装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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原形がありませんが、宿星騎編です。


宿星騎

「まだだッ!俺はF-22EMD(ラプター)の限界を見極める……ッ!!」

「でめぇはいつもいつも――いい加減にしろッ!!」

 

 ()が吼える。ゴースト5(レオン)が制止しようとする。だがそんな事は意に介さずラプターを振り回している俺の姿が見える。レコードを更新するための安全を限界ギリギリまで切り詰めたアタック。ラプターの事しか頭になかった俺の姿。これは俺の過去、忘れ難い、背負うべき過去だ。その証拠に止めろと幾ら叫んでも聞こえない。――いや聞こえたとしても当時の俺は止める事などなかっただろう。そう忸怩たる思いを抱く。

 

ゴースト1(スヴェン大尉)より各機、ゴースト4(ユウヤ)のチェイサーは俺がやる。各機は距離を取り巡航追尾。ゴースト4はこのままレコードブレイク――以上だ!」

 

 嘘だ。これは嘘だ。心の中の何かが訴えている。何だか分からないが、これは真実ではない。だが目が離せない。そうこのまま行けばスヴェン大尉は……。

 

「さすがだな隊長(スヴェン大尉)、離されてもしっかり食らいついてやがる――だが、F-15E(ストライク・イーグル)をぶっちぎれない新型(ラプター)じゃ、お偉方も納得しねえだろッ!?」

 

 眼下でラプターを限界まで振り回している姿が見える。――止めろ。限界を見誤り岩盤をジャンプユニットが擦る。――止めてくれ。推力圧で脆くなった岩盤が崩落する。――ぁああ。

 

「隊長高度をあげろッ――岩盤が推力圧でッッ!!」

「むっ!?ぬおおおおおっ!!」

「隊長ォォォッ!」

「スヴェン大尉ィィッ!?」

 

 スヴェン大尉が崩落に巻き込まれる。そして爆発。その瞬間を目の当たりにする。自分がどれだけ傲慢だったのかそしてその代償がどれだけ大きかったのかを改めて実感する。

 

「お前だけは……お前だけは絶対にゆるさねえッ!!隊長を殺したのは――お前だッ!」

 

 レオン(ゴースト5)が俺を責める。それに何も言い返す事ができない。いや、あの時自分を許せなかったのは自分も同じだったからだ。そうスヴェン大尉を殺したのは俺なんだ。その事から眼を逸す事はできない。

 

「……従って、当該案件に関するユウヤ・ブリッジス少尉の過失、あるいは責任を、当委員会は一切認めない。以上――閉会!」

 

 場面が暗転する。次の瞬間俺は軍の査問委員会の被告席に立っていた。その場で言い渡される無罪の判決。その事に納得できていなかったのは俺自身だった。だから……だから……。

 

「誰が何て言おうが……隊長はお前が殺したんだ……!!その事実から逃げられると思うなッ!?」

「レオン……!」

「事故りたくなかったら、俺に付いてくるな。……憶えておけ、下手クソ」

 

 俺の子供じみた言葉。取り消したくても取り消すことなどできない。これは過去。変えることのできない俺の一部だ。背負って飲み込んで痛んでそれでも前に進むしかないのだ。

 

 そう心を定めた瞬間だった。霧が晴れるように視界が明転する。ここはどこだ?――空だ。そう俺は空を飛んでいた。跳躍ユニットの轟音が耳を打つ。目の前には敵が今にも斬りかからんとしている。それを咄嗟に右手に持っていた長刀で捌く。

 

 敵

 

 そう敵だ。今俺は連続殺人事件の犯人ニッカリ青江と対峙していたのだ。今のは一体何だったんだ?――分からない。だが何かしらの方法で化かされていたようだ。

 

「ぬぅ、掛かりが浅かったか、なぁらぁば、これはどうだ!」

《陰義が来る!》

 

 つくしからの警告が再び(・・)発せられる。そう再びだ。その警告を聞いた後、俺はスヴェン大尉の死の瞬間を追体験していた。きっとアレは奴の陰義なのだ。

 

「了、解!」

 

 了解と言ったものの対処法など分からない。精々心を強く持とうと思う程度だ。

 

「呵! 呵!

 呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵!!」

 

 ニッカリ青江の奇怪な嗤い声、奇妙に粘っこい大笑が虚空を渡る。ただの嗤いではないのだろう。おそらく陰義の呪句(コマンド)。そう思うが早いか視界が暗転する。

 

許さない

「つくし?」

 

 そこに居たのはツナギを身に着け、見たこともない陰鬱とした表情を浮かべたつくしだった。この状況に疑問を覚える。そうつくしは劔冑となった筈なのだ。

 

絶対に許さない……

 

 つくしの語気は強くはない。だが粘りつくような執念が感じられる。自分は何を責められているのか、そこに疑問はない。言われたことはなかったがその事が棘のように刺さっているからだ。

 

お祖父様を殺した……壊した!

 

 やはりそうだった。責められ胸がジクジクと痛む。だがこの傷みすら傲慢なように感じる。

 

「つくし……」

 

 これは自分に対する罰なのだろう。甘んじて受けるべきものだ。そう思う。

 

――だが――

 

 それは"今"なのか?何か大事な事を忘れているように思う。そう思う間もつくしが俺を責める声は止まらない。いや激しさを増している。聞きたくない!だが聞かなくてはならない。そんな相反した思いが胸中を掻き乱す。

 

《……堂!御堂!!》

 

 心の中を探っていると小さな小さな声が聴こえる。いや、ずっと聴こえていたのに認識できていなかったと言うべきだろう。それに意識を持っていった時の事だった。突然視界が開ける。怨嗟の声が止む。

 

――そして衝撃、痛み

斬られた。

 

 混乱の最中それでも必死にバランスを取り戻す。目の前には趣味の悪いニヤけた顔を模した面を付け、肩口に歪んだ顔の肩当てを付けた下品さを感じさせる劔冑が居た。

 

 そう、そうだ。俺はこのニッカリ青江と戦っていたのだ。そしてそう。奇怪な嗤い声と共につくしの陰義が来るという警告を受け、次の瞬間にはあの幻覚に囚われていた。そう幻覚だ。おそらく自分のトラウマを抉る類の陰湿な。

 

「つくし……」

「何?御堂」

 

 いつもならつくし呼ばれる事を嫌がる不知火が素直に呼びかけに応えてくれる。それだけ心配を掛けたという事か。

 

「いや、何でもない」

 

 これは俺の問題だ。俺が乗り越えなければいけない試練なのだ。俺は知っている。つくしが黒瀬童子の事で俺を責めなかった事を。それどころか労って寄り添ってくれた事を覚えている。そのつくしを、相棒を信じなくてどうする。

 

 体勢を整えて再びニッカリ青江を正面に捉える。バランスを崩したせいで高度優勢は向こうのもの。陰義の突破法も見当たらない不利な状況。――だからもう陰義は撃たせない。そう決める。

 

 さらなる加速をするために一度捉えたニッカリ青江から離れるように高度を下げる。

 

「ぬぅ、逃げる気か!」

「不知火!」

《了解》

 

 何を言わずとも察してくれる相棒。この戦いが終わったら労ってやろうとふと思う。そのためには勝たなくては、そう改めて心に決める。茶々丸からの依頼とは言え連続殺人犯を放っておく趣味はない。ならば勝利あるのみだ。

 

《祈りの翼を以て

 無窮の空を超え

 事象の果を開け》

 

 丹田に気を送る。そこに存在する存在しない(・・・・・)回路に気を流し込む多すぎても少なすぎてもダメだ。繊細な作業。ちょうど十分な速度まで加速が完了する。ピッチを上げ、ニッカリ青江を正面に捉える。

 

「翔けろ!刃金の翼!」

 

 呪句(コマンド)を発する。それと同時に視界が歪み。全身が歪む。内蔵をぐちゃぐちゃにかき回された感触。それを抜けた瞬間、視界が明転し、こちらに背を向けた(・・・・・・・・・)ニッカリ青江の姿を捉える。僅かに進行方向を調整し、背後から斬り下ろす。

 

「悪いが、死んでくれ」

 

 その段になってようやくこちらの存在に気付いたのか振り向こうとするがこちらが斬り下ろす方が遥かに早い。合当理を両断し、翼甲も抜け、背面装甲を大きく深く抉る。致命傷だ。背骨を割った嫌な感触が手に残る。

 

「がひっっつ」

 

 ニッカリ青江は何も言い残すこともなく爆散した。また一人殺してしまった。こちらの世界に来てから殺すという事の意味を考える事が多い。ニッカリ青江は明確な悪だった。だが、俺が殺して良かったのか?その点にだけは未だに疑問がある。

 

――――――

 

パチパチパチパチ

 

 茫然としていた俺の耳に拍手する音が聞こえる。――一体いつから居たのだろうか?妖しい銀の煌めきを纏った武者が空中に静止(・・)して居た。通常の劔冑では考えられない所業を軽々と行うその劔冑、銀星号。各地で虐殺事件を繰り返す呪われた劔冑。

 

「――見事!奴に渡そうかとも思っていたが、貴様の方が相応しい!」

「何を言ってやがる!――不知火!」

 

 劔冑を纏っていてもなお感じる不気味なまでの武威。アイツは違う。何が違うと云えば、もはや世界(・・)が違う。それほどまでに異質。それほどに不可解。それでも分かることがある。正面からやりあったら負けるという確信が背筋を凍らせる。それでも何もしない訳にはいかない。奴はニッカリ青江以上の悪なのだ。

 

《祈りの翼を以て

 無窮の空を超え

 事象の果を開け》

「翔けろ!刃金の翼!」

 

 ならば取りうる選択肢は一つ、卑怯だと言われようとも全身全霊を賭けての不意打ち、それだけだ。視界が歪み、銀の劔冑の背面僅かに上方、ヴァリネラブルコーン(後方危険円錐域)に出る。この角度からの攻撃であればまず対応することなどできない。

 

 次の瞬間

 

 重力が喪失し、天地の感覚がなくなる。そして衝撃。全身を強かに打ち付ける。――何が起こった?ここはどこだ?土煙で周りは何も見えない。――いや、土煙?と言うことは地面に叩きつけられたのか?どうして?どうやって?疑問が渦巻く。

 

「っつつ、不知火……ダメージレポート」

《……全身に重度の損傷、戦闘続行不可、逃走推奨。……今私達投げられた?空中で?》

「投げられた?……なるほど、言われてみればそんな感じだ」

 

 土煙が晴れる。起き上がろうとする。崩れ落ちる。両足の感覚どころか、そもそも上下の感覚がない。立てなかったという事実だけが残る。それでも立ち上がる。もしかしたらただ地面に伏して、足掻いているだけではないのか。そんな疑問が出てくるほど曖昧な感覚。それでも立ち上がらなければならない。

 

「乙女を背後から襲うとは不埒者め。――まぁいい、お前にはいいものを贈ろう」

 

 そう告げるが早いか、気付いた時には目の前に悠然と立つ白銀の魔王。彼女は片手を掲げる。指の間に、現れる――光明。

 

「"卵"!?」

 

 光の球を握り締め、銀星号がその手をこちらに差し出す。その光が触れる直前にどうにか声を出す事に成功する。

 

「やめろ……」

「なぜだ?力が欲しくないのか?」

 

 止まるとは思っていなかった。だが、俺の震えた弱い声は銀星号を止める。そして臣下に下問するかのように心底疑問と言った風に尋ねる。

 

「お前に与えられた力なんて願い下げだ!」

 

 叫ぶ。思い出す。銀星号が何をしてきたのかを。平久里村では村がなくなった。竜騎兵は発狂した。鈴川令法は力を求め、そして力に溺れた。他にも直接見ていないがどれだけの人が銀星号と関わったために死んだか……。俺はそんな力を必要としていない。

 

「ふむ、元の世界に帰れるとしても、か?」

「……な!?」

 

 最初、何を言っているのか分からなかった。分かってからも理解できなかった。銀星号が何を言っているのか。

 

「辰気のちょっとした応用で……ほら」

 

 空間が歪む。歪みは円形に引き伸ばされ窓のように開く。向こうに見えるのは……廃墟。そして銀星号が歪みに手を入れ何かを取り出す。それは……見たことがある()だった。こちらの世界に有ってはならない物。

 

「ソルジャー級だと!?」

「ほう、お前の世界の生き物か?……醜いな」

 

 必死に銀星号を喰おうと噛るソルジャー級。だが、それを意にも介さない銀星号。そして最後の言葉とともに手刀が落とされ、ソルジャー級は両断される。

 

「本当に戻れる、だと……?」

 

 その光景に心が揺さぶられる。

 

「ああ、本当だとも。さぁ、力を受け入れる気になったか?」

 

 銀星号からの再びの問い。それに俺は……

 

 

 

 

「…………だが……それでも……断る!!」

 

 

 

 それでも拒否する。帰れるかもしれないというのは例えようもなく大きい。だが、それはヤツの手による物であってはならない。そう思う。

 

「強情な。――だが、力を得れば考えも変わろう」

「……やめろ!クソっ、動け」

 

 必死に力を込めて四肢を動かそうとするが、遅々として動かない。そして、光の球が不知火の装甲に触れる。そのまま何もないかのようにズプリと沈み込んでいく『卵』。そして俺の心臓へと至り『卵』が植え付けられる。

 

「あ、ああ」

《なに、これ、ダメ。侵食される……》

 

 力が満ちる。傷が癒される。心臓が痛いほど脈動する。全身が熱い。全身を掻き抱くように身を丸める。必死に膨れ上がる熱を押さえつけようとする。

 

「――これで良い。さて、思いの外(辰気)を使ってしまったからな。おれは帰るぞ!」

「ック!待て!」

 

 どうにか制止の声を上げるが、ろくに動くこともできない。傷は無理矢理癒やされている。だが、熱を押さえつけるのに全力を費やしており、体と頭が分離されたように上手く動かない。銀星号は暫しこちらを見守った後、悠然と飛び去っていく。それをただ見送る事しかできない。銀星号の事など構っている余裕などなかった。

 

「つくし!排除できないのか!?」

《やってる……けど……っ!》

 

 思うように運んでいない事は体で感じている。()が徐々に侵食した領域を広げているのだ。取り除く事は困難だろう。心臓に居る寄生虫を自力で切除するような物だからだ。

 

《……く、ぁあ……!》

「つくし!」

 

 つくしと俺は力という力を振り絞って、自らを侵食しようとするものに抗っている。このままでは――不味い。素直に受け入れてしまえば何れ銀星号の複製と成り果てるか、湊斗景明に斬られる事になるだろう。それは避けなければならない。

 

 どれほどの時間抗っていただろうか、波が引くように()の侵食が弱くなる。だが、解決した訳ではない。厳然として存在している。波が引いても次の波が来るように間隙の時間になったというだけの話だろう。

 

 だから、今の内に何かしらの対策を考えなくてはならない。朦朧とする頭を必死に働かせ、解決策を探る。だが、そのような悠長な時間は与えられなかった。不知火から報告が入ったのだ。不明騎接近と。

 

「不知火――ユウヤ・ブリッジス……」

「村正、湊斗景明か。……俺を殺しに来たのか?」

「…………何があったか聞かせて欲しい」

 

 長い沈黙の後、決断を先延ばしにするような事を言う湊斗。もしかしたら対処法を知っているかも知れないと一縷の望みを賭けて今まで有ったことを語って聞かせる。その間も互いに一刀一足の間合いより僅かに広い間合いを維持し続ける。刀は地面に向けてはいてもいつでも即応できるだけの用意だけはしておく。互いに気の抜けない瞬間の連続。

 

「対処法は――ない。少なくとも俺達は知らない」

 

 絶望的な言葉が告げられる。そう告げると共に村正が太刀を構える。それに呼応するようにこちらも長刀を肩に担ぐ。もう言葉は必要なかった。村正は『卵』に侵されたこちらを逃がすつもりはなく。こちらもそれを打開する術を持たない。ならば戦いは必然だった。

 

 剣術の優劣が如実に出る地上戦は不利と踏んで、即座に跳躍ユニットに火を入れる。飛び立つ。この瞬間が最も危ういと踏んでいたが幸いにも村正はこの機を見送り、こちらと同様に空へと飛翔する。とは言え不利は変わらない。何せ内側がぐちゃぐちゃだ。陰義を使う事もできないだろう。それでもやるしかない。

 

 探り合うように数度の激突を経て互いに軽傷のみの互角。高度優勢はこちらの物であったにも関わらず、だ。高度の不利を跳ね返す引き出しをどれだけ持っているのか。奥歯を噛み締める。体調は最悪。敵は強者。そもそも勝つことが最善かすらも怪しい。それでも生きることを諦める事はできなかった。

 

 高度優勢を保ったままヘッドオン。こちらは武者正調の上段。対して村正は下段に構える。このまま様子見の一撃をただ繰り出せば、いなされるか、躱されるか、何か引っ掛けられるか。とにかく埒が明かない。頼るのは技か術か。―――否、剛力だ。ただ、速度のみを追求した最速最強の一撃を相手より疾く叩き込む。それだけだ。

 

 その覚悟を感じ取ったのだろうか、村正もまた今までとは異なる動きを始める。最初に感じたのは威圧感だった。次に見て取ったのは急加速する村正の姿だった。これは――知っている。レースで見せた

あの(・・)加速だ。全力で長刀を振り下ろす。加速により高度優勢の有利は掻き消された。だが、あの加速では村正も運剣を凝らす事はできないだろう。―――ならば後は単純な威力の勝負!

 

 渾身の一撃

 

 太刀と長刀が噛み合い、一瞬の均衡の後、弾かれる。互いにバランスを崩し、双輪が崩れる。即座に態勢を整える。渾身の一撃は互いの得物を削ったのみ。決着は次へと持ち越される。だがこれで十分だと判断する。村正は超常的な加速を行った。おそらく陰義だ。それに対してこちらは全身全霊とは言え通常の攻撃。熱量の消費量から見れば十分勝ったと言えるだろう。

 

 次の一撃、僅かに平行方向に傾いたもののそれでも高度優勢はこちらの物だった。ならば渾身の一撃を重ねる!そう判断する。

 

 叩き込んだ渾身の一撃は村正の肩部装甲を捉えた。そう思った。だが長刀は硬質な壁を叩いたように弾かれる。返す刀は狙い澄ましたように右の跳躍ユニットへと吸い込まれる。

 

 そこからは防戦一方だった。片肺飛行で相手になる訳もなくどうにか墜落せずに済んでいるのみだった。そして遂に地上へと押し込められる。村正が止めを刺さんと旋回している。それを見送り、俺は長刀を地面に突き刺す。この期に及んでもう是非もなかった。

 

「――参った!!」

《御堂!?》

 

 装甲通信(メタルエコー)で降参の意志を伝える。それで止まるかどうかも分からなかったが、このまま続けても勝ち目がない。ならば一か八かの賭けに出た方がマシだ。幸いにして村正は止まってくれた。最後の一言ぐらいは許してくれるらしい。空中で油断なく構えているが、それで十分だ。

 

「俺の負けだ」

「ならば大人しく斬られるという事か?」

「その前に最後の賭けをしたい」

「賭け?」

「そうだ。"卵"を心臓ごと抉り取る」

《な!?正気?御堂》

 

 失敗しても俺が死ぬだけだ。損はしないだろ?そう続ける。それに対して村正は無言。どうやら最初の賭けには勝ったようだ。不知火には長刀しかないために村正に脇差しを渡してくれないかと要求する。まだ半信半疑なのか近づくことはせずに投げて寄越す。

 

「ありがとよ」

 

 受け取った脇差しを卵の気配がある部分に狙いを定める。息が荒い。流石に緊張しているようだ。心臓を失えば幾ら武者とは言えまず死ぬ。

 

「神よ……いや、クリスカ俺を守ってくれ……」

 

 普段は碌に祈りもしない神にまで頼りそうになる。そして大きく息を吸い込み。一息に『(心臓)』に向かって脇差しを突き立てる。激痛。痛みを超えた痛み。それでも意識は手放さない。『卵』を心臓ごと抉り取る。光り輝く『卵』がへばり付いた心臓が取り出される。だくだくと血が流れ出し意識が朦朧とし始める。

 

 即座に脇差しで卵を両断し、心臓から引き離す。その段階で意識が途切れる。これで、こんな所で終わり……なの、かよ。最後にそんな事を思う。

 

 気付いた時、俺はまだ生きていた。

 

「……どう、なったんだ?」

《村正が助けてくれたのよ》

 

 つくしが言う。村正は卵を引き剥がした心臓を体内に戻し、鋼糸を使って血管を縫合する事までやってくれたのだという。後は不知火の回復能力の範疇だったらしい。

 

「とにかく生き残った、そうだな」

《うん。でもあんな無茶もう嫌よ》

「俺も二度と御免だ。他に方法があればそうするさ」

 

 富士が夕焼けに照らされていた。その幻想的な風景に生き残った事を改めて実感するのだった。

 

 




盛りだくさんでした。
ちょっと描写が弱い気がするので加筆するかも知れません。
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