装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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転章
戦術機と劔冑


 俺達はとりあえず整備環境が整ったと聞いて不知火・弐型の様子を見に来ていた。急遽作られたのだろう簡単な骨組みにトタン屋根と周囲を布で覆った巨大でバラックな建物がそこにはあった。それも仕方ないだろう。戦術機のような巨大な物を整備するためのスペースなどこの国のどこにも存在しないのだから。

 

 中に入るとすぐに目に入るのは横たえられた不知火・弐型だ。横たえるために専用の架台をでっち上げたのだろう。鉄骨が無骨に組み合わされたベッドに横たわる姿は何か不思議な感じがする。その横には機体を持ち上げるためだろう大型のクレーンが三基並んでいる。

 

「いらっしゃい」

 

 つくしが俺達を出迎える。これから一緒に整備を通して不知火について理解を深めてもらうのだ。技術流出の危惧があるため本当に最低限の人間で不知火・弐型を整備しなければならない。特に劔冑の技術者でもあるつくしはその中心を担うことになるのだ。

 

「ああ、これからよろしく頼む」

「ん、戦術機、直す、楽しみ」

 

 まぁ、直すと言っても限界があるのは分かっている。正直に言えばこれは単なる自己満足以外の何物でもないだろう。特に跳躍ユニットのように半ばから失われている部分はどうしようもないだろう。それ以前にベイルアウトしたコアユニットを元の位置に戻せるかどうかさえ怪しいと言える。

 

「じゃあ、集まってくれ、まずは戦術機についてレクチャーから始める」

 

 不知火・弐型内部に搭載されている簡易整備マニュアルを教材として必要最低限の知識を整備班の皆に伝えていく。これでも本職の整備兵とまではいかないまでも整備兵の新兵程度には技術と知識はあると自負している。テストパイロットをやるにはその程度の知識と技術は必須と言っていいからだ。

 

 実機を教材に各部の分解方法、整備方法、破損している部品の交換方法などを教えていく、流石に集められた技術者だけあって、貪欲に分からない部分を質門をする。時には自分では答えられないような高度な事も求められ言葉に詰まることも度々だった。だが、全員の意志は一つだったように思う。このすごいのを自分の手で直したい、そんな意志が感じられた。

 

 パーツ一つとっても喧々諤々の言い争いが起きる。どんな仕組みなのか、こうではないか、いやそうじゃない。修理して使おう。いや新造してみよう。技術的に無理があるんじゃないかと誰かが漏らせば、そんなことはないはずだと誰かが吼える。

 

 そして破損が深刻な部品を丁寧に丁寧に分解し、その仕組と役割を理解する。そして直せるところは直し、無理なところは代用品を考える。幸いと言っていいのか破損はねじ切れるような物が多く、焼失や消失している部分は驚くほど少ない。この壊れ方なら直せるのではないか、そんな希望が見えてくる。

 

 そして気がつけば夜。様子を見に来た茶々丸が終了を宣告しなければ今でも脇目も振らずに修理に没頭していただろう。そう考えると茶々丸は良い時に終わるきっかけをくれた物だと思う。

 

「ユウヤ」

「ん?つくしか、どうした?」

「戦術機、凄いね」

「そうか、ありがとう。先人たちの血の結晶だからな」

「有り様が良い。これは、人を守るための刃」

「そんな事、初めて会った時も言ってたな」

「うん、正直な、感想。人同士で争うために生まれた訳じゃない所が特に良い」

 

 そう語るつくしからは寂しさのような感情が感じられた。それは戦術機と何かを、劔冑を対比させた結果のように俺には感じられた。

 

「つくしは……劔冑が嫌い、なのか?」

「昔は好きだった」

 

 昔は好きだった。今は嫌いという事だろうか?深い意味が込められていそうな一言に思わず言葉に詰まる。

 

「お祖父様は劔冑の設計士だった」

「……そう、なのか」

 

 唐突につくしが語りだす。

 

「六○式を設計した時にはこれで我が国の独立は守れると言ったらしい。そしてそれは嘘じゃなかった。八八式を設計した時には不当な侵略に抗えるって言ってた。そう信じていた」

 

 この国の数打劔冑は採用された国記の下二桁を型番に使っている。そこから考えるとつくしの祖父は本当に数打劔冑の黎明期から開発に関わっていた事が分かる。

 

「でも!……でも、今劔冑は民を虐げる象徴、こんな事望んでいなかった。私はそれが許せない。どうにかしたい、でもどうにもできない」

 

 つくしの言葉が僅かに荒れる。その無表情な顔の下にどれだけの思いを抱えているのか、俺には察することもできない。六波羅が苛烈な統治政策を推進している事は知識としては知っている。それに茶々丸が関わっていることも。だがそれが悪いことなのか俺には分からない。

 

「それは……誰が悪いわけじゃない。時代が悪いんだ」

 

 そんな月並みな言葉しか俺には掛けることができない。

 

「……お祖父様は劔冑鍛冶としての名誉を捨てて隠居した。今は民のことを考えてくれている岡部のところに居候している。私はレーサークルスの整備をやっていた時に茶々丸様に拾われて、ここにいる。茶々丸様が正しいかどうか分からない。でも、ユウヤに会えた。戦術機に会えた。だから、ユウヤに知っていて欲しかった。お祖父様の事を、私の事を」

「そうか……ありがとな」

「え?」

「話してくれて、つくしの事が少しわかった気がする」

 

 改めて実感する。俺はこの世界の事を何も知らない。もっとこの世界について知らなくてはならない。そう思う。

 

 それから数週間が過ぎた。不知火の整備はなかなか思うようには進まない。だが、俺が教えられる事は大概教えられたと思う。後は実際の作業を行う現場の人間に任せても大丈夫だと思える程度には進んでいた。そんなある日の事だった。

 

「これは……劔冑か?」

 

 そこにあったのは戦術機と劔冑を適当に混ぜ合わせたような風の機体だった。腰部に装着された跳躍ユニットからその事が察せられる。ベースとなったのは大和帝国の量産型劔冑の物だ。確か……八八式竜騎兵だっただろうか。大和帝国の量産型、数打はよく似ているので見分けるのが難しい。まして改造されていると見分けるための特長が消えて見分けるのが難しくなる。八八式だとすると特長は重装甲、堅牢さだった筈だ。

 

「そう、八八式を改良してでっち上げた(・・・・・・)、戦術機の技術試験騎」

「これ動くのか?」

「一応、動く、でもまともな操作不可能」

 

 詳しく話を聞いてみると、翼甲に無理やり小型の合当理を載せ、跳躍ユニットを模してみたというのだ。設計段階から考慮されているような改造の上限を軽く突破している曲芸じみた改造を施したとの事だ。

 

 そのせいか、計算上でも小型の合当理に換えたことで最高速度は落ち、双発にした分重量が嵩んで加速性能は劣悪、無理矢理搭載した翼甲は限界ギリギリでゆっくりしか動かせないから運動性も劣悪という三重苦の機体との事だった。

 

「そんな機体、何で作ったんだ?」

「ん、未知への挑戦、やってみないと分からない事も多い」

「いや、そりゃそうだけどさ」

「実際、分かったことも多い。跳躍ユニット、スーパーカーボンじゃないと成り立たない、重すぎる」

 

 戦術機の各所に用いられているスーパーカーボンは軽く、強く、耐熱性も高いというおよそコスト以外に非の打ち所がない万能材料だ。それを用いずに同じ構造を再現しようというのだから無理も当然だろう。

 

 整備兵の一人がつくしに駆け寄ってくる。そして何か耳打ちしてすぐに去っていく。

 

「……テスト中止、テストパイロット、来れなくなった」

「…………なぁ、そのテストパイロットって俺でも良いかな?」

「ユウヤ?」

「元々テストパイロットしてたって話はしたよな?それでこういう機会があるとどうしても自分で動かしてみたくなるんだよ」 

 

 俺がそう言うと渋るような気配を見せるつくし。それも当然だろう。いくら戦術機のテストパイロットで戦術機を模した劔冑とは言え劔冑なのだ。そして俺に劔冑を飛ばした経験はない。とは言えあれからもプールでの訓練はたまにやっていたから劔冑の感覚自体は分かってきている、と思う。

 

「でも……」

「良いじゃん、おもしろそうだし、この子(八八式)なら事故っても安心だし」

「茶々丸……じゃあ、そういう事で良いよな?」

 

 突然割り込んできた茶々丸が許可を出す。トップがオーケーと言ってるのだ。つくしもこれ以上反対する事ができなかったのだろう。不承不承と言った感じで頷く。

 

「直進だけ、カーブは不可」

「分かった。それで良い」

 

 条件を付けられてしまったがそれは許容しよう。どうせ、まともに飛ばない機体なのだ。元から無理をする気はなかったので直進だけで十分だ。

 

 劔冑を着込んで、スタートグリッドに移動する。この機体は試験機らしく生体認証システムをオフにしてあるらしい。そのため仕手の変更は自由に行えた。軍用の劔冑だとこうは行かない筈だ。最低でも登録された仕手と引き継ぐ仕手の両方が揃っていないと変更できないと聞いたことがある。

 

「よし、準備OKだ」

 

 金打声(きんちょうじょう)―――装甲通信(メタルエコー)を通して管制室に準備完了を告げる。すぐに管制室から返答が返ってくる。後はスタートのシグナルを待つばかりだ。

 

 そしてスタート、合当理に火を入れる。爆音を上げて試作機が飛び立つ。が、その進路は既に30度近く左にずれている。このままでは壁に激突してしまう。俺は落ち着いて重心を移動させ進路を右方向に向ける。そのまま暴れ馬を御すように右に左にひっきりなしに方向転換しながら前進する。

 

「コイツはッ!」

 

 どうやら左右の合当理の推力を調整する機構がまともに働いていないらしい。どうやってもどちらかの合当理が強く斜め方向にしか飛べない。そして直線が終わる。ここまでだ。合当理の推力をゆっくり落としながら、ピッチを上げる。が、突然右の合当理が停止し制御を失いスピンする。すぐに左の合当理も停止させて、そのまま地面に落下する。受け身を取る。幸いスピードはかなり落ちていたので粉塵を上げるだけで滑り止まる。墜落よりはマシなハードランディングだった。

 

「こちらユウヤ・ブリッジス、こいつはとんだ暴れ馬だぜ」

 

 やはりこういうのは乗ってみないと分からないものだ。八八式をベースにしてるだけあって、装甲はかなり厚く、事故を起こしても大丈夫だという確信がなければこんな機体には乗ってられないだろう。

 

「ユウヤ、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。色々修正点がありそうだが、悪くなかったぜ、それよりも機体の方は大丈夫そうか?」

 

 だが、テストパイロットをやるということはそういうことなのだ。いつ事故が起こってもおかしくない状況で細心の注意を払いながら機体の限界を手探りで探る、それがテストパイロットの役目だ。そして事故が起きた時に如何に素早く対処するか、テストパイロットに必要な資質の一つだ。

 

 

 

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