装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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クリスマスプレゼントじゃないですが、更新です。
しばらく(できれば完結まで)毎日投稿します。


イカロスの翼
つくし


「……っ」

 

 闇の底から意識が浮上する。寝ていたらしい。夢を見ていた。長い夢を。上半身を起こす。普段ならなんてことのない動作。だが全身、特に胸の辺りがが痛む。記憶が繋がってくる。そう。そうだ。村正との戦闘の後、どうにか堀越御所まで戻ってきた俺はそこで力尽きてしまったのだ。茶々丸の姿を見た記憶があるから茶々丸がここまで運ばせたのだろう。そこまで思いを巡らせた時、不知火はどうなったのかという疑問が浮かぶ。

 

《御堂、起きたのね》

 

 不知火は、俺の相棒は振り返るとすぐ後ろに居た。枕元でずっと見ていてくれたのだろう。

 

「ああ、そっちはどうだ不知火(・・・)

「!!私は平気。むしろ御堂の方が重症」

 

 夢を見た。夢の中でつくしの、不知火の思いを見た。劔冑としての責任感、人としての思い、劔冑となった事による意識の変化。劔冑となると決めた時の覚悟、そして……俺と共にこれからも在れるという思い。それらを見た時、一歩歩み寄るべきだと思ったのだ。

 

「そうか……ん、ちょっと胸の辺りが引きつって痛むが、大丈夫そうだな」

「御堂……」

「何だ、不知火」

 

 不知火がとことこと回り込んでくる。正面まで来ると、顔を横に向けたままぶっきらぼうに言う。

 

「……つくし」

「ん?」

「つくしで良い」

「嫌だったんじゃないのか?」

「……でも、良いの」

「そうか。……つくし、ああ、やっぱりこっちの方がしっくり来るな」

 

 つくしの名を呼ぶと恥ずかしそうに羽を広げて顔を隠す。その様子をしばらく眺めた後、気になっていた事を尋ねる。

 

「……あれからどうなったんだ?」

《どこまで覚えてる?》

「堀越御所に戻ってきた所までだ」

《分かった。……大変だった》

 

 つくしの話によると俺が堀越御所に戻ってきて倒れた後、覚えていないが血を吐いたらしい。そこから俺の無茶についてつくしが茶々丸に報告。即座に手術となったらしい。6時間に及ぶ大手術の結果、変にくっつきかけていた部位を繋ぎ直したり、村正の鋼糸を手術用の糸に取り替えたりととにかく大変だったらしい。そしてそれから一週間近く眠っていたらしい。

 

「どうりで全身が固まってる筈だぜ」

《あまり無茶はしないで。死にかけてたんだから》

 

 慎重に立ち上がり軽くストレッチするだけでボキボキと全身が鳴る。しばらくは体力を戻すことを優先しなくてはいけないようだ。とは言えつくしと結縁していなければそんな感想も言えなかっただろう。そんな事を考えながら次にやるべきことを考える。

 

「茶々丸がどこにいるか知ってるか?報告はやってくれたみたいだが、俺からもしておきたい」

《今月は月番で鎌倉》

「鎌倉の防衛当番か……となるとしばらくは報告できないな。……これからの事も相談したかったんだが」

《それなんだけど……御堂》

 

 つくしが改まったように言う。それに合わせて俺もストレッチを止めつくしに正対する。

 

「なんだ?」

《重要な報告が二つある》

「二つ?教えてくれ」

《一つ目は不知火・弐型の復旧の目処が立った》

「なに!?本当か!」

 

 前回作業した際には半ばから失われた右の跳躍ユニットに大きな問題を残していたのだが、その課題が解決したらしい。何か大きなブレイクスルーがあったのだろうか。とにかく吉報だ。まさかこの世界で限定的とは言え復旧する事ができるとは夢にも思わなかった。

 

《うん、本当、職人達が頑張ってくれた》

「――そうか。今度宴会でも開いてやらないとな。それでもう一つは何なんだ?」

《この前の戦闘で御堂の世界の座標が判った》

「本当か!?どうやって……銀星号が空間に穴開けてたからそれか!」

 

 不知火の陰義では世界を越える事はできない。それを目指して創られたが、何かが足りなかったのだ。そして今分かっている足りない物は大きく三つ、その内の一つ、俺の世界の座標。それが判明したというのだ。

 

《そう。銀星号が繋げた世界は御堂の世界だった。BETAが居たからほぼ間違いない筈》

「嫌な確認の方法だな。――残る問題は後二つ、か……」

 

 苦笑気味に同意する。残る問題は二つ、世界を渡る術式と渡るために必要となる膨大なエネルギーだ。この内エネルギーは解決できなくもない。不知火・弐型と発電所が一基あればどうにかなる……かも知れない。問題は術式だ。転移の陰義では何かが足りなかったのだ。

 

《いいえ、術式も目処が立った》

「何!?どうやってだ?」

《『卵』あれが鍵だった。私達が理解していなかった力、即ち重力、その力があれには含まれていた。その力が部分的に私の物になった事で理解できた。術式の目処が立った》

 

 帰れる。突然過ぎて喜ぶことすらまともにできてないが、とにかく帰れるらしい。これまでの事が思い出される。

 

「ありがとう」

 

 万感の思いを込めてつくしに告げる。

 

《まだ早い。術式構築にはまだ時間が掛かる》

 

 照れたように早口でつくしがそう答える。つくしに歩み寄り、抱きしめる。鋼鉄の肌が冷たい。傷の影響で熱を持っている体にはその冷たさが気持ち良い。つくしが抜け出そうと僅かに暴れるがすぐに治まり身を委ねてくれる。

 

 どれほどそうしていただろうか、突然腹が鳴る。

 

《御堂、お腹が空いてる》

「……ああ、そうらしい」

 

 空気を読まない自分の体が恨めしい。だが、腹が減っているのは確かだ。厨房に行き、ちょっと摘める物でも失敬してこよう。そう思い。襖を開ける。綺麗な満月が空高くに浮かんでいた。つくしが羽ばたき肩にとまる。

 

 厨房へ歩いて行く。時刻は深夜らしく動いている人間は居ない。床を軋ませながらゆっくりと歩いていく。それだけでもそれなりの負荷がある。一週間近く寝ていた事を改めて実感する。

 

「あっ……」

「茶々丸……?」

 

 そこに居たのはここに居ないはずの茶々丸だった。それも誰かを背負っている。それだけではない他にも大きな物を担いでいる。あれは――鎧櫃?とりあえず明らかに積載量オーバーだ。

 

「……起きたんだね。お兄さん」

「あ?ああ、お陰様でな。……それで何してんだ?そんな大荷物背負って」

「あー、うん。これはね……」

 

 その時、茶々丸の影になっていた背負っていた人物の顔が見える。その人物は気絶する前に会った、ある意味馴染み深く印象深い人物だった。気絶していてもなお暗い雰囲気を漂わせている。むしろ暗黒を発しているのではないかと疑いたくなるレベルだ。

 

「湊斗景明!?」

 

 茶々丸がやっちまったという顔をする。いつも余裕を持ってる茶々丸の珍しい様子に何か尋常ではない事が起きている事を察する。

 

「……色々言いたいことはあるが、とにかくどっちか寄越せ、重いだろ」

「あー、じゃあ、これお願いします」

 

 鎧櫃を受け取る。ずっしりと重い鎧櫃によろけそうになるが、踏みとどまり背負う。つくしは鎧櫃を受け取った時点で邪魔になると思ったのか縁側に降りてくれた。

 

「どこに運べばいい?」

「じゃあ、付いてきてお兄さん」

 

 使われていない客間の一つに湊斗景明と鎧櫃を運び込む。茶々丸が押し入れから布団を取り出し湊斗景明を寝かせる。枕の位置を整えて、しっかり掛け布団も掛けてやり、甲斐甲斐しく世話しているがとても楽しそうだ。こんな茶々丸は見たことない。

 

「で、どういう事だ?」

 

 なぜ鎌倉に居るはずなのに戻ってきているのか、なぜ湊斗景明を運んできたのか、そもそも知り合いだったのかなど聞きたい事は幾らでもあった。それらを含めて大雑把に聞く。きっと茶々丸が説明しやすくてできるところから説明してくれるという思いがあった。

 

「全部教えちゃっても良いんだけど、時間がないし今度って事で許してくれない? ざっくり言えば神を黙らせるためにおにーさん――湊斗景明――が重要人物って事なんだけど」

「……それ以上は答える気はないってか?」

 

 後ろ頭をガシガシと掻く。ここは今度言うという言葉を信じるべきだろうか。いや、無理強いしてもしょうがない。信じる。そう決める。

 

「……分かった。何やってるのか知らないが気をつけろよ」

「うん、ありがとう。お兄さん」

 

 陰謀の匂いがぷんぷんする。だが信じると決めたのだ。名残惜しそうに景明を見た後、話は終わりとばかりに茶々丸が立ち去ろうとする。その後姿に報告すべき事が有った事を思い出す。

 

「ああ、そうだ。重要な報告があった。――俺の元の世界に行けるかもしれない」

 

 茶々丸が振り返り、目を丸くして一瞬驚きを露わにする。どうやらこの事は不知火からは報告されていなかったらしい。こちらに正対し、その後何かを噛み締めるように目をつむり、そしてゆっくりと開く。

 

「――おめでとう。お兄さん達の努力の結果だよ」

「いや、茶々丸、お前が居なかったらありえなかった」

 

 謙遜ではない。金神の欠片(ラピスサギ―)を手に入れてくれたり、必要な設備や材料を調達してくれたりと何不自由無い開発環境を提供してくれたのだ。その協力がなければつくしは不知火に成り得なかった。

 

「俺達はこれから元の世界に渡るための術式の構築、計算に入る。茶々丸も後の事を考えてくれ……来るんだろ?」

「分かった。ケジメをつけてくるよ」

 

 茶々丸は一つ頷くと静かに宣言する。そして力強い足取りで立ち去る。

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