6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い   作:肩がこっているん

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お子ちゃま先生vsジャスティスレンジャー〜前編

「ターゲットは人質を伴い図書室に立てこもったよ!」

 

「無駄な抵抗はやめなさい!君は包囲されている!」

 

「くっ、君たち何のつもりだ!邪魔をするつもりか!?」

 

「フッ……今の俺たちに楯突くことがどういうことか……知りたいようだな」

 

「高畑先生……僕は、貴方にだけは負けるつもりはありませんよ」

 

「我々は決して屈しない!正義を、正義と自由なる解放を!」

 

「そうよ!今こそ私達の正義をーージャスティスを!!!」

 

「「「「「ジャスティス!!!!!」」」」」

 

 

 

「ちょ、ちょっとネギ!?何よ、どうなってるのよ!?」

 

「ぼぼ、僕に言われても!?わかりませんよーーーーー!?」

 

 なんで!?なんでこんなことになってるの!?

 

 もうやだ、麻帆良学園怖いよ……キティちゃん助けて!!!

 

 

 

 

 

〜事件前日〜

 

 

 

 

 

 麻帆良学園女子校エリア。

 朝の通学路は、何としても遅刻はしまいと校舎を目指し全力疾走をする生徒たちで溢れかえっている。

 そんな生徒達を尻目に、敷地内にあるカフェテラスで優雅にお茶を楽しむ5人の姿があった。

 

 

「実に平和だ……心が洗われるようだ」

 

 褐色肌に白いスーツの男、名をガンドルフィーニ。ここ麻帆良学園に勤務する教師、兼魔法使いである。

 

 

「まったくです。彼女がいないだけで、ここまで心が安らぐとは……」

 

 ロングヘアーに眼鏡、凛とした佇まいの女、葛葉刀子。彼女もまたガンドルフィーニに同じ。

 

 

「フッ……あまりこの平和に浸かりすぎると、いざ奴が戻ってきた時に辛いぞ」

 

 ヒゲとグラサン、名を神多羅木。どう見ても堅気に見えない、威圧感が有り余る人相だが、一応肩書きは教師である。

 

 

「まぁ刀子さんの気持ちもわからんでもないけどねぇ。僕なんて何キロ体重が落ちたことか」

 

 名を弐集院。ふくよかな体型。深夜のラジオ王とは別人である。

 

 

「ハハ、ひどい言い様ですねぇ。ていうか弐集院先生は逆によかったのでは……」

 

 瀬流彦。若い、イケメン、以上。

 

 

 

 5人は麻帆良学園に所属する教師であり、また魔法使いでもある。所謂、「魔法先生」と呼ばれる人物らである。

 仮にも教師なのだから、こんな時間にカフェで駄弁っている暇などないはずなのだが……

 

 

「それにしてもいいんですかね、いくらオフだとはいえ、朝からこんなところでお茶してて……」

 

 疑問に対する返答を投げかけたのは、5人の中で最も若手である瀬流彦。

 こんな朝っぱらから遠目に見ても目立つ5人組が一つのテーブルを囲っているのだ。

 通りかかる生徒達から奇異の目を向けられてもおかしくない。現に瀬流彦はその視線を気にしている様子である。

 

 対する4人も、その奇異の視線に気づいていないわけではない。

 しかし、別段取り繕うこともなくただただ目の前の茶を啜り、軽い雑談を交わしている。

 

「フッ、いい加減お前も堂々としたらどうだ。俺たちは久方振りの休日を満喫しているだけだ。周りの目を気にする必要などどこにある?」

 

「そうだよ瀬流彦君。君だって疲れただろう?彼女が起こしたと思われる事件の前後関係の調査、実際起こした事件の後処理に追われる日々に」

 

「えっと、まぁ、確かに疲れましたけど……」

 

「思い返すと色々なことがあった……彼女がこの学園にやってきたのは……あぁ、もうじき2年にもなるのか」

 

「「「「…………」」」」

 

 ガンドルフィーニがそう言うと、瀬流彦を除く4人が空を仰ぎ見て、どこか遠い世界へ旅立とうとしている。

 

(ハァ……また始まった)

 

「今でも思い出すねぇ。彼女と初めて顔を合わせた時のことを」

 

「フッ……あれは学園に所属する魔法関係者達による定例会の場だったな」

 

 

ーーどもども〜♪六戸刹子(ろくのへせつこ)って言いま〜す♪親しい人からはセッちゃんって呼ばれてます!みんなもそう呼んでね!あ、あと絶賛彼氏募集中です!よろしくね〜♪

 

 

「最初の印象は、やたら軽い子だなーーというくらいしかなかった。私も軽く注意するくらいだったさ。学園の魔法生徒たるもの、もう少し気を引き締めるようにーーなんてね」

 

「私は同じ場に居た刹那が盛大に吹き出してた事の方が印象に残ってるわね……なんでもあだ名がどうこうって」

 

「は、はは。刹子ちゃん、その時からすでにそんな感じだったんですね」

 

「思えばもう少し彼女に気を張っておくべきだったよ……態度だけじゃなく、行動まで軽い子だったとは」

 

 

ーー大変です!六戸君が、聖ウルスラ女子の校舎に殴り込みをかけたって!なんか午前中のドッジボール対決の延長戦だとか訳わかんない理由で……どなたか、手の空いてる方、現場に向かってください!

 

ーー緊急事態です!六戸君と闇の福音が、白昼の街中で大喧嘩をしているとか……今すぐ彼女達の無力化と、街中に散らばった包丁の回収を急いでください!

 

ーー超・緊急事態です!皆さん起きてください!六戸君と闇の福音が、深夜の麻帆良学園都市を舞台にカーチェイスを行なっているとのことです!現在、車の持ち主である高畑先生と明石教授が叫び声を上げながら彼女達を追跡しています!皆さんも早く駆けつけてください!

 

ーーえ〜と……葛葉先生が「彼氏を寝取られた」とか言って六戸君とキャットファイトをしているそうです……六戸君は否定しているそうですが……と、とりあえず皆さん止めにいってあげてください。

 

ーー校舎の窓ガラスが割られまくって……

 

ーー大変です六戸君が……

 

ーー……

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 5人一様に顔がブルーになる。

 

 

「彼女の危険性を危うんだ私達4人が、学園長に無理を言ってクラス担任から外してもらい、彼女専門の指導員となること1年と半年。私たちは常に戦いの日々に明け暮れていました。瀬流彦先生は、まだここに赴任して間もないゆえに余裕があるのかもしれませんが……」

 

 刀子がそういうと、瀬流彦を除く他の面々はうんうんと頷く。

 

「毎晩毎晩徹夜に明け暮れ私の肌も荒れに荒れ……。おかげで男にも逃げられ心身共に極限状態に達し、ようやく山場を乗り越えたと思ったら次の事件に駆り出され…………。一向に減ることのない書類の山、その原因を作った当人はいつの間にか長期の旅行で麻帆良を離れている始末ッ!!!あのあばずれ小娘が……!」

 

 刀子の持つティーカップがガタガタと揺れ、中身が溢れる。

 さすがの他の面子もその様子には軽く引き気味のようだ。

 

「……い、いやぁ、なんかすいませんでした」

 

 藪蛇だったかーーと瀬流彦は辟易した。

 特に憎しみに染まった女教師の表情は直視に耐えるものではなかった。

 

「深夜のカーチェイス事件はしばらく頻繁に起こったよねぇ。なんでも『麻帆良道最速理論を極める』とかなんとか。……街中の巨大モニターをジャックして音楽流しながら中継までやってたね。あの頃まだ茶々丸君もいなかったのにどうやったんだろ……」

 

「高畑先生と明石教授はあの時ばかりは怒ってましたね……まぁそれもそうでしょうね。自分たちの車をカーチェイスの道具に使われ、挙句には麻帆良湖に沈められたのですから。あれ以来新しく車を買うたび乗り回されるものだから、今ではすっかり電車通勤ですが」

 

「フッ…………俺とガンドルフィーニの愛車も何台か奴らに持ってかれてしまったな」

 

「ああ…………あいつら軽自動車でも問答無用でカーチェイスの道具にするぞ。次の日文句を言われたよ。何が「もっといい車買え、高そうな車みたいな名前してるんだから」だ馬鹿野郎!お前らが勝手に乗り潰すからおっかなくてこっちはーー」

 

「まぁまぁガンドルフィーニ先生。それと「高そうな車みたいな名前」なんて言ったのは闇の福音の方ですよ」

 

 弐集院がガンドルフィーニを諌める。

 見れば各々過去にあった事件を思い出し、涙に歯を食いしばっていた。

 

(僕が麻帆良に来てから一度もないんだよなぁ、カーチェイス。見てみたいなぁ、刹子ちゃん、きっとカッコいいんだろうなぁ……) 

 

 若干一名違う事を考えている者もいたが。

 

「う〜ん、でも、僕が今まで聞いた限りでは、刹子ちゃんは魔法に関するいざこざは特に起こしていないそうじゃないですか。それに、深夜のカーチェイスだって確か闇の福音に唆されてやったことだって聞きましたし、ウルスラ襲撃だってーー」

 

 そういう瀬流彦に、ガンドルフィーニが涙を流しながらも詰め寄る。

 

「魔法に関することじゃないからなおのことタチが悪いんだ!彼女は学園に張られている認識阻害の結界をいいように利用しているんだよ!どうせなら魔法で一発ドカーン!とやってくれた方がまだわかりやすくて良いくらいだ「いや、さすがにそれは」……それともなんだね?君は僕達の車のことよりも彼女の肩を持つ気かい!?」

「フッ……俺たちの車のことなんかどうでもいい、そういうことか?瀬流彦」

 

 確かにあなたたちの車のことなんてこれっぽっちも残念だとは思ってない、むしろ早く新しい車を買って欲しいーーとは、口が裂けても言えない瀬流彦は、首をフルフルして否定する。

 

「瀬流彦先生、あなたあんなあばずれ小娘の味方をするなんてどういうつもりです!?親しげに「ちゃん付け」なんかして!」

 

「瀬流彦君はたまに彼女を擁護するような物言いをするけど、ひょっとして、彼女に脅されてるの?」

 

 一斉に瀬流彦に食らいつく面々。

 こればかりは瀬流彦もたまったものではなかった。

 

「ち、違いますよ!別に脅されてなんか……あ〜!そういえば、今日はほら、彼が麻帆良に来る日じゃないですか!忘れちゃったんですか?」

 

 必死に話題をそらそうとする瀬流彦。

 それを受けて、乗り出していた身を収める4人。

 

「ふむ、サウザンドマスターの息子だろう?別に忘れてたわけじゃないさ」

 

「かの英雄の血を受け継いだ天才少年、当然興味はあるよ?ただねぇ……」

 

「「「「それ以上に、今はこの疲れを癒したい」」」」

 

 あ〜、この人たちもうダメかもしれないなーー瀬流彦はそんなことを思った。

 

「それにね、彼には高畑先生がお目付役で付くんだろう?心配ないさ」

 

「それでも、せめて顔合わせだけでもしておくべきじゃ……ほら、せっかく皆さんオフなんですから」

 

「今度の魔法関係者の集まりの時にでも自己紹介すればいいだろう。今さら我々がぞろぞろと出向いたところで彼を驚かすだけだよ。高畑先生の邪魔にもなりかねない」

 

「そうだよ瀬流彦先生。何度も言ってるでしょ、僕らはクタクタなんだ。せっかくの休みなんだ、のんびりしようよ」

 

「フッ……束の間の平和を満喫、か……それも悪くない」

 

「いっそこのままあの小娘が戻ってこなかったらどれだけ楽か……」

 

「それは願ってもないことだね」

 

「「「「ハハハハハ!!!!」」」」

 

(いいのかなぁ……こんなんで)

 

 瀬流彦が目の前の大人たちに不安を抱いた、そんな時ーー

 

 

ーーどうやら、あなた方は実にふぬけてしまったようですね。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 その声は、5人の頭の中に響いた。

 

 

ーー貴方達の正義の心に陰りが見えます。このままでは大変なことになりますよ。

 

 

「これは……!この、頭の中に直接響いてくる声は……!まさか!?」

 

「フッ……お出ましというワケか」

 

「いつも我々が窮地に陥った際に、何処と無く何処からともなく聞こえてくる……天の声」

 

「この……厳かな声の主は……」

 

「……えっと、ここは僕も乗っかった方がいいのか、な?」

 

 

「「「「「ジャスティス神さま!!!」」」」」

 

 

 彼ら5人が、一際通学する生徒たちから注目を集めていたのは、言うまでもない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 とある国のとある街、人気のないカフェテラス。

 そこに、ゴスロリ衣装に身を包んだ年端もいかない少女が1人、お茶を飲んでいた。

 

「ああ、行き交う人々を眺めながら1人カフェで佇む、なんて素敵な休日なのでしょう。女子力が高まっていくのを感じます……」

 

 皆さんお久しぶりです、セクストゥムです。

 私は今、女子力探しの旅にーーではなく、仕事の都合で旧世界、魔法世界問わず各地を飛び回っています。

 

「グッドナイト†エヴァ10周年イベントのことから、例の組織のことまで……何かと大忙しで休む暇もありませんでしたが、今日は丸一日オフです。たっぷりと休日を満喫させていただきましょう。ーーほんとはアリカ様と一緒ならよかったのですが、あの方も何かと忙しい身ですからね、仕方がないとしましょう」

 

 セクストゥムはティーカップを置くと、すぐ横に積んであった「きせかえごっこカード」の束を手に取り、小さな両手で器用にシャッフルを始めた。

 

「手持ち無沙汰になるとついついきせかえごっこカードを弄ってしまいますね。別にこれで遊ぼうなんてつもりもないのですが……」

 

 ある程度シャッフルをしたら、今度は1枚ずつテーブルの上に並べ出す。

 傍目に見たら、カード占いをしているかのように映るかもしれないが、実際はただカードを並べているだけである。

 

「ふふ、素敵なお洋服がいっぱい♪癒されますね〜…………っと、余計なカードが混ざってました」

 

 テーブルに並べられたカードはどれも洋服や小物類の絵が描かれている中、5枚だけ様子の違うものがあった。

 その5枚はどれも人間が写っている。

 

 

 きせかえごっこ「束縛する彼女」(SR)

 

〜カードに登録された人物の現在位置の確認、及び会話を盗聴することができる。

〜「来たれ(アデアット)」でカードが認証登録状態になり、そのまま対象と握手を交わすことにより登録が可能。

〜以降は、カードに登録された相手が「セクストゥムに盗聴されている」という事実に気づくまで使用が可能。

〜距離が離れている場合、音声に乱れが生じる。

〜推奨はしないが、登録されている対象に念話を送ることも可能。

 

 

 カードに写っている人物らの名はーーガンドルフィーニ、葛葉刀子、神多羅木、弐集院、瀬流彦。

 もはや、言うまでもないであろう。

 

 

「何かと私に突っかかってくる面倒な人たちですからねぇ。何か弱みでも握れればと思いカードに登録させてもらいましたが……実際はいたずらをする事くらいにしか活用してないんですよね………おや?どうやら5人とも同じ場所に集まってる模様」

 

 セクストゥムは5枚のカードに向けて「来たれ(アデアット)」と宣言。

 カードから若干乱れながらも声が聞こえてくる。

 

「どれどれ、あの方々の様子でも伺いましょうか。5人集まって話していることなんて大抵はーー」

 

 

ーー……ザザ……彼女がいないだけで、ここまで………

ーー……いざ奴が戻ってきた時に…ぞ……

ーー……ザザ……彼女が…学園にやってきた……もうじき2年……

 

 

「ほらやっぱり。彼女とはおそらく私のことでしょう。ふふ、一体どのようなことを話しているのでしょうか」

 

 セクストゥムは、この10年間で割と自意識過剰に育ってしまったようだ。

 

 

ーー……毎晩毎晩……ザザ……当人はいつの間にか……旅行で麻帆良を離れて…………あのあばずれ小娘……

 

 

「……お、おや?あばずれって……ひょっとして別の人の話をしてらっしゃる?……いや、でも旅行で麻帆良を離れてるって、や、でもあばずれって……」

 

 

ーー……深夜のカーチェイス……麻帆良道最速理論……

ーー……馬鹿野郎……おっかなくてこっちは……

ーー……刹子ちゃんは……そうじゃないですか……ウルスラ襲撃だって……

 

 

「あ〜。やっぱり私のことで間違いないようですね……じゃ、じゃあ、さっきのあばずれどうのこうのって……」

 

 

ーー……あんなあばずれ小娘の……ちゃん付けなんかして……

ーー……瀬流彦君…………彼女に脅されてるの?……

 

 

「む、むぅ!教師5人集まって生徒の悪口ですか!?なんて酷い言われようなのでしょう!?この私をビッチ呼ばわりだなんてーーゆ、許せません!!」

 

 そりゃ、同級生の子たちと比べたら多少はそういった風に見られるのも仕方ないかもしれませんけど……で、でもそれは私の戦力アップに関わる大事な行為なのであって、決してふしだらな目的のためにやってるわけじゃないんです!

 キスする相手も大抵は女の子ですし。……まぁ、アリカ様を除いて一番数をこなしている人物はアルさんなんですけど……

 

 

ーーそういえばーーッーーが麻帆良にやってくる日ーーー

 

 

 おっと、いけないいけない。

 自分の世界にイントゥザダイブしてました。この癖いつまでたっても治りませんね。

 

 

ーー高畑先生がーーいるんだ、心配無いさ

ーー我々が……出向いたところで……高畑先生の邪魔に……

 

 

「?荒事でしょうか?それにしても正義の代行者ともあろう方々が他人任せとは……そうだ、先ほどのビッチ呼ばわりの仕返しに……少しからかって差し上げましょう」

 

 「束縛する彼女」はこちらから声を届けることもできる。

 この機能を使ってーー

 

 

ーーいっそこのままあの小娘が戻ってこなかったらどれだけ楽か……「ハハハハハ!!!!」………

 

 

「言ってなさい。ふふ、ーーどうやら、あなた方は実にふぬけてしまったようですね」

 

 

ーー!?

 

 

「ーー貴方達の正義の心に陰りが見えます。このままでは大変なことになりますよ」

 

(ふふ、驚いてる驚いてる♪麻帆良では結構()()()()()()()こともあって、こうして丁寧な言葉遣いをするだけで全然私だってバレないんですよね……まぁ、麻帆良では()()()()()()で活動してましたから、単純に声色の違いで気づいていないだけかもしれませんが)

 

 

ーーこれは……!この、頭の中に直接響いてくる声は……!まさか!?

ーー……フッ……お出ましというワケか

ーーいつも我々が窮地に陥った際に、何処と無く何処からともなく聞こえてくる……天の声

 

 

ーージャスティス神さま!!!

 

 

(……あ〜、確かそんな設定でした。にしても、ジャスティス神とか……ないですよね〜)

 

 

 ジャスティス神。

 

 それは、目に見えて疲労が蓄積してますと言わんばかりの5人のことを慮ったセクストゥムが、半ば労いの意図も含めて「束縛する彼女」の念話機能を用いて彼らにエールを送ったことが事の始まりである。

 

 当初5人は、疲れからくる幻聴だと一切怪しまなかった。

 それどころか、自分たちを労う言葉の数々が疲れた心身を癒し、逆に感謝の言葉を述べるほどだった。

 

 それを面白がったセクストゥムの行動はさらにエスカレート。

 自身を正義と慈愛の神「ジャスティス神」だと偽り、あなた方5人は正義の神に選ばれた代行者なのだーーと悪ノリをする始末。

 

 さすがの5人もこのノリばかりはただ笑ってあしらった(そもそも幻聴がそんな事を言い出している時点で怪しいと気づくべきなのだが)。

 

 しかしこの「ジャスティス神」は来る日も来る日も、彼らが危機に陥った際に適切な助言(ただの耳障りの良い励まし)を与え、幾たびの困難から彼らを導いた(問題を起こした事に反省したセクストゥムが、せめてものお詫びのつもりで彼らを励ましただけ)。

 

 いつしか5人は「ジャスティス神」の存在を疑わなくなった。

 

 彼らは、このようなあからさまに胡散臭い存在を認めてしまうほどにーー疲れ切っていたのだ。

 

 

「ーー平和に胡座をかいて、目の前の問題を他人任せとはなんたることですか」

 

ーーいや!?我々は別に……他人任せをしているというつもりじゃ……

ーー僕たちは……ただ久々の……を満喫しているだけで……

 

 

 このように、胡散臭い存在に対し普通に受け答えをしてしまうほどに……。

 

 

「ーー出会ったばかりの頃の貴方達は実に正義に満ち溢れていた。幾度ともなく空回りすることも多々あれど、貴方達は懸命に自分たちの正義の心に従い行動をしてきた……それが、今や自分たちの手に余ることだからといって行動を起こそうとすらしない」

 

ーーあぁ……ジャスティス神様……どうか私達をお許しください……

ーー何事も適材適所……自分たちの正義が時に誤った結果を招く事になり得ると仰ったのは貴方様ではありませんか……

ーー……今回は……高畑先生に任せれば……問題は……

ーー……う、う〜ん……この声やっぱどこかで………

 

 

(え、そんなまともな事言ってたんでしたっけ、私。……う〜ん、でも荒事を高畑先生一人に任せるなんてよくないですし、ここはーー)

 

 

「ーー黙りなさい!!!」

 

 

ーー!?!?!?!?!?

 

 

「ーーよくもそのような言い訳をつらつらと!恥を知りなさい!……私は悲しいです、正義の代行者に足る方々だと見込んで今日という日まで私は貴方達を導いてきた。ーーしかし、それも間違いだったようですね」

 

ーーそんな!?ジャスティス神さま!……決して我々はそのようなつもりでは……

 

 

「ーー言い訳は十分です。私は深く失望しました。ーーこれから貴方達の目の前で生徒達が傷つく事があるとしたら、それは貴方達自身の怠慢が招いたものだと知り、そして絶望しなさい」

 

ーージャスティス神さま!?……そんな、どうか我々に今一度……

ーーこれはやばいよ!……ジャスティス神さまに見捨てられたら僕たちは……

ーーフッ……俺たちは、間違ってしまった……という事なのか……

ーーいやぁああ……ジャスティス神さま!ジャスティス神さま!!……

ーー……やっぱ聞き違いかな……刹子ちゃんに声が似てるだなんて………

 

 

「こちらからの念話は遮断ーーっと。ふふ、これで少しは身に沁みましたかね」

 

 

 セクストゥムからあちら5人への念話は切られたが、5枚の「束縛する彼女」からは未だ彼らの阿鼻叫喚の様が聞こえてくる。

 それを、両手で頬杖を付きながら、意地の悪い表情を浮かべ聞いているセクストゥム。

 

 

ーー我々は一体……どうすれば…………「キャーーッ!何よコレーーッ!」ーー!?……なんだ!?………

ーー……悲鳴!?……しかも女子の声だったよ!?……

ーーフッ……こうも早くツケが回ってきたか……

ーー……まさか、これがジャスティス神さまの言っていた我々の怠慢が………

 

 

 何やらカード越しから聞こえてくる彼らの様子がおかしい。

 

「ちょっと、本当にまずい事になってるんですか?あ〜、言わんこっちゃないですよ」

 

 

ーー今からでも遅くはありません!……私達も現場に向かいましょう!……

ーーよし、行くぞ!!……ザザザザザザザ……

 

 

「あ、ちょっと移動しただけで酷いノイズ……ん〜〜〜、このアーティファクトほんっと使いづらいですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲鳴の聞こえた現場へと駆けつけた5人の魔法先生。

 

 そこには、公衆の面前で下着姿をさらけ出し、その場にうずくまる少女。

 

 唖然とした表情の高畑、そしてーー

 

 

 ーーぷんぷんと顔を膨らませ怒った表情の少年が、その下着姿の少女を見下ろしている光景があった。

 

 

 

 




やらかしたセクストゥム

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