装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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銀星号

「いや~、焦ったよ、お兄さん。御堂から連絡があった時はまさかと思ったね」

 

 茶々丸が気まずそうに言う。あの事件から丸一日、俺達は堀越御所に戻ってきていた。琴乃は地元の病院に預けてきた。薄情なようだが、たぶんもう会うことはないだろう。

 

「別に茶々丸のせいじゃないだろ」

「でも、あの村に派遣する事決めたのもあてだし……」

「それよりもあの銀の劔冑と深紅の劔冑について教えてくれ、この国にはあんなのがたくさんいるのか?」

 

 今でも背筋が凍るような恐怖がまざまざと思い出される。あんなのがたくさん居るとしたらこの世界に対する認識を変えないといけない。

 

「あー、銀星号のこと……」

「銀星号って言うのか、あれは」

「うん、今大和を騒がせている無差別大量殺人の容疑者……まぁ、今回の件で犯人確定ってとこかな?災厄みたいな存在で軍の施設も容赦なく全滅させてるから多分単独なら最強って言っても過言じゃないと思うよ」

「やっぱ、規格外なんだな……容疑者の当たりはついてるのか?」

「いやー、それが全く。六波羅だけじゃなくてGHQも捜査してるっぽいけど全く手がかりなしだね」

「とんでもねぇな」

 

 銀星号と会話らしい会話したのは自分だけであること。精神汚染の能力を持っているらしいこと。因縁ありそうな深紅の武者もいつの間にか消えていたことなどが分かる。とにかく運悪く天災に巻き込まれたとでも思うしかないようだ。

 

「それで深紅の劔冑については何か知ってるか?敵を切ったと思えば今度は好きな人のために死ねるだのなんだの言って静蓮は斬られちまった。訳が分かんねぇ」

「……それは多分、村正だね」

「村正?それがヤツの劔冑の名前か?」

「そう。南北朝の時代に膨大な死者を出した結果妖甲として封印された禁忌の劔冑、それが村正。そして村正には一つの呪いが掛かってたんだ。」

「呪い?」

「善悪相殺の戒律、それが呪いの正体さ、敵を一人殺せば味方も一人殺すべしってね」

「何だそりゃ、訳わかんねぇ。何だってそんな戒律を持ってるのさ」

 

 だが、これで納得いった。敵を殺したから愛する者を殺さなくてはいけなくなった。殺される対象に選ばれるということは好意を持っているということの証明になる。だから静蓮は自らの死を受け入れたという訳か……やっぱり理解できない。ガシガシと頭を掻く。

 

「……さてね、こればっかしは村正本人にでも聞いてみないと分からないね。ただ、当時は敵も味方も定かじゃない戦乱の時代だったのは確かだよ」

 

 遥か時を超え古の時代に思いを馳せる。そこで何が起こり、何を思ってそんな戒律を作るに至ったのか。そんな益体もない空想にしばし浸る。

 

「……そう言えばウォルフ教授は巻き込まれたのか?」

 

 茶々丸の引いては自分の目的にも関わってくる重要な人物の安否を茶々丸に問う。あの変態が生きていることを願わなくてはいけないとは世も末だと思うが……。

 

「うんにゃ、あの教授、悪運が強いことに事件前に逃げ出してるよ。今回の事件にGHQは巻き込まれてないみたいだね」

「ほう、そりゃ運がいい。……まぁ、生きてるんならいいさ」

 

 今回の目的はウォルフ教授との繋ぎを作る事だ。そのウォルフ教授が生きているなら今回の目的は達成できたといえるだろう。

 

「雷蝶のとこの兵士が踏み込む直前に逃げ出してるからどっかから情報が漏れてたんだろうね」

「雷蝶って小弓公方だったか?そうだとすると俺が話を聞いてすぐに逃げたんだな」

 

 小弓公方麾下の兵士に拘束されそうになったことを思い出しながら言う。

 

「そうそう、逆に雷蝶は運が無いね。それなりの兵力をただ失った訳だから」

 

 茶々丸がカラカラと笑う。六波羅を取り仕切っている四公方の間にはどうやら複雑な関係があるらしい。単純に味方がやられたというような感じではない。俺はそんな政治の世界に首を突っ込みたくないので適当に流す。

 

「それで、これからどうするんだ?すぐに会いに行くのか?」

「う~ん、ちょっと悩みどころだね。今は時期が悪いんだよね」

 

 時期が悪いというのならそうなのだろう。ウォルフ教授については後は茶々丸と会ってどうするかで、それまではできることなどないだろう。

 

「そうか。……なぁ、あれから考えたんだが、神の声が感じられるのって要するにセンサーが音を拾ってきてるんだよな?」

「ん?そうだと思うよ」

 

 突然の話題転換に茶々丸は僅かに戸惑いを見せる。

 

「なら、そのセンサーを誤魔化すか無力化する方法があれば良いんだよな?」

「んー、その通りだと思うけど、アイソレーションボックスじゃダメだったのですよ、お兄さん」

「アイソレーションボックス?」

「劔冑を外部と断絶させて封印するための箱、仕手と劔冑を捕虜にした時に使うんだ」

 

 当然だが、茶々丸も無策でいるという訳ではないのだろう。いろいろ対策を考えてその結果が神を黙らせるまという最終手段にまでに至ったという事なのだろう。

 

「そんな物もあるのか、じゃあ電波暗室もダメか?……水はどうだ?大概の物は純水で絶縁できると思うんだが」

「水、水ね。それは考えたことなかったな。プールぐらいじゃ効果は感じなかったけど、そんな事思いつきもしなかったからね。うん、一度確認してみる価値はあると思うよ」

 

 プールで泳ぐ程度では効果が感じられない、と。そうなるとどうするべきか、いやその前に確認すべきことがある。

 

「その前にまず何を感知しているのかの確認からしたいところだな。具体的な周波数とか分かれば対策のしようもあるだろうし」

「そうだね、お兄さん。まずはこの世界でできることから始めれば良いんだよね」

「ああ、いろんな方法があると思うぜ。パッと思いつくだけでも逆位相の波を流し込んで打ち消すとか、単純に距離を取ってみるとか、これは茶々丸に影響出そうだから止めておきたいけどセンサーを壊すとかいろいろあるぜ」

 

 とにかく思いつく限りのアイデアを並び立ててみる。すると茶々丸が俺の手を握ってキラキラした眼で言う。

 

「お兄さん、あては感動してるよ!そうだよ、神を黙らせなくてもいろんな方法があるんだよ!」

「ああ、その意気だ。頑張っていこうぜ」

「……つきましてはお兄さん、プール行かない?」

 

 そういう事になったのでプールに来ることになった。

 

「ここは?」

「竜騎兵専用の練兵場だよ」

「それでか、信じられないことやってるな」

 

 目前で行われている訓練は自由訓練なのだろう。各々が自由にプールを泳いでいる。

 

 問題は、泳いでいる人間の中には鎧を着込んでいる人間がいるということだろう。それも鎧を着込んでいながら自由自在にプールを動き回る。中には鎧の上に何か背中に背負って刀を振っている人間もいるのだ。

 

「泳法、体術、甲冑刀法。これらを統合した劔冑操法を修めるための訓練場だよ、ここは。体術訓練において基本的な運体を学び、泳法において平面的ではなく空間的な運動を学び、甲冑刀法において装甲状態での戦い方を学ぶ。その統合として、水中での着甲戦闘訓練を行っているところだよ、お兄さん」

「なるほど……戦術機とは違うんだな」

「やってみる?」

「良いのか?邪魔になりそうだが……」

「良いよ良いよ。さっ、これを背負って」

 

 そう言いながら部屋の隅に置いてあった子供ほどの大きさの推進器らしき物を渡してくる。

 

「これは?」

「水中用電動合当理、数打劔冑の調練のために開発された装備さ。これを付ける事でより本物の劔冑の動きに近い訓練が可能になったのさ。これがあるから武家じゃない新兵も短時間で安全に劔冑に習熟できるんだよ」

「なるほど」

 

 合当理を背負ってベルトを締める。身体に合当理が固定されたのが分かる。これを使って縦に8の字を描くように泳ぐのが正しいらしい。そのためか深さがかなり深い。10mはありそうだ。

 

 水に入ると、合当理の重さもあり、浮いているだけで一苦労だ。そしてまずは直進からスタートし、身体の動きを慣らしていく。すぐに戦術機とは違うという事を理解する。戦術機であれば跳躍ユニットを動かすことで方向転換を行っていた。それとは違うのだ。もっと全身で、背中に固定されているからこそ全身で方向を変えるのだ。戦術機でも迅速に方向を変えようと、あるいは負荷を減らして方向を変えるのならば考慮していた事をさらに突き詰める必要があるのだ。逆に細かな空力などは考慮する必要がない。というより考慮できない。だからこその劔冑の形状、だからこその戦術機の形状なのだ。その事をまずは理解する。

 

 背中の推進器を全身をひねるようにして向きを変える。そう、こうだ。体の軸の移動を意識しろ。常に推進器を意識しろ。全身を使って向きを調整し8の字を描くように水中を進む。

 

「流石だね」

 

 どうにか他の兵士がやっているような8の字の動きができるようになった辺りで一度やめると茶々丸がそう声を掛けてくる。

 

「精一杯さ」

 

 掛け値ない本音だ。地上に上がって初めて分かる。全身が疲労している。使ったことのない筋肉が悲鳴をあげている。合当理という推進器があるからこそ使う筋肉というのがあるらしい。

 

「これはなかなかハードだな。全身の筋肉が悲鳴あげてるぜ」

「いや、初めてで双輪懸(ふたわがかり)の訓練までできるのがすごいんだよ」

「フタワガカリって言うのか、あの8の字を描くように泳ぐのを」

「そうだよ、ってお兄さん知らなかったの?……武者の戦いの基本でね、装甲を抜くために正面衝突(ブルファイト)するんだけど、その時に武者同士の空中戦は∞の軌道を描くから双輪懸って呼ばれてるんだよ」

「ああ、聞いたことある気がするな……それにしても何度聞いても頭おかしいな、ヘッドオンから全速力でぶつかり合わないと装甲が抜けないとか硬すぎだろ」

 

 劔冑という存在の不条理に唖然とする。ベルトを外し、合当理を元あった場所に戻す。茶々丸を見ると、彼女も水に入ったらしく活動的な印象を与える美しい金髪が濡れているのが見て取れる、

 

「それで、どうだった」

「んー、ダメみたい。少し小さくなったような気もするけど誤差の範囲だね」

「そうか、じゃあまた別の方法考えないとな」

「―――うん」

 

 茶々丸が嬉しそうに頷く。それを見て俺も頑張らなくてはという思いを新たにする。

 

 

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