本当は完結後に投稿するつもりだったのですが、順序を変更いたしました。
時系列が飛びます。鮮紅騎の直後になります。
喪失
隣に居る小夏が泣いている。リツの両親も嗚咽を漏らしている。皆が泣いている。俺も上がってくる涙を必死に耐えていた。リツの葬式だった。逮捕された鈴川令法は犯行を自白、それに基づいて捜査が行われ、リツは見つかった。無惨な姿で。
小夏が泣いている。何故だ?そんな疑問が頭を巡る。その事を思うと怒りが湧いてくる。そして思う。理不尽に奪われる事は、悪なんだ。そんな事は、罷り通ってはいけない。否定しなくちゃいけない。だからこそ、怒って戦うべきなんだ。そう思う。
……だが、既に鈴川令法は逮捕された。正義は執行された。リツは戻ってこない。だが、だからこそこれ以上奪われないために戦わなくてはならない。そう村正のように湊斗景明のように。
六波羅は悪だ。そう思ってきた。だがそれは本当に真実なのだろうか、一面の真実ではあるのかも知れない。だが、全てではないのだ。ユウヤさんが居た。助けてくれた人が居たのだ。ならば俺にできることは知ることだろう。戦うべき悪を、助けるべき善を見極める。それが必要なんだと思う。
リツの葬式が終わった。小夏はまだ泣いている。俺には小夏の肩を抱いてやることぐらいしかできない。無力感に苛まれる。これ以上、小夏を泣かせるような事は起こさせないと誓いを立てる。
「……そう言えば雄飛、新聞は読んだかい?」
忠保が幾分沈んだ声だが、雰囲気を変えようと話題を振ってくる。
「ああ、ユウヤさんだろ?一面トップだったな」
昨日の新聞事だった。見出しは『六波羅武者お手柄!不逞武者を捕縛!』犠牲者の事などほとんど書いていなかった。湊斗景明と村正の事もどこにも書いていなかった。プロパガンダじみた記事だった。それを思い出す。
「湊斗さんの事、書いてなかったな」
「そうだね。きっと政治的な判断だろうね」
「六波羅以外が活躍するのはマズイってか?」
苦々しく吐き捨てる。初めて読んだ時の怒りが思い出される。
「うん、それもあるんだろうね。でも公式には劔冑の所持が認められていないんだ。湊斗さんも違法状態だし、新聞に載せる訳にはいかないよね」
「そっか、それもそうだな」
それからちょこちょこと会話が進んでいく。どうもいつものような調子が出ない。僅かな沈黙が気持ち悪い。
「……じゃあ、僕はこっちだから……小夏を頼むよ、雄飛」
「ああ、じゃあな忠保」
僅かにしゃくりあげている小夏を気遣いながら家への道をゆっくりと歩く。
――――――
ようやく泣き止んだ小夏と一緒に夕食を食べる。会話はない。黙々と用意してもらった夕食を食べる。申し訳ないが味もよく分からない。玄関のチャイムが鳴る。
「俺が……」
「いや、疲れているだろう?私が行ってくる」
そう言って、おじさんが玄関へと向かう。こんな時間に誰だろうか?そんな疑問が頭に浮かべていた時の事だった。
「雄飛君!逃げろ!!」
「黙らんか!!」
おじさんが叫ぶ。そして聞き覚えのない男の声、そして殴打するような鈍い音。俺は咄嗟に玄関へと走り出す。
「おじさん!!」
「雄飛君、なぜ来た!?」
「――新田、雄飛様ですね。ご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます。私は大鳥獅子吼、御身の臣です」
そこに居たのは六波羅の軍服を来た数人の男達だった。その内一人はおじさんを動けないように押さえつけていた。先頭に立っていた偉丈夫――獅子吼と名乗った――が俺の姿を認識すると同時に膝をつき頭を垂れる。まるで上位者に出会ったかのように。
「――六波羅が何しに来やがった」
「御身があるべき場所に戻って頂くために」
「この佞臣が!雄飛君、私の事はいい!早く逃げるんだ!」
「……そいつを黙らせろ」
「はっ!」
「おじさん!っく」
おじさんの口に六波羅の兵士が猿轡を噛ませる。もがもがと何かを言っているおじさんを獅子吼が冷たい目で見ている。……今しかない。全ての目がおじさんに集中している。理不尽に戦うことは既に決めた。ならば後はどう行動するか、だ。冷静に、だが大胆に。
そっと動き、玄関に飾ってあった花瓶を手に取る。狙うのはおじさんを抑えている六波羅兵士!狙いを定めて水が掛かるように投げつける。
「喰らえ!」
「なっ!?」
そして、獅子吼に全力でタックルし、そのままの勢いでおじさんを抑えていた兵士にドロップキックを叩き込む。そして、即座に体勢を立て直して状況を確認する。……そこまでだった。ふと気付いた時には宙を舞っていた。そのまま床に叩きつけられ関節を極められる。
「ふんっ、匹夫の勇だな。……だが、理性を捨てている訳ではない、か。悪くない、クックック、悪くないぞ」
「こらっ!離しやがれ!!」
必死に藻掻くも全く抜けられない。おじさんも別の兵士が即座に取り押さえている。ドロップキックを御見舞した兵士も頭を擦りながら立ち上がっている。……詰みだ。それでも藻掻く。
「まぁ、話を聞け」
そう言うと獅子吼は俺を取り押さえながらも居住まいを正し告げる。
「単刀直入に申し上げます。御身の真の名は大鳥雄飛。大鳥家の正統な後継者であらせられます」
「な、に?」
頭が真っ白になる。大鳥家、それは俺も知っている程の名家だ。そして国内最大の軍事派閥でもある。四公方の一人大鳥獅子吼が当主を務めていることでも有名だ。待て、待て、待て、コイツは何て名乗った?大鳥獅子吼?四公方の一人?そしてその大鳥家の正当な後継者?誰が?俺が?
「是非御身には大鳥を継いで頂き、そのお力を振るって頂きたいのです。もちろん私めも粉骨砕身、犬馬の労を厭わずお仕えさせて頂く所存です」
「…………俺が、六波羅に……?」
大鳥家は六波羅に組みしている。当然、俺も六波羅幕府の統治に協力することになるのだろう。その事に一瞬嫌悪感が込み上げてくる。……だがすぐにユウヤの事を思い出す。……六波羅の全てが悪という訳ではないのだ。流石にそれぐらいは分かっている。……中から変えていく、そんな事をふと思う。
「……雄飛を連れて行っちゃうの?」
ガタガタと震えながらダイニングに繋がるドアに縋り付くように立っていた小夏が呟く。すぐにおばさんが小夏の口を塞ぐ。顔が死人のように青い。
「……ふむ、ついでだ。捕らえておけ」
小夏の事は無視して、無造作に部下達に命令する。警戒していた六波羅の兵士が小夏とおばさんを捕縛すべく動き出す。悲鳴を上げる二人、藻掻くおじさん。
「待て!!」
「何ですかな?雄飛様」
必死に考える。最善は何だ?最悪は何だ?このままでは来栖野家がどうなるのか分からない。最悪は俺を匿っていた事で殺されることだろう。……殺される?小夏が?おじさんが、おばさんが?そんな事は許せない。だがどうこの状況を乗り越える。
「……何もないようでしたら――」
「――来栖野家に手を出すことは許さない」
「……残念ですが、御身の意思は関係ないのです」
「だから取引だ。来栖野家に手を出すなら俺は――自殺する。その代わり手を出さないならお前に従ってやる、どうだ?」
覚悟を決める。俺はここで死ぬ。少なくとも一市民新田雄飛はここで終わりだ。ならばせめて小夏を守りたい。その覚悟が伝わったのだろうか、拘束が僅かに緩む。だが、抵抗はしない。獅子吼は面白そうに笑みを浮かべていた。
「…………良いでしょう。おい、そいつを離してやれ」
「はっ!」
おじさんが解放される。そして丁寧に立たされる。俺を守るように、逃げられないように兵士が周囲を固める。
「よく育てた。雄飛様に感謝しろ。……では雄飛様こちらに」
「――雄飛!!」
「大丈夫だ。小夏。……お別れだ。元気でな」
ボロボロと泣く小夏の肩をおじさんが抱く、おじさんは最後の最後まで獅子吼を睨みつけ、不甲斐なさを恥じるような顔をしていた。
新田雄飛による王道な物語となります。