6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い 作:肩がこっているん
エヴァ「長いわ」
〜セクストゥム
「きぃええええええええええええ!!!」
「うぉ!?あっぶね!!!」
草木が香る森の奥深く、そこで遭遇してしまったーー
「シィィィイ!!!!!!!!!」
「うひゃ!?このガキ、また投げてきやがった!!!」
魔法使い達相手に私はーー
「このガキ気が狂ってやがる!?それは人に向けていいもんじゃねぇぞ!?」
「落ち着け!手元にあるのは投げちまったんだ!このガキにもう武器は「
「こぉなくそぉおおおおお!!!!!!!」
「<ブォンーーガキィィン!!>のぁ!?障壁にひびが!?ち、散れ!散れ!囲んでやってまえ!」
「包丁」を振り回していましたーー
(こんな、こんなはずじゃなかったのに〜〜〜〜〜〜!!!!!)
〜これより少し前
私たちの作戦は成功した。
一直線に放たれたネカネちゃんの『雷の暴風』は、進行方向にいた魔族達を飲み込みながら道を作り、その空いた道を私は全速力で駆け抜けた。
魔族たちの驚く声が聞こえるが、気にせず進む。意識は私の方には向いていない、脅威は今の攻撃を放ったネカネちゃんだと認識したのだろう。
魔族の群れを抜けた私はそのまま真っ直ぐに走る。追ってはない。
「よし、成功!ネカネちゃんはーー」
後方の様子を確認しようと首を向けようとして、やめた。
ここまできたら、後はネカネちゃんを信じるしかない。
(ありがとうネカネちゃん……私頑張るから、絶対アリカ様を助けるから……だから、お願いだからネカネちゃんは無事に逃げて)
ネカネちゃんから流れてくる魔力を感じながら、どうかこの魔力が不意に途切れることの無いように祈る。
しばらく走り続け、私は再び木々が生い茂る森の中へと入った。
木の間を縫うように移動するしかない、そんな自分に苛立ちを覚える。そうだーー
(電子精霊の皆さん!今すぐ私に飛行魔法をインストールしてもらえませんか!?いいですか、すぐにですよ!)
今私の体にはネカネちゃんから供給された魔力が流れている。
この魔力を使って、一時的ではあるが魔法の行使が可能になるかもしれない。
ネカネちゃんの魔力供給がいつまで続くかわからないが、ここまできたらもう破れかぶれ、やれることは全部やるしかない。
ーーやっと家事以外のこと覚える気になったのね!
ーーいい加減この魔法のインストーラーファイル邪魔だったから捨てようと思ってたところだったでち!
ーーデスクトップがごちゃごちゃで泳ぎにくかったんだよね〜!ありです!
ーーこの前……頭、ぶつけました……
(なんか、すみません……というか、一応ファイル自体はすでにあったんですね)
ーー真っ先にインストールしようとしたでち!それを止めたのはたいげ〜でち!
ーー「え、ちょ、じゃこれどこ置いとけばいいの?」的な空気になったのね!忘れたとは言わせないのね!
(あ、そうでした。それと、私「たいげ〜」とかいう名前じゃないですよ。セクストゥムです。ってそんなことより早くインストールしてください!)
ーー飛行魔法のファイルを探せばいいんだね?任せてよ!
ーーもぐもぐ〜〜……
これで飛べる!と、そう思ったんですが……
(ええ〜〜2時間!?そんなにかかるんですか!?!?)
なんと飛行魔法のインストールには2時間もかかると電子精霊たちが言うのです。
ーー杖や箒といった飛行に特化した魔法媒体無しの飛行魔法なんて、普通の魔法使いじゃ習得すら困難な魔法なんだよ?
ーーむしろ、2時間で済むことに感謝して欲しいでち
(そ、そんな……)
素直に森の中を突っ切る……そうするしかないですね。
準備って大切だなぁ……
ーー魔法媒体自体はさっき手に入ったみたいだけどねー
ーー水系魔法なら最上級極大魔法だろうがなんだろうが10分程度でインストールできるのね!そっちをオススメするのね……ちょっと、聞いてるの?
(え、魔法媒体?私いつのまにそんなもの……)
さっき手に入ったって……ひょっとしてーー
(この、
そういって、私は9枚の2G
にしても同じ絵柄のやつばっかり……
ーー1枚だけ、指輪が描いてあるやつがそうでち
ーー無視しないでなのね!!!
そういって電子精霊が、アーティファクトを解析したデータを表示してくれる。
私は、先ほど届いた2G
先に、従来の「
ルールその1
「セクストゥムは、誰かと
(え〜と……)
〜私が
〜それは普通の
〜こんなややこしいカードが出て来るのは、今の所私だけ
(こんなとこですか?「2G」とか、「きせかえごっこ」とかややこしいから、私はこれから「きせかえごっこカード」で統一しますか。)
ルールその2
「『きせかえごっこ』カード所有者同士の念話、魔力供給が可能。『きせかえごっこ』カードを所持した時点で、アドレスが作成、リストに登録される。以降、カードの所有者はそのアドレスリストの中から対象を選び、念話、魔力供給が可能になる。拒否することもできる。」
(え〜と、……仮に、今私の「きせかえごっこカード」を持っているネカネちゃんに加えて、アリカ様にカードをあげれば……)
〜ネカネちゃんは、私だけじゃなく、アリカ様とも念話ができる
〜私、ネカネちゃん、アリカ様の3人は、互いに魔力供給をできる
〜ネカネちゃん、アリカ様とは全く関係のない人にカードを渡した場合でも、同じことができる
(…………従者とかもう関係ないじゃないですか。いいんですかね、これ)
ルールその3
「『きせかえごっこ』カード所有者を召喚できる。ただし、これは『きせかえごっこ』のマスターであるセクストゥムにしか行えない」
(今「きせかえごっこカード」を持ってるのは私とネカネちゃん、このことを例にすると……)
〜私は「きせかえごっこカード」のマスターだから、ネカネちゃんを召喚できる
〜しかし、ネカネちゃんは「きせかえごっこカード」を持ってても、私を召喚することはできない
ルールその4
「『きせかえごっこ』カードのアーティファクト化は、『きせかえごっこ』カードのマスターであるセクストゥムにしか行えない」
(まぁ、これは問題ないですかね。にしても、ややこしい……)
この4つの要素は全部の「きせかえごっこカード」に適用されている。
それらを踏まえた上で、手元にある「きせかえごっこカード」の内の1枚、「
アーティファクトーーきせかえごっこ〜「
手元に8枚もある「
カードのレアリティは4段階の内、下から2番目の
〜水系魔法の行使に特化した魔法発動体
〜水精霊と意思の疎通ができる
〜上位改修可能。同種カードを特定枚数所持することが条件
う〜ん……
正直な感想を申し上げますと……
あんま、すごくなくないですか?これ。
なんというか、普通の魔法具って感じで、アーティファクトの域にないような……
そもそも、私がもし魔法を使えたとしても、魔法発動体とか多分いらないんですよね。水属性強化はありがたいですが。
……水精霊と意思の疎通……ねぇ……
「
物は試し、アーティファクト化した
(う〜ん、何か特に変わったというところは……おや?)
ーー…………っ………っ……
(何か聞こえる?)
私はどこからか聞こえてくる声に集中した。するとーー
ーー雨だ〜〜〜!!!雨が降るぞ〜〜〜!!!
ーー雨じゃ……天のお恵みじゃあ!!!
ーーでち〜〜〜!!!!
ーー……いい、雨だね
ーーねぇねぇ、傘持ってきてないよね!?今どんな気持ち?どんな気持ち?
ーー慣れ親しんだ雨なのに、何だかとっても摩訶不思議。この雨は、きっと優しさやワクワクする心も一緒に届けてるんだね……
私は思わず頭を振り払う。
すると雑念は聞こえなくなった。
よかった、指輪つけたままでもオンオフはできるみたいです。
あんなの聞かされながら詠唱に集中なんかできませんよまったく。
というか今のが水精霊?やかましいだけでしたが!?
あれと意思疎通とかお断りします。頭おかしくなります。
そしてしれっとウチの
あっあれ!本当に雨降ってきた!?確かに今朝から天気悪かったですから「でち!聞いてるでち!?」……って!?
(さっきの「でち」ってやっぱあなただったんですか!?)
紛らわしい!
これは混乱しますね……
(はい、なんでしょうか?ひょっとして今の間で飛行魔法のインストールが完了したとか……)
ーー何寝ぼけたこと言ってるでち!近くに魔力反応があるでち!
「っ!」
いけない、また自分の世界に入り込んでた!
足を止めることなく今までのやり取りを並行でできた自分には驚いてるが、肝心なところで……もう!
「魔力反応……またさっきみたいな魔族が!?」
一旦歩みを止めて、近くの木の陰に身を潜ませる。
呼吸を整え、意識を集中する。
たった今降り出した雨の音がうるさく感じるが、それを受け入れるかの要領で意識を自然に溶け込ませていく。
ーー確かに、魔力の反応を感じるが、先ほどの魔族ほどではない。人間、魔法使いでしょうか?
「さっきの魔族の術者でしょうか?……く、こんな時に」
このままやり過ごすか?
どちらにせよ、お互いアリカ様の行方を探してるのなら、目的地は同じ……最悪、アリカ様の危険が増すばかりだ。
私は手元に残った8枚の「きせかえごっこカード」を見る。(
「やるしかない…………
念のため、電子精霊に水系魔法のインストールを頼んでおく。
意を決した私は、1枚の「きせかえごっこカード」をアーティファクト化させ、そのまま木の陰から躍り出る。
(来るなら来なさい!今までの私と思うな!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(と、息巻いては見たものの!)
「距離をとれ!なんなら空から攻撃するぞ!」
「させますかぁああああ!!!」
「のぉう!?」
(これはさすがに厳しいのではないでしょうか!?ーーー)
魔力の反応はやはり、アリカ様を狙う魔法使い達で間違いはありませんでした。
雨の中、木の陰から飛び出して来た私に驚いた魔法使い達を見て、私は先手必勝とばかりに手元のアーティファクトで襲い掛かりました。
しかし、その肝心のアーティファクトなのですがーー
(やっぱこれ、ただの包丁じゃないですかーーーーーーーーーー!!!)
アーティファクトーーきせかえごっこ〜「
今身につけている使用人服姿(どういうわけか現実と同じように雨に濡れている)のセクストゥムが、包丁を構えた絵が描かれているきせかえごっこカード。
10枚出現したきせかえごっこカードのうち、9枚もダブった罪深きカード。その内の1枚は現在ネカネが所持している。(しかし、アーティファクト化できるのはセクストゥムのみ)
アーティファクト形態の姿は、包丁。
まんま、ただの包丁である。
特別な術式が組まれているわけでもない。
2G
つまりは、使い捨てである。
総括すると、アーティファクト「
セクストゥムと対峙する魔法使い達は、徐々に落ち着きを取り戻していた。
最初こそ予想外の人物による、これまた予想外の行動を前にして動揺した結果、いいように暴れられてしまった。
ただ、セクストゥムの包丁による攻撃は、自分たちの魔法障壁にひびを与えるほどの威力はあれど、突破には至らず。
素人臭い動きを、見た目に反して高い身体能力で補ってはいるものの、結局は決定打に欠けている。
要は「包丁を振り回す少女」の図に驚いただけで、落ち着いて対処すれば問題はないーー
セクストゥムも、そのことは痛いほどわかっている。
(流石に無理がありましたか……!
実は、ネカネが設定した魔力供給の制限時間である180秒はとっくに過ぎている。
にも関わらず、セクストゥムの体には魔力による身体強化が今もなお施されていた。
このことに、目の前の戦闘に夢中であるセクストゥムは気づいていない。
「ーー破壊の王にして、再生の徴よ、我が手に宿りて、敵を喰らえ……!」
「……っ!?しまっ」
いつのまに呪文の詠唱を許してーーー
呪文が詠唱が聞こえたのは、上からだった。
セクストゥムの包丁乱舞から抜け出した魔法使いの一人は杖に跨りそのまま上空へ、間髪入れず呪文の詠唱を始め、セクストゥムがそれに気づいた頃には、すでにそれは放たれようとしていた。
「『紅き焔』!!!」
魔法使いの手元で起きていた魔力の奔流が収束、瞬時にそれは轟々と燃え滾る炎へと変換され、セクストゥムへと放たれた。
雨を蒸発させながら爆炎が迫り来る。
水精霊達の悲鳴が、セクストゥムの耳に届く。
(回避は間に合わない!?そんな、そんなそんな!!?こんなところでーーーーーーーー)
アリカ、様ーーーーーーーー
「ーーーあきらめてはなりませんよ」
目の前まで迫っていた炎の塊が一瞬にして消えた……いや、潰れた。
それと同時に、私が対峙していた魔法使い達の頭上に黒い球体のようなものが複数出現、そして炸裂ーー
急激な負荷が魔法使い達を地面へと叩きつける、粉砕ーー
黒い球体は周囲の木々を巻き込みながら、破壊の限りを尽くした。
「こ、これって………………」
全てが終わった後、私の周りにはいくつものクレーターができていた。
あれだけ木々で囲まれ、閉鎖感を漂わせていた景色は、今はもう別世界のように広々としている。
魔法使い達がどうなったのか……私は確認する気すら起きない。
ふと、私の横に人の気配を感じたーー
振り向くと、そこには白いローブに身を包み、長い髪を一本に束ねた、中性的な顔立ちのーー
「遅れてしまい申し訳ありません。……どうやら、事なきは得たようですね」
ナギさんと共に、もう一人現在行方が知られていないはずの人物ーー
「ぁ、ぁあ……あ……あ、アル、さん?」
アルビレオ・イマ。その人が居た。
ややこしい設定ですみません。