装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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大変おそくなりました。
待っていて下さった方(いない?)には申し訳もありません。


獣の正義

「茶々丸、相談がある」

 

 大会が終わり、祝勝会も済んだ後、伊豆の堀越公方御所へと戻ってきた俺は戻って早々に茶々丸に相談を持ちかけていた。

 

「はにゃ?なぁに、お兄さん?」

 

 まだ劇的な勝利に浮かれているのか腑抜けたような態度だったが、眼だけはいつも通りギラギラした光を放っているのを見て既に平常運転に戻っていると判断する。

 

「……イーニァが岡部の残党に狙われている。大会の前に宣戦布告された」

 

 端的に事実のみを伝える。それだけで茶々丸なら十分伝わるという信頼がある。

 

「えっ、マジで?それは……あての失敗だね。できるだけ御堂の存在は隠してきたつもりだったんだけど、つもりはつもりでしかなかったって事かにゃ……いや、岡部の残党が思いの外やる(・・)って事か」

 

 茶々丸がしょぼんとした様子で眉をハの字にするが、すぐに気を取り直し、思考を巡らせ始める。暫しの沈黙の後、考えが纏まったのか茶々丸が口を開く。

 

「……狙われているって言う状況は面白くないね。警備を増やしても万が一って事がある」

「ならどうする?こっちから打って出るか?」

「それも地下に潜られているから結構難しいんだよね。……うん、やっぱり釣ろう(・・・)

 

 やはりそう言う結論になる、か。対テロ戦に詳しいという訳ではないが、穴熊を決め込んだ相手を叩くのはいろんな意味で難しい。そうなると餌を用意して動いた所を一網打尽にするのがベターだろう。

 

()はどうする?」

「ちょうど良いのが居るよ。お兄さん」

 

 茶々丸が悪い笑顔を浮かべる。こうして策略が張り巡らされていく。その事に抵抗感を感じながらもイーニァを守るため、と積極的に関わっている俺は衛士の本分から外れた存在になってしまったような気がしていた。

 

 囮として岡部の遺児、桜子と言う人物が選ばれたと聞いた。しかし、この策略を主導しながらも抵抗感を感じていた俺は移送中の桜子と接触することはせず、ただ警護の任に専念していた。

 

そう今回の作戦とはごく簡単に言えば岡部桜子の移送計画を漏らす事で襲撃を誘発し逆に殲滅する。それだけだ。この計画の肝となるのは餌だ。岡部残党にとって旗頭に成りうる重要人物である桜子がそれに当たる。そして彼女を篠川から普陀楽城塞へ移送する計画をわざと(・・・)漏洩させたのだ。後は襲撃される可能性が高い場所を事前に調べておくだけだった。

 

 『予想通り』線路が爆破され、その復旧作業を待つために宿を借り上げる。規定の料金以上を支払っているが、ここが戦場になる事を考えれば全くもって不足だろう。だがそれを黙って見過ごす。突然、六波羅による借り上げを命じられたにも関わらず不平を見せず、恐縮した様子の宿の主人を傍目に自分が襲撃者ならどう襲撃するかを検討する。

 

 そして、夜。桜子が居る部屋を背負い侵入者を待つ。そして遂に待ち人が来る。照明の落ちた暗い廊下の闇から滲み出るように黒瀬童子が現れたのだ。相対し、睨み合う。これは想定の範囲内だが、面白くない状況だ。本来ここに来るまでに捕殺する筈だったからだ。その警備網を完全にすり抜けてこられてしまった。

 

「……なぜここに貴様がいる!」

 

 黒瀬童子が静かに吼える。

 

「予想されていたってだけだ。……イーニァを守るため、いや、俺のために死んでもらう」

「チィ、桜子はその奥に居るのだな!?」

「囮として十分に役目を果たしてくれた。今は薬で眠っている筈だ」

 

 今回の作戦、どちらかと言わなくても黒瀬童子の方に心が寄っている。自分の大切な人を救うために巨大な敵に挑み、決死の覚悟で侵入する。俺もイーニァが囚われているとなれば同じことをしただろう。

 

「ならば押し通る!」

 

 黒瀬童子が太刀を構える。だが、俺はそれに応じない。単純な生身の戦闘、それも刀剣を用いた戦闘において俺が勝てる可能性が低いからだ。故に選択肢は一つ。忸怩たる思いを抱えながらも相棒を呼ぶ。

 

「――不知火!」

 

 傍らに寄り添っていた銀の鷹が弾ける。弾けて散る。俺の周囲を舞う。銀が踊る中、右手は心臓に当て、左手は右手の手首を添える、祈るような仕草―――装甲ノ構(ソウコウノカマエ)

 

「未来なき煉獄に生まれ 

 牙なき者の明日のために 

 希望の糸を紡いで朽ちる 

 されど刃、礎となり 

 虚空へ至る道となる」

 

「飛翔せよ!不知火!」

 

 誓言を唱える。周囲を舞っていた銀が発光し、次の瞬間、異形の劔冑が現れる。黒瀬童子は気圧されるように一歩後退し、それを取り繕うようにすぐさま一歩踏み出す。

 

「貴様ァ!…………やはりこうなるか。親子を戦わせるは不憫なれど引くことはできん!かくなる上は――敬天愛人!」

 

 黒瀬童子も誓言を唱え。装甲する。分かっていた事だ。こちらが装甲したとなれば相手も装甲する。武者には武者しかないのだ。親子を戦わせる事に未だに迷いがある。その迷いを見透かしたのだろうか。

 

《御堂、手を抜く事こそ劔冑(わたしたち)の恥よ》

「……分かってる」 

 

 黒瀬童子は太刀を下段、いや、それよりも低く構えた。地面に触れるか否かの所まで剣先を下げている。それに相対する俺は武者正調、肩に担ぐ上段の構えだ。剣術勝負の土俵に引きずり込まれてはおそらく勝ち目はない。ならば馬鹿の一つ覚えと言われようと選択肢は一つ、間合いに入った瞬間に相手より速く叩き込む。これだけだ。

 

 それでも相手の構えの意図を探ることは止めない。相手の意図が読めればその分だけ早く動くことができるからだ。自身の経験を、記憶の底を浚う。確か柳生常闇斎との相対の中でこのような地を這うような下段の構えが有ったはずだ。その時はどう対処してどうなった?

 

 そう記憶を辿ろうとするとその前に黒瀬童子が動く、すり足で素早くだが静穏に距離を詰めてくる。このままでは数瞬もしない内に間合いに入るだろう。勝機があるとしたらここだろうか?

 

 圧力に飛び出しそうになる足を必死に抑える。瞬間、フラッシュバックする。記憶が繋がる。そう、ぬるりと近づいてくる常闇斎に対して俺は我慢できず、がら空きの頭部に打ち込み、見事に跳ね上がってきた切先で喉元を射抜かれたのだ。

 

 敵の狙いは分かった喉だ。ならばどうする?……当然『待ち』だ。不十分な体勢で仕掛けて逆にやられたのだ。ならば十分な体勢を維持し黒瀬童子が間合いに入るのを待つ。それが俺の選択だ。

 

 間合いがじわりと侵食されていく。まだだ。後、半歩。素早く、だが確実に黒瀬童子がこちらの間合いへと侵食してくる。

 

 今!

 

 蓄えた力を解放し、黒瀬童子に向かって打ち込む。黒瀬童子もまた同時に動き出す。狙いは読み通り喉、一直線に喉元へと剣先が迫ってくる。踏み込む。張り出した不知火の胸部装甲で黒瀬童子の射線を遮る。胸部装甲に触れるか否かの刹那、黒瀬童子が狙いを下げる。

 

 黒瀬童子の肩口を長刀が強かに打ち付ける。鈍い手応え。斬りきれなかった。そう判断し、飛び退く。左手を鳩尾に持っていく。鋭い痛みが腹部に感じられる。斬られた。だが十分な威力がなかったため装甲を抜いた所で止まったようだ。

 

 黒瀬童子は喉への射線が遮られるのとほぼ同時に鳩尾に狙いを修正してきた。そして比較的装甲の薄い鳩尾を見事に捉えたのだ。こちらの一撃は相手の一撃に気を取られすぎており、十分な威力が乗らなかった。いや、黒瀬童子が上手く最も装甲の厚い部分で受けたと言うべきだろう。双方ともに軽傷。武者であればそう時を置かずに回復できる。やはりと言うべきか剣術勝負では向こうの方が一枚上手だ。

 

 ならばどうする?長刀を構え直す。跳躍ユニットに火を入れる。轟音が広間に響き渡る。

 

「なっ!?……正気か!!」

 

 黒瀬童子の驚く声。合当理は本来、閉所での使用は想定していない。だが、跳躍ユニットの技術をふんだんに取り入れた不知火の合当理であればこのような場所でも使う事は不可能ではない、筈だ。大胆さと繊細さの両立が要求されるだろうが、戦術機(不知火・弐型)の頃から付き合ってきたのだ。その姿形が変わろうとも手足のように扱える。扱えなくてなにがテストパイロットだ。

 

 跳躍ユニットに火を入れた事は音で既に黒瀬童子に伝わっている。焦りを振り払い油断なく太刀を構える黒瀬童子。一見対応策は持ち合わせていないように思える。合当理を使う以上、相手に当てる以上の繊細な運剣は至難の技。であれば速度を威力に変換できるこちらが圧倒的に有利となる、筈だ。

 

 迷いを振り払い黒瀬童子へと飛びかかる。跳躍ユニットの出力を調整し、斬った後の事も考慮に入れる。それで威力が削がれようとも壁に激突して隙を晒すなどという無様な事はできない。

 

 長刀と太刀がぶつかり合う。鋼が擦れ、金屑が散る。一方的に押し切り、黒瀬童子の太刀が弾かれる。重い感触。痛撃を与えた。そう思うが早いかもうすぐそこまで壁が迫ってきている。劔冑の装甲であれば問題なく抜ける厚さではあるが、無駄に破壊するつもりはさらさらない。と言うかそんな無駄な時間を掛けていては桜子を奪還されてしまう隙になる。跳躍ユニットを逆噴射し、急制動を掛ける。

 

「ふっ、と!!」

 

 殺しきれなかった勢いを壁に足を付けて膝のクッションで吸収させる。壁がその衝撃で半壊する。気にせずそのまま跳躍ユニットを一度切り、逆向きにして再び黒瀬童子へと飛び立つ。

 

 黒瀬童子はこの短時間でこちらが再び戻ってくると想定していなかったらしく、完全に意表をついた形になった。とは言え無理な態勢からの一撃は分厚い胸甲と黒瀬童子が寸前で上体を反らした事により致命傷とは程遠い。

 

 この段階に至り黒瀬童子は自身の不利を明確に悟ったのであろう。桜子奪還という目標を半ば諦める事になる決断を下す。即ち黒瀬童子も合当理に火を入れたのだ。流石に閉所での戦闘の心得はないらしく、屋根をぶち破って空へと飛び立つ黒瀬童子。それを追う不知火(おれたち)。戦いの舞台は劔冑の主戦場である空へと移る。

 

 傷を負ったとはいえ未だに意気軒昂な黒瀬童子は先に飛び立った利を活かし高度優勢をしっかり確保している。高空からダイヴしてくる。単純な力勝負では不利。ならばここは被害を最小限に抑えれば十分と踏む。黒瀬童子の太刀を打ち払う事のみに集中する。

 

「っっク!」

 

 すれ違いざま、太刀と長刀が噛み合い、刹那、長刀が弾かれる。肩口に損傷。

 

「不知火!ダメージレポート!」

《肩部装甲に被弾!小破!戦闘続行に問題なし》

 

 即座に体勢を立て直し、跳躍ユニットを手繰る。敵騎とは次元の違う旋回半径で回り、突撃体勢を整える。黒瀬童子はようやく旋回を終えた所だ。高度の不利をほぼ対等まで立て直し、次撃。刃を打ち付けあい鋼が削れ、互いに弾かれる。弾かれた長刀に引きずられバランスを崩すが跳躍ユニットと全身を操り即座に体勢を整える。黒瀬童子も同様に必死に体勢を整えている。

 

 そして、次。いち早く体勢を整え、旋回を終えた俺達は完全に高度優勢を確保することに成功する。優勢な高度からのダイヴ。黒瀬童子も不利を悟ったのか今までの武者正調の上段を捨て下段に構える。ならばこちらの上へ抜けつつ斬り上げて来る筈。そう読む。上段に構えたこちらは下へ抜けつつ斬り下ろすのが定石。噛み合っている。とは言え単純に不利な勝負を挑んでくるような相手ではない。ならば何かしらの()を仕込んでくると予想できる。

 

 だが、ここは地上ではない空だ。小手先の技で高度の優位を覆すことは至難の技だ。惑わされずに真っ直ぐ行くのが正着、そう判断する。だが油断することはない。する余裕などない。

 

「……!?」

 

 寸前で――下へ抜けてきた。衝突の直前、その刹那、黒瀬童子は下段に構えていた太刀を体と平行に構え――八相――刺突を狙ってきたのだ。そしてその突きは見事、胸部装甲に被弾。直前で勘に従って回避行動をしていなかったら内蔵を抉られていただろう。

 

「ちぃ!」

 

 渾身の一手だったのだろう。黒瀬童子から苛立たしげな金打声(メタルエコー)が響く。刺突には驚いたがまだ高度優位はこちらの物だ。そして刺突は気をつけていれば恐れる事はない。元々双輪懸において一点を正確に狙い撃ち抜くと言うのは困難窮まるのだ。実際先程も、僅かな回避でほぼ無傷で切り抜ける事ができたのだ。

 

 次撃。再び下段に構えた黒瀬童子と相対し、激突。今度は先程のように変化する事なく素直な斬り合いになる。剣速で上回ったこちらが一方的に黒瀬童子を斬る。肩部装甲に着弾。中破させる。

 

《敵騎、左肩部に被撃。中破》

「よしっ!このまま押し切るぞ!」

「くっ、このままでは……」

 

 黒瀬童子の苦しげな金打声(メタルエコー)が響く。高度優勢を確保したまま旋回を終える。その時の事だった。

 

《!!敵騎、熱量増大!陰義発動!》

 

 不知火の報告に警戒レベルを一気に上げる。黒瀬童子は遂に切り札を切ってきたようだ。陰義の発動は即ち戦局を一変させ得る『何か』が起こるという事だ。そして呪句(コマンド)が唱えられる。

 

「――千変万化!!!」

 

 変化は――ない。少なくとも急加速したり火を吹いたりするような分かりやすい陰義ではないようだ。……まさか、ブラフ(はったり)か?そんな思いすら過る。

 

 そのまま何事も起きないままヘッドオンの状態で交差する。一体何の陰義なのか判別できないが、ここで手を出さなければ一方的に斬られてしまう。ここまで来ればできる事などない。迷いを振り払い長刀を振るう。

 

「なっ!?」

 

 長刀が空を斬る。その直後に衝撃が奔る。

 

《右肩部装甲に被弾!中破!!》

「何が起こった!不知火!?」

《――不明、突然、敵騎の位置がズレた》

 

 急減速?いや違う。確かにそこ(・・)に居たはずなのだ。まさか瞬間移動?

 

「このまま決める!」

「ック!」

 

 互いに旋回し、再び双輪懸の態勢へと移る。高度優勢はまだこちらの物。だが、敵の陰義のからくりを見破らなければ同じ様にやられてしまう。どうする?方策も見極められないまま、衝突の時が迫る。

 

 長刀と太刀がぶつかり合い、一瞬の均衡の後、長刀が弾かれる。

 

《胸部装甲に被弾!かすり傷!》

「もう対応されただと!?」

 

 閃きとも言えない思い付きに身を委ねたがどうにか成功したようだ。注目したのは黒瀬童子の太刀の動きだった。先程の衝突の際に黒瀬童子は間合いに入ってもまだ太刀を振っていなかったように思えたのだ。だから今回は黒瀬童子が動いて(・・・)から動いた。結果、威力が大きく削がれ、弾かれる事になったが、『太刀打ち』する事ができた。

 

 この結果から黒瀬童子の陰義の内容が分かってくる。敵は急減速や瞬間移動のような自身に作用する陰義ではない。恐らく幻覚のような物だ。問題はどの程度ズラす事ができるか、だが……。

 

「不知火、レーダー反応とヤツの動きに差はなかったか?」

(いいえ)、微妙だけどレーダーでも瞬間移動したように見えた》

 

 レーダー情報も欺瞞されている?それとも推測が間違っているのか?

 

「ならばこれはどうだ!」

《!!敵騎反応、3つに分裂!》

「なっ!?」

 

 黒瀬童子が3体に増えた。それぞれ上段、下段、八相に構えている。厄介な状況だ。だが、敵の陰義は幻覚である可能性が高まった。さて幻覚だとすれば、どれが本物だ?

 

 今、敵騎は優位な状況にある。こちらの態勢が整わない内に確実に打撃を与えたい筈だ。ならば博打の要素が強い突きは使わないのではないだろうか?要するに八相はダミーではないか?そうだとしても上段と下段の二択。苦しいことには変わりない。下段が本物である事に賭ける。

 

《背面装甲に被弾、中破!》

 

 敵は八相が本物だった。太刀打ちの直前に忽然と下段と上段の黒瀬童子は消え、八相の黒瀬童子のみが残った。対応できる筈もなく一方的に被弾する。だがこれでほぼ確定した幻影によるダミーだ。

 

《御堂》

「どうした?」

《敵のダミーは熱源反応がなかった》

「よし!どれくらいの距離で判別できる?」

《残念だけど、太刀打ちの直前》

 

 不知火の声に自身に対する不満の色を感じる。黒瀬童子の陰義に対応できない自分を責めているのだろう。だが、今は戦闘に集中だ。

 

《どうする?陰義を使う?》

「いや、陰義を使っても的を絞れなければ意味がない」

 

 つくづく思う。流石、よく出来た陰義であり、劔冑だ、と。幻影による距離の欺瞞、そしてダミーによる選択肢の増加、どちらも地味だが効果的だ。そしてあるものをなくすというような無理をしていないためかなり燃費の良い陰義である事も予想できる。実際、黒瀬童子に熱量切れの気配はない。

 

 戦術を変える。このまま戦っていてもジリ貧になるのが目に見えている。背部に取り付けられた兵装担架に長刀を戻す。代わりに突撃砲を装備する。そう不知火は射撃戦に対応した、もっと言えば射撃戦で真価を発揮する劔冑なのだ。

 

 この突撃砲は戦術機の突撃砲を模した物で、戦術機の36mmケースレス弾を使用する事ができる。この砲弾は劣化ウラン貫通芯入り高速徹甲弾で、この時代としては有り得ないと言っていい程、高性能を誇っている。その分、今ある砲弾を使い切ったらそれまでなのでそう簡単に使用できる物ではないのだがこの状況だ。出し惜しみなどしていられない。

 

 跳躍ユニットを操り、一気に高度を下げる(・・・)。高度優勢など既に何の意味も持たない。ならば戦術機として慣れ親しんだ地表付近の方が砲撃が安定する。

 

 黒瀬童子もこちらを追って地表付近まで加速しながら突っ込んでくる。そのまま騎首を上げ、水平飛行へ移行。その段階で3体に分裂し、それぞれの構えでこちらへと猛然と襲い掛かってくる。こちらの目論見通りに。

 

 水平に薙ぎ払うように突撃砲を斉射する。腹に響く砲撃音が鳴り響く。強い反動が手首に響く。地表近くまで誘き寄せたのは敵騎の動きを制約するためだ。思った通りこちらを斬るために水平に3体並んでくれた。36mmが黒瀬童子の装甲を貫く。背負った合当理が爆発し、そのまま地面に吸い込まれるように残骸が落下する。

 

 墜落地点へと移動する。そこには僅かに残った鉄片があるばかりだった。殺した。殺してしまった。今までもテロの時のように人を撃ったことはあったのだが、ここまで明確に殺したと意識した事はなかった。それも自分のために、だ。

 

「……すまない」

 

 誰に対する謝罪だったのか。心に残るのは虚しさばかりだった。 

 





ちょっとだけ言い訳を
実は震天騎編を3万字ほど書いていたのですが、バッサリカットしました。
アスカロンのアウトロウとか、かなりもったいないのですが、プロットに深刻な不備が見つかったのでこんな形になりました。
ついでに、新プロットが「黒瀬童子との死闘」の一言しか書いておらず全く妄想が捗らなかったためにここまで遅くなってしまいました。改めて申し訳ありません。
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