6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い   作:肩がこっているん

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なぜ私の電子精霊たちは水着を着用してるのでしょう?

〜side:アリカ

 

 ナギとアルビレオが仕事で家を離れ、しばらくがたった。

 妾は目の前で洗濯物を干している少女、セツ子がこの家に来てからのことを振り返り、ふと心の中で感想が浮かんだ。

 

ーーーセツ子がこの家の家事をしている様を見て、これ程安心感を得られる日が来るとは、思っておらんかった。

 

 セツ子がどういった存在であり、それがもたらす危険がどれほどのものかは理解している。

 妾は幾度もセツ子と同じ存在、アーウェルンクスと呼ぶ者らと対峙し、その脅威を目にして来た。ある時は毒の息吹による石化に脅かされ、またある時は人が反応ができる速度外からの襲撃に恐怖した。セツ子が害ある存在なら、妾はもちろんナギやアルビレオ、そしてネギもすでにこの世からいなかったじゃろう。それだけナギの此度の判断は、大胆なものであった。

 そんなナギの判断に口を挟むことなく受け入れた妾も大概ではあるがな。

 妾はいつでもナギの判断を信じ、今日まで生きてきた。妾のナギに対する信頼、如何な場合も例外などない。

 そして今回も。その判断は間違ってなかったように思う。

 なぜなら、そのナギが側にいない今、不安を取り払うかのような笑みで、セツ子は妾に安心を与えてくれておるのだから。

 

「アリカ様、お洗濯が片付きました。ネギ君のお世話交代しましょうか?」

「セツ子、ネギはたった今眠ったところだ。主も一息入れたらよい」

「あちゃ、一足遅かったですか。せっかく新作のベロベロバーを披露しようと思ったのに……」

 

 残念ですーーと言ってセツ子は脱力する。

 まったく、セツ子は休むことを知らぬな。

 ネギが生まれてからしばらく体力が戻るまで時間がかかった。故にセツ子の言葉に甘え、家事のほとんどを任せてしまったことに関しては頭が上がらぬ。まぁ、セツ子自身はこの家で働くことを楽しんでいるようだがな。それは、妾としても好ましいところだ。

 

「最近主はぬいぐるみ作りを始めただろう?今日は時間もある。それに費やせばよいのではないか?」

「あ〜、実はもう作り終わっちゃいまして。材料も使っちゃったんですよね……」

「なんと、材料はかなりの量があったように見えたがのう……しかし、そうか、何とも間の悪い」

「村にあれだけぬいぐるみに使える材料があったことが驚きでしたけどね」

「材料を買うにしても、街まで出なければならん……か」

「はい……でも、今この村を離れるわけにはいきませんから。ナギさんに任されましたからね、アリカさんとネギ君のことを」

「何とも律儀じゃの、セツ子は」

 

 本当に律儀な子じゃ。

 ナギも、こんなセツ子だからこうして妾の側に残すことを決めたのじゃろう。

 セツ子もまた、ナギに信頼されているということじゃな。

 しかしーーー

 

「セツ子、主はあの時、魔力封印の術式を解くのを断った。良かったのか?」

 

 セツ子の左手の甲から肘にかけて刻まれた、魔力封印の術式、その紋章。

 我々がセツ子を信頼しているからこそ、その白く細い腕を侵す業を見ると心が痛む。

 

「むしろこっちがビックリですよ。いきなりナギさんが「アル、嬢ちゃんの魔力封印、この際解いちまわねぇか?」って」

 

 そう、この魔力封印の術式を施したのはナギではなくアルビレオ。

 何でもナギのいい加減な呪文認識では、魔力封印の効果に加えて余計なものを付与しかねないとのことだそうだ。確かに、ナギに細々とした魔法は向かないじゃろう。

 アルビレオが言うには「というか実際にそれを受け、ものすごく迷惑している知り合いを知っている」とのことだが。誰なのじゃろうな?

 

「そもそも、魔力封印が解かれたところで使いたい魔法なんてないんですよね。攻撃魔法なんて物騒なもの、女子力が高い私にとって邪魔みたいなもんです!」

 

 出おった、女子力。

 何かあるごとにセツ子は「女子力」という単語を使う。

 妾が思うに、おそらく世間一般の女の子らしい振る舞い、また行いを指しているのではなかろうか。そのようにセツ子に聞いてみたのだが、セツ子本人も具体的なことはわからぬらしい。結局は謎である。

 

「それに電子精霊によるスキル拡張能力は使えますし、だったら尚更急いで解く必要もないかな〜と」

「そうか、主が良いなら……良しとするかの」

「はい!……後、こういうのなんかかっこいいとか思っちゃったりなんかしたり……なんだったら背中とかにもびっしりと……」

「主の外見でそれはマズイ。妾は全力で止めるぞ」

「なんか大人の女?って感じがしていいと思うのですが……」

「主の女子力とやらはどこへ行ったのだ……そんなせっかくの白い肌が、もっと自分を大事にせい」

 

 ナギ、早く帰ってこい。そしてセツ子が間違った道に進まないか改めて監視せよ。

 本当に、どこで道草を食っているのじゃ。

 

 

 

ーーーごめんくださ〜い、ネカネです。どなたかいらっしゃいますか〜?

 

 

 

♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡

 

 

side:セクストゥム

 

「あ、セッちゃん!今、アリカさんって大丈夫?何でもスタンさんが用があるみたいなんだけど」

 

 この子のお名前はネカネ・スプリングフィールド。ナギさんの親戚のお子さんだそうです。

 ネギ君が生まれ、親戚の方々がこの家に集まった時に知り合いました。

 それ以降頻繁にウチに遊びに来てくれるようになり、ネギ君のお世話をしつつ魔法学校での日々のお話などをしてくれます。

 私の初めてできたお友達です。

 

「スタン老が妾にとな、わかったすぐ参る。セツ子すまぬな、ネギを見ていてくれるかのう?」

「はい、でも無理しないでくださいね?ようやく最近になって出歩けるようになったんですから」

「すぐ近所だというのに、大げさじゃのう」

 

 身支度を整え、スタンさんの家へと向かうアリカ様を見届けた私に、ネカネちゃんが声をかけてくる。

 

「セッちゃん、上がってもいいかな?」

「いいですよ、ネギ君今お寝んねしてるから暇してたんです。どうぞ上がってください!」

 

 家に上がったネカネちゃんに、ベビーベッドで寝ているネギ君を見てもらっている間、お茶の用意をする。

 

「ネカネちゃん、ネギ君の様子はどうですか?」

「ぐっすり寝てるよ。ふふ、おてて小さいなぁ〜……あ、ごめんね気を遣わせちゃって」

「構いませんよ」

 

 私がテーブルでお茶の用意をしているのを見て、ネカネちゃんは申し訳なさそうに言います。

 ほんと礼儀正しい子ですね。私と背丈ほとんど変わらないから10歳前後だと思うのに……中々の女子力をお持ちとみた。この私の女子力が警鐘を鳴らしています、恐るべしネカネちゃん。

 そうだ、一昨日出来た「アレ」をネカネちゃんに見せてあげましょう。ここで私の女子力を見せつけてやります。

 

「ちょっと待ってください、見せたいものがあるんです」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「すごーい!このぬいぐるみ本当にセッちゃんが作ったの!?手作りで出来る範囲超えてるよ!」

「フフン!もっと褒めていいんですよ〜〜〜♪」

 

 私がネカネちゃんに見せたかったもの、それは先ほどアリカ様との会話の中で登場した、自作のぬいぐるみです。

 最近アリカ様の体力が戻られたことにより、お互い家事を分担するようになったのですが、それゆえに何かと空いた時間が出来てしまうようになりました。

 空いた時間を有効活用できないものか、そこで思いついたのが手作りのぬいぐるみ製作です。

 ナギさんにロンドンでぬいぐるみを買ってもらってからというものの、愛でているだけでは飽き足らなく感じていたのです。

 決してナギさんから頂いたぬいぐるみに満足がいっていないというわけではありませんよ?なんと言いますか、欲しいものを手に入れたらまた次の欲しいものが出てくる心理ですかね。

 そもそもナギさんから頂いたぬいぐるみ、「シリーズもの」なんですよ。まだ見ぬお仲間がいるのですよ?しかし、私はこの村を離れることができないのでありますよ!だったら自分で作ったれという結論に至るのは当然なのですよ(!?)

 

「ぬいぐるみに使える材料持ってない?って聞かれた時はこんなすごいの作るつもりだったなんて思いもよらなかったよ……これお店で売ってても違和感ないもの」

「いやぁ〜、とうとう私の女子力も来るとこまで来ちゃったということですかねぇ〜?自分の女子力が怖い」

「セッちゃんの女子力?ってすごいんだね〜」

「ネカネちゃんの女子力も捨てたもんじゃないと思いますけどね?ネカネちゃんさえ良ければ私が女子力とはなんたるかを「でも」……なんでしょう?」

 

 ネカネちゃんは私の作ったぬいぐるみをじっと見つめながらーーー

 

 

 

「これキ◯ィちゃんじゃないよね?」

 

 

 

 うん、知ってました。

 

 

 

「セッちゃん、確か◯ティちゃんのぬいぐるみを作りたいって言ってたよね?このぬいぐるみ、どう見ても金髪の女の子に見えるんだけど……」

「そう、金髪の女の子ですよね。その通りだと思います」

 

 これには深〜〜いような、深くな〜〜いような、そんな事情があるんですよ…………

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

ーーー今回私がぬいぐるみの自作をするにあたって、電子精霊によるスキル拡張機能を使ったことは言うまでもありません。

ーーーこれは、この時私と電子精霊たちのやりとりの大まかな回想になります。

 

 

〜回想始め

 

 

(電子精霊の皆さん、新しいスキルをインストールしたいので、ご協力をお願いします!)

 

ーー早くキーワードを入れるでち!

ーーさっさとするのねん!

ーーわぁお!辛辣辛辣!

ーーがるるぅ〜〜

 

(せっかちなんだからもう!いいですか?一度しか言いませんよ?キーワードは「キティ」「ぬいぐるみ」です)

 

ーーイクの〜!

ーーネットの海へ直行!どぼぉーーん!

 

(あ、すいません!「作り方」も追加で!その3つのキーワードを技能スキルとしてパッケージングしてください!)

 

ーー後から追加してんじゃないでち!

ーーアハトアハト

ーーこいつの名前の中にキティって入ってるのねん!

ーーあ、じゃあその娘だね!そのままインストール行っちゃお〜!

ーーまだ、パッケージングが終わってない、ですって!ダンケ、ダンケ!

ーーもぐもぐもぐ〜…………

 

 

〜Fin

 

 

 

「今考えて見ると不安要素しかなかった」

「え?セッちゃん、なんか言った?」

「ううん、なんていうか……いや、なんでもありません。……そうだ、ネカネちゃん、そのぬいぐるみいります?」

「え?くれるの?せっかく作ったものなのに……」

「構いませんよ。あと4個同じやつ作ったので」

 

 そう、さっきの電子精霊たちとのやり取りは、その後似たような内容が4回が行われた。

 

「すごいね!全部で5個も作っちゃったんだ!」

「そのせいで材料無くなったんですけどね……」

 

 

 

ホント、「キティ」「ぬいぐるみ」「作り方」でなぜ金髪の女の子が完成するのでしょうか……

ハァ、電子精霊も万能ではないということですね……

 

 

 

 

 

 

 


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