6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い   作:肩がこっているん

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初めまして、セクストゥムです

皆さん、初めまして。

私はアーウェルンクスシリーズが一体、6=セクストゥム。水のアーウェルンクスを拝命してます。

ついさっき目覚めたばかりの人造人間、とでも言うべきでしょうか。

アーウェルンクスシリーズとはその人造人間達の名称ですね。

ちなみに6番目に造られたから6=セクストゥム。

まんま製品扱い、早くも少し挫けてます。

 

此度、最強の魔法使いであるサウザンドマスター=ナギ・スプリングフィールドが率いる紅き翼に対抗するための戦闘要員として、造物主=ライフメーカーの手により私含めて5体のアーウェルンクスが同時に造られました。

私は”完全なる世界”という魔法世界の救済を目的とした組織の一員、となるわけなのですが、正直実感がわきません。

組織の目的も何やら曖昧ですし、私を造った人、造物主=ライフメーカーの情報も穴だらけ……詳細なプロフィールをプリーズ!

 

たった今お話ししたこれらの情報は私の脳内に記録されたガイドブック的なものから抜粋したものです。

完全なる世界の大まかな活動方針、これまでの活動記録までご丁寧に載っています。

ガイドブックによると私たちアーウェルンクスは主の崇高なる目的を達成するための”人形”、という立ち位置のようです。

なんというブラック企業なのでしょうか。

どうせ使いっ走りにされるなら心なんていらなかった!!!!!

 

……すいません、熱くなってしまいました。

人形が考えるようなことじゃありませんね。

というかホントに私人形なのでしょうかね。

 

そんな人形らしからぬ私が目が覚めて感じたことは、これもまた人形らしからぬ感情。

 

それは、「まっ暗!てか何も見えない!」「寒い!」「息ができない!苦しい!」の3つ。

 

なぜ真っ暗なのか、それは私が棺桶のようなモノに入れられていたから。

なぜ寒いのか、そりゃ全裸だから。

なぜ息ができないのか、棺桶の蓋が閉められているから。

 

すぐさま棺桶のようなモノから飛び出して発した第一声は「殺す気か!」でした。

 

しかし、棺桶から出たら出たで外もまた真っ暗。

「電気ぐらいつけたらどうなんですか?」と自分でも場違いだなと思うセリフを吐いて、大声で「誰かいませんか〜」と呼びかけるも返事はなし。

私が目覚めた棺桶の近くには、他のアーウェルンクスが眠っていたのであろう蓋の開いた棺桶がそのままにしてあるという惨状。

仕方なく辺りを散策するも人影は皆無。

ここが私たち組織のアジトで間違いはないはずですが、なぜ人っこ一人いないのでしょうか。

 

結局新たな発見も得られぬまま元いた場所まで戻ってきたのですが、何もしないわけにもいかないので、読めば読むほど鬱になる脳内ガイドブックから情報を得る作業を現在進行形で行なっているというわけです。

 

あ、紅き翼との戦歴なんかもありますね……ぶっちゃけ全敗じゃないですか。

なんかもぅ、負け戦じゃないですか。

これじゃあやる気も起こりませんよ。

 

脳内ガイドを順繰りに読み進めていくと、何やら自分のステータス表と思しきデータが載っていました。

なんのRPGですか、ここら辺いかにも造られた人形って感じです。

ただ、ステータス表の項目を見つけた時若干テンションが上がりました。

なんかこういうの燃えるというか、割と単純ですね、私。

 

自分のステータスを見る限り、割り振られたパラメーターはどれもアーウェルンクスシリーズの必要最低値。

つまり素焼きというやつですね。

なんというかもうちょっとなんとかならなかったのでしょうか?

 

後々自分でカスタマイズ的なこともできるみたいですが……だったら初めからやっとけって話です。

造物主も、一斉に5体も造ったから余裕がなかったのですかね。

 

それと、ステータス項目の中にひとつだけ用途が不明なものがあります。

 

 

女子力:MAX

 

 

女子力、とは一体なんなのでしょうか?

困りますね、せめて注釈くらいあってもいいでしょうに。

これだけパラメーターがMAXって……。

自分で言うのもアレですが、何やら人形らしからぬ思考回路の原因は、この女子力とやらが関係しているのでしょうか?

 

パラメーター”女子力”も疑問を抱きつつも脳内ガイドを一通り読み終え、なんだか頭が冴えてきたなぁと感じつつ一言……

 

 

 

 

ーーーーーーー私、ひょっとして寝過ごしました?

 

 

 

 

♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡

 

 

 

〜セクストゥム in ロンドン〜

 

 

紅き翼がとっくに解散してるらしいです。

 

あれからアジトを出て、真っ先に寄った洋服屋の店主が教えてくれました。

驚く私に、店主はさらに一言「知らなかったのかい?もう一年前の話だよ?」と言いました。

 

造物主は!?完全なる世界は!?他のアーウェルンクスは!?今どこで何してるのですか!?

そんな心の訴えも虚しく、私は店を出てただただ途方に暮れることしかできませんでした。

 

なんでアジトを出て初めに洋服屋へ行ったのか?ですか?

 

パンツです。パンツを買いました。

 

アジトを探索した結果「アーウェルンクス・コスチューム」と書かれた箪笥の中に、ブレザー型の同じデザインの服、並びにズボンが何着もあった(ちゃんと女の子用まで用意されてました)のですが、なぜかパンツがなかったのです。

靴はありましたよ。それに靴下も。

靴下あるのになんでパンツがない!?

他のアーウェルンクスの方々は皆ノーパンだったのですかね。

あいにく私はそういった嗜好は持ち合わせてないので、ムズムズする妙な感覚を我慢しながら真っ先に洋服屋を探したわけです。

あ、お金ならちゃんと払いましたよ。アジトの金庫にたんまりとありました。

 

「これも可愛い!すみませ〜ん、試着よろしいでしょうか?え、これ最後の一着!?今逃したら二度と手に入らない!?買いです!これ買いです!」

 

話は変わりますが、私は現在旧世界ロンドンにてショッピングを楽しんでいます。

なんでわざわざ旧世界に?

 

結局のところ、どこにも行く宛てがないんですよね。

私は見た目10歳くらいの少女。

日頃から魔法が飛び交うような危険な世界で一人生きて行く自信なんてないのです。

ぶっちゃけて言いましょう、戦うのとか怖いです。

アーウェルンクスとして生み出された私の力は、いくらステータスが最低値だと言えどそんじゃそこらの魔法使い相手には負けることはないでしょう。

だからといって万が一がないとは限らない。

 

打って変わって、旧世界は基本魔法は隠蔽されている。

戦わないで済むならそれに越したことはない。

よし、旧世界に行こう。

 

そういうわけで、ゲート警備に引っかかることもなく旧世界はイギリス、ロンドンにやって来た私は、気分転換に街中でショッピングと洒落込んでいるわけです。

 

「両手が完全に塞がってしまいました……一旦ホテルに荷物を置きに行きましょうか。」

 

可愛いお洋服をたくさん買っちゃいました。

基本的にヒラヒラやフリルがたくさん付いた服に惹かれるようです。

早く着替えたいですね。

いい加減アーウェルンクスの服にも飽きてましたし、この際捨てちゃいましょうか、この服。

 

「おや、これは実に少女心をくすぐるぬいぐるみですね」

 

ホテルを探すはずがお店のショーウィンドウの前で急停止。

 

猫がモチーフでしょうか?

口がないデザインは仕様のようですね。

タグにプロフィールまで載っているとは、これはシリーズ物のぬいぐるみなのですね。

なんて愛らしいのでしょうか。

荷物を置きにいってるうちに売り切れないか心配です。

いやもうこの場ですぐ買うべきでしょう。

でも両手が……

 

「なぁ、おまえひょっとしてアーウェルンクスの奴らの仲間じゃねーか?」

「体重はりんご3個分……って、はい、私はアーウェルンクスが一人、その名もセク……」

 

はっ!超強大な魔力反応!?それもすぐそばから!?

迂闊、ぬいぐるみに気を取られすぎました!

急いで声の方へ振り向くとそこにはローブを羽織った赤毛のイケメン。

この人知ってます、なぜなら私の脳内ガイドに顔写真付きで載ってましたから。

なぜ、なぜここに!?

この人は私たち完全なる世界の敵であり、最強の魔法使い集団、紅き翼のリーダー、サ、ササ……

 

「サウザンド……マスター……さん?」

「おう、千の呪文の男、サウザンドマスターことナギ・スプリングフィールド様だ」

 

しっかりと名乗られてしまいました。

なんというか自分からサウザンドマスターとか言ってたら世話ないですね。

っていやそれどころじゃありません。

私の耳が間違ってなければ「アーウェルンクスの仲間か?」的なことを言っていた気がします。

ま、まずいです、ややややややや殺られる⁉︎

 

「いっ……」

「い?」

「いやぁああああああああああああああ!!!!!!!」

「ぅお!急に大声出すな……って、ちょ、ちょちょ、おい!待て!」

 

逃げて私!超逃げて!

無理でしょうあんなバカ魔力!冗談キツイですって!

他のアーウェルンクスの方々はあんなの相手にしてたのですか⁉︎無謀すぎます!

私は目覚めて以降、戦闘はおろか攻撃魔法なんて一度も使ったことのないヒヨッコアーウェルンクス。

あんな魔力で攻撃されたらイチコロ……そりゃもう木っ端微塵です!

 

「いやぁああああああ、殺されるぅううう」

 

「バッ⁉︎街中で物騒なこと言うんじゃねぇ〜〜〜」

 

両手の荷物が邪魔です!

ぁあ〜でもせっかく買ったお洋服を捨てるなんてもったいない……

中には最後の一着だったものもあるんですよ⁉︎

捨てるだなんて!そんな!……ってヒャァ⁉︎

 

「やっと捕まえたぜ……おい、こんな街の中で何考えてやがる」

 

つ、捕まってしまいました……

腕を掴まれただけで体が動きません……

ヒィ、すんごい怒ってらっしゃいます⁉︎額に青筋が……

 

「あ、あの、周りが見てます……よ?」

「あぁ!?」

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!

も、もう!そ、そんな睨まなくても「誰のせいでこんな見られてる思ってんだ?あぁ?」……そ、そうですよね、はい。

ここは正直に言うべきでしょうか、そうです、私はただここでショッピングを楽しんでいただけ!やましいことなんて何一つないのですから!

 

「え、えとですね?わわ私は今ここでおかおかお買い物をしてましてですね……」

「ハァ!?買い物だぁ?なんだそりゃ」

 

イヤァァァ!あまりご理解いただけていない⁉︎

「買い物に来ました」ではいけませんか?

だってその通りなんですからしょうがないでしょう⁉︎

これ以上なんて説明しろと!

なんでしょうか理不尽なクレーム処理に対応させられた時の気分に近いといいますかはて私は何を言ってるのでしょう自分でもわかりません!

 

「あぁえと、え〜〜〜ぁぁああもう!!!」

 

パニックが臨界点を超え、破れかぶれになった私は無意識のうちに魔力放出を行なっていたようです。

 

「……っ!やべ!こういう時は……そう、あれだ!武装解除!」

 

サウザンドマスターが呪文を唱えると、体にものすごい魔力が叩きつけれたかのような感覚に襲われます。

今サウザンドマスターが使った魔法は風属性の武装解除魔法のようですね。

対象者の武器を吹き飛ばす的な魔法のはずですが、荒れ狂う魔力は私の身につけていた衣服やら、両手に持っていた荷物をバラバラにちぎり飛ばてしまいました。

それはもうコナゴナに。

これほどの威力の前では、パンツの防御力なんてカスに等しいものですね。

あぁ、そろそろ現実逃避はやめにしましょうか……

 

「ふぇ……?」

「あ、ありゃ?……この魔法こんなんだっけか?」

「ッ!!!!キ、k『おま!し、静かにしろ!』〜〜ッ!ンググぅ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

離して〜〜〜やめて〜〜〜こんな公衆の面前でそんな〜〜〜〜!!!!!

 

「おい!ちょっ暴れんな!このっ!……おいこら見せもんじゃねぇぞ!!ぁあ〜〜〜くそったれぇ!」

 

サウザンドマスターに抱えられ、猛スピードでなすがままにどこかへと連れて行かれる私。

ひん剥かれた上に誘拐とは……

私ったらなんたる不幸……

 

 

 

 

side:ナギ

 

不幸だ……

 

買い出しに来た街で何やら懐かしい魔力反応があったから探して見たんだが、そこいたのは買い物袋をわんさか持った嬢ちゃん。

白髪色白、んでもってブレザー。その形りは忘れもしねぇ、俺の宿敵だったアーウェルンクス、あいつらのスタイル。

女のアーウェルンクスなんてのは今まで見なかったが、なんであろうとほっとくわけにはいかねぇ。

街中でやり合うわけにはいかねぇが、相手が相手だ。

とりあえず近くまで接近して出方を伺おうとしたんだが……

 

「ハァハァ、ここまでくりゃ大丈夫か?ちくしょうもうすぐガキが産まれるって時になんつー災難だ」

 

すげービビられるわ逃げられるわ叫ばれるわで、完全俺犯罪者扱い。

周囲の目線が冷たいのなんの……ありゃキツイぜ。

あんまりにも無防備なもんでついつい話しかけちまったのがいけなかったか。

こんなことなら手刀でパパッと気絶させとくべきだったか?

いやあの状況で何が最善策だったのかなんて考えたところで無駄だな……ハァ……

ちくしょう、サウザンドマスターの俺様が警察のお世話になるなんざ御免だぜ……

 

「グス、ぅう、ううう……私ったらなんたる不幸……」

 

うるせぇ!俺だって不幸だわ!お互い様だちくしょう!!

 

「魔法の秘匿はどうなってるんですか!?あんな街中でいきなり服が消し飛んだら誰だって驚くでしょう!?」

「嬢ちゃんが急に魔力放出なんてしだしたのがいけねぇんだぜ?あの場合ああするしかねぇだろ!?」

「せっかく買ったお洋服まで……何もコナゴナにする必要無いでしょう。あぁ、最後の一着だったのに……」

「いや、な?俺もあんな風になるとは思ってなくてだな……」

「弁償!弁償してください!」

 

実のところあそこで武装解除の魔法使ったのはたまたまだけどな。

相手を傷つけずに無力化する呪文なんざしばらく使ってねぇからか、とっさに出てきたのがなぜか武装解除だったわけだ。

魔法使い相手に武装解除を撃つんなら、杖や指輪といった魔法発動体を破棄させるのが狙いになる。

つっても、魔法発動体はあくまで魔法使う際の魔力の補助がメインだ。破棄させたところで完全に無力化はできねぇ。

俺自身杖がなくてもバリバリ魔法使えるし、今まで戦ってきたアーウェルンクスの奴らも魔法発動体なんざ身につけてなかった。

この嬢ちゃんに対しては、結果的に会心の一撃だったわけだが。

まぁ、なんだ、慣れねぇ魔法は使うもんじゃねーな。

 

「弁償〜〜〜〜〜!!!!」

 

わかったっつぅの!

にしてもえらい感情豊かな嬢ちゃんだな。

本当にアーウェルンクスの仲間か?

 

「わかったよ、ほら、今はとりあえずこれでも羽織っとけよ」

「はっ!そうでした今私マッパ……早く貸してくださいそして見ないでください!」

 

目の前にいる嬢ちゃんは、俺から受け取ったローブを羽織るとその場にぺたりと座り込んだ。

上目遣いで睨まれてもなぁ……

 

「ぅ〜〜〜〜〜、う〜〜〜!う〜〜〜!」

「…………」

 

ある意味強敵だぜ、今までアーウェルンクスの奴らよりもな……


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