装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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不知火

 岡部が蜂起した。蜂起した当日、混乱に乗じて俺達は黒瀬童子の先導で会津の地を後にした。安全と思われる場所までたどり着き黒瀬童子とは別れた。俺とつくしは堀越に一度戻る事にしたからだ。黒瀬童子は僅かな手勢を率いて何処かへと去っていった。

 

「……なんで戻ってきた」

 

 茶々丸が重々しく問う。堀越に戻ってくるとすぐに茶々丸の前に案内され、その冒頭のことだった。

 

「茶々丸!せっかくつくしが戻ってきてくれたのに、そんな言い方しなくても……」

「お兄さんは黙っていて。あては言ったよね『戻ってくることは許さない。どこへなりとも逃げ延びな』って」

 

 茶々丸は本気だ。俺はあまりに甘く考えていた生きて帰ればどうにかなると。それでも言い募ろうとした時、横に居るつくしの顔が目に入る。その顔に困惑や怯えは一切なくただ茶々丸を見据えていた。

 

「……茶々丸様。元より生きてこの地を踏むつもりはありませんでした」

「つくし……?」

「ここに戻ってきたのは生きるためではありません」

 

 つくしが静かに宣言する。その言葉に興味を惹かれたのか茶々丸が剣呑な雰囲気をさらに鋭くする。眼光は敵を睨みつけるかのように強い。つくしが言った内容に衝撃を受ける。生きるためじゃない?ならなぜ俺と一緒に来てくれたのだ?

 

「ほう、じゃあなんで戻ってきた?」

「……一つの提案をするために」

「提案?」

 

 つくしは一度目を伏せた後、決然と茶々丸を真正面から見つめる。そして告げる。

 

「私はユウヤの劔冑になる。それを認めて欲しい」

「なっ!?」

「……ほう」

 

 茶々丸がおもしろい話を聞いたとばかりにクツクツと嗤う。言いたいことは言ったとばかりに茶々丸を静かに見つめるつくし。

 

「そんなことが認められるか!」

「ユウヤは黙っていて。これは私の問題」

「そんな事ない!もっと良い解決策がある筈だ!」

「……お兄さん、ここに戻ってきた段階でその選択肢はないんだよ。ただ死ぬか。それとも劔冑となって死ぬか。その二択さ」

「そん、な……。いや諦めない。俺は諦めないぞ」

 

 つくしがおもむろに俺と正対する。そしてしっかりと抱きしめ言う。

 

「ユウヤ……私は望んで劔冑になる。それを邪魔するの?」

 

 望んで劔冑になる。俺には分からない感覚だ。確かにテストパイロットとして戦術機に命を掛けていたが、だからといって文字通り戦術機のために命を差し出すことはしていない。

 

 不知火翁を思い出す。彼は自らの命を費やし劔冑となった。果たしてそこに未練はなかったのだろうか?当然あったのだろう。だが、その未練よりも劔冑になることを優先したのだ。その判断を間違っているなど誰が言えるだろうか。ならば同じようにつくしの判断を尊重すべきなのではないだろうか。

 

「つくし、答えてくれ。つくしはいつ劔冑になること決断したんだ?」

 

 つくしを引き剥がし、正面から見つめながら問う。つくしの瞳はどこまでも優しく、俺を受け入れているように感じられた。

 

「ユウヤが迎えに来てくれた時、そしてお祖父様が劔冑になった時、それまではお祖父様を連れてどこかへ逃げるつもりだった」

「そん、な……それじゃあ、俺が居たからつくしは劔冑になるっていうのか?」

「それは……そう。きっとユウヤに出会えなかったら劔冑になろうなんて思えなかった。……だけど、それは悪いことじゃない。ユウヤの役に立ちたい、もっとユウヤの側に居たい、だから私は劔冑になる」

「つくし……」

 

 唐突に察する。つくしを止めることなどできはしないのだと。

 

「認めよう。つくし、あんたが劔冑になることをこの足利茶々丸が認める。期間は一ヶ月、その期間で最高の劔冑を打ち上げな」

「ありがとうございます。茶々丸様」

 

 茶々丸が後は好きにしなとだけ言うとその場から立ち去る。

 

「ユウヤ……騙すような形になってごめんなさい」

「良い、とは言えないが、それがつくしの判断なんだ。受け入れるよ」

「ありがとう、ユウヤ……」

 

 つくしがもじもじと何かを言いたげにこちらを見ている。

 

「何か言いたいことがあるのか?」

「それは……あの……お願いがある」

「お願い?何だ言ってみろ」

「強化外骨格を劔冑の素材に使わせて欲しい」

「強化外骨格を?」

 

 この場合の強化外骨格とは戦術機の管制ユニットに内蔵されている奴だろう。ハッチが歪んだ場合など脱出できなくなった時に強行脱出するために備え付けられている装備だ。こちらの世界に来た時、若干使用したっきり管制ユニットに戻すこともせずに置きっぱなしになっていた筈だ。現状使わない物ではあるが、あれがないと戦術機は動かない。それは大分修繕が進んでいる不知火・弐型の修復が大きく後退するという事を意味している。

 

「それは……厳しいな。俺は不知火・弐型を修復したいと思ってる」

 

 これが不知火・弐型が完全にスクラップなら判断に迷うことはないのだが、思いの外順調に修繕が進んでいる事が俺をためらわせる。跳躍ユニット以外の修理の目処が立っているのだ。

 

「分かってる。私も不知火・弐型を諦めたくない。だから私は劔冑に強化外骨格の代替をさせられないかと思ってる」

「強化外骨格の代替だと?」

「そう、要はパイロットと戦術機を繋ぐ役割を劔冑でする」

「それは……できるのか?」

「理論的に、できる。そのために強化外骨格が必要」

 

 つくしが鼻息も荒く訴える。全くコイツは結局戦術機と劔冑の事しか頭にないのだ。自分の頭をガシガシと掻く。悩んでたって結論は出ないのだ。ならば今は行動あるのみだ。

 

「とりあえず分かった。まずはその理論の確認からやるぞ」

 

 こうして俺達の劔冑造りが始まったのだった。

 

 まず俺達はどんな劔冑にするのか話し合った。結果、戦術機のような劔冑を目指すことが決まる。これはあっさりと決まった。人のための刃、その具現である戦術機の有り様につくしが魅せられていたからだ。むしろ劔冑に寄せることに抵抗を示したほどだった。

 

 戦術機を修理する過程で得た技術やノウハウ(リバース・エンジニアリング)を惜しげもなく注ぎ込み、時に新しい手法も試してみる。その過程で戦術機の修復も劔冑の技術を代用することで進んでいく。

 

「お兄さん達頑張ってるね。そんなお兄さん達に差し入れ」

 

 篭りっきりになっていた鍛冶場に茶々丸が現れた。全く新しい劔冑を作り出すために既存の劔冑の製法をまとめなおしていた時の事だった。そして差し入れとして渡されたのは黄金に輝く結晶だった。

 

「これは?」

「神の血肉、賢者の石、そんな風に呼ばれている物さ。分かりやすく言えば金神の欠片、荒神結晶やオヴァムと同質のモノ。その原形だよ、お兄さん」

「……これを使え、と?」

「使う、使わないは自由だけど使ったほうが"目的"のためには良いと思うよ」

 

 目的、忘れてはいない。元の世界に帰ること。だが、そのための方策は全く見つかっていない。茶々丸の言う神を頼る以外に何もできていない。劔冑の超常的な力を頼りにするとしてもそんな都合の良い能力を持った劔冑は見つからなかった。ならば、自分達の手で作れという事だろうか。

 

「つくし、どう思う?」

「元からそのつもりだった。可能性が高くなるのなら受け入れるべき」

 

 その視線に迷いはない。ただ我武者羅に力を求めている訳ではないことが理解できた。その上で足りないのなら外から補おうという意志を感じる。不確定要素であるのは間違いない。だが元から戦術機を模すという常識外の挑戦をしているのだ。今更不確定要素が増えた程度飲み込んで見せるという気概がある。

 

「……分かった。組み込もう。計算をし直すぞ!」

「おう!」

 

 そして劔冑の設計は進んでいく。時にナイフを装備するかどうかで喧嘩し、ブレードベーンの設置の有無で口論になり、アフターバーナーを搭載するかどうかを検討し、劔冑とどう戦うのかの戦術を煮詰めていきながら。

 

 そして矢のように一月が過ぎようとしていた。

 

「つくし、本当にやるんだな?」

「うん。ユウヤが何を言ってもやめる気はない」

「……分かった」

 

 この一月の間に何度となく繰り返した問答をまた繰り返してしまう。つくしの覚悟を否定するような気がしてならないが、それでもつくしに生きていて欲しいがためについ言葉が出てしまう。

 

「後は任せた」

 

 無言で頷き、つくしを抱きしめる。これが終生の別れだと思うと胸が詰まる。

 

 鍛冶場では巨大な炉が盛大に熱気を振りまいている。炉の奥には澄んだ泉が湧いている。つくしがやってくる。禊を終え、不知火翁のような豪華な装飾が施された民族衣装を身に纏った姿はどこか神聖さすら感じられた。

 

 白を基調とした細身の鎧が運び込まれる。戦術機を模した唯一無二の劔冑、全身にブレードベーンを装備した姿は鋭角的なイメージを作り上げている。だが不知火・弐型と違いがある部分もある。明確なのは肩部装甲だ。肩部装甲にはブレードベーンがなく丸みを帯びているのだ。これは戦術機ではありえない戦闘方法である双輪懸を意識した物である。他にも細部をよく見ると劔冑の技法がそこかしこで活かされている事が確認できる。

 

「――四金の司を招き願い奉る。ここに御霊送り御返し候えば遊行の道にこれを拾い百幸千福授け給え。五方化徳共々に在れ。大幸金神、大恵金神、願わくば北斗八廊に留まり、御徳御恵、天上天下へ下し給え。奇一金心、全一金光、護法金輪、殺法金掌――」

 

 祝詞が始まる。金神祭詞と呼ばれる金神に捧げる祝詞らしい。不知火一族に伝わる劔冑を打つ時に神に捧げる祝詞、それが金神祭祀だ。つくしが朗々と唱え上げる。つくしが鎧を炉の中へ投入する。開いた炉が放つ熱気が近くに居る俺に襲いかかる。

 

 炉から焼き入れを終えた鎧が取り出された。内側から赤く発光し、燃え盛る炎そのもので出来ているようだ。つくしは赤熱する甲鉄に手を伸ばすと、一瞬ためらった後にそれを掴みあげ、身にまとう。

 

「ッッッ!」

 

 声に出さないが苦悶の表情を浮かべるつくしに駆け寄りそうになる。甘い嫌な匂いがした。人の脂の焼ける匂いだ。激痛がつくしの身体を貫いているはずだ。だが苦悶の表情を浮かべながらも着々と装甲を続ける。

 

 全身が鎧に覆われるとつくしが立ち上がる。泉に向かって一歩を踏み出した。一歩一歩確実に泉へと歩んでいく。だがどうした事か、つくしの足が止まる。

 

「つくし!!」

 

 俺の呼びかけに反応したのかつくしが僅かにこちらを向き、再び歩み出す。一歩一歩。ジリジリと距離を詰めていく。そして遂に泉へと至る。濛々たる蒸気が吹き上げる。その中を確実に歩を進めていく。そして全身を泉の中へと浸す。前が見えない程の凄まじい蒸気。

 

 蒸気が晴れるとそこには一領の鎧のみが残されていた。圧倒的な存在感、だがどこか優しい。

 

 ふらふらと夢遊病者のように劔冑に近づく。抱きしめるように触れる。

 

 意識が反転する。世界が白一色の何もない場所へと変ずる。いや目の前に一つだけある褐色の肌をし、長い耳を持つ民族衣装を纏った少女――つくしだ。

 

《いらっしゃい、ユウヤ》

「つくし……なのか?」

 

 少女は首を振る。

 

《私は劔冑、つくしじゃない》

「でもこんなにはっきりと会話できるじゃないか」

 《それでもつくしと劔冑(わたし)は別の物、私はつくしを基にした劔冑のOSに過ぎない》

「つくし……俺は」

 

 遮るように少女は言う。

 

 《さぁ、帯刀の儀(たてわきのぎ)を始めましょう》

 

 つくしが居住まいを正し、厳かに告げる。

 

《私は不知火》

《私は盾 虐げられし者、全てを守る盾》

《私は刃 虐げし者への抵抗の刃》

《万民の未来のため この身を捧げる物》

《私との契りを求める者》

《その身を礎となす覚悟があるならば宣誓せよ》

 

 つくしの残した覚悟を受け入れる。否、元からそれは俺の物でもあるのだ。自然と誓言が頭に浮かぶ。噛みしめるように誓言を唱える。

 

「未来なき煉獄に生まれ

 牙なき者の明日のために

 希望の糸を紡いで朽ちる

 されど刃、礎となり

 虚空へ至る道となる」

 

「飛翔せよ!不知火」

 

 俺の全てが変貌を遂げた。

 外は甲鉄に覆い尽くされ。

 内は異力が駆け巡り。

 人間にあらざるモノに成りおおせた――

 余りの超越感に意識が恍惚とする。

 

 これが本物の劔冑、真打の力。頬を熱い物が流れる。その違和感に手を伸ばす。だが甲鉄に阻まれ届かない。嗚咽が漏れる。つくしはもう居ないのだ。その事を強く実感する。高揚感と絶望、相反する感情に身を裂かれる。その全てをぶつけるかの如く俺は咆哮するのだった。

 

 




不知火
仕手:ユウヤ・ブリッジス
種類:真打/単鋭装甲
陰義: ???
仕様:汎用/射撃
合当理仕様:跳躍ユニット
独立形態:鷹
攻撃:3
防御:2
速度:4
運動:5

甲鉄練度:2
騎航推力:4
騎航速力:4
旋回性能:5
上昇性能:3
加速性能:4
身体強化:2

ようやく舞台が整ってきました。ここまでやたらと長かった気がします。
不知火はかなり高性能です。金神の欠片とスーパーカーボンを使用している点がかなり大きいです。とは言え銀星号には遠く及ばないのですが……
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