装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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湊斗景明

「御機嫌よう、皇子様(プリンス)

「おまさんは……堀越の。それに……ユウヤはんやないか!」

 

 建長寺へやってきた俺達はズカズカと舞殿宮の前へと上がり込んだ。途中制止する者も居たがそれは堀越公方の権力と不知火(しんうちつるぎ)を前に抵抗を続けられる者はいなかった。

 

「――六波羅が、何しに来やがった」

「湊斗景明について重要な事を伝えに来てやったってのにそんな態度でいいのかにゃ?」

 

 眼光鋭い気の強そうな少女が吼える。その印象的な目は覚えている。確か名を綾祢一条と言っただろうか。その背後には明らかに真打と思われる巨大な天牛虫(カミキリムシ)が居た。

 

 この場には七人の人間がいた。(すだれ)の奥にいる舞殿宮、それを守るように立つ壮年の男。未だに座ったままお茶を飲んでいる糸目の貴婦人とその従者らしき老婆。そして噛み付いてきた一条。最後に俺達だ。

 

「ま、ま、ここはとりあえず話を聞こうやないか。堀越の姫さんも嬢ちゃんも座って座って」

 

 舞殿宮が場を収める。とりあえず話は聞いてもらえるようだ。いきなり乗り込んだのは悪かったと思う。時間がなかったとは言え短絡的だった。最も茶々丸はその程度の事は想定の範囲内だっただろうが。

 

「さて、景明の事で重要な事を伝えに来たと聞こえたのですが、どういう意味ですか?」

 

 互いに距離を取って座った後、口火を切ったのは壮年の男だった。

 

「時間もないし、単刀直入に行くよ。――湊斗景明は銀星号を倒した」

「なんですと?」

「だから、湊斗景明が湊斗光を殺害した。英雄になったんだ」

「――そう、か……ついに景明はやったのか……。伝えてくれて感謝します。……ですが、なぜあなたが?」

「おや?そんな軽い反応で良いのかな?」

 

 茶々丸が意地悪そうに嗤う。

 

「……と言うと?」

「湊斗景明は英雄となった。大義を以て銀星号(まおう)を殺した。――ならば善悪相殺の対象は?」

「――――まさか」

「そう、その通り。三千世界を殺すべしってね」

「そんな、湊斗さんが!」 

 

 黙っていられなかったのだろう。一条が悲痛な声を上げる。それを興味なさげに見やる茶々丸。

 

「さて、事情は分かったかな?……それで、あてはともかくこっちのユウヤがそれは放っておけないって言うからさ、ちょっと手伝って欲しい訳」

「俺は景明をあのままにしておきたくない。――だから頼む、力を貸して欲しい」

「――事情は分かりました。ですが、何故六波羅の武力を用いないのですか?」

 

 まだ、警戒しているのだろう。いやそれも当然と言うべきか。

 

「それはあての都合。あては堀越で死んだことになった方が都合が良い。だから六波羅を頼る訳にはいかないって訳」

「…………」

「うーん、一応真実を話してるんだけどね。信じられない、か……じゃあ、ユウヤの希望もあるしもうちょっと情報をあげよう」

「情報……?」

「そう、おたくらにとって盤面をひっくり返すような重要情報。もう出血大サービスで教えちゃう。――教える情報は三つ、一つGHQではアメリカ大陸独立派が暗躍してて大和を占領して策源地にしようとしている。二つ、GHQは六波羅全軍が集結したならば一撃で消滅させられる兵器を所有している。三つ、六波羅は真打を超える数打を開発し配備した」

「……少なくともGHQに関しては事実ですわ」

 

 それまで日和見を決め込んでいた長身の貴婦人がそう言う。この長身の貴婦人はGHQの関係者なのだろうか。俺にとって聞いたこともない情報のオンパレードだった。

 

「――そんな情報渡して何が望みなんや」

「アフターサービス。これだけの情報でもあんた(舞殿宮)だったら有効活用して大和を平和な方向に持ってけるだろ?あてとおじじが欠けて揺らいでいる六波羅だったら雷蝶辺りを操ればどうにでもなる。今は時王丸――足利邦氏(次代大将領)と新田雄飛――今は大鳥雄飛――もいるやりやすいだろうさ」

 

 平和実現装置(ザ・ガジェット)をどうにかしないとどうしようもないけどね、そう茶々丸は続ける。沈黙が間を満たす。意外な所で意外な人間の名前を聞いた。新田雄飛とはあの新田雄飛だろうか。確かに好青年だったが、逆に言えばそれだけだと思っていたのだが……。

 

「…………おまさんは何も得しないやないか。茶々丸。おまさんの本当の望みを聞かせてもらおか」

「――世界終焉(ワールドエンド)……なんてのも悪くないけど、どちらにせよ(・・・・・・)、あての望みは叶う。御姫の結末は見られたしこの世界に未練はない。だけど立つ鳥跡を濁さずって言うだろ。だからアフターサービス」

「…………」

 

 再び沈黙が場を満たす。今度の沈黙は情報を咀嚼するために必要な時間だったのだろう。

 

「…………どちらにせよ、景明を放ってはおけません」

「せやな、分かった。協力しよう。一条くんと香奈枝さんはどやろ?」

「あたしは……あたしも湊斗さんを放っておけません」

「私は、そうですね。ちょっとやることがあるので辞退しますわ」

 

 舞殿宮が二人に尋ねる。GHQに詳しかった貴婦人の名を香奈枝と言うらしい。二人に尋ねるということはこの二人が舞殿宮の戦力という事なのだろう。片方は協力してくれるらしいが、もう一方はこの情勢で別にやることがあるのだと言う。

 

――――――

 

 『英雄』村正とどう戦うかを中心に詳しい打ち合わせを行った俺と一条は俺の陰義で淡島へと跳んだ。幸いな事に淡島にはまだ被害が及んでいなかったため、エンジニア達を船で逃し、最後の熱量補給(食事)を済ませる。

 

「なぁ、ユウヤさん。聞きたいんだけど……」

 

 一緒に食事を取っていた綾祢一条が尋ねる。

 

「ん、なんだ?気になることは全部消化しといた方が良いから何でも聞いてくれ」

「これって……江ノ島に居た怪物の腕だよな?」

 

 そう言いながら、一条が指し示したのは不知火・弐型に追加された歪で巨大な合当理だった。

 

「腕?このでかい合当理が?」

「はい、江ノ島で戦った巨大劔冑の物だと思います」

 

 合当理のサイズから考えると戦術機並の大きさがあるという事になる。そんな物と戦ったという。

 

「それは、六波羅の物だったのか?」

「はい、六波羅の秘密兵器って言う話でした」

「そうか……茶々丸がどこからか持ってきたんだが、六波羅はそんな研究もやってたんだな……」

 

 合当理の所以を意外なところから聞き、驚いていた俺だったが、戦い前の最後の食事という呑気な気分でいられたのもそこまでだった。

 

「ユウヤさん。こいつ(・・・)他人(・・)を燃料にして動くんですか?」

 

 一条の雰囲気が変わっていることに気付いたのだ。鋭い抜身の刀の如き気配。返答によっては斬ると言わんばかりの激しさを押し隠して問は発せられた。

 

「他人を燃料に?熱量の供給を分散化するって事か?考えたこともなかったな……こいつは正真正銘電力と俺の熱量だけで動くよ。……まぁ、その分稼働時間は短いが」

 

 慎重に答える。とは言え一体何が地雷なのか見えていない。慎重に、だが素直に答える。嘘は察知されるそんな直感があった。

 

「良かった。他人の命を食い物にするような人ならあたしは斬らないといけなかった。ユウヤさんがそんな人じゃなくて良かった」

「……その怪物って言うのは他人の命を燃料にするような騎体だったのか?」

 

 殺気が解かれる。その事に安堵する。そしてまた一つ六波羅の悪行を知る。無辜の命を浪費して動く巨大な劔冑。確かにそんな物を知っていたら不知火の事も疑わしく思えるだろう。

 

「――じゃあ、行ってきます。あたしは村正をこの島まで引っ張ってくれば良いんですよね?」

「そうだ。不知火・弐型は稼働時間に問題があるからできるだけ誘き寄せて欲しい」

「分かってます。……別にあたしが倒してしまっても問題ないでしょう?」

「……無理は禁物だ。今の村正はこの上なく強いぞ」

「はい!じゃあ行ってきます!」

「ああ、グッドラック」

 

 最後にちょっと不安になる事を言っていたが、一条を行かせる以外の選択肢はない。後は一条が落とされない事を祈るばかりだ。正直、この作戦には不満もある。だが、それは呑み込んで今は傷の修復に専念すべきだ。そう迷いを振り払い不知火・弐型へと乗り込み傷の修復に専念する。

 

――――――

 

 どれほど待っただろうか?もしかしたら一条が先走って落とされたのではないかとも思ったが、遂にレーダーに二騎の騎影を捉える。即座に不知火・弐型を待機状態から戦闘モードへと切り替えていく。供給を受けていた電源ケーブルをパージする。

 

 不知火を立ち上がらせる。懐かしい感触。今となっては違和感のある皮を一枚挟んだようなリニアじゃない(・・・・)感覚。そうだこれが戦術機だ。残っている唯一の突撃砲を装備する。状態は万全ではないが整備は万全だった。

 

 軽く跳躍ユニットと合当理を噴かせる。大丈夫動く。だが、予想よりも熱量の消費が大きいし、動きが遅い。今は戦えることで満足しないといけないようだ。

 

《ユウヤさん、後は任せました!!》

「ああ、後は任せろ!」

 

 装甲通信(メタルエコー)が一条――正宗から飛んでくる。それに応答するが早いか正宗の片方の合当理が爆発し、墜落する。

 

「一条!!」

《――大丈夫です!!ちょっと飛べそうにありませんけど》

 

 無事そうな声を聞き、少し安堵する。村正は真っ直ぐにこちらに向かってきていた。それに対して突撃砲で狙撃する。あっさりと回避される。距離があるとは言え超音速の弾を軽々と避けるか。

 

「じゃあ、これでどうだ!」

 

 突撃砲を連射に切り替え、回避エリアを制限するように弾を打ち込み包囲を狭めていく。途中でこちらの意図に気付いたのだろう包囲陣を抜けようと試みる村正。だが抜けさせてやらない。さらに濃密な包囲網へと追い込む。そして必殺を期した一射が放たれる。

 

「――本当か……」

 

 その瞬間、俺は見た。飛んできた必殺の一射を切り払う村正の姿を。そして包囲網を抜け悠々と飛んでくる村正。超音速の弾を事も無げに切り払ったのだ。無想の境地、茶々丸が言っていた事が思い出される。今、村正は無想の境地にいるのだ。

 

 再び包囲し追い立てるように弾を放っていく。近づくことができず段々と追い込まれて行く村正、ここまでは先程までと同様だ。そして追い込みきったと思った時に弾をばら撒く。一発でダメなら複数発だ。これで少しでもダメージを負ってくれれば良いのだが、そう祈る。――が祈りは裏切られる。直撃した、そう思ったのだが、全くの無傷。あれが磁力による障壁だろう。

 

 そして、村正の動きが変わる。包囲陣を抜け出ようとする動きのパターンがパターンではなくなっていく、劔冑にできるような機動ではなかった。重力がなくなったかのような自由な飛行。速度も今までの比ではない。それでも追い込もうと砲弾を放ち続けるが、近づけないという程度しかできなかった。

 

「埒が明かねえ……」

 

 残り弾数を確認する。残り少ない。まず、追い込めない。追い込めても文字通り切り抜けられる。それで足りなければ磁力の壁がある。どうしようもなかった。事ここに至り、悟る突撃砲では無理だ、と。

 

 突撃砲を左手に持ち替え、右手に長刀を装備する。跳躍ユニットと合当理を起動する。舞台は空へと移った。高度優勢は狙わない。と言うか万全の状態でない不知火・弐型では狙えない。そもそも狙う意味もない。

 

 村正が突撃してくる。その注意は未だ突撃砲にあるようだ。幻惑するように軌跡を細かに変えながら近づいてくる。間合いに入ったので長刀を振る。回避しようと動くが即座に対応する。どれだけ動きに自由度があろうと振り下ろした長刀から逃れるには左右のどちらかに行くしかないのだ。そして行くと分かっていれば十分に対応できる。

 

 村正も悟ったのだろう避けきれない、と。脇差しで受ける。が、鉄量が違いすぎる。一瞬で弾かれて地面に叩きつけられる。土煙が舞う。――やったか?そんな思いで、土煙が収まるのを待つ。それほど待つこともなかった。土煙を切り裂いて一つの影が飛び出す。村正だ。損傷は奇妙な程少ない。咄嗟に磁力の障壁を張ったのだろうか。

 

 再び村正が突撃してくる。今度は先程のようなステップは踏まず、真っ直ぐに愚直に突き進んでくる。長刀を構え先程と同様に振り下ろす。村正が雷光を纏う。

 

――電磁抜刀(レールガン)!!

 

 長刀を止めるには遅すぎた。ならば振り切る!村正が電磁抜刀を放つ前に長刀で切り捨てる。

 

 だが、全ては遅すぎた。電磁抜刀は放たれ、長刀は半ばから消失する。村正が来る。それに対して36mmを放つ。磁力の壁が全てを防ぐ。懐に入られる。村正が再び雷光を纏う。――不味い!咄嗟に跳躍ユニットを逆噴射させる。

 

 斬

 

 僅かに間合いが離れた事で村正は跳躍ユニットを割断する。そして爆発。跳躍ユニットが爆散する。それに巻き込まれる村正と不知火。咄嗟に跳躍ユニットをパージしたが間に合わなかった。地面にどうにか着陸する。残った合当理ではまともに飛ぶことも出来ない。今の爆発で突撃砲も左手ごと失われた。ここまでか、そんな思いがある。だが、まだ諦める訳にはいかない。

 

《まだやる?御堂》

「もちろんだ」

 

 コックピットを開放。不知火を固定していたハーネスとケーブルを引きちぎって空へと駆ける。ここからは不知火(つくし)と俺が相手だ。

 

《お疲れ様、不知火・弐型》

 

 つくしが呟く。一条の光となって空を駆ける。

 

 空。

 

 打ち鳴らす剣戟は雷鳴にも似ていた。

 稲妻のような軌跡が、ふたつ。

 深紅と、純白

 

 ――迅る(はし)

 空を引き裂く衝撃。

 金切り声の悲鳴を上げる鋼。

 肉がえぐれる。骨が軋む。

 

 交わした攻撃は十を下らぬ。

 その全てが必殺の威力。

 交差する死と死、瞬きにも満たぬその間隙を縫っては斬り結ぶ、灼ける大気を呼吸する時間。必死だった。今までの全ての経験を吐き出してどうにか付いていく。

 

 戦の作法を心得た武者同士の一騎打は、その噴煙が空に(ふたわ)を描き出す。武者の戦闘が双輪懸と呼ばれる所以である。

 

 劔冑の性能が拮抗している程―――仕手の技量が肉迫している程、双輪は完全で美しい。しかしどれほど美しく描こうと、その芸術は一瞬のものであり、当人達ですら見届ける事は叶わなかった。

 

「村正ァ!」

 

 "赤い武者"村正は正真の化け物に相違なかった。それこそが武の正体である。人を殺せば、人ではなくなる。殺戮の輪廻を生むものは、みな化け物なのだ。

 

 それに相対するは化け物を殺戮するために生まれた異形の劔冑。英雄を、化け物を討つための力その物。その劔冑は今、条理を超えて己が役目を果たさんとしていた。

 

 戦いの(ふたわ)は拡大を続ける。その条理を超えて戦いの双輪はここに収束を開始する。∞を描いていた双輪を一方は辰気の力でねじ伏せて、もう一方は異世界物理の極みで乗り越えて、∞は今、一へと収束をし始める。

 

 熱量はとうに底を着いていた。それでも諦める事など出来よう筈がない。命を燃やしてただ英雄を討たんと戦う。

 

 不意に悟る。次の一撃が終わりになる、と。それは対手も同じだったのだろう。雷光を纏う。今までよりも激しく美しく。その姿は凄烈な美その物だった。

 

《祈りの翼を以て

 無窮の空を超え

 事象の果を開け》

 

 既に全身を飛ばすような熱量は存在しない。電磁抜刀(レールガン)は不可避だった。それでも、だから(・・・)

 

「翔けろ!刃金の翼!」

 

 全身を飛ばすような熱量は存在しなかった。だから(・・・)長刀を振り下ろしている右腕は持っていかなかった。最後の一滴まで絞りきり村正の背後に出る。左手に握った短刀を全推力を掛けて突き出す。電磁抜刀が放たれる。残された右腕が長刀ごと消滅する。

 

 ――届け

 

 背面甲鉄を抉り短刀が心臓へと至る。

 

 それが終わりだった。村正が堕ちる。俺も堕ちる。

 

「――ありがとう」

 

 そんな声を聞いた気がした。

 

「馬鹿野郎」

 

 どうにか体の底から力を振り絞り呟く。

 

 

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