装甲悪鬼村正 トータル・イクリプス   作:Flagile

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遅くなってしまい申し訳ありません。
必要なシーンを追加していたら時間が掛かってしまいました。


鍛錬

 夜、不知火・弐型の復旧作業を切り上げた俺は走っていた。別に追われている訳ではない。訓練だ。最近忙しくて碌に訓練もしていなかったのだ。このままでは衛士としてマズイ。そう思い、時間を作って走り込みをしている。昼は不知火・弐型の整備、夜は劔冑の勉強、時には茶々丸のお使いをすることもある。やるべきことは幾らでもあった。時間はまるで足りない。だが、衛士として身体をベストの状態に維持するのは義務だ。だから、まずは走る。とにかく走る。軍人にとって走ることは基本中の基本だ。走れなくては軍人足り得ない。

 

 10km程走った頃の事だった。俺を見つめる視線に気づく。茶々丸だ。手にはタオルとドリンクを持っている。ちょうど頃合いも良かったので訓練を中断する。

 

「はい、お兄さん」

「ありがとう、茶々丸」

 

 ドリンクを呷り、タオルで汗を拭う。

 

「ふぅ、生き返るぜ」

「訓練?精が出るね」

「ああ、最近出来てなかったからな」

 

 そこまで、言ってふと思い出した事があった。前に唯に剣術を習おうとした事があった。結局碌に教わることもできなかったのだが、今はある意味その機会なのではないだろうか?

 

「なぁ、茶々丸」

「んあ、何?お兄さん?」

「剣術を習うことってできるか?」

「うーん、劔冑の理解の一環としてって事?」

 

 そうだった。この世界の剣術は劔冑の存在を前提にしているのだった。となると俺が習いたかった剣術とは全く別物なのかも知れない。だが、逆に興味が湧いた。さっきまでは体力作りの一環、より高みを目指すためとは言え断られたら諦める程度の気分だったが気が変わった。

 

「その考えはなかったんだが、古代より連綿と切磋琢磨してきた劔冑剣術、一体どんな物なのか俄然興味が湧いてきたぜ」

「あー、お兄さん、本気だね」

「ああ、本気も本気さ」

「……うん、分かった。お兄さんの頼みだ。……ちょうど紹介したい人も居るし」

「よっしゃ!……紹介したい人?」

「そ、まぁ、明日楽しみにしといて」

 

 そう言うと茶々丸はイタズラ気に笑う。この感じ絶対に喋る気はなさそうだ。

 

 そして、翌日、俺は堀越御所に併設された道場に居た。

 

「こう、か?」

「そう、その動きです。」

 

 10kg程の長く重い木刀を、右肩に担ぐような構えから左下方向へ、一息に振り切る。足の踏み込みは行わない(・・・・)。場を動かずに、振る。これが意外と難しい。どうにも足が出てしまうのだ。それを意思の力と体幹で制しながら斜め袈裟の形で振る。

 

「……あなたは筋が良い。ですが、動きの基本が劔冑の物ではありませんね。素肌剣術のそれに近い。あまり矯正しすぎるとそちらの方にも影響が出てしまう……。劔冑を扱う予定がないならそのままの方が良いのですが、どうしますか?」

 

 穏やかに問いかけられる。なるほど確かに戦術機のそれ(・・)は地上での戦い方だ。自然、それは地上での戦い、素肌剣術に近くなる。それに対して劔冑は足場のない空での戦いを基本にしている。必要なのは腕力と上半身のバネだ。その点を考える突き詰めた結果がこの素振りなのだろう。

 

「いや、劔冑を扱う予定はない。今回道場に来たのも劔冑を知る(・・)ためだ。それに……役に立たない訳じゃない」

 

 嘘ではない。戦術機同士による空中近接戦というかなり限られた戦場だが、俺はそれを体験している。その戦いを思えばこの素振りも無意味なものではない。

 

「……ふむ、知るため……ならば、あなたが覚えるべきはこの素振りのみでしょう」

 

 男が言う。異形の男だった。黒塗りの夜間天眼鏡(ナイトビジョン)を掛け、縮緬の灰装束を羽織り、長髪を後ろで括っている。(えら)の張った顎に痩せこけた頬が張り付いている相貌は、幽鬼のようである。

 

 柳生常闇斎、六波羅新陰流宗主。厩衆の元締でもあるという。厩衆とは、六波羅幕府、主に其の中でも足利一族に元来服従している剣客集団である。身辺警護は勿論、公に事を成せぬ様々な職務に従事する。其れは要人の暗殺、潜入捜査など多岐にわたるという。

 

(そして何より、強い)

 

 その立ち居振る舞いはさり気ない。強者のオーラを纏っているという話ではない。雰囲気がない(・・)。ひたすらに自然なのだ。

 

「俺が新陰流を覚えても無駄って事か?」

 

 素振りを止め、常闇斎に問う。

 

「そうです。害悪ですらある。あなたの根幹から変える努力が必要とされ、なおかつそれが実を結ぶとは限らない……。ですが、知る(・・)必要はあります」

「?」

 

 常闇斎が壁に掛けられていた木刀を一本手に取る。

 

「体験してください。あなたならそれで十分な筈です」

 

 新陰流を覚える事は無駄、だが、知る必要はあるという。そして常闇斎は俺の対面に立ち、武者正調の上段に構える。新陰流を体験させてくれるという事なのだろう。そう受け取り俺も上段に構える。

 

「まずは"一刀両段"、六波羅新陰流の基本です。」

 

 常闇斎がスルスルと間合いを詰めて来る。間合いが狭まっているのは確かなのにその距離感がうまく掴めない。手、足、呼吸、見えている全てが矛盾しながら迫ってくる。

 

 常闇斎を相手に一部を見て間合いを把握する事は不可能だ、と断じる。全体を感じるように観る、半ば勘任せの所業だが、これの方がまだマシなように思える。

 

 腹も決める。間合いに入ったら躊躇せず叩きつける!

 

 そして、間合いが盗まれる(・・・・・・・・)。全身全霊を掛けて注意していたにも関わらず、意識の隙間を縫うように常闇斎が間合いを詰める。そして真半身になり、ゆるゆる(・・・・)と木刀が振られる。その段になって漸く俺も素振りの通りに木刀を振り下ろす。狙える場所は多くはない。目標は常闇斎の肩。

 

 ゆるゆると振られた常闇斎の木刀と俺の渾身の木刀が交わる。いつの間に剣の軌道が変わったのだろうか?否、最初から変わってなどいない。常闇斎の木刀は俺が振るであろう木刀の軌道上に予め置かれていたのだ。木刀の軌道上に横から現れた常闇斎の木刀が弾き飛ばす。

 

 そのまま腕を打たれ、僅かに衝撃が走る。ゆるゆると振られた木刀が直撃したのだ。そして、そのまま木刀が喉へと伸びてくる。

 

「参った」

「では、次です。動は『陽』、静は『陰』で御座います。重要なのは、『陽』と『陰』を、内外に“変える”、という事。内で『陽』動かざれば、外見は『陰』とせねばなりません」

 

 そう言うと常闇斎は離れていき、再び木刀を上段に構える。常闇斎の言葉は抽象的な概念だが、その言わんとするところは分かりやすい。……だが今度は間合いなど測らない。間合いの勝負では話にすらならない。間合いなど気にせず飛び込み振り下ろす。

 

 常闇斎が遅れて動き出す。だが、常闇斎に緩みなど感じられない。敢えて遅れて、十分以上に見てから動き出したのだ。

 

 そして、再び腕に衝撃、今度は全身が痺れるほど強烈な一撃だった。一瞬何が起きたのか分からない。こちらが早く動き出したのに明らかに遅れた剣が先に届いたのだ。

 

「六波羅新陰流、"合撃(がっし)"。遅れて――相手の剣筋を見切った上で動き。その上で大きな円を描く敵の剣筋の内側に、我が剣は小さな円を描き――。結果的に、相手よりも早く目標に達し。打ち合わず。乗り込んで。斬る」

 

 何を言っているのか分からない。いや、理屈は分かる。だが、そんな事が実現可能なのか?要するに相手が攻撃という隙を晒している間に相手よりも早く動いて斬る、そう言っているのだ。

 

 確かに疾さとは強さだ。だが、ここまで隔絶した疾さを人間は実現可能なのだろうか?(アメリカ)だって人間工学を元にした早さの研究を重ねてきているのだ。

 

「では、次です」

「あ、ああ、頼む」

 

 次に常闇斎が今度は下段に構える。俺も構えを変えるべきだろうか?いや、せっかく見せてくれているのだ。ならばまずは上段に対する下段の対処を見せてもらうのが正解だろう。

 

 間合いの読み合い、相手にならないと分かっても工夫を凝らさない訳ではない。最初は読もうと思って読めなかった。次は読めないならば機先を奪おうとした。ならば次はどうする?今度はこちらが読ませないようにしてみよう。

 

 常闇斎はなんと言っていた?動くのであれば動かないように見せかけろ、動かないのであれば動くように見せかけろそう言っていたと思う。

 

 動かない事をまずは決めた。まずは相手を動かす。露骨にやっても手の内がばれるだけだ。我慢に我慢を重ねた結果、我慢できなくなった、そう見せかける。そう決める。

 

 上段の構えのまま、相手を待つ、常闇斎がジリジリと摺り寄ってくる。間合いに入った。だが、待つ。常闇斎と俺のリーチの差はそう大きくない。僅かに俺が長い程度だ。その僅かの差を縮めるのに常闇斎は時を掛ける。

 

 崩れたように見せかける、なのにその前に本当に崩れそうになる。これで良いのか?そんな疑問が頭をもたげる。待つことの辛さを感じる。だが、まだだ。今は待つ。

 

 俺の間合いの内側に入り込まれる瞬間、我慢できなくなった風を装う。いや、実際に我慢できなくなったのかも知れない。斬る!そんな意志を身体に巡らせる。だが実際には動かない。その矛盾。

 

 常闇斎は動かなかった。

 

 そして俺の間合いが死ぬ。そこまで至りゆるゆると常闇斎の木刀が振られる。俺は何もできないまま打ち据えられる。

 

「ふむ……今のはなかなか良かったですね」

「だが、何もできなかった……」

「考えなさい。試しなさい。まだ時間はあるのです」

「……もう一手、頼む」

 

 そこから下段で中段で、上段で。ありとあらゆる構えから全身を打ち据えられる。どれだけ工夫を凝らそうとも常闇斎に届かない。ひたすら考えながら対処法を捻り出し続ける。そのどれにも常闇斎は対応してくる。そしてどれほど時間が経っただろうか?

 

「最後に……無刀取り、は知る必要はないでしょう」

「その無刀取りって言うのはどんな技なんだ?」

「技、ではありません。《理》です。生身を以て劔冑を打倒する――研鑽の果にある《理》、それが無刀取りです」

 

 生身を以て劔冑を打倒する。剣術の理を積み重ねていけば人間はそこまで到達できるという事だろうか。確かに要撃級を剣で斬ったなんて噂話は元の世界でもあったが眉唾ものだと思っていた。……だが、この柳生常闇斎ならそれを達成したとしてもおかしくないように思える。

 

「常闇斎、ありがとう」

「いえ、あなたには私も期待しているのですよ」

 

 最後という宣言通り、常闇斎は終わりを告げる。外を見ると既に日は落ちていた。常闇斎の教えを振り返りながら道場を後にする。

 

「どうだった?お兄さん」

「ああ、凄い参考になったぜ。あれが本当の達人って言う奴なんだな……手も足も出なかった」

「ハハハ、仮にも大和最強の剣士だからね」

「ところで紹介したかった人っていうのは常闇斎の事なのか?」

「おっ、鋭いね」

 

 そう言うと茶々丸が周囲を確認するようなそぶりを見せる。

 

「実はね、お兄さん。ウォルフ教授と会ったんだ」

「ウォルフ教授と?ようやくだな」

「うん、何せあても有名人だからね、常に見張られているんだ。それをすり抜けて会いに行くのはなかなか骨だったんだ。で、常闇斎は六波羅の諜報部門厩衆のトップでもあるんだ」

 

 柳生常闇斎はスパイでもあるということか。それが一体これからする話にどう関わってくるのだろうか?

 

「だからその常闇斎が居ない時を見計らってウォルフ教授に会いに行ったんだ。まぁ、あてもリーディングの能力があるから警備の網を掻い潜るぐらいはどうってことなかったよ。それでウォルフ教授とも無事協力関係を確立できたんだ」

「おっ、無事協力関係になれたんだな」

「うん、そこまでは良かったんだけどね」

「何かあったのか?」

「現れたんだよ。常闇斎が。私も興味がありますってな感じでごく自然に。どうやったのか出てきたのですよ」

 

 茶々丸が困ったような表情でそう言う。茶々丸にはリーディング能力がある。なのにそれを乗り越えてスパイする。常人にできる所業ではない。というかまずリーディング能力のことを知っているのか、どうなのか、確認する必要があるのではないだろうか。

 

「それは……何というか凄いな」

「幸い、常闇斎とも協力関係を結ぶことができたから良かったけど、もし敵に回ったらと思うと……背筋が寒くなったよ」

「まぁ、仲間になってくれたんだ。良しとしようぜ」

「うん、おかげでウォルフ教授との繋ぎもやりやすくなったし、結果オーライなんだけどね……」

 

 柳生常闇斎、何を目的に神を求める?あるいは茶々丸の策謀が国のためになるとでも判断したのだろうか?今日一日剣で会話したが未だに常闇斎がどのような人物なのか判然としない。

 

 俺も気をつけなくてはいけない。そう改めて心に決める。

 

 




さて、剣術について無理解な私がネットと原作を頼りに頭を捻った結果です。
おかしな点があるかも知れませんがこれがとりあえず限界です。
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