6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い   作:肩がこっているん

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真・第一話(これが第一話でもよかったかもしれない)


原作開始
グッドナイト†エヴァ


 グッドナイト†エヴァ。

 それは魔法関係業界の一角を賑わす、名状し難い案件である。

 

 

「おい茶々丸。いきなりどうした」

 

 

 女性2人によるユニット「完全なる女子」が世に送り出したシリーズ作品、及びそのブランド名を指す。

 

 メインである「グッドナイト†エヴァぬいぐるみ」を筆頭に、ゴシックファッションからTシャツ、バッグといったアパレル物。キーホルダーやストラップ等の小物類、マグカップ、筆記用具といったものまで広く手がけている。

 

 

「説明しろと言ったのは私だが……おい待て、ブランド化してる!?このぬいぐるみが!?私モデルの筆記用具ってなんだ!?」

 

 

 1993年。当時見聞を広げる目的で各地を旅していた「完全なる女子」の2人が、旅の費用を工面するために、趣味で自作した金髪少女のぬいぐるみを路上販売を行なったのが事の発端である。

 この時売られたグッドナイト†エヴァ(当時はまだ名前はなかった)第1号は、現在ファンの間で高額な値で取引されている。

 

 

「何故そこで私のぬいぐるみを作った。そして何故売った」

 

 

 「完全なる女子」の2人も当初はこれを商売にしようなどとは考えていなかったと思われ、路上販売もほどほどの期間で終了、一旦鳴りをひそめた。

 しかし、幾許かの空白期間を経て2人は、まほネット上で「グッドナイト†エヴァ」という名前でホームページを立ち上げ、通販という形で再び金髪少女のぬいぐるみの販売を再開する。

 この時を持って、初めて金髪少女のぬいぐるみは「グッドナイト†エヴァ」という名を得て、世に出回ることとなった。

 

 

「そのまま鳴りをひそめておけばよかったものを」

 

 

 「グッドナイト†エヴァ」が、かの「闇の福音」をモチーフにデザインされているという事実。この事は、ホームページ立ち上げ当初から「完全なる女子」本人らが明かしていた。

 題材元が「闇の福音」だけに、当初の売れ行きは芳しくなかった。

 批判のメール、掲示板での書き込みも相次いだと当人たちは語っている。

 

 

「ふ、ふん!私のぬいぐるみなど売り出すからそのようなことになるのだ。……ばかものめ」

 

 

 しかし、その当時も少なからず「グッドナイト†エヴァ」のファンは存在した。

 

 公式ホームページ内の掲示板では、ファンからの応援の声が多数寄せられていた。

 それらの声を励みに、その後も続々と新商品を発表。

 クチコミなどを通し、「グッドナイト†エヴァ」の名は徐々に広まり、特定の層内で人気に火が着いた。

 

 

「特定の……層」

 

 

 その特定の層とは主に、現魔法社会の体制や、日々の暮らし、周りの大人たち等に不満を持っている、いわば悩み多き荒くれ者たちである。

 彼らが「グッドナイト†エヴァ」に惹かれた要因として、ぬいぐるみの愛くるしさも挙げられるが、多くは「グッドナイト†エヴァ」の公式ストーリーに感銘を受けたと思われる。

 

 

「何?ストーリー?は?」

 

 

 「グッドナイト†エヴァ」には、実際の「闇の福音」の情報を元に作られた「ストーリー」が存在する。

 

 

 〜凶悪な力を持ち人々に恐れられていた真祖の吸血鬼「エヴァンジェリン」

 

 〜そんな彼女の前に1人の男が現れる。

 

 〜その男は、「赤松の剣」と呼ばれる伝説の剣に選ばれし勇者だった。

 

 〜この勇者が、思いの外自分の好みにドストライクだったエヴァンジェリン。

 

 〜あろうことか、この勇者をデートに誘ってしまう。

 

 〜ウキウキ気分のエヴァンジェリンが、勇者に手を引かれ連れてこられた場所。レーベンスシュルト城。

 

 〜あらやだ素敵なお城、と浮かれてたエヴァンジェリンは、あっという間に勇者に呪いをかけられ、城に閉じ込められてしまう。

 

 〜外に出られなくなったエヴァンジェリンは、呪いを解く手がかりを探すため、広大なレーベンスシュルト城内の探索を始めたのであった。

 

 

 これが、「グッドナイト†エヴァ」のストーリー、大まかなあらすじである。

 

 

「どこに感銘を受ける要素があった……というか赤松の剣ってなんだ」

 

 

 退廃的でアンダーグラウンドな「グッドナイト†エヴァ」の世界観に魅入られた者達の中には、魔法世界で活躍する大物アーティストも多く存在する。

 

 まほロックバンド界のカリスマ、「X ARIADNE(エックス・アリアドネー)」のリーダー、「TOSHIKI(トシキ)」。

 彼は「グッドナイト†エヴァ」の魅力にまほロック界でいち早く気づき、ステージパフォーマンスに「グッドナイト†エヴァ」にちなんだ演出を幾度となく採用している。

 今や「TOSHIKI(トシキ)」の代名詞ともなっている、魔力で加工された氷で作られた「アイスピアノ」を、冷たすぎて弾けないという理由で曲の途中で壊し始めるパフォーマンスは圧巻である。(その後気絶するまでが様式美)

 

 

 他にも、支配者のポーズを取った自分自身を氷漬けにして、ステージに登場する演出で客を沸かせた「jackt(ジャクト)」。(が、その後氷がまったく溶けず、そのままライブは中止になった)

 

 「氷爆-absolute-」という曲のPV撮影を、ガチ吹雪の中ボンテージコスチュームを纏い行なった「P.M.Revolution」。そのPV撮影の後、半年の間生死を彷徨うこととなった。(その時の出来事を歌った「WHITE BLAST」は、ミリオンヒットを達成した)

 

 

「何やってんだそいつら」

 

 

 魔法業界のあらゆる大物を巻き込みながら、今尚勢いを増す「グッドナイト†エヴァ」。

 10周年記念を控え、これからどのような世界を我々に魅せてくれるのか、期待は膨らむばかりである。

 

 「グッドナイト†エヴァ」の一挙一動から、目を離すなーー。

 

 

「私は目を覆いたくなるばかりだよ」

 

 

 

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「ちなみにファンクラブの名前は「Maze of the dark」。ファンの名称は「DOLL(ドール)」となっております。……マスター、如何なさいました?」

 

「……いや、感情の矛先をどこに向けたらいいのかわからなくてな」 

 

 目の前の自身を模したぬいぐるみを見て、ため息を吐く題材元のエヴァ。

 

「ーーそれで?「完全なる女子」と言ったか?私のあずかり知らぬ所でそのような事態にまで事を発展させおった奴らは。その2人は何者だ?先ほどの説明では奴らの詳細が語られてはおらんのだが」

 

「その2人なのですが……この10年間「完全なる女子」のお二人は公には一切のプロフィールが明かされておりません」

 

「何?」

 

 エヴァが怪訝な顔を茶々丸に向ける。

 

「いや、一切ーーというのは違いました。「完全なる女子」のお二人の関係は母と娘。それ以外のプロフィールが皆無なのです」

 

「そんなバカな話があるか。ーーいや、実際今長々と説明されたもの自体がバカな話ではあるが……。ゴホン、それよりもだ。そいつら親子は路上販売なんかをしてたんだろ?その時の目撃情報などはないのか?」

 

「当時の目撃情報によると、彼女たちは常にローブを身に纏い、フードで顔を隠していたそうです。それに、今も公に姿を見せる際には似たような形で顔を隠しています。グッドナイト†エヴァのファンからしたら、それが逆にミステリアスな雰囲気を醸し出していてグッとくるとのことです」

 

「最後の情報は余計だ。……くそ、グッドナイト†エヴァのことよりもその親子の方が気になってきた」

 

「マスターは心当たりなどないのですか?」

 

「そんな頭のおかしい親子に心当たりなどない。ーーしかし、先ほどのグッドナイト†エヴァのストーリーだが、細部が腹立たしいまでに脚色が加えられてはいるものの、大筋が今の私の置かれている状況と妙に酷似しているのが気になる」

 

 茶々丸はエヴァの言葉の続きを待つ。

 

「伝説の勇者があのバカ(ナギ)で、レーベンスシュルト城をここ、麻帆良と置き換えるとしっくりきてしまう。そもそもレーベンスシュルト城なんて単語が出てくること自体怪しい。なぜあったこともない奴らがその存在を知っているのだ。そいつらは、不自然なほど私に詳しすぎる」

 

「……それは」

 

 確かにーーと茶々丸は同意を示す。

 

「少なくとも麻帆良でそのような親子など知らん。……ええぃ、いよいよもってこの呪いが忌々しいな。外に調べに行くことすら叶わんとは」

 

「10年経った今となっても「完全なる女子」のお二人は、なぜマスターを……「闇の福音」を題材にした物を売り出そうとしたのか、この理由は未だ公式では語られておらず、謎に包まれたままです」

 

「フン、10年前というのも奇妙な話だ。その頃にはすでに私は麻帆良に縛られており、私が麻帆良にいるという情報も外部には隠蔽されている。……ハァ」

 

 ため息をつき、グッドナイト†エヴァを抱えソファに横たわるエヴァ。

 

「いくら考えても今の私にどうこうできやしない、か……何のつもりかは知らぬが、私に害が無い内は好きにさせてやるとしよう。ーー当人になんの断りもないというのは見過ごせる話ではないがな……」

 

 ぬいぐるみの出来は良いようだなーーと言って、何とも言えない表情で自身のぬいぐるみと見つめ合うエヴァ。

 

(なんだかんだ言いつつ、御自分に好意的な出来事など滅多に無いから照れておられるのですね。)

 

 その様子を録画する茶々丸。

 

「マスター、そのぬいぐるみは差し上げます」

 

「ん?ーー別に私は自分のぬいぐるみなぞ要らんのだが……お前はわざわざ私にこれをよこすために買ったのか?」

 

「はい、一つはマスター用にと。ーー私個人のものは、ちゃんと別に購入しております」

 

「…………茶々丸、お前ーー」

 

 一体このぬいぐるみをいくつ買ったーーと恐る恐る茶々丸に聞くエヴァ。

 

 玄関には、平積みにされたダンボールが10個近く積んであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「そう言えば、あの性悪はいつ頃帰ってくると言っていた?」

 

 リビングに大量のダンボールが積まれ、その開封作業に勤しんでいた茶々丸に、エヴァがそう声をかける。

 

刹子(せつこ)さんでしたら、「しばらくは帰らない」とだけ。いつ頃戻られるかは伺っておりません」

 

「フン、そうか……」

 

「マスター、寂しいのですか?」

 

「アホ!んなわけあるか!毎日毎日節操もなく唇をせがまれんでせいせいしとるわ!」

 

 エヴァはソファから勢いよく身を起こし、茶々丸を怒鳴りつける。なお、グッドナイト†エヴァは抱えたまま。

 

「第一、あいつは事あるごとに私に対してちょっかいを出してくるからな。ーー大事な計画が控えているんだ。万が一あの性悪に邪魔されてはたまったもんじゃない」

 

「……大事な計画、と申しますと」

 

 茶々丸は開封作業を行なっていた手を止め、改めてエヴァに向き直る。

 

「ーーもうじきサウザンドマスターの息子がここ麻帆良にやってくる。そのために私は今の今まで準備をしてきたんだ。あの性悪がいないならそれに越したことはない」

 

 エヴァはそう言って、懐から1枚のカードを取り出す。

 

「……どうやら性悪が今いるところは夜のようだな」

 

「ーーと、申しますと?」

 

「カードに描かれている衣装がパジャマになっている。今頃奴はぐっすり夢の中だろうよ」

 

 茶々丸はそれを聞くと、同じように懐からカードを取り出す。

 カシャ!カシャ!とシャッターを切る音が響く。

 

「迂闊でした……パジャマを着ているということはーーすでにお風呂は済ませてしまったということですか……っ!」

「このカードには「常時衣装反映機能」が付いていることをあの性悪は未だ気づいておらんからな。茶々丸、今の内にたっぷり弱みを握っておけ」

 

 エヴァがそう言うも、茶々丸は大きく項垂れ、ひどく後悔した表情を浮かべているだけ。

 エヴァはそんな茶々丸の様子に目もくれず、手元のカードに向けて愚痴をこぼす。

 

「まったく、身動きの取れない私を差し置いて、自分は悠々と旅を楽しみおって……くそ、早く来いナギの息子。お前の血を持って私はこの忌々しい呪いから解放されるんだ!」

 

 

 手元のカードには、パジャマを着た白髪の少女が、包丁を握り佇んでいる絵が写っている。(目は閉じられている)

 

 紛いも無い、そのカードは「きせかえごっこ」が誇る産廃アーティファクト。

 

 「花嫁修行(ハナヨメシュギョウ)」そのものであった。

 

 

 

 

 

 




エヴァとの出会いなどは追々補完していく予定です

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