・装甲悪鬼村正のネタバレが含まれます。
・グロ注意
夜闇の中で家屋を包む赤と黄色の衣。
村が燃えていた。
死が溢れていた。
狂った人々が互いに互いを殺し合う。それまでの関係など関係ない。ただ殺すために殺す。母が子を殺し、子が父を殺す。そんな地獄がそこには展開されていた。
唄が聞こえる滅びの唄が。その唄が聞こえるたびに地獄が広がる。そんな地獄のさなかに一人の少女がいた。ごく普通の少女に見える。それがこの地獄では異常だ。少女の傍らには銀色の鎧がいる。
月の美貌を、
魔の武威を、
狂気の光を、
全て備えて
何よりも優美で何よりも禍々しいその姿はこの地獄に君臨する魔王のようだった。少女は白銀の魔王と戯れている。
「御姫~、またこんなにして、後片付けも大変なんだよ」
「む、そうかそれは迷惑だな。だが、おれは謝らん!」
「まぁ、それでこそ御姫だよね」
少女と白銀の魔王がカラカラと笑い合う。その笑みに邪気など微塵も感じない。自身の行為に何の疑問も持っていない。その事が余計に異常さを際立たせる。
「だが、後片付けしないというのも行儀が悪いのは確かだ」
「御姫?」
「うむ、だから片付けてやるとしよう」
白銀の魔王が飛翔する。村の中央付近、その上空へと
少女は白銀の魔王が何をしようとしているのかようやく理解する。
「うわぁ、ちょっとタンマ!御姫タンマ!」
少女が人の身とは思えない速度で疾駆する。
その様が見えているのかいないのか、全く頓着せずに銀の魔王は始める。終わりを始める。
「天地万物に吸引の力有り。この作用を引辰、力を辰気と称す―――
辰気、招き集わせ手繰る 誘聘」
《辰気収斂》
白銀の魔王の顔面が割れ、隠されていた数多の眼が顕になる。
背中にある巨大な蕾が開花するように展開される。
白銀の魔王が奇怪な光りに包まれる。
黒い渦が現れ、周囲が歪んでゆく。
あたかも陽炎に取り巻かれたかのように。
世界が歪んでゆく。
混沌の中心で。
世界を屈服させる暴力の所有者が。
終末の喇叭を高らかに吹く熾天使のように。
一節の詩を唄った。
「
「―――
建物が。
土砂が。
木々が。
死骸が。
根こそぎ浚われ、呑まれてゆく。
渦の中心に行き着く前に、圧搾され、原形を失いながら。
全てを無に帰す白銀の魔王の奥義。
だが、今回は様子がおかしい。最初に全てを吸い込み跡形もなく飲み込むまでは良い。だが、その黒い渦と鏡合わせのように反対側に現れた白い渦は一体何だ?
そんな疑問を抱くのと同時だっただろうか、巨大な人形が白い渦から吐き出される。劔冑の十数倍の大きさを誇る巨大な人形が地面に叩きつけられ砂埃をあげる。
「御姫ー!?何かすごいのが出てきたんだけど!」
「
《
白銀の魔王が何者かに下問する。それに答える第三者の声がする。
美しくそしてどこか機械的なその声はやはり同じく白銀の魔王からする。
超常を宿す銀の鎧――
《見たところ
「
《残念ながら
「うわぁ、どうしようあれ……」
「任せた!おれは眠くなったから帰る!」
それだけ言い残すと無責任なことに白銀の魔王は飛び去る。
「え!?ちょっと御姫!?……うわぁ、あてがどうにかするの?あれ」
――――――
「……や……ゆ…や、…………ゆうや!起きて!」
機体の異常を知らせるアラートの中、俺を呼ぶイーニァの声が聞こえてくる。どうやら気絶していたようだ。何がどうなったのか全く分からないがとりあえず生きているらしい。
「ッツ、イーニァ……」
「ゆうや!!」
「悪い、大丈夫だ。そっちはどうだイーニァ?」
「イーニァはへいきだよ」
後部座席から降りてきているイーニァの姿におかしな点は見受けられない。
イーニァを見て軽く頷いておく、どうやら俺もイーニァも無事のようだ。
そう判断し、機体のチェックを開始する。
生命維持系……メイン系統断絶、強化外骨格のサブシステムが稼働中。
バッテリー……メイン測定不能、サブで稼働中。
センサー系……レッド、何の反応も返ってこない。
操縦システム……レッド、辛うじて右腕だけは残っているようだ。
通信システム……反応なし、完全な断絶。
排熱システム……反応なし、完全に停止している模様。
跳躍ユニット……レッド、緊急遮断弁の稼働を確認。
推進剤残量……測定不能、センサーがやられている模様。
機体各部情報……レッドアラートのオンパレード。
「酷いな、こりゃ……」
本来損傷しづらい位置にある損傷を判定するセンサーもイカれている部分があるので明確な事は言えないが、ほぼ全身に何らかの力が加わった結果、無事な部分の方が少ないレベルで不知火・弐型は損傷しているようだった。フレームが歪んでいるようでハッチも開かないようだ。
「イーニァ、状況を確認したい、爆発に巻き込まれた以外で分かることはあるか?」
「んー、なにかおそとがへんなかんじがするけど、よくわかんない」
「外が?……とりあえず、再起動をしてみよう。イーニァ、手伝ってくれ」
「わかった!」
元気良く返事するイーニァが笑顔で後部座席に戻るのを見届けながら、破損箇所のチェックと再起動の手順を確認し、大丈夫そうな部分を慎重に再起動を掛けていく。再起動した結果、誘爆なんて洒落にもならないからだ。
どうにか周囲の状況を知りたいところなのだが、残念ながらカメラ類は全滅しているらしい。辛うじて生きていた音響センサーもザー、ザーというノイズが酷くて役に立たない。
「……無理、か。ベイルアウトするぞ」
ベイルアウト、それは戦術機にとってほぼ最終手段だ。爆裂ボルトを使用し管制ユニット丸ごと機体から脱出する事になる。当然だが管制ユニットがなくなった戦術機を動かすことなどできない。要するに不知火・弐型をこの場に放棄していかざる負えないのだ。その事に忸怩たる思いを抱くが、どうしようもない。
ベイルアウトができるかどうかのチェックを行う。幸いなことにベイルアウトの機能は生きているらしい。この機能が死んでいた場合、本当の意味で最終手段である強化外骨格での強行脱出を考えなくてはいけないところだった。
「大丈夫そう、だな。イーニァ、準備は良いか?」
「うん、だいじょうぶだよ、ゆうや」
「良し、じゃあ行くぜ!」
爆裂ボルトが起動し、歪んしまったハッチがフレームごと分離される。そして次の瞬間強い衝撃とともに機体から管制ユニットが射出される。一瞬の浮遊感の後、展開されたエアクッションに守られながら管制ユニットが地面と激突する。
……どうやら無事にベイルアウトできたようだ。
考えていた以上の衝撃に一瞬事故を想像したがどうやらベイルアウトは正常に行えたようだ。場合によってはベイルアウトの途中でフレームに引っかかったり、エアクッションが展開されないといった事態も想定されていたのだから怪我無く外に出られたのは幸いだろう。そんな事を思いながら備え付けられているサバイバルキットを装備し、外に出ようとする。
「おっと、コイツを忘れちゃダメだな」
そう呟きながらコックピット横に貼り付けていた唯から貰った大切な刀――緋焔白霊――を手に持つ。そして意を決して管制ユニットから外へと出る。
そこには想像もしない景色が広がっていた。
「何だ……こりゃ……」
「うわぁー、ゆうやすごいよ!みどりがいっぱい!」
そこは森の中に現れた爆心地のような場所だった。先程まで俺達はカムチャッカ半島の雪の中に白一色の世界の中に居たはずなのだ。辺り一面をBETAに均された大地の上を厚い雪が覆った大地に居たはずなのだ。それが突然生命溢れる力強い森の中に移動したのだ。ふと気づく、衛士強化装備を着用していても感じられた、刺すような痛みすら感じる寒さを全く感じない。
「ここは、アメリカのどこかか?」
世界の中でここまで緑が残っている場所と聞いてまず思い浮かぶのがアメリカだ。だが仮にアメリカだとしてもなぜこの場所に居るのかが分からない。いや、あのG弾が何か影響した、という予想はできるのだが、それが一体全体何を引き起こしたのか分からないのだ。
「ゆうや、なにかへんなひと?、がくるよ」
「変な人?どういう風に変なんだ?」
「う~ん、にんげんだけどにんげんじゃないみたいなかんじ、かな?」
イーニァにも良く分かっていないようで首をかしげている。周りを見渡してみると黄色を基調としたジャケットを着た若干幼さの残る金髪の少女が駆け寄ってくる。
「
その言葉が通じたのか一定の距離を保って静止する。
「ねぇねぇ、そこのお兄さんにお嬢ちゃん、これ何?
黄色い少女が発したのは日本語だった。と言うことはここは日本なのだろうか?少し遠目だが金髪とは言えどことなくアジア系の顔つきだ。その可能性もなくはないだろう。
「こんにちは、きれいなおねえさん。これはね、シラヌイっていうんだよ!」
「おっ、ありがとね、お嬢ちゃん……シラヌイ……不知火ね」
どう対応するのがベストか一瞬考え込んだ隙に黄色い少女ごく自然に話しかけられ、イーニァも自然に対応してしまう。イーニァが警戒しないということはこちらに害意はないという事だろうか。
そして、ツルギとはどういう意味だろうか?確かに戦術機は人類の刃と呼ばれる事もあるが、そう言ったニュアンスは感じ取れなかった。全く状況を把握できていないが、幸いと言って良いのか敵意は感じられない。とりあえず友好的に話を進める方が良さそうだ。
「……あー、騒がせてすまない。ちょっと事情があってな……」
俺はどう話を進めるべきか悩みながら慎重に言葉を紡いでいく。それを遮るようにして黄色い少女が言う。
「お兄さん、このトンデモな物は何なのか?とか、その劔冑は?とか、お兄さん達はどこの誰なのか?とか色々聞きたいことがあるんだけどね、一つだけどうしても突っ込ませて!何そのエロい格好!エッロ!?体のラインがクッキリ、ピッタピタでスッケスケなんてお兄さん達変態さんなのかにゃ!?」
「バッ!?変態じゃねーよ、これは91式衛士強化装備って言って、国連衛士の基本装備で耐Gスーツ機能に耐衝撃性能、防刃性から耐熱耐寒、抗化学物質だけじゃなくてバイタルモニターから体温・湿度調節機能、カウンターショック等といった生命維持機能も兼ね備えたスゴイ装備なんだぞ!?」
「へーソウナンダ、スゴイデスネー」
「全く信用してなさそうな棒読み、だと……」
「クッ、それにしてもお嬢ちゃん
「おねえさん、ありがとう!おねえさんもがんばってね!」
「これが格差社会ってヤツなのかにゃ……」
確かに体のラインが出るし、エロいと言われれば反論しようがないのだが、基本装備として世界中の衛士が着用している事を考えるとどうにかして反論したいところなのだが言葉が出てこない。
……それよりもコイツ、衛士強化装備を知らないらしい。世界中の衛士が着用しているくらいに普及しているのだが、軍以外で見ることはないしおかしな事ではない、のか?
「なに、この圧倒的敗北感……まぁいいや……んー、よく分かんないな……それでお兄さんたち何者?」
「あー、その前に一つ良いか?変な事聞くんだが、ここはどこか教えてくれないか?日本語だし日本のどこかなのかな?」
「……えっと、ここだったね、日本ってのがどこか知らないけど、ここは伊豆の山ん中だよ、お兄さん」
急にテンションが切り替わる。日本を知らない?
「伊豆?日本の半島だったか?……いや、それよりもここは日本帝国じゃないのか?いや、そうだアメリカは知っているか?」
「アメリカ?知ってるけどお兄さんもしかして新大陸派の人?んー、ここは大和帝国の伊豆だよ、堀越御所の近く」
どういう事だ?大和帝国?堀越御所、は単に知らないだけか?生憎と日本帝国の内情に詳しいわけじゃない。それに新大陸派?そんな派閥あったか?国連のアメリカ派の事か?少なくとも俺の知識の中に大和帝国なる国は存在していない。仮にも帝国と名乗っているのに知らないとは思えないのだが……あり得るとしたらコイツが嘘をついてるか認識にズレがあるのかだが……
「ゆうや、ゆうや、ちゃちゃまるはうそついてないみたいだよ?かたくてふしぎなかんじがするからぜったいじゃないけど、うそついてるかんじはしないよ」
「イーニァ?そうか、分かった。嘘じゃないんだな。さっき言ってた人間だけど人間じゃないみたいなのってこの人か?」
「うん!そう。きれいなくろいろしてて、きかいみたいなひと!」
俺の考えを読んだのかイーニァが小声でそう教えてくれる。イーニァと聞こえないように小声でやりとりしていると突然、黄色い少女――チャチャマル?――の雰囲気が一変したように感じる。ヒリヒリとするような敵意、闘争の匂いとでも言うべきものだ。
「!?待て!悪かった!いや何が悪かったのか良く分からないんだが、何か気に障ったなら謝るからとりあえず落ち着いてくれ!」
「……その子、人の心が読めるんだね?あての正体にも感づいてるみたいだし……」
「なっ!?」
(バレてる!どういう事だ!?アイツもリーディングができるのか?)
「ふーん、リーディングって言うんだ、その子の能力」
完全に読まれてるようだ。こいつも第三計画の関係者か?こうなると交渉もあったもんじゃないだろう。チャチャマルの立場等、未だに状況は全く不明だがこうなれば素直に助けを乞うしかないだろう。
「……そうだ、勝手に心ん中読んじまってすまなかった……まぁ、お互い様のようだが……それで本題なんだが俺達は状況が分からない、アンタが誰なのか?ここはどこなのか?その能力は何なのか?とか全部分からない。だから助けてくれないか?」
「へー、恐れないんだね、その子が居るからかな?……まぁ、いいや、んー、交互に知りたいことを質問し合うのはどう?」
どうせ嘘ついてもお互いに分かるんだし、先程とはうってかわってそう楽しそうに彼女は続ける。
どうやらとりあえず戦闘になる危機は去ったようだ。警戒は全く解いていないし相手がどこの誰だかも分からない上に、何かとんでもない事態に巻き込まれているような嫌な予感もドンドンと広がっているが、相手の方もこちらの事情を十分に把握できていないらしい事は分かる。だからこそ今は状況の把握に務めるべきだ。そう考えると交互に質問し合う、というのは悪くない、いや良い提案だろう。
「ああ、それで十分だ。だが、その前にやりたい事がある」
「ん、何?」
「自己紹介だ。俺は……アメリカ陸軍所属、国連ユーコン基地アルゴス試験小隊所属衛士のユウヤ・ブリッジス少尉だ。こっちのちっちゃいのはイーニァだ、イーニァ」
「そびえとれんぽうりくぐんイーダルしけんしょうたい、しょぞくえいしのイーニァ・シェスチナだよ!よろしくねお姉さん!」
「んー、国連、ね……まいっか……あては大和帝国六波羅少将で堀越公方代理の足利茶々丸だよ」
一瞬何か考えこんだようだが、すぐに自己紹介してくれる。だが、少将とは恐れいった。ほとんど雲の上の存在言って間違いないぐらいのお偉いさんだ。
何せユーコン基地の基地司令が准将でそれよりも高位なのだ。そして公方と言えば政威大将軍や皇帝を指す言葉だったと記憶しているのだが、その意味で用いられているとしたら相当の権力者だろうし、年齢に沿わない階級の高さも納得できる。だが、問題はそんな所ではないだろう。
「失礼しました。茶々丸少将閣下。私から先に質問してもよろしいでしょうか?」
「あー、あての事は茶々丸で良いし、そんなに畏まらないで良いよ、って言うか止めて」
上官向けの言葉遣いに直したのだが、割りと本気で嫌そうな雰囲気を感じる。相手が良いって言ってるのだ。周囲に人もいないし普段通りの口調で問題ない、のだろう……多分。そんな思考も読まれているのか、それで良いとばかりに笑顔で頷かれ、先にどうぞと促される。
「では、失礼して、茶々丸……最初の質問だ。BETAを知っているか?」
「にゃは、ノーだよ、お兄さん。この世界にはそんな化け物は居ない。精々くそったれな神様が居るぐらいさ」
ちらりとイーニァを見る。嘘ではないらしい。
ほぼ確定した。信じられないがここは俺達の居た世界とは違う世界だ。