ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話) 作:さざなみイルカ
その輝きが起こった瞬間、グドンの鞭は空を切り、地面に叩きつけられた。その手の中に保護されたガンスピーダーはそっと地上に置かれる。
「ウルトラマン……」
日没の空の下、片膝をついている紅の巨人。薄暮の中だと、胸のクリスタルの光が一層輝いて見えた。
突如現れた彼は、鷹屋の乗るガンスピーダーをグドンから守り、離れた距離まで逃したのだ。
「グワァゥッ! グワァァゥッ!」
グドンは激昂。雄叫びが再び更地に響き渡り、風切り音が鳴る。
しかし、鞭は止まった。その先端が掴まれたのだ。
「レアッ!」
ウルトラマンは自らの身体にそれを巻きながら、グドンの懐に接近、肘鉄を喰らわす。相手がたじろげば、鞭を手放し、蹴りで押し
再反撃に間は無かった。引く足をすぐに止めたグドンは鞭を振り下ろす。
「強い」
朱里が呟く。彼女と残り二人の特務隊メンバーは地上車で現場に来ていた。更地の外縁に面したハイウェイの上である。
車を停車して眺めると、夕陽の光でウルトラマンの戦いがシェルエットとなって見えた。動きが速く、無駄がない。前回の登場とは比べ物にならないのはもちろんだが、それ以上に開放感のようなものが感じられた。何か、迷いのようなものから解き放たれたような。
三発の拳打。攻撃を避けてもう一撃。グドンの猫背を一度転げて、背後に回る場面もあった。振り返ったところを回し蹴りで迎える。
「レアッ! ハァァァァッ!」
ウルトラマンは右腕を掲げた。黄昏の光がその右腕のブレスレットに集約される。両腕が十字を組もうとした瞬間、土砂が彼を襲う。
「!?」
鞭を
一瞬の隙が、状況に決壊を及ぼした。触腕が巨人に襲い掛かる。一振りが二振りに、二振りが三振りに、連続した。薄暮の空に、苦痛の叫びが木霊する。
巨人が片膝を屈すると、怪獣は間合いを潰した。口を大きく開き、相手の肩に喰らいつく。
「ウァァァァッ!」
グドンの鋭利な牙の一本一本が刺さる。ウルトラマンはもがくも、肩に噛みついた敵は離れず、抵抗は激痛に敗れる。
「!?」
「グワァゥッ! グワァァゥッ!」
締め付けると同時に、もう一本の鞭を斜めに薙いで追撃を加える。もはやウルトラマンはもがくことが精一杯のようだ。
胸のクリスタルの光の色が変化したのは、その時だった。
「カラータイマー!」
言ったのはタマゴである。
通行車両は全て避難した無人の高速道路。そこに足を着けていた朱里は、声の主の方を見遣った。彼ももう一人の隊員も降車している。
「知っているの、ミスター」
「カラータイマーが青から赤に変わることは危険信号を意味していると考えられている」
過去に地球を訪れたウルトラマンは皆、その活動時間に限界があった。あの巨人にもその通例が当てはまるだろう。今正に、彼は危機に立っているのだ。
「もう、だめなの?」
『ううん』
それは宇宙人コンサルタントに訊いたつもりだったのだが、答えたのは地球人で、彼女の弟の声のだった。
朱里は通信に耳を傾け、確かめた。
「マモル?」
『まだボクらがいるよ』
刹那、小さな土柱が地面から突き出る。飛び出したそれは、グドンの鞭を貫き、ウルトラマンを絞め技から救済する。
ドリルだった。地中進行用のドリルである。いつの間にか地面に潜っていたGUNアーチャーが、ウルトラマンを助けたのだ。
「グワァゥッ! グワァァゥッ!」
片方の鞭を失ったグドン。その叫びは痛み故か、それとも怒りか。いずれにせよ激しくなった。
飛行モードに可変して退避してGUNアーチャーに報復が迫る。しかし、ウルトラマンのドロップキックが炸裂。追撃は叶わなかった。
押し退けられるグドン。胸に命中した蹴りは、怪獣の呼吸を乱し、その行動を一時的に封じる。
ウルトラマンは再び光の力をブレスレットに集約した。
「レアッ! ハァァァァッ!」
ブレスレットに集まった光は右手に移り、彼の手は夕陽よりも真っ赤に染まった。
エネルギーを纏った手刀。
それをグドンに叩きつけたとき、束の間の静止が黄昏の一帯を覆う。カラータイマーの点滅音が響きわたり、間もなく、グドンの身体は四散した。
戦いは終わった。
「ボクの眼鏡違いだった?」
変身を解除して最初に言われたのが、それだった。着陸したGUNアーチャーの中である。
「うるせー。アイツ、意外としぶとかったんだよ」
精神に残る痛みのせいで、シートに貼りつくように持たれる俊太郎。ヨーは後ろから言葉で突いてくる。
「次はこんなんじゃダメだよ。早くノヴァの力を覚醒させてもらわないと」
「勝った側から次の話かよ。頑張ったね、とか言ってくれないのか」
「言って欲しいの?」
「いや、文句が言いたいだけだ」
「あっそ。なんにしても……」
シートの肩から手が伸びる。
「これからよろしくね、相棒」
「ケッ」
垂れる身体を起こして、一応握手に応じた。“相棒”という響きが自分達の関係に合うのかどうかはわからない。ただ、仲間とか友達といわれるよりかは何百倍もマシだった。
「ひとつ言っとくが、てめえをマモルの身体からひっぺがす方法が見つかったら、容赦なく裏切るからな」
「ひどーい。それがウルトラマンのやること?」
「大人のやることだ」
微笑み合う二人。
しばらく、この戦いは続きそうだった。