6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い   作:肩がこっているん

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主人公が登場するのは二話目からになります!


原作開始前
おい、茶々丸。これは何だ?


〜2003年1月 麻帆良学園都市郊外〜

 

「美空急便です。完全なる女子様から荷物です。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様のお宅でお間違いはありませんでしょうか?はい、はい……それではこちらのお荷物ですが、玄関の中までお運びしましょうか?」

 

「はい、お願いします」

 

ーーーーカァ〜〜、カァ〜〜、カァ〜〜……

 

 

麻帆良郊外の森の奥、ひっそりと立つログハウス。

緑に囲まれたログハウスという絵面は、田舎暮らしに憧れる人々なら羨んで止まない隠れ家的雰囲気を醸し出している。

の、だが、ログハウス上空を旋回するおびただしい数のカラスたち(某アニメ劇場版に登場する白い量産機のごとく)がその雰囲気を見事にぶち壊し、笑顔の絶えない素敵なセカンドライフな日常から一転、先祖代々から婿養子が謎の死を遂げるミステリチックな殺人ハウスと化してしまった。

 

そんな何々館の殺人的なイメージのログハウスだが、当然住所登録もされており、強いては電気も通っているし電話線もひいている。

現にこうしてログハウスの玄関では宅配業者とこの家の住人の間で荷物の受け渡しが行われているのだから。

 

「ここに判子かサインをお願いします……はい、どうも、ありがとうございました〜」

 

両者互いに頭を下げ、宅配業者は台車をひき森の中へと去っていく。

 

リビングのソファーに腰掛け寛いでいたこの家の主であるエヴァンジェリンは、玄関から聞こえてくるやり取りを耳に、はて最近何か通販で買い物などしたか?と疑問符を浮かべていた。

 

「おい、茶々丸」

それだけエヴァンジェリンは声をかけると、たった今荷物の受け取りを対応したこの家のもう一人の住人である絡繰茶々丸が、小さな子供一人なら入れるほどの大きさのダンボールを抱えてリビングにやってきた。

 

 

side:エヴァ

 

私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

闇の福音という通り名で知られ、魔法関係者の間では泣く子も黙る悪の魔法使い、真祖の吸血鬼として恐れられているぞ。

 

吸血鬼が何で日本に?人が寄り付かないお城とかに住んでるんじゃないの?だと?

色々こっちにも都合があるんだ。

それに今は吸血鬼としての力も封印され、見た目通り10歳の少女と何ら変わらない程度の力しかない。その辺りのことはあんま深く聞くんじゃない。

 

そんなわけで今私の目の前にいる従者が両手に抱えているダンボールに興味を占めているわけだ。

 

でかいな。

そしてやはり私には覚えがない。

 

「私宛の荷物だと聞こえたんだが、それはお前が頼んだものか?」

 

先ほどの茶々丸と配達員とのやり取りはリビングにいた私の耳にも届いていた。

正確にはここしばらくこの家に来客などなかったので、ついつい魔法で聴覚強化をして聞き耳をたてていた。

吸血鬼であるこの私を狙う輩が来ないとも限らないからな。念には念をというやつだ。

決して家に友達が遊びに来ない子供の心境と一緒にしないでもらいたい。

 

 

が、そのせいで外にいた大量のカラスの鳴き声もばっちり拾ってしまった。

いつ頃からかは忘れたが、この家はなぜかカラスの溜まり場となっている。

その数は『この家の屋根の色って黒かったかな?』と知り合いの某デスメガネがボケなのかマジなのかわからない質問をしてきたほどだ。

いきなりカラスが大量発生したというわけではなく、気づいたら意識せざるを得ない数になっていたのだ。

 

しかし闇の福音と恐れられるこの私が、自宅に屯するカラスに困っているなどとキャラに合わん。

カラスたちに魔力の反応を見られなかった。

学園側の魔法使いたちの手によるものでもない。

そんなわけで、そのまま放置していたわけなのだが……

 

それがよくなかった。

 

ただのカラスたちだと侮っていたばかりか、困った問題が発生してしまった。

あいつら私が外に出るとなぜか知らんがその時々謎のフォーメーションを組んで上空からついてくるようになったのだ。

おかげで麻帆良報道部の出している校内新聞で「カラスを率いる謎の少女」「カラス王」などという記事を組まれたこともある。

記事を書いたのは私と同じクラスに通っているパパラッチだ。

何が謎の少女だ。貴様クラスメイトじゃないか。

カラス王とかもっと良いネーミングなかったのか。

ええい忌々しい。

私は真祖の吸血鬼だぞ?

何でコウモリではなくカラスを使役せにゃならんのだ。

何で学園の魔法使いどもから「実は闇の福音のパチもん?」的な視線を向けられねばならんのだ。

ちなみに今まで一度もフンを落とされたことはないということは言っておく。

 

「はい、名義上はマスターの名前ですが、これは私が個人的にまほネットで注文をしたものです」

 

……話が逸れたな。

ん?何の話だったか……あ、そうだ茶々丸がまほネットで買い物をしたという話だったな。

ゴホン!え〜話を戻すが……まほネットとは、古今東西あらゆる魔法に携わる者たちが利用する、魔法使いのためのインターネットだ。

電子精霊とか言ったか。

いつからか魔法使いたちは何やらハイテク方面にも手を出したようで、そっち専門の魔法使いなんてのもいるらしい。

かという私自身も、過去にまほネットを利用して魔法具をいくつか購入した。

ひょんな事情によりここ麻帆良から動くことができない私にとってまほネット通販は便利なものだった。

ああ、実に便利ではあるさ。

 

しかし先ほどのように配達を請け負う業者はなんてことはない、普通の一般社会の宅配業者なのだ。

注文画面でコンビニ受け取りなんぞ出た時はフリーズしたぞ。

魔法の秘匿云々のレベルじゃないぞ、いいのかそれでと真祖の吸血鬼、悪の魔法使いである私ですらそう思ってしまった。

故に、便利ではあるのだがあまりに希少な魔法具や魔法薬を注文した際、何か事故でも起きたら怖い、とのことから次第に利用回数は減っていったのだ。

 

しかし……

 

(茶々丸が今まで自分から特定の物品を欲したことなどなかったな。これも良い影響が出ているのか……)

 

目の前にいる従者は感情を表に出すことがない。

 

ここ麻帆良で作られたロボット、正確にはガノノイド、それが目の前の絡繰茶々丸の正体である。

日々学習するプログラムが組まれているようで、当初に比べればだいぶ感情豊かになったほうだ。

実際、こうして自分から欲しいものを通販で頼むくらいには人間味というやつが出てきたのだろう。

そんな人間らしさが出てきたガノノイドが、主人に内緒で何を通販で買ったのか……

 

一体何を頼んだのか、と私が聞くよりも早く茶々丸は床にダンボールを置きすぐさま開封を始めた。

 

「購入したものはぬいぐるみです、マスター」

 

ダンボールの中から取り出されたビニールに包まれた物。

ぱっと見、黄色と黒の二色が全体の割合を占めているそれは、茶々丸が言うにはぬいぐるみらしい。

 

「今のまほネットではぬいぐるみの通販なんぞしているのか……なんだ、随分とでかいな。どれ、よこしてみろ」

 

ビニールから取り出されたぬいぐるみを茶々丸から受け取る。

 

(アニメのキャラクターか?まさか少女のぬいぐるみとは)

 

ぬいぐるみは典型的な動物をモチーフにしたものではなく、美少女アニメチックな少女をモチーフにしているようだ。

ちなみにペタン座りである。

 

「…………むぅ」

 

(別にアニメキャラのぬいぐるみだからと言って問題ない。しかし、問題は部分を構成しているパーツだ)

 

「黄色のロングヘアー、黄色ではなくここは金髪か。身につけている服は黒を基調としたドレス?ネグリジェ?とりあえずやたら露出度が高い。そしてやたら襟が尖ったマント……」

 

既視感を覚える。

このぬいぐるみ他人事の気がしない。

現にマントを除けば今私が身につけている服装と、このぬいぐるみの衣装は全く同じといっていい。

『このぬいぐるみ私じゃね?』という疑問はとうに頭の中に出ている。

なんだ?どういうことだ?

 

「ちなみにそのマントは着脱式になっております」

 

そうか、そこは別に問題じゃないなんだが。茶々丸に言うべきか、どう見てもこれは

 

「茶々丸……このぬいぐるみなんだが、……これ、なんというか私に似て」

 

「グッドナイト†エヴァ。そのぬいぐるみは魔法関係者の間でカルト的人気を誇る、マスターを題材にしたシリーズ作品のグッズの内の一つです」

 

「は?」

 

(なんだそれは。私が題材のシリーズ物?そのぬいぐるみ?)

 

茶々丸が語った内容を頭の中で反復するものの、思考が追いつかない。理解に至らない。

そして何より……

 

「え、これ、まほネットで売ってるって……」

 

「はい、グッドナイト†エヴァちゃんは今年で10周年の人気作品です。今から10周年イベントが楽しみで仕方がありません」

 

「…………」

 

私は開いた口が塞がらなかった。


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