6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い   作:肩がこっているん

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お子ちゃま先生vsジャスティスレンジャー〜後編

 真夜中、とあるビジネスホテルの一室。

 質素な部屋の雰囲気にまるで合ってない、アンティーク調の姿見の前にセクストゥムは立っていた。

 

「ーー起きなさい、鏡の中の私」

 

 鏡に映る自身へと語りかけるセクストゥム。

 すると鏡面に波紋が広がる。そこに映る自身の姿が幾度か揺らぎ、やがてそれも静まる。

 

 ーー別段、何かが起きた様子はない。

 

 セクストゥムは、鏡に映る自身に変化がないことに疑問符を浮かべる。

 

「あ、あれ……私何か間違えましたかね?これでいいはずーー「成功してますよ」って、ひゃぁ!?」

 

 成功してますよーー声色はセクストゥムと同じものだったが、それは姿()()()()から聞こえた。

 そして、その声の主は今、姿()()()()()()()ひょいと顔を出している。

 その様に思わずセクストゥムは驚きの声を上げながら仰け反り、転倒。

 尻餅をつき、鏡面から顔を出している人物を見上げる形となった。

 

 再びその人物が声を発する。

 

「ふふ、ドッキリ大成功ですね♪尻餅なんてついて、私の本体ともあろうに情けないですよ?」

 

「こらー!!自分自身を驚かすとは何事ですかー!!」

 

 鏡に向かって怒鳴るセクストゥムをよそに、よいしょーーと窓から身を乗り出すかのようにしてその人物は鏡の中から這い出てきた。

 外見から服装、何から何まで、ただいま尻餅をついているセクストゥムと瓜二つの少女がそこにいた。

 

 

 

 きせかえごっこ〜「空谷の姿見(くうこくのすがたみ)」(SSR)

 

〜セクストゥムの「完全分身体」を作り出す(魔力保有量以外完全コピー)。

 

〜分身体の魔力保有量は、本体の魔力保有量から分割する形で負担する。

 

 (例)本体:分身  7:3 → ◯

 

    本体:分身 10:4 → ×

 

〜副産物として、身につけている衣服や所持品も複製される。

 

〜「きせかえごっこカード」は、カード自体が複製不可なので、分身を作り出す際に複製はされない。

 

〜本体が解除するか、または致死量に至るダメージを分身体が受けた場合、分身は解除される(分け与えていた魔力保有量、所持していた物品は本体へ返還される)

 

 

 

 セクストゥムと瓜二つの少女が今しがた出てきた姿見。 

 その姿見はアーティファクトであり、その能力は上記に記した通り。

 セクストゥムの分身体ーーそれが姿見の中から現れた少女の正体であった。

 

 

「先ほどネカネちゃんに素敵なサプライズをおみまいされましたから、つい悪戯心が湧いてしまいまして……」

 

 分身はおどけた表情で、尻餅をついている本物に対して、そう答える。

 

「っ〜〜〜、……ハァ。その様子だと、容姿だけでなく記憶までちゃんと受け継がれてるようですね。初めて使ったアーティファクトなので不安でしたが……」

 

 分身である以上、目の前の相手は自分そのもの。

 自分相手に憤ったところで虚しくなるだけーーそう悟ったセクストゥムは気を取り直して立ち上がり、目の前に存在する我が写し身の状態を確認することにした。

 

ーーぺたぺた

 

 自らの分身に触れるセクストゥム。

 触れられるがままに、分身は話を続けた。

 

「先ほど鏡に映る自分に語りかけるまでの記憶がありますよ。私自身不思議な感覚です」

 

「身体の調子はいかがです?」

 

ーーぺたぺたぺた

 

 受け答えをしながらも、分身の身体を触りまくるセクストゥム。

 その表情には若干感動の様相が含まれている。

 よく見れば分身の方も少し顔を赤らめている様子。

 

 側から見たら、双子がじゃれあっているようにしか見えない。

 

「……ふむ、特に不調はありませんね。身体性能も、魔力保有量以外は本体である貴女と同スペック。ご丁寧に、脳内在住の電子精霊たちもちゃっかりコピーされてますよーー今頭の中でめっちゃ騒いでてうるさいですけど」

 

「貴女に分け与えた魔力保有量は、最大値の2割ほどしかありません。……すいませんね」

 

 充分に自身の身体の再現率を堪能し、セクストゥムは分身に触れるのを止める。

 

完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)の動向が掴めない今、分身の貴女に割ける魔力保有量はそれが精一杯なんです。どうかご理解を」

 

「お気になさらず。分身である私に力注ぎすぎたせいで本体である貴女がやられてしまった、では本末転倒ですからね。それに、麻帆良で生活する上でそこまで魔力量は重要ではありませんし」

 

 さすが自身の思考を完全再現しただけあって、特に不満もない様子の分身。

 その様子に安堵したセクストゥムは、備え付けのベッドに腰を下ろす。

 分身も同じように、セクストゥムのすぐ横に並ぶように座る。

 

 目の前にある姿見に、ベッドに腰掛ける2人の姿が写る。

 まさに魔法が成せる術といったところかーーそう思いながら、セクストゥムは会話を再開する。

 

「貴女が言う通り、麻帆良にいる限りは武力が必要になることなどそうそう無いでしょう。それに、あちらではもっぱら包丁殺法がメインでしたからね。……本当は自分の足でネギ君の元に出向きたいのですが、間が悪いといいますか……せっかく面と向かってネギ君と会える機会が巡ってきたというのに……」

 

「さらに言うと、今は麻帆良に戻ってる余裕すらないんですけどね。……4体ですよ?クルトさんの情報で、私達を除き、現在確認されているアーウェルンクスの数は」

 

「分かっていますよ、これは私の我が儘です。対アーウェルンクス戦が起こった場合のことを考えると、このように戦力を分散させるような形は得策ではありません。…………それでも私は、今のうちにネギ君に会っておかないといけない気がするんです」

 

 セクストゥムは目の前の姿見に写る自分を見つめながら、そう言う。

 

「貴女の気持ちは、同じく貴女の分身である私がよく理解してますよ。……貴女は自分の仕事を全うすることだけを考えてください。ネギ君のことは、私が」

 

 分身は、セクストゥムの手に自身の手を重ねた。

 我ながら頼もしい分身だーーセクストゥムは心の中で熱いものが込み上げてくるのを感じた。

 

「ネギ君を頼みます。ーーもう1人のセクストゥム」

 

 セクストゥムは分身の顔を見ながら言う。

 

「そちらこそ、アリカ様をお願いしますね。ーーアリカ様から離れるのは、分身である私からしたらここ10年で初めてのことなんですから」

 

「ええ、言われるまでもありません」

 

 両者とも互いの意思を確認し合い、決意を固める。

 誰よりも信頼できる存在、私達なら心配はいらない、お互いそう確信した。

 

「「六戸刹子」の戦闘スタイルに合ったものを厳選した、きせかえごっこカードのセット。忘れずに持っていってくださいね。あちらでもガンガン仮契約をお願いします。あ、出発する前にこの部屋の中で体を中学生バージョンにしておいた方がいいですよ。それと、ポケットに入れてあったお財布、ちゃんとコピーされてます?……あ、ちゃんとコピーできてますね♪いやぁ、さすがSSRクラスのカードですね。これを多用すればお金なんて無限にーー」

 

「……あの、ちょっといいですか?」

 

 まとめに入ろうと、まくしたてるように喋っていたセクストゥムに対し、分身が待ったをかける。

 

「はい、なんですか?急を要する事態ゆえに予め旅支度は整えておいたので、すぐに出発できますよ?それは貴女もご存知でしょう?」

 

 そうセクストゥムは言うが、分身は何やら煮えたぎらない様子。

 分身は、確認の意味を含めて、次のような質問をした。

 

「ええ、その点は心配してないのですが。その……やはり、今から出発、ですか?」

 

「え?」

 

 

 そう言われて、セクストゥムは改めて己の分身体の姿を眺める。 

 

 分身はパジャマを着ている。自分と同じ格好だ。

 

 現在真夜中である。

 

 セクストゥムは、事が済んだらそのまま寝るつもりで、自分の分身を作り出した。

 

 「空谷の姿見(くうこくのすがたみ)」は、分身体が作られる寸前までのセクストゥムの状態を完全に再現する。

 

 つまりーー

 

 

「ひょっとしてーー眠かったりします?」

 

「……ええ、お恥ずかしながら」

 

 

 

……………………

 

 

 

 結局、セクストゥムは分身の訴えを受け入れ、出発は明日の朝に決まった。

 2人は現在、一つのベッドの上で寄り添うように横になっている。

 

 

「「…………」」

 

 お互い目は開いている。

 なんとも、2人は少し緊張している様子である。

 

「変なことしないでくださいよ?」

 

 言ったのは本体か、それとも分身か。

 この際どちらでも構わないが。

 

「それはそれで、中々特殊な趣味を開拓できそうですね。……やってみます?」

 

「……やめときましょう。なんだか戻ってこれないところまで行ってします気がします」

 

 2人は顔が赤い。

 その光景を想像しているようだ。

 

「……仮に、私達2人がキスしたら、ーーその場合カードは出てくるんですかね?」

 

「……試してみる価値は、あると思いますよ?」

 

 お互い目が合う。

 スタンドライトの明かりにより、お互いの表情はしっかりと確認できる。何やら昂揚した様子だ。

 薄暗い部屋が、いかにもな雰囲気を醸し出している。

 

「「………………」」

 

 オレンジの明かりに照らされる中、2人の陰が重なった。

 

 

 

〜〜

 

「なんでしょう、この胸騒ぎは……!私の知り得ないところで、何かとてつもなく淫らな世界が繰り広げられているような気が。この感じは一体……」

 

 遠い国の地底深く、1人の男が妙な電波を受信していた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 麻帆良学園女子中等部、2ーAの教室。

 現在昼休みの最中であり、教室内は疎らながらも残っている生徒たちで賑わっている。

 

 昼食を終えた明日菜は、机に突っ伏しながら午後の授業に向けて束の間の休息を取っていた。

 そんな彼女の元に、1人の訪問者が現れた。

 

「アスナさん!」

 

 呼ばれた明日菜は顔を上げる。

 この声はーー。

 

「何よネギ坊主。今私休んでるんだけど?」

 

 明日菜のもとに訪れた人物はネギだった。

 休息時間を邪魔された明日菜は少し不機嫌気味である。

 そんな明日菜の様子をお構いなしに、ネギは何やら用があるのだと囃し立てる。

 ネギは手に持っていた、謎の液体の入った試験管を指差し、勝手に説明を始めた。

 ネギが言うに、その試験管の中身はーー。

 

「で?そのおかしな色の液体がホレ薬ってわけ?……私、いらないって言ったわよね?」

 

 ホレ薬。

 飲めばたちどころにあらゆる異性にモテモテになる薬。

 試験管の中身は、そのホレ薬なのだとネギは言う。

 

 明日菜は、昨日ネギが魔法使いだと知った際に、「魔法とはどのような事ができるのか」といった内容の質問をした。

 その質問の中で、明日菜は「異性から好意を得られるもの、ホレ薬のようなものはないのか」とネギに聞いたのだ。

 

 それに対し、ネギは「ある」と言った。

 ただ、そのホレ薬を作るために要する期間は4ヶ月、とのこと。

 ネギは「今から作り始めましょうか?」と明日菜に提案したが、明日菜は悩んだ挙句その提案を断った。

 

 そんなものに頼らねば実らない恋だというなら、やるだけ虚しいだけではないか。

 明日菜はそう思い至り、自分の力で意中の人をものにしてやるーーと、決心を固めたのであった。

 

 だというのに、目の前のネギは何を聞いていたのか。

 

 なぜ、いらないと言ったホレ薬を持ってきたのか。

 そもそも、作るのに4ヶ月かかるのではなかったのか。

 

 明日菜はそれらの疑問をネギにぶつける。

 それに対し、ネギから返ってきた返答はというとーー。

 

「このホレ薬は、麻帆良一の問題児さんに対抗するための、対策その1です!」

 

 明日菜はその返答の意味が理解できない。

 説明を促す。

 

「あれから考えたんです。どうすれば僕は、麻帆良一の問題児ーー六戸刹子さんと良い関係を築くことができるのかと。……けど、これだ!という案は浮かびませんでした。だから、まずは色々と数を用意しようと思ったんです」

 

「……で、その数ある一つがそれ(ホレ薬)ってわけ?」

 

「はい!さっき鞄を漁ってたら、昔おじいちゃんがくれた「魔法の素・丸薬七色セット×12」が出てきたんです!これを使って、普通は4ヶ月もかかるホレ薬を数分たらず完成させたんです!」

 

 どんだけ都合の良いセットなんだ。

 その魔法の素なんちゃらは。

 

 しかし、別にホレ薬が早く完成した理由など、明日菜にとってはどうでもいいことである。

 問題はーー。

 

「で、そのホレ薬をどうする気なのよ?ーー不良対策ってことは……まさかあんた、刹子にそれ飲ませるってわけ?」

 

 それは、教師として……いや、人としてどうなのだろうか。

 明日菜自身、そのホレ薬を使って、高畑先生をあわよくばーーなどといった考えが頭を過ぎったものの、結局は思いとどまった。

 ホレ薬。一歩引いて、その薬が及ぼす作用を考えてみると、あまり褒められたものではない。

 

(危うく私ったら取り返しのつかないことを……)

 

 明日菜は、「ホレ薬なんかに頼らないでよかった」と安堵した。

 

 しかし、目の前の少年はそのホレ薬を他者に使おうとしてーー。

 

「ち、違いますよ!これは、あくまで試作品なんです!魔法の素セットはたくさん余ってるので、このホレ薬が上手くいったら、徐々に改良を加えていって、ゆくゆくは「不良更生薬」なるものを完成させようと……」

 

「ハァ?不良更生って……そんな曖昧なもの、ホントに作れるわけ?」

 

 どうやら雲行きが怪しい。

 目の前の少年、やはり「不良」という言葉に怯えて判断が鈍っているのか。

 明日菜はそのように感じた。

 

「確かにそんな薬はないんですけど……でも、原理は近いと思うんです!だから…………や、やっぱダメですかね?」

「私にそんなこと聞くんじゃないわよ。……ハァ、あんた頭は良いくせして、こういうところはホントガキなんだから」

 

 明日菜はネギとしっかり目を合わせる。

 

「あんた教師なんでしょ?こんなろくでもないモノに頼ろうだなんて考えてる内は、いつまでたっても一人前になんかなれないわよ」

「う、おっしゃる通りです……」

 

 ネギはガクリと頭を垂れる。

 明日菜は言葉を続ける。

 

「それに、不良って言葉にビビりすぎよ。大丈夫、刹子はあんたが思ってるほどヒドイ奴じゃないから。……ちゃんと教師として向かい合えば、心配することなんてないわ」

 

 明日菜の言葉を受けて、ネギは反省しているようだ。

 

(なんで私が柄にもないこと言ってんだか……やっぱ無理なんじゃない?ガキに教師なんて……)

 

 落ち込むネギの前で、明日菜もまた頭を抱えた。

 しかし、いつまでもこうしていては埒があかない。

 昼休みの時間も長くないのだ。

 明日菜は、なけなしの休息時間を確保すべく、目の前の少年にこの場からの退散を訴える。

 

「もう用は済んだでしょ?ほら、さっさと行った行った」

「は、はい……お手数をおかけしました……」

 

 ネギは立ち去ろうとする。

 しかし、ふと明日菜の脳裏に疑問が過ぎる。

 

(そういえば、なんでわざわざ私の所にきたのかしら?……私の意見が聞きたかったから、ってこと?)

 

「ねぇ、ちょっとあんた」

「……はい?なんですかアスナさん」

 

 明日菜はネギを呼び止める。

 

 結論から言おう。

 明日菜はここで、その疑問を口にすべきではなかった。

 

「あんた、なんで私の所に来たわけ?」

「え?それはーー」

 

 ネギの口から語られる、今回の来訪の目的。

 

「えと、意外にも簡単にホレ薬ができちゃったので、せっかくだからアスナさんに試してもらおうと思いまして。ほら、ちゃんと効くか試しておかないと……。それに、アスナさんのお役にも立てますし……」

「へぇ……」

 

 明日菜は席を立ち、ゆっくりとネギに向かって近づいていく。

 

「ようはあんた、私で実験しようって腹だったわけね……」

「え!?そ、そんな、そんなつもりじゃ……アスナさんも、タカミチと仲良くなる良いチャンスじゃーー」

 

 ネギは大慌てで否定する。

 その間明日菜はネギの前に立ち、手に持つホレ薬入りの試験管を奪い取る。

 

「……言ったでしょ?私、いらないって。……ネギ坊主、良いこと教えてあげるわ。こういったのはーーまず自分で試すもの、よ!!!」

 

 そう言って、明日菜はネギの口に試験管を突っ込む。

 中の液体が、ネギの口内へと流れる。

 

 

「ーーん、むぐぅ!?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 2ーAの教室で、ネギと明日菜が会話を行なっていたのと同じ頃、2ーAの教室から少し離れた廊下の真ん中に、彼ら5人は居た。

 そう、明日菜が言うところの、「ジャスティスレンジャー」の面々である。

 

 彼らの表情は、皆一様に暗かった。

 

「やることがない……」

「高畑先生も酷いよね。「ネギ君は僕に任せて、貴方達はしばらくゆっくりしててください」……なんてさ」

「フッ……事実上の戦力外通告といったところか」

「私たちの監視の何が良くなかったのでしょうか……」

 

 もう一度言うが、彼ら5人は廊下の真ん中に立っている。

 周りの生徒達が、面倒そうに彼らを避けて通っていく。

 比較的このメンツの中では正常な部類の瀬流彦も、この状況に慣れてしまったのか、周りの目を気にしている様子はない。

 慣れとは怖いものである。

 

「そういえば、皆さんはどう思いました?ネギ君のこと。……多少危なっかしい所はあるけど、それも許容の範囲内だと僕は感じたんですが」

 

 少しでも場を盛り上げようと、瀬流彦が話題を提供する。

 

「瀬流彦先生の言う通りだと思うよ?普通に良い子だよね、彼」

「ええ、昨日も話した通り、多少の危うさは時間が解決してくれるように思います」

 

 ネギの評価はおおむね良好なようだ。

 

 それもそのはず、彼らは、昨日の内にネギが明日菜に魔法バレしたという事実を知らない。

 

 ネギの魔法バレの決定的瞬間、その現場の近くにいた彼らだが、さらに彼らを監視していた高畑の献身的なフォローによって、ネギの失態はかろうじて隠蔽されていた。

 

 ちなみにその時の高畑が行なった献身的なフォローというのも、ネギが魔法を使う瞬間に彼ら5人の前に立ちはだかり、「ワー!ワー!」と言いながら身振り手振りに視界を遮ったというだけである。

 

 このままでは身が持たないーーそう思った高畑が、彼らにネギの監視を止めてくれるよう説得したのも当然のことだった。

 

 そんなわけで、彼ら5人からしたらネギは「危なっかしいけど、良い子」という評価に留まったのである。

 

「そうだね、良い子だよ、彼は。……それだけになんか、こう……君達もわかるだろう?」

 

 ガンドルフィーニは何やら浮かない様子で、他4人に何やら同意を求めようとしている。

 

「あ〜、ガンドルフィーニ先生の言いたいことはわかるよ?」

 

「ええ、私もおそらく同じような感情を抱いてます」

 

「フッ……ようはこう言いたいんだろう?あの少年は少しばかりーー」

 

 5人は口を揃えて次のように言った。

 

 

「「「「「ーー刺激が足りない」」」」」

 

 

 彼らの言葉は一言一句違わず一致した。

 

 

「だろう!?刺激が足りないんだよ!……あぁ、なんかこう、手が掛からなさ過ぎるというか……」

 

「わかるよぉ!良い資質は持ってるのに、それを押さえ込んじゃってる気がするんだよ!もうちょっと自を曝け出してくれれば、良い線行きそうなのに!!」

 

「それです!彼は私たちの良き指導対象となってくれる資質があります!……しかし、今はそれが開花されていない」

 

「フッ……教師として腕が鳴らないーーそう言ったところか」

 

「ですね〜。なんか鈍っちゃうなぁ……」

 

 

 彼らの言っていることの意味がわからないと思う、だが許してほしい。

 

 あえて訳すならばーーもっと悪さをしてくれ、つまりそう言うことを彼らは言いたいのだ。

 

 この場にツッコミ役がいないのが大変悔やまれる。

 

 

「ああ、なんだろう……これからもしばらくこんな怠惰な日々が続くんだろうか。このままでは僕は無気力症候群にでもなってしまうよ……」

 

「ガンドルフィーニ先生……」

 

 5人の表情の陰がさらに深みを増す。

 

「……刹子ちゃん、早く帰ってこないかなぁ」

 

 瀬流彦がポツリと言った一言。

 それを聞いて、4人はここにいない彼女のことを思い浮かべようとした。

 

 その時だったーー。

 

 

 

ーーきゃ〜〜!!ネギく〜ん、待って〜〜♪

 

 

 

「?なんだ、この大声はーーーッ!ネギ君!?」 

 

「ごごご、ごめんなさーーい!!どいてくださいーーー!!!」

 

 廊下の真ん中を陣取る5人へと、ネギが何やら大慌てで突っ込んでくる。

 

 思わず5人は道を空ける。

 

 ネギは猛スピードで5人の間を走り抜けていく。

 

「なんだいネギ君、廊下をあんな勢いで走ったりし「どいてどいて〜〜!」ーーのわぁ!?」

 

 ネギが突っ込んできたと思ったら、間髪入れず追撃が来た。

 

 それは大人数の女子生徒達だった。

 女子生徒達の形相に驚いた5人は、思わず廊下の端まで後退して道を譲ってしまう。

 

「今のは一体……」

 

 状況の飲み込めない5人、さらにこちらに向かって駆け足が聞こえてくる。

 今度はなんだ?そう思って5人は駆け足が聞こえてくる方へと振り向く。

 

「ーー!高畑先生!」

「刹那!一体何事ですか!」

 

 やってきたのは高畑、そして桜咲刹那の2人であった。

 反応したのはガンドルフィーニと刀子。

 刀子と刹那は旧知の間柄である。

 

「……なんとも、間が悪いねーーはぁ」

 

 高畑はうんざりとした表情でため息を吐いた

 

 

〜〜

 

 

「何!?ネギ君がホレ薬を使って女子生徒を誘惑しただって!?」

 

「あの、別に誘惑したってわけじゃ……刹那君、何で言っちゃうんだい?」

 

「え!?い、いけませんでしたか!?」

 

 ネギが「ホレ薬」なるものを服用して、周りの女子達の様子に異変が起こった。

 

 このことを高畑は目の前の5人に明かしたくなかった故、どう答えたものか戸惑っていた所、横にいた刹那があっさりと答えてしまったのだ。

 

「彼らはこう言った魔法関連の事件には厳しいんだ。できれば知られたくなかった。……このままではネギ君が糾弾されてーー」

 

 高畑と刹那が5人に目を向ける。

 

 そんな彼らの様子はーー。

 

 

 

「まさかあのネギ君が!あんな良い子が!信じられない!これは我々の手で事態を納めねばいけないね!(めっさ良い笑顔)」

 

「ほおっておくと学園中の生徒が巻き込まれるよ!早く対抗策を打たないと!(キリッ)」

 

「ジャスティス神様に私達の熱意を示す絶好の機会です!あぁ、腕が鳴る、腕が鳴るわ!!(錯乱)」

 

「フッ……あまりはしゃぎ過ぎるない方がいいぞ?事は慎重に運ぶべきだ(高速スクワット)」

 

「高畑先生、ここは僕たちに任せてください。貴方の出る幕はありませんよ(!?)」

 

 

 

 とてもーー活き活きしていた。

 

 

「……高畑先生、私の目がおかしくなったのでしょうか?何と言うかーーとても元気なご様子な気が……」

 

「……奇遇だね刹那君。僕も同じような感想を浮かべたよ」

 

 

 予想とは違う5人の様子にフリーズしている高畑と刹那。

 そんな2人を尻目に、彼ら5人は水を得た魚のように颯爽とその場から走り去って行った。

 

 

「……刹那君、真名君達に増援を頼めないかい?」

 

「……よろしいのですか?」

 

「僕1人で今の彼らを止める自身がない。先ほど見ての通り、今の彼らはハイになっているからね……僕は先に彼らを追う、頼む」

 

「わかりましたーーご武運を」

 

 そう言って刹那はその場から離れていく。

 

 

(ハァ……刹子君が不在でも、僕のストレスは健在のようだね)

 

 

 高畑は諦めた表情で彼らの後を追った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 麻帆良女子中校舎内に存在する、図書室前。

 そこへ援軍を引き連れた刹那が駆けつけたが、そこには高畑が目の前の状況を見て頭を抱えている姿があった。

 

「高畑先生!こちらにいらっしゃいましたか!……ご無事、ですか?」

 

「あぁ、刹那君、来てくれたか。……真名君に、楓君、古菲君もすまないね」

 

「構わないよ高畑先生、報酬ははずんでーーこの状況は、何かな?」

 

 援軍としてやって来た龍宮真名が、目の前の光景を目にして、高畑にそう問いかける。

 見ての通りさーーそう言って高畑は図書室前に群がっている5人の教師達へと目線を向ける。

 

「くっ!扉が開かない!?」

 

「無駄な抵抗はやめなさい!君は包囲されている!」

 

「ネギ先生、速やかに人質を解放して投降しなさい!そして私達の新たな指導対象になるのです!」

 

 図書室前では、5人の教師達が謎の行動に走っていた。

 

「……緊急事態と聞いて駆けつけたアルが、いつもの愉快な先生達だったアルか」

 

「ふむ、ジャスティスレンジャーの面々でござるな」

 

 長瀬楓と古菲は、さして目の前の光景に動じている様子はない。

 彼女達にとっては、もはやお馴染みの光景だった。

 

「刹子の次は、ネギ先生ーーそう言うことでいいのかい?高畑先生」

 

「君の言う通りさ。久々に張り切っちゃってるみたいでね、彼ら。……刹子君のように、ネギ君にこの状況を切り抜けろと言うのは酷な話だ。悪いが皆、手を貸してもらえるかい?」

 

「望むところアル!この先生達とはいつか戦ってみたいと思ってたところネ!」

 

「このような機会は滅多に訪れないでござる。腕が鳴るでござるな」

 

「ーー刹那はいいのか?近衛なら先ほど廊下で介抱した故、お前が無理する必要はないぞ?」

 

「乗り掛かった船だ、ここで降りるなど許されないだろう。幸いあちらには刀子さんがいる。自分の腕を確かめるにはいい機会だ」

 

 4人は皆やる気のようだ。

 

「決まりだね。……彼らも今はああおかしくなってしまってるが、教師の本分まで忘れてしまったわけではないだろう。大きな怪我は無いと思うが、十分に気をつけるように……それじゃ、行くよーー」

 

 高畑側が一斉に臨戦態勢を整える。

 図書室の扉に向けて大声をあげていたジャスティスレンジャーの面々が、すぐさまその気配に感づき、後ろへ向き直る。

 

 

「!?何ということ……ネギ先生に気を取られている隙に、まさか私達が包囲されていたなんて……!?」

 

「くっ、君たち何のつもりだ!邪魔をするつもりか!?」

 

「フッ……今の俺たちに楯突くことがどういうことか……知りたいようだな」

 

「高畑先生……僕は、貴方にだけは負けるつもりはありませんよ」

 

「我々は誰であろうと屈しはしない!正義を、正義と自由なる解放を!」

 

 

 何と言うか、このジャスティスレンジャー、やたらとノリが良い。

 お決まりのようなセリフがポンポン出てくる。

 

 

(暑苦しい……どうにもこちらとの激しい温度差を感じる)

 

(この先生達ホント面白いアル。……言ってることほとんど意味不明アルが)

 

(刀子さん……貴女は一体どうしてしまったというのですか……)

 

 

「そうよ!今こそ私達の正義をーージャスティスを!!!」

 

「「「「「ジャスティス!!!」」」」」

 

 

 迫り来るジャスティスレンジャー。

 

 

「くるよ!皆、気をつけて!ふざけたこと言ってるが、この気迫は本物だ!ナメてかかっちゃいけない!」

 

「「「「ーーコク!!!」」」」

 

 

 迎え撃つ高畑陣営。

 

 

 

 

 今、世紀の一戦が幕を開けたーーーー。

 

 

 

 

 

 

 数()後ーーー。

 

 

 

 

 

「「「「「………………」」」」」

 

 

 

 ジャスティスレンジャーは全滅していた。

 

 

 地に伏した正義の戦隊を前にして、刹那達が思わず叫ぶ。

 

 

「「「「ーーーーよわ!?!?!?」」」」

 

 

(なんだこの茶番は……一瞬で肩がついたじゃないか)

 

(おかしいな……刀子さんの剣にキレがなさすぎた。これは一体……)

 

 

 ジャスティスレンジャーのあまりの貧弱っぷりに、逆に動揺をする刹那たち。

 

「高畑先生……これは一体どういうことでーーッ!高畑先生!?……何故ーー」

 

 高畑の様子がおかしい。

 刹那につられて、他の3人も一斉に高畑を見る。

 

「ーー何故、泣いておられるのですか……?」

 

 高畑はーー泣いていた。

 

 その様子を見て、思わずギョッとする真名達。

 

「……は、はは……泣きたくもなるさ……僕の同僚が、こんな……」

 

「高畑先生!!」

 

 高畑は膝から崩れ落ちる。

 駆け寄る刹那。

 真名、楓、古菲といった他の面々は、すでにこの状況についていけず立ち尽くすのみ。

 

「彼らはもう……刹子君無しでは生きていけない」

 

「「「は?」」」

 

 高畑の口から唐突に、そのような言葉が語られる。

 

「ーー!六戸さん無しでは?どういうことですか、高畑先生!!」

 

 刹那が聞き返す。

 他の3人はもうわけがわからない。

 

「彼らはね、刹子君という問題児の面倒を見ているうちに、生き甲斐を感じてしまったんだ……不良生徒を更生させるという、ごく普通の教師としての、生き甲斐をね」

 

「普通の教師としての、生きがい……」

 

「そう、本来彼らの本分は魔法使いであり、麻帆良で起こりうる魔法被害を防ぐ目的でこの地を訪れた。あくまで彼らにとって教師とは肩書きでしかなかったんだ」

 

(楓と古がそこにいるんだが……いいのかな、そんなこと喋ってしまって。……今更か)

 

 真名はやれやれと首を振った。

 

「彼らは教師の仕事も卒なくこなしたさ。しかし、根っからの魔法使いである故に、形式に沿った形でしか彼らは教師という仕事に取り組むことができなかった。生徒の将来を預かる身として、それはよくないことだと思う。生徒に対して心を開くということが、彼らにはできなかったんだ」

 

「ーーコク、コク」

 

 刹那は高畑の話を聴き漏らさぬよう、相槌を打ちながら言葉を噛みしめる。

 

「そんな彼らのもとに、彼女が現れた。ーー刹子君だ。あの問題児が、この麻帆良学園に降り立った」

 

「ーーそこで六戸さんが出てくるのですね!?」

 

 何やら2人して盛り上がっている。

 

 真名達は互いに顔を見合わせ、「?」を浮かべている。

 

「刹子君は素行不良の体現者だ。彼女の存在は、凍てついた仮初めの教師であった彼らの心を激しく揺さぶった。ーーなんてどうしようもない子なんだと」

 

(悪口じゃないか)

(悪口でござるな)

(悪口アル)

 

「刹子君の起こした数々の事件は君達の耳にも入っているだろう?その数々の事件に振り回されていたのは他ならぬ彼らだ。ーーそして、刹子君に関わっていく中で、彼らの中に初めて「教師」としての意識が芽生えたんだ。正しく、「正義」の心に目覚めたんだ!!!」

 

「な、なんと!?」

 

(今かなり飛躍しなかったか?)

(ものすごく端折ったでござるな)

(刹那なに普通に応答してるアル、そこは突っ込むところアル)

 

「刹子君という問題児を更生させるというストレートな思い、彼女の指導員としての仕事。彼らはその仕事に夢中になった。……それこそ、己の体力の限界にも気づかないほどに」

 

 高畑は改めて、目の前で倒れ伏しているジャスティスレンジャーを見る。

 彼らの目の下には、隈ができていた。

 

「嫌だ嫌だと言いつつも、彼らは充実していたんだ。刹子君との日々に。ーーしかし、その刹子君が……いなくなってしまった」

 

「……ああーーッ!」

 

 高畑の目から大粒の涙が溢れる。

 刹那も、感極まってもらい泣きをしている始末。

 

(なんか、六戸が死んだみたいな雰囲気なんだが……)

(それだったらこの話もそこそこ感動的な方へと向かうのでござるが……)

(旅行行ってるだけアルからね、刹子)

 

「刹子君という指針を失った彼らの正義は行き場を無くし、ひどく不安定な状態に陥った。ーー刹子君がいなくなった後も、彼らは()()()()()()()()()()()()を引っ張り出し、その資料を通して彼女の面影を求めていたんだよ!!」

 

(病んでるじゃないか!?)

(なぜそんなになるまで放っておいたでござる!?)

(怖いアル)

 

「そして昨日、そんな不安定な彼らのもとにーーネギ君が来てしまった」

 

「……そして、ネギ先生を六戸さんに見立て、此度の暴走を引き起こした、と」

 

「そうさ。息を吐くかのようにポカをやらかすネギ君は、彼らにとってうってつけの指導対象だ。刹子君に近い資質を、ネギ君の中に見出したんだろう」

 

(血は繋がってなくとも、似通うのかもしれないね、姉妹というのは……)

 

 高畑はやるせない表情でそのようなことを思う。

 

 そんな時だったーー。

 

 

 

 

「………ぅう、わ、我々の……正義を……かのじょ、に……」

 

 

 

 

「「「「「ーー!?」」」」」

 

 

 

 

「……フッ…………そこに、いるのか………六戸……」

 

 

 ふらふらと、おぼつかない手足で起き上がろうとするジャスティスレンジャー達。

 

 

「そんな…………なんで、なんでそこまでして、貴方達はッーー!?」

 

 刹那が悲鳴にも似た声を出す。

 

 

「……わ、私達は…………こんな……ところで……」

 

「……いつまでも…………寝て、たら……六戸、くんに……笑われちゃう……よ……」

 

 

 この光景には思わず半ば白け気味だった真名達も驚愕を隠せない様子。

 

「……た、立つでござるか……?」

 

「馬鹿な……もう心身ともに限界のはずだ!?」

 

「(ゴクリ)」

 

 

 彼らの目の焦点は合っていない。

 

 しかし、彼らは立ち上がり、そして一歩一歩、歩みを進める。

 

 

「……刹子、ちゃん…………僕は、き……君のことが……」

 

 

 刹那達は動けない。

 

 あまりにも奇妙な光景に圧倒されている。

 

 しかしーー高畑は立ち上がった。

 

 

「高畑先生!?」

 

 

 高畑の表情は刹那達からは見えない。

 

 高畑はただ前を見据えている。

 

 体がーー少し震えていた。

 

 

「……もういい」

 

 高畑は震える声で目の前の彼らに言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「……もう、いい!!!君たちは、限界だ!!!ーーー休んでくれ……もう、休むんだぁーーー!!!!!」

 

 

 

 

 麻帆良女子中校舎に、高畑の悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(もう1人の私!まだ麻帆良には着かないのですか!?先ほどジャスティスの方々を盗聴したら、何やらおかしなことになってるみたいでーー)

 

 

「……まだ海の中を絶賛移動中ですよ〜。はぁ、ちょっと落ち着いてください本体の私」

 

 

ーーたいげ〜が潜水してるとかギャグでち

 

ーーそれもう沈んでるのね

 

ーーアハトアハト♪

 

 

「は〜い、私の名前は「たいげ〜」じゃありませんよぅ〜だ」

 

 

(う〜〜!初めて目覚めた時もそうでしたが、なんで私はスタートで出遅れるのでしょうか!!!)

 

 

「きっとそういう星の元に生まれたんでしょうね〜」

 

 

 

 

 

 

 急げ、主人公。

 

 

 

 

 

 




エヴァ「なんだこれは」
茶々丸「まさか一万字超えるとは思いませんでした」

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