物を見たと言わんばかりに呵々大笑すると、誰かを呼ぶように一つ、二つと手を叩く。そしてその音に導かれるようにして襖が開く。

 

「つくし……!」

「ユウヤ、何で来たの?」

「それは……死んで欲しくなかったからだ」

 

 つくしが襖の奥から現れる。いつも着ているツナギではない。青と白を基調とした和服のような、だが、それとはどこか違う民族衣装を着ている。つくしとの再会。兎にも角にも生きていてくれて嬉しい。だが、これからどうするのかそれが問題だ。

 

「つくし、お前はその方と共に生きろ」

「お祖父様……でも……」

 

 それまで黙っていた老年の蝦夷が言う。想像通りつくしの祖父だったらしい。祖父の言葉に反発するつくし。その覚悟は固い。

 

「ここで死んでも何も変わらん。ならば生きて見届けよ」

「なら!お祖父様も!」

 

 老年の蝦夷が首を振る。

 

「拙者は十分に生きた。弾正尹殿。拙者はもう六波羅の世を見ることに飽き申した。この上は殿の劔冑となりて共に散りとうございます」

「翁……娘は、つくしはどうするのだ?」

「娘には良き人が付いているようにございます。安心してその者に託せると信じております」

 

 そう言うと俺を一瞥するつくしの祖父。その視線に自然と背筋が伸びる。

 

「……そうか、そこまで言うのならば是非はない。主命を持って命ずる。劔冑を打て不知火翁、だが散ることは許さん。……忠綱!」

「はっ!ここに」

 

 岡部弾正尹が誰かを呼ぶ。どこからともなく一人の男が現れる。まだ若い男のようだが判然としない。全身を黒い装束で覆っているからだ。特に顔は目以外が完全に覆われている。だが、その目つきだけでも分かるものがある。

 

「忠綱よ、お主も生きよ」

「父上!?」

「我が一族、知られておる者は皆殺されるであろう、だがお主は知られておらぬ、故に生きよ、生きて岡部の生き様を繋ぐのだ」

「ッ……御意に御座いまする」

 

 忠綱と呼ばれた男が平伏する。握り込まれ震える拳、その目には光る物が浮かんでいたように見えた。苦渋の決断なのだろう。

 

「不知火翁。すまんな。どうか我が息子と共に生きて欲しい」

「これは厳しい。理想を貫けと仰るのですね……承知仕りました、その命この身を掛けて」

「すまんな」

「いえ、これもまた一興かと」

「ふっ、そうか。息子を頼んだぞ」

 

 急展開すぎて付いていけない。今不知火翁が劔冑になる決断が下されたのだろうか。真打劔冑は生涯一領。鍛冶師の命を以て完成する。それが良いとか悪いとか判断することではないと思う。

 

「つくし、拙者はこれより鍛造に入る、全てを見、そなたのために使え」

「お祖父様……」

「悲しむことはない、蝦夷にとって劔冑になるは最上の名誉ぞ」

「……はい!」

 

 つくしが不知火翁に泣きついている。それをあやすように頭を優しく撫でる不知火翁。そのつくしに向けられる視線はどこまでも優しい。その優しげな視線を切り、一度瞑目する。

 

「我が身に銘は残さぬ、鬼となりて理想を貫かん」

 

 不知火翁が宣言する。それは透徹した表情で巌の如く告げられたのだった。

 

「……先に鍛冶場に行っておる。準備ができ次第来なさい。それでは弾正尹殿、失礼致しまする」

 

 そう言うと不知火翁は退出する。

 

「しばらく話し合うと良い。寝床はこちらで用意しておこう」

「……ありがとうございます」

「礼は不要よ。しかと話し合え。若者よ」

 

 それだけ告げ、弾正尹も出ていく。いつの間にか黒一色の男、忠綱も居なくなっている。今、この部屋にはつくしと俺しかいない。

 

「つくし……生きて帰るつもりはないのか?」

「ユウヤ、私は六波羅が許せない。同じ天を仰ぎたくない……でも、この戦いで散るつもりもなかった」

「つくし!それは生きて帰るって事か!?」

「……お祖父様の事が終わったら一度、茶々丸様に会いに行く」

 

 つくしが死を選ばない。それだけで今は十分だ。それからしばらく近況について話をして、つくしは不知火翁の元へと向かうのだった。

 

 そして、三日後。不知火翁の準備が整ったと伝えられる。三日、これはとても早いのではないかと思う。元から劔冑になるつもりで準備を進めていたのだろう。

 

 鍛冶場では盛大に熱気を振りまく巨大な炉を中心に、鍛冶師の道具が並んでいる。炉の前には澄んだ泉が湧いている。不知火翁がやってくる。つくしと同じような、だがこの前より豪華な装飾が施された民族衣装を身にまとっている。

 

 黒を基調とした鎧が運び込まれる。大和数打の鈍重そうな見掛けとは全く違う如何にも早そうな見掛けをしている。だが間違っても弱々しくはない。引き絞られた肉体のような美を感じさせる。その顔立ちにはどこか大和数打の流れを感じられる。

 

「――四金の司を招き願い奉る。ここに御霊送り御返し候えば遊行の道にこれを拾い百幸千福授け給え。五方化徳共々に在れ。大幸金神、大恵金神、願わくば北斗八廊に留まり、御徳御恵、天上天下へ下し給え。奇一金心、全一金光、護法金輪、殺法金掌――」

 

 祝詞だろうか?不知火翁が朗々と唱え上げる。不知火翁が鎧を炉の中へ投入する。開いた炉が放つ熱気がかなり離れたこの場所でも感じられる。

 

 炉から焼き入れを終えた鎧が取り出された。内側から赤く発光し、燃え盛る炎そのもので出来ているようだ。不知火翁は赤熱する甲鉄に手を伸ばすと、ためらいなくそれを掴みあげ、身にまとう。

 

 ふわりと甘い匂いがした。人の脂の焼ける匂いだ。激痛が不知火翁の身体を貫いているはずだ。だが、不知火翁は眉一つ動かさない。淡々と装甲を続ける。

 

 全身が鎧に覆われると不知火翁は顔を上げ、泉に向かってゆっくりと一歩を踏み出した。一歩一歩確実に泉へと歩んでいく。そして遂に泉へと至る。濛々たる蒸気が吹き上げる。ゆっくりと歩を進めていく。そして全身を泉の中へと浸す。前が見えない程の凄まじい蒸気。

 

 蒸気が晴れるとそこには一領の鎧が残されていた。先程までとは存在感が違う。劔冑だ。不知火翁の命を以て完成したのだ。

 

 つくしの目から一条の涙が流れ落ちる。だが、その顔には誇らしさが浮かんでいる。

 

「忠綱様」

 

 つくしが全身黒ずくめの男を呼び寄せる。忠綱が劔冑に触れる。帯刀の儀(たてわきのぎ)だ。どこからとなく金属を弾いたような音が一つ響き渡る。

 

「―――敬天愛人」

 

 忠綱が呟くように唱える。誓言だ。敬天愛人、天を敬い、人を愛する。民のことを考え続けた不知火翁が行き着いたのがこの誓言だったのだろう。

 

 鎧が数十の甲鉄の破片へと変じる。甲鉄の破片は忠綱を囲むように空を舞う。そして、次の瞬間黒を基調とした堂々たる武者が現れる。立ち上がるとその威容がよく分かる。細身の甲冑に豪壮な翼甲。大袖と呼ばれる肩当てに描かれた月が優美だ。大和古来の形式に改良を加えて作られた造りは堅牢さと運動性を両立している。特徴的なのは足先が蹄のようになっていることだろうか、空中戦のために徹底した軽量化を図った結果だ。

 

 集まっていた観衆から歓声が上がる。

 

「よくやった。忠綱よ。そしてご苦労であった不知火翁。つくしもよくぞやり遂げた。……それでこの劔冑の銘は何というのだ?」

 

 弾正尹がつくしに下問する。

 

「……無銘。お祖父様は銘を残さなかった。ただ民のための刃であれ、と」

「そうか……だが、呼び名がないのは不便であろう。……ならばこれより黒瀬童子と呼ぶこととする。良いな?」

「……はい」

「忠綱、これよりお主も黒瀬童子と名乗り、生き延びよ」

「はっ!……父上」

 

 こうして不知火翁は黒瀬童子となり、その理想を遂げるために忠綱とともに戦いを始めるのだった。




キャラを無理矢理動かした感があるので、書き直すかも知れません。

原作ではかませも良いところだった黒瀬童子ですが、その背景にこんな物語があっても良いのではないかと思います。

以下、捏造裏設定

不知火一族は元は月山系の鍛冶師でしたが、「劔冑は民のために民とともにあるべし」と野鍛冶となった一族です。農具の修理なども行った事から農鍛冶とバカにされていましたが、扱いやすく頑丈な作風は根強い人気と大きな蔑視を浴び、未熟者が求める品とされていました。しかし使い手の技量に沿って性能を発揮するため成り上がった者も多く輩出しました。そうした経緯から銘を彫らない事が伝統となっています。

後に不知火一族は大和の竜騎兵の設計に関わるようになりました。不知火翁はその黎明期から活躍しており、低速域で優位なターボプロップ式を確立しました。国情が悪化していた当時に設計された九四式竜騎兵は渾身の一品でしたが、それが自国民に対して振るわれる現状を憂いており、開発の第一線から外れました。これが零零式が九四式とほぼ変わらない理由であると設定しています。

黒瀬童子が高性能な理由は、全国の鍛冶師の秘伝を合わせてまとめ上げた数打の技術をさらに発展させた物を使用しているためです。様々な改良が加えられており、その技術の一つが熱量と電気の変換技術です。

この技術を基に零零式は発振砲を装備できるようになりました。黒瀬童子ではさらに単純に熱量を保存する技術として使用しています。これにより持久戦はもちろん、短期決戦でも熱量をドーピングすることで有利に立てる、筈でした。

黒瀬童子
仕手:黒瀬童子
種類:真打/単鋭装甲
陰義:???
仕様:強襲/白兵戦
合当理仕様:熱量変換型単発火箭推進
独立形態:???
攻撃:3
防御:3
速度:4
運動:3

甲鉄練度:3
騎航推力:3
騎航速力:4
旋回性能:3
上昇性能:3
加速性能:4
身体強化:3

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