ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話)   作:さざなみイルカ

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03話『奪われる力』

 

 このまま放置するのはまずい。そう思った俊太郎は、その日の勤務時間後、マモルのGUYSデバイザーに連絡を入れた。無視されると思っていたが、意外とあっさりつかまった。俊太郎は仕事を終えたその足で彼に会いに行くことになった。

 

「X−GUYS辞めたら、ネットカフェ難民になるつもりか?」

 

 先にオフィスを出ていた彼は、そこで調べ物をしていたようだった。何を閲覧していたのかはすぐにページを閉じられてしまったのでわからない。

 

 ネットカフェを出て、近隣の公園に場所をかえる二人。時刻は九時を過ぎており、周囲にはまったく人気がない。闇の中で光を放つのは街灯と自動販売機だけである。

 

 眼鏡の後輩は雲梯(うんてい)梯子(はしご)の上にのぼり、腰を掛けた。そんな彼に、俊太郎は買ってやった飲み物を投げ()る。見事に受け取ると、彼は惜しみもせずに缶を開けた。

 

「なあ、お前前に言ったよな」

 

 ジュースを飲むマモルを――いや、ヨーを見つめて俊太郎は滑り台の足に背中をもたれさせた。彼も買ったコーヒーを一口喉に流し込む。

 

「マモルが日々何を望んでいたのかは予想できる、それを叶えてあげようと思うって。マモルは自立することを望んでいたのか?」

 

 ヨーは缶から口を離した。視線は(はす)にいる相棒ではなく、地面に向けられていた。

 

「実はマモルは隊長を嫌っていたのか?」

 

 予想していなかったが、あり得ないことではなかった。取り憑かれる前のマモルの言葉、そして、朱里の行動から察するに、姉弟間に強い密着があったのは明らかである。一見、マモルは姉に素直に従っているようだったが、内心では疎ましく思っていても不思議ではない。もしそうだとしたら、深刻なのは二人の力関係である。兄弟には五つ以上の年の差があり、加えて上は秀才だ。下に生まれた者が反抗できず、素直に従わざるを得なかったのかもしれない。

 

 もしもヨーが憑依しなかったら、そんは場合を考えようとしたとき、眼鏡の未来人は言った。

 

「……いや」

 

 彼は缶を両手で持ったまま膝に下ろし、言葉を続ける。

 

「彼はお姉さんの事が好きだよ」

 

「じゃあどうして、あんなことを言ったんだよ。姉弟の仲が(こじ)れるだろうが」

 

「好きだから一緒にいるけれど、好きであり続けたいなら離れないとダメだから」

 

 どういう意味だ、とは訊かなかった。俊太郎はこういう難解な表現とそれを理解するプロセスが好きなのだ。

 

「……つまり、姉を愛しているからこそ自立を望んでいた。そういう意味か」

 

「そう。でも、彼にはそれができなかった。姉を悲しむ顔をみたくなかったから」

 

 俊太郎は納得した。夜雲姉弟の関係は姉と弟というより母親と息子に近い性質があった。さらに唯一の肉親ということもあってより、突き放し辛かったのだろう。

 

 しかし、納得したものの新たな疑問が浮上する。ヨーがなぜそこまでマモルを気遣うのか、ということだ。罪悪感からと以前話していたが、どうもそれだけでは説明つかない何かがあるように俊太郎には思えた。

 

 まるで、マモルの内心ではなく、自分の心情を述べているような。

 

 刹那、闇に閃光が駆けた。

 

 ヨーは瞬時にそれを見切り、雲梯(うんてい)から飛び降りる。光線はそのまま虚空を貫いた。

 

 俊太郎もヨーもブラスターを手に掛け、閃光がやってきた方に構える。二つの銃口が向けられた先に立っていたのは、朱里だった。

 

「隊長?」

 

 彼女もGxブラスターを構えている。その姿を見て、俊太郎は握る手と張る腕を緩めずにはいられなかった。

 

「俊、そいつから離れなさい。そいつはマモルじゃない」

 

 その言葉を聞いたとき、心臓の鼓動が一つだけ強く鳴るのを感じた。“そいつ”という言葉で差された本人は、鋭利な視線とブラスターの銃口でじっと相手を捉えている。

 

「マモルが教えてくれたの」

 

 どうしてそのことを、と訊くつもりだったが、質問よりも早く答えがやってきた。耳から入ったそれは、疑問という土産を持って俊太郎の脳裏に到達する。

 

 目を細めた。どういうことなのか、わからない。

 

 しかしその答えも、彼に尋ねる機会をくれなかった。闇夜の中から突然現れたのだ。

 

「姉さん」

 

 朱里の背後に現れたそれに、俊太郎は細めていた目を見開いた。マモルだったのだ。しかも、眼鏡を掛けていない()()()マモルである。

 

 しかし、彼の身体は朱里が銃を向けている先にあった。つまり、マモルが二人いることになる。その光景にたじろいでいると、朱里が何かを投擲(とうてき)した。投げられたそれは暗闇の中で弾け、無数の閃光と爆竹音が公園の一角に広がった。威嚇用の拡散弾である。

 

 俊太郎は(かわ)した。ヨーも反対方向に退避する。散開した二人のうち片方に、朱里は襲いかかった。無論それは俊太郎の方ではない。

 

「隊長!」

 

 彼女は銃をホルダーにしまっている。格闘戦を仕掛けたのだ。素早い拳打。ヨーはそれを腕で防ぐ。続く膝蹴りも同様に(さば)いた。

 

 水面蹴りで反撃。跳躍(ちょうやく)で避けられる。肘鉄を降らされると、ヨーはそれを受け止め後ろに転げて距離をあけた。

 

 あれは弟じゃないと確信しているのか、容赦なく朱里はブラスターを抜いた。三発のビームで相手を追撃する。

 

 ヨーは素早い。それに命中させられることなく、彼は別の遊具の陰に逃げ込む。遮蔽物があっては射撃など意味はない。朱里は足で彼を追い、再度肉弾戦が始まる。

 

 手をこまねいて姉弟の殴り合いを傍観しているわけにはいかない。俊太郎は、両者に割って入ろうと足を踏み出した。

 

 しかしその刹那、何かが彼の首を掴み、凄い力でその身体を公園の注意書き看板に押し付けた。

 

「ぐはっ!」

 

 呼吸苦しい中、俊太郎は自分の首を締めるそれを見た。木の幹のように最初は見えたが、少し質感が違う。何にせよ、日常生活で頻繁に目にするものではない。ましてそれが、朱里の後ろに立っていたマモルの腕が変形したものならば、なおさらである。

 

「てめぇ……何者だ……」

 

 するとそのマモルは一度笑みを浮かべて正体を見せた。赤くカサついた身体に、紫のシミ模様。身体のあちこちに泡のように膨らんだ部位が見られる。顔は無い。頭全体が大きなキノコの傘のようだったからである。

 

「私はマシュラ。この地上で最も優れた知性体だ」

 

「マシュラだと……」

 

 微かに記憶があった。

 

 ドキュメントZATに記録が残る“きのこ怪獣”の名前である。今から四五年前、東京に出現し、その毒液で都民や当時の地球防衛隊員をキノコ人間に変えて操った怪獣である。しかし、記録に残るマシュラとそれは全く姿が違う。

 

「四五年前、私達の母体はウルトラマンタロウによって焼き払われた。その際、燃え残った一つのキノコが怪獣となり、再びタロウに再戦を挑んだ。貴様らの記録にはそうある。だが、燃え残ったのが一つだと、誰が確かめた?」

 

 つまり、もう一つあったということらしい。そしてその一つは、半世紀近い年月とウルトラマンタロウの攻撃によって得た超的エネルギーを以て、進化したのだという。

 

 マシュラは俊太郎を解放した。彼の首を締めていたのは植物ではなく、集合し太い幹状になったマシュラの菌糸だったのだ。

 

「げほッ……、てめぇ……数日前の」

 

「いかにも。あのキノコは私達の分身だ」

 

「隊長に下らない話を吹き込んだのはてめぇか!」

 

「お前達が隠し事をしているお陰で、あの女を簡単に洗脳できた」

 

「洗脳だと? 隊長はてめぇに操られているのか……!」

 

 数日前キノコを駆除したとき、朱里の体内にキノコの胞子が入った。それによってマシュラは朱里の精神安定能力と思考能力を著しく低下させたのだ。そして自らの変身能力を駆使して朱里を洗脳したのである。

 

「人間は脆い。信じたい幻想を見せてやればすぐに意のままにできる」

 

 するとマシュラは再び変身した。キノコ人間の姿から、マモルの姿に。

 

「あの女の場合、これだ。弟の変化を信じたくないあの女に見せてやったのだ。信じたい幻想を」

 

 昨今反抗しているマモルは、実は偽物で本人ではない。それがマシュラが朱里に見せた脚本(シナリオ)だった。その内容は全くのデタラメではなく、むしろ事実の尾を掴んでいた。しかしそれを書いた側に善意はなく、それを読む側のレンズは歪められている。題材となった者たちにも非があるが、それを利用し、あまつさえ姉弟を戦わすように示した自称最高等知性体を、俊太郎は許せなかった。

 

「てめぇっ!」

 

 ブラスターで撃ち殺したかったが、生憎首を掴まれた際に落としてしまっている。成敗は拳に頼るしかない。

 

 再び腕が菌糸の鞭となり、マシュラは俊太郎を()ぎ払う。

 

「ぐはっ!」

 

「貴様はまだ殺さない。その姿の貴様を殺しても意味がないからな、ウルトラマン」

 

「くっ……、目的はなんだ」

 

「無論、人類を隷属させることだ。地球に君臨する種族は、我々菌類が相応しい」

 

 朱里は今もヨーと格闘戦を繰り広げている。彼女は狙撃だけでなく、白兵戦も強い。チームではビリーに次ぐ実力の持ち主だ。優勢なのは、やはり彼女の方だった。

 

 キノコ人間は振り返り、マモルの姿のまま朱里に伝える。

 

「姉さん、そいつの胸にしまっているカードを奪って。それが僕を苦しめる元凶だ」

 

 朱里の目はタイトな闘気に満ちていたが、どこか虚ろだった。思考は膠着(こうちゃく)され、感情の使徒となっていたのだ。彼女が本物と信じる弟の言うことを疑いもしない。

 

 相手の手首を掴むことに成功した朱里は、ヨーの身体を引き寄せる。腕で首を締め、彼を完全に捕える。間もなく、ヨーの胸のポケットからサイバーカードが抜かれた。

 

「フフ、これで準備は整った」

 

 マシュラは跳び、朱里のそばに着地する。

 

「目的はサイバーカードかッ!」

 

 駆け寄ろうとしたが、叶わなかった。キノコ人間は朱里と共に姿を霧散させたのだ。瞬間移動である。その後、俊太郎の脳裏に声が届いた。

 

『次は貴様の番だ、ウルトラマン』

 

 テレパシーである。

 

 刹那、彼方のビルの狭間から巨人が出現する。先刻と同じ人型マシュラが、巨大化したのだ。

 

 マシュラは公園に佇む俊太郎を指差して再びテレパシーを放つ。

 

『さぁ、変身しろ。この地上で我らこそが最高の知性生命体だということを愚かな猿どもに見せつけてくれる』

 

 安っぽい悪役の台詞(せりふ)に闘争心を刺激される俊太郎ではなかったが、ノヴァイスゼラに手を掛けざるを得ない。今相手に暴れられれば、夜の街は火の海に変貌するだろう。

 

「俊」

 

「わかってる。今日はX−GUYSの出番待ってる余裕はないみたいだな」

 

 しかし、気がかりなことが一つあった。

 

「その代わりヨー、頼みがある」

 

「わかってるよ。隊長の救出でしょ?」

 

「ああ」

 

「任せて」

 

 相棒の瞳を確認して俊太郎はノヴァイスゼラを強く握り踏み出した。そして、闇夜の空にそれを掲げる。

 

 ノヴァイスゼラは神秘の光を輝かす。

 

「ノヴァァァァァッ!!」

 

 

 

 

 

「ノヴァストリームッ!!」

 

 刹那、立てた右腕から光の粒子が発射される。夜の闇を光線が駆ける。

 

 (かわ)された。敵はかなり身軽だったのだ。

 

『なんだ、今のは』

 

 ウルトラマンノヴァの中で人型に形作られた精神体の俊太郎に、テレパシーの声が届けられる。彼は変身して早々に光線技を仕掛けたのだ。

 

『最初から必殺技を使えば勝てるとでも踏んだのか?』

 

「ちっ、子供の頃からの疑問を払拭しただけだ」

 

 なんでウルトラマンは光線技を出し惜しみするのか、という疑問。その答えは撃っても必ず当たり、仕留められるとは限らないから。まず相手を弱らせ、その上で撃破の決定打として光線を使う。それが正しい必殺技の用法のようだ。

 

 夜空の下、文明の光に囲まれて両者は構えた。人型マシュラは巨大化してもその特徴に変化はない。しかし、その能力は未知数だ。迂闊(うかつ)な攻撃は控えるべきだった。そして、ここは市街地。無闇に被害を出す戦いも避けなければならない。

 

 暫くは睨み合いとなった。沈黙が暗闇と混じり合う。

 

 静止を破ったのはマシュラの方だった。手刀である。

 

 受けた。パワーがあるわけではない。スピードも見切れない程ではなかった。攻撃から伝わる情報が、俊太郎に行動の自由を与える。

 

 敵の腕を(さば)く。拳を薙いだ。防がれ、反撃が返ってくるも、手応えはあった。不意に片足を軸として回り、肘鉄を当てる。

 

『ぐはっ』

 

 マシュラはよろけた。すぐに振り返り追撃を払う。それでも、勢いはノヴァの味方をする。X−GUYS仕込みの徒手格闘がキノコ人間を翻弄し、命中した幾つかの打撃が確実なダメージを与えていった。

 

「レアッ!」

 

 蹴りが一発入る。それに突き押されたマシュラは後退を余儀なくされた。喰らった腹を押さえたまま、姿勢を屈めている。

 

『おのれぇ……』

 

「どうした、キノコ野郎。地上最高の知性も戦いじゃあ形無しか?」

 

 挑発した刹那、地面から何かが突き抜けてくる。俊太郎の反射神経は機敏に反応した。突き抜けてきたそれを次々と躱す。

 

 木の根っこ、いや、菌糸の収束体だ。コンクリートの地表を割って出現したそれが、ウルトラマンの身体を串刺しにしようとしたのである。しかし、目論見は叶わなかった。

 

 俊太郎はノヴァの右手に輝きを集中させた。エネルギー宿るその手刀で、地底から飛び出たその根モドキを切り裂いていく。グドンを倒した“ノヴァスラッシュ”である。

 

 さらに菌糸が襲いかかってきた。手刀で払いつつ、ウルトラマンノヴァは敵に接近。それらを操る者に、渾身のチョップを見舞った。

 

 マシュラは躱そうとする。しかし、避けきれなかった。ノヴァスラッシュは喰い込み切れなかったが、そのカサついた体表に一線の傷を描いた。火花が弾け飛ぶ。

 

 マシュラはさらに後退り、片膝をつく。ダメージはかなりのものなようだ。

 

「勝負あったな。命惜しかったら、さっさと隊長を解放して地底なり宇宙なり好きなところに去りやがれ」

 

 俊太郎は怪人にそう言い放つ。言葉通りに事が運べばハッピーエンドだが、そういう筋書きに展開は動いてくれなかった。マシュラは傷を抱えたまま、笑みを念波に乗せて俊太郎に返した。

 

『フフ、いい気になるなよ猿』

 

「なんだと」

 

『我々が何故、夜雲朱里に弟を襲わせたと思う?』

 

 その答えを近過去の記憶から探りだす俊太郎。見つけ出すのに、時間はいらなかった。

 

「サイバーカードか!?」

 

 刹那、俊太郎の脳裏に次なるテレパシーが送信された。今度は音声ではなく映像である。高度なテレパシー能力のある生命体は、そういうこともできるらしい。

 

 どこかの公共空間(パブリック・スペース)。木が張られた地面の上に佇むのは科学特務隊の隊長、つまり、朱里だった。朱里はヨーから奪ったサイバーカードを自らのGUYSデバイザーに差し込む。

 

《エフェクト・リンク! ザムシャー!》

 

 Gxブラスターのコネクタとデバイザーを連結。そしてその銃口を暗天に向ける。放たれた閃光は、巨大化したマシュラに命中する。光は浸透し波紋となってその身体に広がっていく。

 

《OK! ザムシャー!》

 

 そしてタマゴの時と同様に軽妙な音楽が流れる。

 

《一刀両断っ♪ ホシキリブレードぅ♪》

 

 鎧武者となり、刀を手にしたマシュラ。今、ホシキリブレードはその手に墜ちたのである。宇宙剣豪の力を得たキノコ人間はその切っ先をノヴァに向けて宣告する。

 

『さぁ、この刀の輝きとなって消えろ!』

 

「マジかよ」

 

 最初のひと振りが襲いかかる。躱した。

 

 速さが変わっていた。速度だけではない。速さの質そのものが変わっていたのだ。敏捷や迅速という言葉は当てはまっても、軽さというのは微塵も感じない。その動きに確かな力強さが加わったのだ。

 

 とにかく距離を離すことに集中した。今のマシュラにはザムシャーの力と剣の技術が加わっている。間合いを見誤ることは、命取りに繋がりかねない。

 

 無論、相手にそれを許してくれる道理はない。そのため攻防はかなり切迫した。

 

「くそッ!」

 

 四度目の太刀を避けた刹那、俊太郎はノヴァストリームで反撃した。

 

『甘いわッ!』

 

 ホシキリブレードの刃が光線を遮る。すると、光の粒子は横に寝かせたY字のように割れ、一方は闇夜の彼方に飛び、もう一方は地面にぶつかって消滅した。

 

「光線も斬れるのかよッ!?」

 

 ザムシャーの剣技に斬れないものはない、という話を聞いたことはあったが、無形の光まで両断できるとは思っていなかった。

 

 俊太郎の舌打ちと同時に、踏み込んでくるマシュラ。五度目の剣筋がノヴァの脳天に迫る。

 

 一か八かの白刃取り。意外にも成功した。

 

『ふんっ!』

 

 しかし、それに胸を撫で下ろす暇もなく、腹に一発喰らった。根状の菌糸体である。地面から飛び出したそれが、ノヴァの腹部を突き上げたのである。

 

 宇宙の剣豪と同等の力を得ても、敵はザムシャーではない。キノコの怪人なのだ。マシュラは今、その両方の力を使えるのだ。

 

 二歩退かされたとき、せっかく捉えた白刃を放してしまった。ホシキリブレードは再び振り上げられ、六度目の太刀を繰り出す。紅の身体に剣筋が駆けた。真っ二つにされたわけではないが、その激痛は精神体となった俊太郎にも伝達される。血の代わりに弾け飛ぶ火花は光のエネルギー。それを大量に夜闇へと消失したウルトラマンの身体は、かなり危険な状態へと陥る。知らせるように、カラータイマーが点滅しだした。

 

『無様だな、ウルトラマン』

 

 片膝をつく相手の顔に剣先を向けて、マシュラはテレパシーを放つ。その言葉の尾には、嘲笑の色が顕著に滲み出ている。

 

 俊太郎に返事をする余裕はなかった。彼の本来の身体が傷ついたわけでないにせよ、斬られた痛みを我慢できなかった。それだけではなく、ノヴァの困憊(こんぱい)も彼の精神に重く伸し掛かっていたのだ。

 

『私を狡猾(こうかつ)だと思うか? だがな、この地上において最も強いのは敵の力を利用できる者なのだ』

 

 朱里を操り、サイバーカードを奪い、そして、ウルトラマンを追い詰める。マシュラの手口は卑劣と言えるだろう。しかし不思議と、俊太郎はそれ自体に強い憤りを覚えるのとはなかった。

 

 何故か。

 

 それはもっと狡猾な存在を、彼は知っていたからである。

 

 

 

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