装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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遅くなりました。
何故か難産でした。


予備予選

大和GP、戦後初の国内統一選手権、今年から始まった国内統一規格の装甲競技の一大イベント。

大和中どころか国外からもチームが集まりその頂点を決めるべく競われる国内最大規模、いやアジア最大の大会だ。

 

その本戦に出場するために俺は予備予選に挑んでいた。予備予選、要するにあまり実績のない、言ってしまえば二流の選手たちをふるいにかけるためのレースだ。

 

レース前に茶々丸とした会話が思い出される。今回のレースは今までと違って茶々丸から明確なオーダーが下されているのだ。即ちタムラか俺が優勝すること。

 

「今回のレースはお兄さんにも優勝を目指して欲しいんだ」

「やるからには勝つつもりでやるが、何かあるのか?」

「うん、今回のレースの裏では一つの企てがあるんだ。それが賭博化。今、装甲競技の賭博化の企みが進行してるんだ」

「ふうん、そうなのか。それでその事と俺が優勝する事が何の関係があるんだ?」

「ありゃ?お兄さんはあまり賭博化に反対でもない感じ?」

「反対と言うか、よく分からないってのが本音だな」

 

元の世界では競馬やモータースポーツと言った賭博は完全に過去の物になっている。それどころかプロスポーツもほとんどなくなり細々と個人で楽しむ程度まで縮小されてしまっているのだ。そんな状況しか知らない俺としては賭博化と言われてもどうにも実感が薄い。

 

「うーん、そっか。まぁ、あては賭博化に反対してる訳なのですよ。できればお兄さんにも理解して欲しかったんだけど……」

「茶々丸が反対するなら俺も反対派でいいぜ、特に思い入れがある訳じゃないが、やることは変わらないしな」

「お兄さん……。で、何で優勝が必要かって言うと一言で言えば客層の支持が必要だからって事だね。初代国内統一王者のカリスマを利用して客を取り込もうって魂胆なのさ」

「なるほど、そこを俺が優勝することで邪魔しようって事か」

「そういう事!だから同じ反対派のタムラには負けてもいいけど、翔京には絶対に負けちゃダメだからね!」

 

茶々丸が人差し指を立てて熱く訴える。その勢いに若干押される物を感じるが、さっきも言った通り俺のやることは変わらない。勝つために全力を尽くすだけだ。

 

「分かった。勝てば良いんだろ。勝てば」

「そういう事、お兄さん、頼んだよ」

 

予備予選開始を知らせるアナウンスが流れる。そしてスタートの合図の空砲が鳴り響く。待ち構えていたチーム達がスタートするのを横目で確認し、少し遅れてピットから出る。コースに出た瞬間観客がざわめく、何度かレースに出たとは言えやはり異形の機体は目立つようだ。

 

コースを流すように回る。予備予選で無理をする必要はない。どうせ同じように明日も予選に出なくてはいけないのだ。ならば今、無理に目立つ必要はない。そして三週目、十分態勢も整いコースも頭に入ったので仕掛けることにする。十分に安全マージンを取った上でのトライ、トップギアだけは本戦のために隠した状態で全力で攻める。

 

第一コーナーをレイトブレーキで攻め、S字カーブを最小の減速で抜け、緩いバンクを抜け、130Rを捻じ伏せる。バックストレートを疾走し、スプーンカーブを突破し、最終コーナーを突っ走る。そしてゴール。

 

一分二七秒五五。

 

会場がわっと盛り上がる。まぁ、まずまずの結果だろう。このコースのワールドレコードが、一分二五秒一三。その記録と比べると二秒以上の差があるが、トップギアを残してこれなら十分だ。予備予選は周回タイムを競う。後はこの記録で出場枠を確保できるかどうかが問題だが、今の所問題なさそうだ。

 

現在の順位は二位、一位は横森鍛造のセミワークスチーム《Y.T.R》がハウンドで出した一分二七秒四三だ。地面を舐めるように疾走するその姿は他のチームとは一線を画するガッツある走りだ。地表効果(グランドエフェクト)を最大限に活用するその騎航は激しいGと失速の危険が隣り合わせの命懸けの騎航だ。そのハウンドも早々にコースから抜け出しているため記録が更新される事はないだろう。

 

後、脅威になりそうなのはポリスチームのホットボルトぐらいだろうか?ホットボルトという旧型機ながらこちらも安全マージンを削った限界騎航でよく騎航(はしって)いる。他には見どころのありそうなチームは居ない。

 

「お兄さん、ご苦労。順調そうじゃない」

「ああ、機体が良いからな」

《んっ、照れる》

「つくしはどうだ?まだいけそうか?」

《問題ない、それとつくしって呼ばないで》

 

不知火(つくし)から素っ気ないぐらい簡潔な報告が告げられる。劔冑となったつくしは以前と変わらないようで変わっている。その違和感を未だに拭えない。つくしと呼ぶと嫌がるのも劔冑になってから変わっていない。

 

除装し、一息入れる。茶々丸がドリンクを手渡してくれたのでありがたく頂く。金属の擦れる羽撃く音が響く、俺の横に大きな金属でできた鷹が舞い降りる。不知火の待騎状態だ。レースで付いたのだろう不知火の背に付いたちょっとした泥をタオルで拭う。それにむずがるように身を捩る不知火。が嫌ではないらしく逃げることはなく受け入れる。

 

「はははっ、仲良いね、お兄さん」

「……劔冑を大切にするのは当然だろ」

「さて、それじゃあ、お邪魔虫は退散するとしようかな」

「なんだレース見ていかないのか?」

「んー、貴賓席の方で人を待たせているのですよ、お兄さん」

「そうか、なら早く行かないと」

「だね、じゃあまた後でねお兄さん」

「ああ、気をつけろよ」

 

茶々丸は貴賓席へと向かう。コースに視線を戻すとレースは順調に進んでいる。その様子を眺める。既にライバルに成りえそうなチームはコース上から消えている。残っているのは二流どころばかりだ。それでも観客は熱狂している。まぁ、前座しか行われないのにわざわざやってきているような観客たちだ。相当な装甲競技マニアだろう。

 

《もう走らないの?》

「ああ、十分な記録を出したからな。……なんだ不満か?」

《うんん、それが御堂の決めたことだから》

 

劔冑になってからつくしは俺のことを御堂と呼ぶようになった。劔冑の仕手を呼ぶ古風な敬称。かつて武者溜まりが釈天堂という建物にあったことに由来するらしい。どうにもその呼び名にも慣れない。そんな事をつらつら考えていると予備予選の終了時刻が近づいていた。予想通り順当に予備予選は突破することができた。

 

そして予備予選も終わり観客の大半が帰宅の途についた後のサーキット。明日の本予選に備えて練習騎航をする者やメンテナンスに余念がない者、色々居る中で俺達は微妙に暇を持て余していた。不知火は当然だが真打だ。メンテナンスフリーに近い。ある程度の調整は不知火自体が行ってしまうからやることがないのだ。そんな手持ち無沙汰な時間を丁寧に不知火を磨きながら潰していた時の事だった。一人の男が訪ねてきたのは。

 

「チーム閃光の雷(ライジングサンダー)の百橋ユウヤ」

「ん?あ。あんたは湊斗景明」

 

そこに居たのは村正の仕手、湊斗景明だった。鈴川令法の事件で会った時と変わらぬ雰囲気の暗い人間だった。まるで悪魔が誘いに来たかのようだ。

 

「お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだ。……あんたが居るってことはまさかまた銀星号か?」

「はい、この会場のどこかに『卵』を植え付けられた劔冑がいます」

 

銀星号事件、謎の劔冑銀星号によって起こされる大量虐殺事件。そしてこの湊斗景明は銀星号事件を追っており、銀星号の気配とでも言うべきものを感じられるという。

 

《ねぇ、御堂、この人知り合いなの?》

「ああ、銀星号事件を追ってる警官だ。……もう目星は付いてるのか?」

「いえ、残念ながら……単刀直入に伺います。銀星号から卵を受け取りませんでしたか?」

「今回も疑われてるって事か。いや。銀星号に何かを貰ったことはないな」

 

思い当たる節もないので知らないと返答する。これで疑いが晴れてくれれば良いのだが、どんな方法で判定しているのか判然としない以上どうとも言えない。

 

「そうですか。実はその劔冑から変わった気配を感じたのです」

「変わった気配?不知火から?」

「はい、『卵』の気配とはまた違った気配を感じたのです」

「なるほど、それで訪ねてきた、と」

「はい、そうなります」

「確かに不知火は従来の劔冑とは色々違う点があるからな、その何かに反応したんだろうな」

 

どうも不知火が疑われているという訳でもないようだ。精々ちょっと気になったから見に来た程度のようだ。さて、どうするか。銀星号事件と聞いて放って置くことはできないだろう。となると湊斗景明に協力するのが得策のように思えるのだが。善悪相殺の呪いが問題だ。それにしても何故湊斗景明はそんな因果な劔冑と血縁しているのだろうか。

 

「銀星号事件は放っておけない。何か手伝えることはあるか?」

「そうですね……では、選手の中で力を求めている人間を知りませんか?」

「力を求めている人間?それが『卵』を渡される条件なのか?」

「はい、そう考えています」

「あいにくだが、俺はレース出場者とほとんど面識がないんだ。これから会う人間にそういうのがいないかどうか調べることはできると思うが、現段階では心当たりはないな」

「そうですか、ご協力ありがとうございます」

「ああ、あまり役に立たなくてすまない」

 

心当たりがないことを告げると湊斗景明は丁寧に腰を折って礼をする。そして何かあったら連絡して欲しいと告げ立ち去っていくのだった。

 

これから銀星号事件が起こるかも知れないと知ってしまった俺は、懇親も兼ねて近隣のチームを訪ねることにする。とは言え直接的に銀星号との関係を尋ねる訳にはいかないだろう。湊斗景明が俺に直接的に尋ねたのだって銀星号を追っている事を知られているからこそだったのだろうと思う。まさか他のチームにも同じように聞いているとは思えない。

 

そんな事を考えながら隣のチームを訪ねる。隣のチームは予備予選でいい騎航(はしり)を見せていたY.T.Rのガレージだ。そのガレージの入り口をノックしてみる。

 

「あんっ?誰だ。テメェ」

 

現れたのはメカニックと思わしきチームのロゴが入ったツナギを身に付けた横柄な態度の男だった。その態度に鼻白むと同時に反発心を抱く。

 

「隣のチームの者なんだが、ちょっと挨拶を、と思ったんだがな」

「おう、隣のチームって言うと閃光の雷(ライジングサンダー)のレーサーか?」

「そうだ。百橋ユウヤだ。よろしく頼む」

 

そう自己紹介するとメカニックは入んな、と言いガレージの中へと案内してくれる。横柄な態度は目に余るがそう悪い奴でもないのかも知れない。そうして一人の男の前に連れて行かれる。男は何かの書類を確認しながら蒸した芋をガツガツと食べている。

 

「前田さん、客だぜ」

「ん?客?俺にか?」

「おう、金満の閃光の雷(ライジングサンダー)のレーサー様だよ」

 

そこでようやく男の視線が俺を捉える。芋と書類を置き、立ち上がる。そしてメカニックの男の頭に一発ゲンコツを入れる。

 

「その言葉遣いと態度は直せって言っただろうが、お客さんに失礼だろ」

「前田さん、痛いっす」

「お前はあっち行ってろ。……っと、ウチのがすまない。レーサーの前田博士だ」

「ライジングサンダーのレーサー、百橋ユウヤだ。よろしく」

 

挨拶して、握手をしようと手を差し出す。だが前田と名乗った男は何かに驚いたように固まっている。

 

「どうかしたか?」

「あっ、あの。もしかして東雲サーキットでワスプを助けてくれた人ですか!?」

「あ、ああ。確かにそんな覚えもあるな……」

 

確かに覚えがあった。だが、あれは助けたと言えるのだろうか?助かるべき人間が勝手に助かったとでも言うべきだと思う。

 

「やっぱり、あの時助けてもらった前田博士です!本当にありがとうございました!」

 

前田は俺の手を取ると両手でブンブンと振り、感謝を表す。

 

「そんなに大した事はしていないさ」

「そんな事ないですよ!あなたが居なかったらきっとここには居なかった!入院していたせいで直接お礼もできなくてすみませんでした」

 

そう言うと今度は九十度腰を曲げて頭を下げる。

 

「止してくれ、本当に大したことはできなかったんだから」

「いえ、そんな事は……いえ、とにかくありがとうございました。……それで何か私に用でもあったんですか?」

「いや、ちょっと隣のチームに挨拶しとこうかなと思っただけさ」

「ああ、それは、こちらから伺うべきだったのにすみません」

 

それからしばらく雑談をしながら銀星号事件について探りを入れていく。とは言え何か変な事が起きなかったか?とかレースには何故参加しているのか?と言った一般的な事しか聞けていないのだが。

 

「そう言えば、あのメカニックの子、瀧澤さんは居ないのか?」

 

以前縁の有ったメカニックの少女の名前を挙げる。すると前田の表情が曇る。どうやら何かあったようだ。もしかしたらオヴァムに首を突っ込み過ぎたのかも知れない。

 

「……実は、琴乃なんですが、銀星号事件に巻き込まれてしまったんです」

「何?銀星号事件だと?」

「はい、夏に万博会場で巻き込まれたようです」

「そうか……それは……残念だったな」

 

それ以外に言いようがない。オヴァムに首を突っ込んだ結果ならまだしも銀星号事件に巻き込まれていたとは驚くしかない。予測不能の災厄としか言いようがない銀星号事件では嘆くことしかできない。そして銀星号事件を起こしてはならないという決意を新たにする。

 

「だから、琴乃のためにもこのレース勝ちたいんです」

 

前田がポツリと呟く。そう漏らした言葉からは執念のような物を感じた。勝利を、力を求める者で間違いないだろう。だが、銀星号事件で親しい人を亡くした前田博士が銀星号の誘惑に負けるとは思えない。

 

「―――――!」

「―――――!」

 

なんとなく雑談を続けるような雰囲気ではなくなった時の事だった。ガレージの外から言い争う声が聞こえる。その声に顔を見合わせる俺と前田。そして前田は立ち上がり喧騒のするガレージ前へと向かう。それに付いていく。

 

「謝れっつってんだろ!」

「ふざけんな!」

 

そこには三人の人物がいた。一人は先程の大柄なメカニック。もう一人はその眼光が印象的なセーラー服に身を包んだ女学生。そして最後の一人は尻もちをついた男の子。女学生とメカニックが言い争っているようだ。

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ!そこにそう書いてあるだろうがッ!勝手に入り込んできたその餓鬼が悪いんだよ!!」

「だからって襟首掴んで放り投げていいって決まりがあるかよ!大の大人が子供苛めて喜んでんじゃねぇ!!」

「んだとォ――」

 

事情は今の言葉から明白だった。男の子がガレージに侵入し、放り出され、女学生その扱いに抗議しているのだ。躊躇なく前田が二人の間に割り込む。

 

「前田さん!?」

「お前もそいつの仲間か?」

「ウチの佐々木が乱暴だった事は謝る。すまない」

「前田さん!!」

 

前田が男の子に向かって謝る。それに納得がいかないのか抗議する佐々木と呼ばれたメカニック。

 

「勝手に入ってきた奴を追い出すのは良い。だがやり過ぎはダメだ。いつも言ってるだろ。ファン第一だって」

「それは……そうですけど……」

「嬢ちゃんもこれで矛を収めてくれないか?これ以上やっても誰の得にもならない」

「あたしは……そいつが謝ってくれれば得とかはどうでも良い」

 

突然乱入され謝られたことに鼻白んだのかそれまでヒートアップしていた勢いがなくなる女学生。

 

「ほら、佐々木、そこの坊主に謝ってやれ」

「……チッ、すまなかったな」

「はぁ……すまない。これで許してやってくれないか?」

 

男の子が涙目になっていた顔を拭い、一つ頷く。そして一変してキラキラした目で前田を見ている。シャツにプリントされたロゴはY.T.Rの物だ。きっと前田のファンなのだろう。

 

「そっちの嬢ちゃんもこれで良いな?」

「それは……はい。お騒がせしてすみませんでした」

「あの!」

 

それまで黙っていた男の子が意を決したように声を上げる。

 

「前田さん!あの、サイン、貰えませんか!」

「ん?サインか、いいぞ」

 

そう言うと男の子の求めに応じてシャツにサインをする前田。

 

「ありがとうございます!」

「さて、じゃあ、解散!作業に戻るぞ!」

 

手をパンパンと叩いて解散を告げる。女学生と佐々木の視線が一瞬絡み火花が散ったように見えたが、すぐに前田に促されて視線を外す。そしてそんな佐々木を連れてガレージに戻ろうとする前田を俺は呼び止め、俺も別れを告げる。挨拶にしては長居をし過ぎたからだ。十分情報も集まった。ならばこれ以上ここにいる意味はないだろう。明日の健闘を願いあい別れるのだった。

 

 

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