6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い   作:肩がこっているん

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桜通りの××××××

「学年トップを祝って、かんぱ〜い!」

 

 ーーかんぱ〜い!!!

 

 誰かの掛け声と共に、2-Aのクラスメイトたちの元気な声が青空の下に響き渡る。

 

 2-Aは現在「学年トップおめでとうパーティー」なる催しを執り行っている真っ只中。

 これは2-Aが学期末試験で学年一位の成績を収めたことを祝うため、つい先ほど、成績発表を終えた直後に決まった企画である。

 万年最下位の2-Aにとって、クラス始まって以来の快挙とも言える今回の結果に浮かれるのも無理はない。

 お祭り騒ぎの空気のまま放課後となり、こうして2-Aの生徒たちは女子寮前の芝生広場に集まったというわけだ。

 

 六戸刹子こと私もその集まりの中にいる。

 

「2-Aが一致団結して見事最下位を脱出ですか。なんとも感慨深いものがありますね……」

 

「刹子さん、あなた今回のテストも受けてらっしゃらないのによくそんなこと……」

 

 私の呟きが聞こえたのか、「いいんちょ」こと雪広あやかがそう言いながら近くに寄ってくる。

 

「第一、クラスに復帰するなり初日から遅刻とは何事ですの!?聞けば麻帆良には数日前に帰ってきていたと言いますし……千雨さん、あなたがついていながらなぜこの暴れん坊をーー」

 

「だ〜!私にこんな問題児の管理を期待すんじゃねぇ!「不良は、如何なる時も学校には遅刻するものです」とかわけわかんねーこと言ってる奴をどーにか出来るわけねぇだろ!」

 

 傍にいた千雨がいいんちょに反論を唱える。

 

 何気に私といいんちょは、クラスの中でもそれなりに会話することの多い間柄である。

 

 雪広あやかという人物は、「クラスに問題があるなら、それを見過ごしておくわけにはいかないーー」と自ら解決に乗り出すといった、典型的な「良き委員長」タイプといったところ。

 私が問題を起こした次の日に学校へ行くと、大抵はこのいいんちょからお小言を頂戴する。

 ジャスティスの5人組とまではいかないが、このいいんちょもまた、私の問題行動に頭を悩ませている一人と言えよう。

 そんないいんちょの心中を慮って、私はクラスの前では比較的素直に頭を下げるのだ。

 

 いいんちょの苦言に対して頭を下げる行為は、私からしたら割とやぶさかではない。

 

 比較的なんでもありな2-Aではあるが、中には「問題を起こす=危ない人」と認識するいたいけな女子も存在する。

 私がいいんちょに頭の上がらない姿を見ることで、ある程度警戒を緩めてくれる効果があるからだ。

 

 そういった効果を期待して、いいんちょとは取り留めもない日常会話なども気軽に交わしているうちに、私たちはそこそこの仲になったと言える。

 

「まぁ、ご自分がクビになったと思い早まったネギ先生を引き止めてくださった事には感謝してますが……そもそも!なんだかんだでテストの成績だけは良いあなたが今回の試験を受けていればもう少しーー」

 

「落ち着けよいいんちょ。しばらく休学してた奴がいきなり良い点なんて取れるわけ……いや、こいつなら取るか?なんかすごいイカサマ使ってーー」 

 

 イカサマはテストの度に使ってますけどね、頭の中の妖精さんたちに頼んでこう、すいすい〜っと。

 まぁそのことは置いといてーー。

 

「…………」

 

 今いいんちょの発言中に名前だけ出た、我らが2-Aの担任であるネギ君の方へと目線を向ける。

 私たちから少し離れた方で、複数のクラスメイトたちに囲まれて談笑をしている彼がいる。

 

 視線に気づいたのか、ネギ君がチラリと私と目を合わせるが、彼は軽い会釈をした後目線を逸らし、再び周りのクラスメイトたちとの会話に戻ってしまう。

 

(う〜む、ぎこちないですね。嫌われてるなんてことは、仮にも初対面だからないとは思うのですが……)

 

 私とネギ君がこの麻帆良で顔を合わせたのは、今しがたいいんちょが言った「私がネギ君を引き止めた」という先ほど起こった件が初である。

 

 引き止めたーーとは言ったもの、ようは「課題を達成できなかった」と勘違いして逃げるように電車へ駆け込んだネギ君に、たまたまその電車に乗り合わせていた私が鉢合わせただけなのだが。

 

 その後引きずるようにネギ君を連行していた私と、されるがままになっていた彼。

 そんな私達の元に駆けつけてきた明日菜さんの発言によって、ネギ君は私を自分の教え子の一人だと知る。

 そこで、私は改めてネギ君に自己紹介をしたのだがーー。

 

(大声あげて驚いてましたね〜。というか、悲鳴?……心なしか少し震えてましたし)

 

 以前千雨が私に言った発言を思い返す。

 

 

『お前が「不良」っていうことにもビビってんぞ、あのガキは』

 

 

 やはり、そういうことなのか。

 大方、過去の私の経歴でも調べたのだろう、ネギ君は。

 

 彼に伝わっているであろう、私の起こした問題事件の数々。

 

 半分は、初の学生デビューに浮かれていた当時の私が、女子力の赴くままに「JCとはこうあるべきだ」を実践したことで起こったこと。

 もう半分は、退屈を持て余していたどこぞの金髪少女に付き合ってしまった結果起こったこと、これは私も被害者だと言える。

 

 何はともあれーー。

 

「……もどかしいですね」

 

 もう一度、ネギ君の様子を伺う。

 

 バカレンジャーや図書館探検部の面々に囲まれて、ネギ君は実に楽しそうだ。

 

(うぅ……あの中に混ざりたい!私はあなたを本当の弟のように思っているのに!あなたのおしめも替えたことあるのに!)

 

 私の中に妙な感情が沸き上がるのを感じる。

 ジェラシーだ。

 この思いはまさしくジェラシーだ、私はあの光景にジェラシーを感じている。

 

(いっそのこと全部暴露してみる……?いや何を言っているんですか私!?どう考えても混乱が起きるでしょう。スプリングフィールド家に起こった事件は、今のネギ君に聞かせるべき内容じゃありません)

 

 私のバックグラウンドを話すことは、これから麻帆良で教師を頑張ろうとしているネギ君の負担にしかならない。

 そもそも、「私、あなたのお姉ちゃんなんですよ。だから、私にもっと構って」なんて理屈は通らない。

 仲良くなりたいという理由だけで、余計な事情を持ち込んではいけないのだ。

 私とネギ君を取り巻く事情ーー私達の家庭事情は、そんな甘いものではないのだから。

 それにーー。

 

 

「おい、六戸?お〜い!…………駄目だ聞こえてねぇ」

「またいつものですの?しょうがないですわね。千雨さん、向こうでネギ先生達と一緒にお茶でもしましょう」

「いや、私は別にーー」

 

 

 ーーそれに、麻帆良にいる以上ネギ君とは「教師と生徒」の関係を貫くと決めた。それを今更撤回する気などない。

 

 

 私は「六戸刹子」。

 

 麻帆良では不良と呼ばれ、一応魔法関係者でもある極々普通の女子中学生に他ならない存在、それが今の私。

 

 焦るな。

 

 生徒として彼と親密になる機会なら必ず巡ってくる。

 

 彼が成長し、魔法使いとして裏の世界に関わるようになれば、いずれは私の正体に触れる日も来るだろう。

 

 だが、それまでは「教師と生徒」の関係をより良いものにすることに専念すればいいのだ。

 

 それに考えてみなさい。

 

 もし私が「六戸刹子」として、ネギ君とお互いにいい関係になったとしましょう。強いていうならばーー。

 

 

 ーー六戸さんってすごい頼れる人だな〜こんな人が僕のお姉ちゃんだったらいいのに。

 

 

 的な!そしてのちに成長した彼は知るのです。

 

 

 ーーまさか、六戸さんが僕のお姉ちゃんだったなんて!……ぼ、僕はどうしたらいいんだ!

 

 

 的な的な!?

 

 いいです、実にいいです!

 

 その時に私はこう言うのです!

 

 

 ーーネギ先生?「六戸さん」じゃないでしょう?ほら、ちゃんと言ってみて?ーー「お姉ちゃん」って……

 

 

(いい、良いですよ良いですよ!実に良いです!あぁ〜、明日からの学園生活が楽しみでなりませんね!!!)

 

 

「……ふっ……ふふふふ……んふふふふふふふふふ」

 

 

〜〜〜

 

 

(……さっきから六戸さんが僕の方じっと見てるよ……なんだろう、やっぱり僕、ね、狙われてるのかなぁ……)

 

 

 ーーふっ……ふふふふ……んふふふふふふふふふ

 

 

「ーーーっ!ヒ、ヒィィィィ!?」

 

「ちょ、ちょっとネギ!?いきなり私の後ろに隠れたりして、どうしたのよ!?」

 

「どしたんネギ君?めっちゃ震えとるえー?顔も青いし……」

 

 突然様子がおかしくなったネギを心配する周囲の面々。

 

「ろ、ろくろくろくのへさんが……ぼぼくを」

 

「刹子ちゃんがどうしたの?……きゃあ!?すんごい顔してこっち見てる!?」

 

 ネギのつぶやきの中から「六戸」の単語を聞き取ったまき絵が、刹子のいる方へと顔を向けると、そこには怪しい笑いを浮かべながら目を見開いてこちらを凝視する刹子の姿があった。

 

 思わずギョッとするまき絵。

 驚いたまき絵につられて彼女を見た他の者も、みな同様の反応を示す。

 

「うおっ!?なんか背筋がゾクッってきた!?あれは獲物を狙う目……まさかネギ君、食われる!?」

 

「なんですって!?刹子さんがネギ先生を狙って……そんなこと許しませんわ!」

 

「……確かに、私を通り越して後ろのネギを見ているような気が……いや、なんとなくそう感じるだけなんだけど」

 

(あいつ何やってんだよ……そして私もなんでこいつらと一緒にいるんだ……)

 

 いいんちょに連れられるままに、ネギたちの輪の中に入れられてしまった千雨。

 同居人の珍行動を晒されて、羞恥心に体を震わせている。

 

「ネギ君、刹子ちゃんとなんかあったん?」 

 

「いえ、そんなこと……ろ、六戸さんとはついさっき初めて会ったばかりだし……」

 

「一目見て食べごろだと思われたんだって!なんたってあの子、麻帆良では不良であると同時に大の「男好き」との噂もあるし!ーー間違いないわね!」

 

 私のレーダーに狂い無し!ーーと、「刹子は大の男好き」論を唱えるハルナ。

 

「2-Aのエロ番長(自称)こと柿崎美砂さんがライバル視しているくらいです。あながち噂はホントかもしれないですね」

 

「ウチのパパラッチが未だ現場をおさえてないのがなんとも言えないところだけど。くぅ〜!年上の女性から男を寝取ったっていう噂、本当なのかしら!?気になるわ〜〜!」

 

「ね、寝取っ……!?そ、そんな〜、このままじゃネギ先生が……」

 

 図書館探検部の会話を聞いて、ネギの顔がますます青くなっていく。

 

「ア、アスナさぁ〜〜ん……」

 

 すがるような声で明日菜に助けを求めるネギ。

 

「なによ、もう。みんな心配しすぎじゃないの!?……わかったわかった!あいつには私から釘刺しとくから!だからネギ、あんたもそんな怯えんじゃないわよ!ったく」 

 

 ここにきて、楓と古菲。

 二人の肉体派コンビが初めて口を開く。

 

「万が一の時は拙者たちを呼ぶでござる。相手は不良、武力という手段を取ってくることも無きにしも非ずでござる。なんせ、日頃から体のどこかに包丁を仕込んでいるようなお方でござるからな」

 

(刹子殿はあのジャスティスレンジャーの方々と常に乱闘を繰り広げてるくらいでござるからな。腕も期待できるというもの)

 

「安心するアルネギ坊主、刹子が何かするようなら私たちが守ってあげるアル!包丁振り回されたって私と楓ならなんてことないアルよ」

 

(凶器を持った相手との戦いなんて中々ないアル。腕が鳴るアル)

 

 この二人、本音を言うところ単に刹子と戦ってみたいだけだった。

 

 しかし、万が一のセキュリティ面はこれで保証された。

 それを受けてネギの震えが止む。

 

「み、皆さん……」

 

(皆さん、やっぱり頼りになるな〜。僕も、しっかりしなきゃだめ、だよね。……よし、今後六戸さんが僕に何かするようなら、その時は先生らしくビシっと注意するんだ!)

 

 

 

 刹子は、どうやらまた墓穴を掘ってしまったようだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おはよ刹子。新学期早々遅刻なんてあんたも相変わらずね」

 

「ああ……美砂ですか、おはようございます。いや、これも不良の役目ですから」

 

「変なとこでこだわるわねあんたも……ていうか、なんか元気ないけど大丈夫?」

 

「ああ、わかります?ちょっとわけがありましてね……」

 

 

 私の元気がない理由、それはーーここ数日ネギ君に会えなかったというのが原因だ。

 

 まさかあの打ち上げの翌日が終業式だったとは!

 

 久々に登校したのも束の間、あっという間に春休みに突入してしまい、ネギ君との華やかな学園ライフはしばらくのお預け。

 

 しかし、春休み中だからといってネギ君に会えないとは限らない、私はめげずに麻帆良中至るところへ出張りに出張った。

 

 が、その努力も虚しく一切のエンカウントは無し。

 

 なぜ!?

 

 遭遇率低すぎやしませんか!?

 

 お姉ちゃんほったらかしにして、彼はどこで何をしていたというのです!?(実際、ただ単に運が悪かっただけ)

 

 挙げ句の果てには、コンビニにお菓子を買いに行くくらいの狭い行動範囲しか持たない千雨がーー「たったいまそこの廊下で会った」や「神楽坂たちといるところを出くわした、一緒に買い物に行かないかと誘われた」などそこそこのエンカウント率を見せる始末。

 

 なんですかこれは、一体なんの力が働いているというのです!?

 

 結局、一日の締めに「今日もダメでした」とアルさんに結果報告をして朝を迎えるだけの単調な日々。

 

 私の何がいけないというのですかーー。

 

 

「……私には出会う権利すらないと、そういうことですか?」

 

 新学期を前にして若干心が折れてしまった。

 それでも一抹の期待を胸に、こうしてギリギリの精神状態の中、私は登校をしたのです。

 

「何ぶつくさ言ってんのよ。……ほら、来たなら来たでさっさとあんたも服脱ぎなさいよ」 

 

「いきなり脱衣を要求されるとは、というか貴女もすでに下着姿で準備万端ですね。まさかエロ番長(自称)と名高い美砂が同性に走るだなんて……貴女も寂しい春休みを送ったんですね……(ホロリ)」

 

「違うわよ!身体測定よ!ほら、周り見なさい!あんた以外全員下着姿よ!」

 

 身体測定ーーアーウェルンクスである私にとって、体力テストに並んでなんとも無意味な行事です。

 

「はぁ……わかりましたよ。脱げばいいのしょう?脱げば」

 

 緩慢な動作でもぞもぞと制服のボタンを外し始める刹子。その目は遠く彼方を見ているようだ。

 このままじゃ下着姿になる頃には日が暮れるわ!ーーとその様子にやきもきした美砂は、彼女の脱衣を手伝い始める。

 

「いやぁ助かりますーーおや、黒板に描かれてるアレはなんですか?ーー()()()()()()?」

 

 己の脱衣作業を美砂に任せ、完全に脱力していた刹子はふと、黒板に描かれている落書きに興味を示す。

 

 

 ーーチュパカブラ。

 

 ーー黒板には「奇妙な外見をした生物」の落書きがあり、チュパカブラとはその生物の名前のようだ。

 

 ーー怪獣とも、またUMAともとれる奇妙な二足歩行の生命体で、一緒に書かれている説明文を読む限り、吸血能力を有するらしい。

 

 

「あ〜、あれはねーー」

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「ーー教室にいないと思ったらこんなところに……身体測定は済ませたのですか?」

 

「ーーチッ、……なんだ性悪、私は今昼寝中だ。邪魔するな」

 

 女子校舎屋上ーーそこに彼女はいた。

 

「ーー今舌打ちして……いやいや、お久しぶりですエヴァさん。そんな釣れないこと言わないで、少しお話ししましょうよ?」

 

「……旅行から帰ってきて今の今まで、私に何の挨拶もなかったお前と話すことなんてないな」

 

(え〜、なんかちょっと拗ねてる?)

 

 

 ーーエヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。

 

 ーー魔法関係者の間では「闇の福音」の名で恐れられている、最強クラスの魔法使い。

 

 ーーまた、齢600歳前後の「真祖の吸血鬼」でもある。彼女は謂わば、生ける伝説的存在なのだ。

 

 

(初めて会った時は目ん玉破裂するかと思いましたよ……まさか、あの「キティちゃん」とこんなところで出会うだなんて) 

 

 そんな彼女も、今や私と同じ3-Aの生徒。

 真祖の吸血鬼が、なぜか日本の学校で女子中学生をやっている。

 本人から理由を聞けば、なんでも私の父とも呼べる人物ーーナギさんとの間で起きた痴情のもつれが原因でした(刹子フィルター)。

 

 その理由というのもーー。

 

「ーーって、エヴァさん?なにソロソロとこの場を立ち去ろうとしているんです?」

 

「チッ!……そのまま自分の世界に入り込んでおけばよかったものを」

 

 おっと、いけない。

 何やらエヴァさんは、今私と会話する事を拒んでいる様子。

 

 ーー仕方ない、さっさと踏み込みますか。

 

 

「最近女子達の間で流行ってる噂なんですがーー」

 

 

 先ほど美砂から黒板のチュパカブラについて質問した際に、このような話を聞かされた。

 

 

 ーー満月の夜、女子寮近くの桜並木ーー桜通りと呼ばれる場所で、真っ黒な布に身を包んだ吸血鬼が現れる。

 

 ーーあくまで噂だと思われていたが、今朝、クラスのまき絵がこの桜通りで倒れている姿が発見された。

 

 ーー今、ネギ君他数名が保健室で寝ているまき絵の様子を見に行っている。

 

 ーー黒板のチュパカブラは、「吸血鬼」を「吸血生物」だと勘違いしたこのかが面白半分に描いたもの。

 

 

「この桜通りの吸血鬼って、エヴァさんですよね?」

 

「どうだろうな。ーーというか、後半二つはいらん」

 

 

 あくまでとぼけた様子を貫くのですね。

 私は感知してるんですよ?

 

 ーー魔力を極限まで封印されているはずの貴女にしては、随分な量の魔力を蓄えてるではありませんか。

 

 

 私がそのように言うとーー。

 

 

「……そうだよ、私がその桜通りの吸血鬼とやらだ。……チッ、こんなことなら計画を前倒ししておくんだった」

 

 エヴァさんは再び舌打ちをして、結局自身が桜通りの吸血鬼であることを認めた。

 エヴァさんは、自分が隠し事なんて向かないということを理解すべきだと思います。

 

「それで?今回はなぜこのような事を?」

 

「なぜお前に言わねばならん。この件は私の個人的な都合に関わる事だ。……プライベートな事情にはあまり踏み込むものではないぞ?お前もそうだろう?」

 

「…………」

 

 

 何を言っているんだこのキティちゃんは。

 

 いきなりプライベートな事情云々って……それっぽい事言ってるようで会話が成り立っていません。

 

 知られたくない事があるから早々に会話を打ち切りたいーーそんな思いが筒抜けです。

 

 エヴァさんという人物は、素っ気なく振る舞っているようで、実のところお喋りするのが大好きな方なんです。

 

 私が「10」を投げかければ、エヴァさんは面倒そうに「1」を連発して、気づいたらそれが「50」くらいに達しているのです。

 

 ところが、今目の前にいるエヴァさんはどうです?

 

 まるで部屋で如何わしい行為に耽っていたところに母親がやってきて、その事を勘付かれるのを避けるため、冷静に意味不明な返答をする思春期の少年のようではありませんか。

 

 

「話は終わったな?私はもう行くぞ」

 

 エヴァさんはそういうと、足早に屋上から去った。

 

 

「…………怪しい」

 

 面白いことがあれば必ずと言っていいほど私を巻き込むあのエヴァさんが。

 

「桜通りか……」

 

 

 これは、確かめてみる必要がありますね。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 翌日の朝、ネギは3-Aの教室へ続く廊下を、明日菜と木乃香の3人で歩いていた。

 

「う〜ん……」

 

「ネギ、あんた昨日の夜から何そんなに唸ってるのよ?」

 

「ネギ君、具合でも悪いん〜?」

 

「い、いえ……そういうわけじゃないんですが」

 

 昨日、保健室で寝てたまき絵さんから微小の「魔力反応」を感じた。

 ジャスティスレンジャーの件で、この麻帆良に自分以外の魔法使いがいることを知った僕は当然、次のように思った。

 

 ーーひょっとしたら、犯人はこの麻帆良内にいる魔法使いなんじゃ?

 

 ここにそんなことをする魔法使いがいるとは思いたくないけど、まき絵さんが被害にあった事実があることは確かだ。

 

(一応タカミチにこのことを話しておいたから、大丈夫だとは思うけど……)

 

 それでも、不安なのに変わりはない。

 やっぱり昨日の夜に自分でも調べておくべきだったかな。

 僕の生徒が被害にあったんだから、教師である僕がなんとかするべきじゃないか。

 

 でも、そうなると魔法使い同士での戦いにーー。

 

 

「ーーのどか、それ本当!?」

 

 

 考え込んでいたら、3-Aの教室の前に着いていた。

 今の声は、ハルナさん?

 なんだか、教室全体が騒がしい。

 

「何朝から騒いでるのかしら?ーーほら、ボケっと突っ立ってないで、入るわよネギ、このか」

 

 アスナさんが教室のドアを開け、先に中へ入っていく。

 続けて僕も教室へ入る。

 

 ーー宮崎さんの周りにクラスの皆さんが集まっていた。

 

 なんというか、珍しい光景だなーー僕がそう思ったのも束の間ーー。

 

 

「う、うん。昨日の夜……学校から帰るのが遅くなっちゃって、気づいたら桜通りを歩いてたんだけど……そこで、ね?……」 

 

 

 ーーえ、桜通り?宮崎さんが、昨日の夜……?よ、よかった、宮崎さんの身には何も起きなーーー

 

 

 

 

 

「ーーエヴァンジェリンさんがたまたまそこにいて……そしたら、いきなり私の目の前で、チュ、()()()()()()()()()()()…………」

 

 

 

 

 


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